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268.気を付けるべし

 仕合も()()()()に穏便に終えた後、カナラはある場所まで案内するといわれてその場所まで行く事になったシン達。

 当然案内はカナラだ。一応「その場所は?」と訊ねたが「着くまでは教える事が出来ぬでござる」と言われた。

 誰が案内される様に言われたのかは大体想像がつく。その証拠にサトリの眉間には皺を寄せていた。どこに案内されるのかは分からないが考えられるのは自分に興味を持っているこの国の重鎮。それもカナラが案内させている事を考えれば行く場所は現在カミコがいる場所までだろうと考えた。

 黙って案内するカナラと黙って付いて行くシン。

 そんな2人にサトリは深い深呼吸をしていた。


(危ない危ない・・・あのまま戦い続けていたら・・・)


 深い深呼吸の理由は仕合の事だ。仕合を完全に目の当たりにしていた時、サトリはあの仕合を終始知っていた。素人の目からすれば何とも呆気ないものだが、サトリの目・・・多分耳等の他の器官で理解したのだが、シンとカナラの仕合は少なくとも武器を握って数年の玄人の目からすれば違った評価だ。

 彼らの仕合はお互いの手の内を読み合って一瞬で片を付けるといったそんなものではなかった。()()は明らかに殺し合い一歩手前の異常な光景だ。カナラがシンの武器(えもの)を取り上げた時、シンの両腕は力を抜いていた。普通なら緊張で強張るはずだ。それなのに力を抜いていた。明らかに何かするつもりだった。それも命を奪う事になったとしても躊躇う事の無い目もしていた。

 カナラはそれを瞬時に察して次の手は明らかにシンを絶命へと追い込む方向に向きそうになった。だが刹那と表現しても相違ない位にすぐに冷静になってシンのスコップを引き抜きもう一度再戦を要求する事にしたのだ。

 サトリは頭をボリボリと掻いてから2人の方へ向いた。


(全くカナラさんには感謝しかないね)


 そう考えた時、サトリは閃光が走る様に再びあの場面を思い出して獰猛な笑みを浮かべた。


(危うくわっしがお手つきする所だったよ)


 カナラがシンのスコップを引き抜きもう一度再戦を要求したのはあのまま仕合を続けていたら、サトリも参戦してくる可能性が非常に高かったからだ。

 そうなれば収拾がつかなくなる。最悪自分は兎も角、サトリが落命する恐れがある。

 そう判断してカナラはシンにスコップを返したのだ。その様子を見たサトリは我に返った。そしてこのまま続行すれば荒れる場が広がってしまう。いくらこの城の事やカミコの事が疎ましいと言えどもこの国(オオキミ武国)ここ(コウジョウ)では親しい間柄はそれなりにいる。

 彼らが巻き込まれる可能性を考えて自分が身を引く所か、仕合そのものをここまでにする事にしたのだ。結果としてサトリの判断はカナラとシンにとっては英断と言うべきものになった。

 そしてサトリもカナラの判断に助けられているから感謝をしていたのだ。


(これからは気を付けなくてはね・・・)


 こうした各々の思いを持ちつつ、黙ってカナラの案内されるままに足を進めていった。





「サクラよ、帥は魔眼族の目については知っておるの?」


 カミコは口元を扇で覆ってそう尋ねる。サクラはコクリと頷き


「はい。それ故にサトリの目の価値も・・・」


 と答えた。

 目元は鋭く細めていた。そんなサクラにカミコは目を閉じて


「その通りじゃ。サトリの目、魔眼族の目は他の種族では全く見えぬものを見る事が出来る」


 とそっと添える様な答えた。

 そのカミコの言葉に鋭く答えるサクラ。


「例えば法術の源となる「魔素」、とかでございますか?」


 サクラの答えにコクリと頷くカミコは扇を閉じた。


「そうじゃ。鬼人族は魔法も使える。となれば相手の魔素の動きを見て手の内を知る事も出来よう」


 その答えに更に鋭く細めるサクラ。


「カミコ様はそれをお望みで?」


 サクラの問いに先に頭を縦に振るカミコ。


「うむ。少なくとも妾が知っている限りではサトリの様な混血の者は知らぬ」


「・・・・・」


 サクラは目を細めて数秒程沈黙した。サクラ自身もサトリの目の本来の能力について知っていた。それ故にカミコがサトリの目を欲しているのは明白。

 その理由はすぐに思い付くとすれば軍事拡張を図る一環の一つ。だが何か違和感がある。

 だからサクラは更に質問を重ねた。


「しかし、何故そのような事を・・・」


 カミコは小さく頷き、口を開いた。


「直接帥に話したであろう?妾は()()()()()()と思う者であれば、必要とする。それは帥の立場も同じ事じゃ」


 曖昧な表現に目を光らせたサクラだが、更に気になる言葉に引かれてそちらの方の質問をした。


「ワタシは何に惹かれたので?」


 まさか自分も?と言わんばかりにそう尋ねるサクラ。意外な答えにサクラは身構える仮にも自分は王族だ。簡単に乗り移れる事が出来ない立場の上に両国間を関係が悪化しかねない。清々しい位に欲深な発言であると同時にカミコに対する疑問が膨らむ。

 カミコはサクラの質問に小さな笑みを浮かべて


「帥、恐らくじゃが何か見えにくい法術を使うておるじゃろう?」


 と訊ね返した。


「!」


 事実に近い発言にサクラは思わず目を見開いた。


「・・・詳しくは申し上げられませんが、確かにワタシは魔法・・・法術を使っております」


 隠し立ては無理があるかと、観念して白状するサクラ。


「・・・・・」


 そんなサクラにカミコは黙ってジッとサクラを見ていた。この沈黙が居心地が悪い上に相手に有利に働く口実を与えてしまった。

 それについても観念して


「ワタシを捕えますか?」


 と訊ねた。

 荒っぽい上にゴリ押しな方法だがサクラを捕えた事により、サクラは囚人になる。そうなれば無理やりにでもサクラをこの国に籍を置かせる事が出来る様になる。

 しかも、レンスターティア王国とオオキミ武国との関係はあっても接触頻度が少ない為それ程にまで深い関係でもない。

 だからこうした無茶苦茶な方法でも出来なくもない。何故なら少なくともレンスターティア王国ではオオキミ武国の軍事力の事は重々に承知しているからだ。

 こうなる可能性を考えつつもサクラは身構えていた。

 だがカミコの言葉は意外なものだった。


「無用じゃ。長々と話をしている上に遠回しが多くて敵わぬところが多い。故に本題に入ろうかの」


 無用。

 そればかりかサクラの処遇についてを「そんな事よりも」と言わんばかりに話を進めるカミコ。


「本題?」


 この様子からして何か焦っているような印象を持ったサクラはオウム返し訊ねた。カミコはコクリと頷き答え始めた。


「我が国では力量が高い者、有能な人材、技術、物産品と言った物を積極的にかき集めておる。今回帥達を見極めさせてもらった。そして有能なる人材と判断した。故に改めて申そう」


 一息整えて改めてサクラの方へ真っ直ぐな目を向けて


「我が国の民とならぬか?」


 と訊ねた。

 サクラはカミコを見返す様に黙って真っ直ぐな目で見て


「・・・・・」


 頭と横に振った。

 小さな溜息をついたカミコは


「そうか・・・それは仕方がないのぅ」


 と残念そうに答えた。

 そんなカミコにサクラは目を細めて気になるを訊ねた。


「国家注力の為ではございませんね?どういう事でございますか?」


 今までのカミコの発言からして明らかに国家注力の為とまではいかなくとも、疑問を持つ位のものだ。ここで変に遠回しに訊ねても誤魔化される可能性がある。

 だから単刀直入に訊ねた。

 するとカミコはフッと小さく笑って


「詳しくは言えぬが・・・そうじゃの・・・一言で言うならば・・・」


 一旦は目を閉じて一息ついて酷く低く重い声で


「大陸側に気を付けよ」


 サクラに忠告を促した。

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