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267.仕合

 案内された場所はコウジョウのどこかの中庭だった。石畳に苔を中心とした中庭で庭木らしいものは1本も無かった。

 この場で腕試しや仕合等をするには十分な広さがある中庭でシンとカナラはお互い顔を見合う様にして対峙していた。サトリは2人の仕合を見届ける為に中庭の縁側にいた。


「用意は良いか?」


 そう尋ねるカナラは上半身の服を全て脱ぎ、長手甲のみになって仕合に臨もうとしていた。


「いつでも」


 そう言うシンはいつでもと言わんばかりに既にスコップを手にしていた。


「・・・・・」


 シンは持っていたスコップを剣道の様な構えをとっていた。持っているスコップは普段からであれば槍の様に使っているのだが、相手の武器(えもの)は長巻と言うリーチの長い武器だ。

 槍の要領で構えてもまともに受けきる事が出来ないからスコップが破損する恐れがあった。そこで剣道の構えを取って相手の一振りをいなして技を繰り出そうと考えたのだ。


「・・・・・」


 対してカナラは腰に差していた長巻の鞘に手を掛けて、いつでも柄を握れる様に手を添えて、腰を落としていた。それは居合いの構えだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 お互いの手の内を探る様にしてジッと睨み合って20秒経過した。現状お互いの構えは崩していなかった。カナラの居合い抜きをする構えの事を考えればこの一撃で決める形をとっている。

 だとすればここで変に膠着状態を続けるよりも攻勢に掛けた方が良いと考えたシンはアクションを起こした。


「・・・っ!」


 ダッ…!


 剣道の構えをとっていたシンはある程度間合いと詰めた時、剣道の構えから剣道の突きの構えを取って初速を目に留まらぬ位の速さでそのままカナラの胴を突こうとした。

 その時だった。


 カッ…!


 カナラは鯉口を切った。


「っ!」


 来る。

 そう考えたシンはそのまま体を止めて一旦僅かに後ろに身を引いてから、居合いの抜身が空振りに終えた時にすぐに一突起にしようと行動に移そうとした。

 その時、違和感を感じた。


 シュッ…


 僅かに抜身が見えた時、この時に違和感を感じた。

 何か変だ。

 そう判断して速度を緩めて次の手を即座に切り替えようとしたその時だった。


「っ!?」


 ボッ…!


 白い光がシンの顔目掛けて飛んできた。


「・・・っ!」


 バッガァァァァァン…


 咄嗟にスコップの金属で出来ている肉厚な部分で身を守ったシンの目の前に白く光る物が見えた。


「・・・!」


 それは刀剣の切っ先だった。

 どうやらスコップの平たい肉厚の部分が貫かれてしまったようだ。

 だがそれ以上に衝撃的だったのは


(薙刀だったのか・・・!)


 カナラの武器が長巻ではなく薙刀だった事だ。

 そもそも薙刀と言うのは日本の長柄武器の一種で、平安時代に登場した武具で長い柄の先に反りのある刀身を装着しているのが特徴だ。

 ほぼ同時期の上、類似の武器に「長巻」があるが、長巻は長大な太刀を振るい易くするために柄をそのまま長く伸ばした“柄の長い刀”であるのに対し、薙刀は刀の柄をただ長くしただけではなく、刀身及び柄の形状共に斬撃に特化させた「長柄武器」である。リーチが長く、斬るだけではなく、刺突や石突を使用した打突、また柄での打撃が可能である為、攻撃手段は多い。

 カナラが持っている薙刀は柄が短い上に、刀身が長めで長巻に近いものだった。


(肉厚の部分が・・・!)


 最も防御面が高いとされている箇所がこうも易々と貫かれている事に驚くシンにカナラはその瞬間を見逃さず


 クンッ!


 そのまま薙刀を上に上げて引き下がってそのままシンが持っていたスコップを差したままの形で奪い取った。この時のカナラは左手で薙刀を握り、右手には柄と思われた短い鞘を握っていた。


「・・・・・」


 奪い取られたシンは即座に両手を力を抜いた。

 奪い取ったスコップを見て目を細めるカナラ。


(思っていたよりも硬かったな・・・)


「・・・・・」


 カナラの薙刀の方を見た。


(マジかよ・・・。仕込みの薙刀だったのか・・・)


 何が起きたのか。

 それはカナラが居合いの様に構えていた刀に模した薙刀の鞘は刀の柄とされている部分だった。その部分を柄と鍔で偽装されており、少し抜身が見える程度ではこれから抜刀そしている様にしか見えない。

 それ故に居合い抜きをするからそれに対処しようとする。それこそ居合いの一振りを防ぐかシンの様に避けるか等をする。

 だがそれ自体が大きな罠だ。

 完全に抜けきった時、顕わになるのはどういう訳か鞘の先に刀の切っ先。

 それを見た相手は一瞬疑問を感じて動きはおろか考えまで止めてしまう。その瞬間を狙って鞘に掛けていた手でそのまま鞘を抜く形で目にも留まらぬ速さで強烈な突きを繰り出すのだ。

 ほとんどの相手はこれを躱す事も防ぐ事も出来ないから急所に刺さる。

 シンの場合はそれをスコップで防ぐ事が出来たが奪われて次の手がない。攻撃手段を失った。試合はこれまでと考えたシンだったがカナラは持っていた鞘を腰に差して、スコップを薙刀の刀身から引き抜いた。


「・・・これ返すぞ」


 ザスッ


 そう言ってシンの方へ放り投げて地面に突き刺さった。


「!」


「仕切り直しだ。改めて参れ」


「・・・どーも」


 どういう訳かカナラは再戦を要求してきた。シンはカナラの本当の力量はこれだけでない様に感じていた。だから再戦に応じた。

 再戦に応じたシンは改めて持っていたスコップを見た。


「・・・・・」


 スコップはどこからどう見ても貫かれており、歪な穴ではなく刀の断面キッチリと綺麗な穴になっていた。更に驚くべき事に貫かれたスコップは少しも曲がっていなかったのだ。普通に考えるならば貫かれた衝撃で少し曲がったりす事の方が多いのだが、それすらない。


(深々と突き刺さったのか・・・)


 穴もそれなりに大きい。

 この事から改めて深々と突き刺さった事を物語っている。これらの事を見てこれは本当に正念を入れる必要があるなと考えたシンは改めて構え始めた。

 今度の構えは槍の突きに構えて臨んだ。

 カナラの構えは居合いの構えから一転して薙刀の突きの構えに入った。

 だが目の前のカナラを見て


(これは普段の形態では勝てないな・・・)


 と感じ取った。

 今持っている武器はおろか、今の普段の形態ではまず勝つ事は不可能と感じてしまった。ただでさえ刃を交えて間もないというのに、カナラの実力をヒシヒシと感じる。

 だがそれ以上にカナラのオーラと言うべきか気配と言うべきか、何か只ならぬ者を感じるものを醸し出して巨岩の様に存在し、今にも落雷しそうな構えでカナラは今まで出会ってきた者の中で最も脅威的であると確信を得た。


「いざ、参る」


「・・・・・」


 この声ですらも酷く重く感じる。それ故に緊張がピンと張り詰めて間合いを詰める事すらできない位に凍り付いた空気になる。


「・・・・・」


「・・・・・」


 ジリジリと迫りくるような圧迫感。慣れていない者、未熟者がこの場に居れば間違いなく過呼吸になる。そんな異常なまでに重い空気の中、シンとカナラはお互いの手の内を読み、ギリッと握り直した。

 その時だった。


「双方それまで!」


「・・・・・」


「・・・・・」


 お互い()()()耳に届いたのは8秒後の事だった。

 漸く仕合が終えた事を理解した2人はフ~と深く深呼吸した。


「仕合の件引き受けた事に感謝を言葉を贈る。忝かった」


 そう感謝の言葉を述べつつ、持っていた鞘を薙刀に納めて、そして薙刀を腰に差した。


「・・・お気になさらず。それよりも自分と手合わせて如何でしたか?」


 シンはスコップの構えを解いて杖の様に地面に立てかける形で持った。カナラはシンが武装を解いた事を確認して改めて気になっていた事を訊ねた。


「お主は今までに戦に参加しておった事があったのか?」


 その問いにシンは一瞬目を大きく開いてすぐに閉じて頷いた。


「・・・あります。それもかなり多く・・・」


 その言葉を聞いたカナラは目を細めて


「そうであったか・・・」


 と答えた。

 何か思う所があったのかそれ以上「何の戦いだったか」等とは追及せず、今回の仕合で率直な見立てを口にした。


「武器に扱いなれておらぬのだが、ここぞという時にどう切り返せば良いのか、どう動けばよいのか等の判断が早く的確。その上、その都度の猛攻に即座に対処しておった。これは見事と言う他なし」


 確かにシンは近接戦闘において武器使用によるものはほとんどなかった。ほとんどはBBPで対処していたからだ。

 だが今の今までに戦闘経験をしてきたから、どう対処しどう動けばいいのか等すぐに判断し、それが結果として英断に繋がる。

 そんなシンに感心し、最後の言葉に「見事」と付け足すカナラにシンは軽く一礼した。


「・・・ありがとうございます」


 シンが一礼した時、更に付け足した。


「それ故に分かった事が多くある。例えばこうした事は戦の経験を積まなければ出来ぬ事の方が多い」


「!」


 カナラの言葉を耳にした時、自分が只者ではない事を示唆する手がかりを見落としてした事に気が付き、短い息を吸った。相手が想像以上の力量で脅威的だったからこうした手がかりを残してていた事に気が付かなかったのだ。

 その様子のシンにカナラは目を細めて


「・・・戦の事はあまり語りたがらぬ事の方が多いのであろう。これ以上は何も聞くまい。案ずる必要は無い」


 と答えた。


「はい」


 あまり追及されなかった事に安堵すると同時にカナラが想像以上に鋭い勘を持ち、脅威的だった事に内心焦っていた。

 そんなシンにカナラは頭を下げて


「改めて申す。真に仕合を引き受けた事に感謝する。忝い」


 と改めて礼を述べた。

 そんなカナラに


「・・・こちらこそ、自分の知らない事が知れた切欠を設けてくださりありがとうございます」


 と頭を下げ返して感謝の言葉を述べた。


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