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265.信用できない

 

「此度の助け真に感謝致す」


「こちらも今回の渡航と入国、出迎えに感謝します」


 今いる所は平安時代の寝殿造に似た部屋にいた。そこはカミコのプライベートルームだった。上座と下座と言ったような身分をはっきりと表わされる様な事は一切せず、お互い面と向き合う形で対面に座っていた。その上奥間と違って窓があり、外の景色も見える。

 とは言え、身分上カミコが王でサクラは王女、若しくは公爵に当たる。つまり立場上カミコが上でサクラが下になる。故に言葉遣いは慎重で丁寧に話していた。

 報告会を終えた後、サクラの部屋にカミコの言伝に仕官がやって来たのだ。内容はサクラと話がしたい。一人で来て欲しいと言うものだった。

 サクラは少し面倒くさそうな心境になりつつ、承諾したのだ。

 そして今に至る。


「何を言う、帥に対して何も持て成しが無かった上にこれまでの数々の非礼をを詫びる」


 数々の非礼。

 恐らくそれは案内の件や、報告会での王族に当たるはずのサクラの扱い等々の事だろう。その事については流石にサクラも気になっていた。だがサトリのあの言葉を思い出す。

 だからあまりきつく言わず、静かに穏やかな口調で


「・・・・・何故あのような?」


 と訊ねた。

 カミコはそっと頷いた。


「帥は冒険者ギルドの事をどう思っておる?」


 そう質問をすると同時に扇を開いて口元を隠した。


「は?それは・・・・」


 どういう意味と訊ねようとした時、カミコの目が酷く鋭かった。その目を見たサクラは自分が思った事を正直に伝えようと考え、口を開いた。


「この国でのギルドは今回初めて拝見させて頂く所の方が多うございましたので、何とも言えませんが、自国のギルドは正直あまり信用できません」


 サクラは明確に冒険者ギルドの事が信用出来ない事を明言した。

 これは仕方がない事だろう。

 何故なら


「・・・それは帥が大きく絡む程の大きな事件があった故かの?」


「!」


 サクラは大きく目を見開いた。実際レンスターティア王国での大事件で冒険者達が大きく絡んでいたからだ。だがこの件に関しては箝口令等といった方法で情報統制を取って公には知らされないでいた。なのにカミコの口からは驚きの言葉。


「ご存じだったので・・・!?」


 思わず、訊ねてしまうサクラ。するとカミコは得意気に


「この国には良い耳があるのでな」


 と答えた。

 こうした反応から察するにどうやら対外情報部隊の様な組織を構成している様だ。

 隠しきれないと考えたサクラは事実である事を肯定した。


「・・・確かに事実でございます。まさかワタシ達がカミコ様が信用できないギルドの手の者か、冒険者だとお思いだったと?」


 渋々気味にそう答えるサクラにカミコは少し残念そうに答え始めた。


「有名人の名を騙る事が容易い上に、珍しいとは言え黒髪の人種も多くいる」


 サクラはレンスターティア王国の王族に当たる人物。内外でも調べればすぐに分かる為、特徴さえ押さえれば名を騙る事等容易く出来る。


「その上、「己の祖先は来訪者であるから、特別扱いせい」と厚かましく無恥なる愚か者も多い」


 どうやらそれだけでなく、自分が来訪者であると騙る、若しくは来訪者の子孫であると騙る事も多い。転生者、来訪者はこの世界においてはかなり重要視されている。その為、転生者と来訪者は特別扱いされる事も多い。

 王族と転生者、来訪者の共通しているのは少しの言動が国単位で大きく動く事がある。それこそ権力や経済と言った物が、だ。

 その為そうした事を狙って名を騙る事も多くある。

 実の所、大陸で建国や革命、紛争、大規模な戦争と言った物が多くあるのはこうした事によるものも決して少なくない。

 今回のギュウキ事件でも功績あるサクラ達とシンがそう言った事を騙るのであれば、例え国を救った恩人と言えどもそれは許すわけにはいかない。


「その可能性があるから案内を敢えて長くさせて我々を見極めようとした、と?」


 サクラがそう尋ねるとカミコは扇を閉じて毅然とした声で


「そうじゃ」


 と言い切った。

 その様子からして自分達の事を見極めた様な態度だった。だからサクラは更に訊ねた。


「・・・では我々を見極めて、どう映りましたか?」


 一番重要な事だ。

 もし自分達がいくら本物の王族であったとしても、相手側が偽者と思い込んで入れば意味がない。下手をすればお互いの関係を深い溝を作る様な国際問題にまで発展する。

 その問いにカミコは小さな声で「ん~」と唸って答える。


「そうじゃな・・・一言で言えば面白いのぅ。時にサクラよ」


「はい」


 カミコの口振りからして一先ず自分達の事は詐欺師ではない事を認識しているのは間違いなかった。だがどことなく含みがある事とまだ何か尋ねようとする姿勢の上に余裕綽々の悪戯好きの子供の様な態度にまだ何かあると考えるサクラは返事する。


「シンは来訪者じゃな?」


 その言葉を聞いた時、胸から大きな鼓動を震わせて、目を大きく開いた。

 ここで変に隠せばそれなりに大きな労力を使う。ならばここはシンの事をどう思っており、どうしたいかを訊ねる事にした。


「質問を変え・・・いえ、単刀直入にお尋ねいたします。カミコ様はシンの事を狙っているのでございますか?」


 その質問にニンマリと笑ったカミコはそう答える。


「然様じゃ。そして、帥も事もな」


「ワタシも、で?」


 まさか自分もその対象になっていた事に驚きの表情を隠せずにいた。

 いや、そもそもこの対談をして驚きの連続を味わっている。驚きのあまり思わずポカンと固まってしまうサクラに追い打ちを掛ける様に続けるカミコ。


「そうじゃ。殊更に言えば、サトリもじゃ」


 その言葉を聞いた時、目を細めて逆に


「・・・あの目の事でございますか?」


 質問をした。

 その質問を聞いて意外そうな顔になったカミコはすぐに目を細めた。


「知っておるなら話は早いの」





 サトリが黒い帯を取ってその目を見せた時


「その目・・・」


 シン思わずそう尋ねてしまった。

 それもそのはず、サトリは鬼人族だ。だが目を見た時、鬼人族の特徴ではない特徴を持っていた。


「ああ」


 サトリの目。人間の言う所の白目の部分が黒く瞳が血の様に深紅の目。

 それは魔眼族の目だった。


「父か母が魔眼族なのか?」


「父上が魔眼族で母は鬼人族だよ」


 更に詳しく聞けばサトリはこの国出身ではない様だ。200年以上前、サトリの母親はこの国の諜報員としてアスカールラ王国に行き、この国に大陸の情勢についてを流していたのだ。

 そんな生活を暫くしていくにつれて魔眼族の人々と多く関わる様になり、遂にサトリの父親と出会う事になった。

 すぐに恋仲になって、それから夫婦になるまでそう時間はかからなかった。

 あっと言う間と言わんばかりにサトリが生まれた。

 しかし当時、大陸の情勢が不安定でいつ戦争が起きてもおかしくなかった。そこでサトリの両親はオオキミ武国で育てる事にした。

 物心つく頃には母親譲りの好戦的な性格と父親譲りの良い目を持つサトリにオオキミの権力者達に目を付けられた。

 その後は英才教育を受けて、12歳の頃にオオキミ武国の仕官候補生となるも、自由に動いて戦う事が性に合っていたサトリは仕官になる事を蹴って、そのまま外の世界へと飛び出して傭兵となって各地を転々とした。

 そして最後にはサクラが所属している組織に入った。


「(中々にハードな経歴だな)ん?だが、組織に入る事で自由に戦う事が出来なくなるんじゃないのか?」


「ああ、その点は問題ない。わっしが所属している組織は所属しているメンバーが困った時に手を貸せばいいらしいからね。それ以外は自由だし、最高のバックアップ付きだからね」


 シンのふと気が付いた何気ない質問に気さくに答えるサトリ。だがこの質問シンにとってはかなり重要な質問だった。


「バックアップ・・・」


 バックアップ付きという事はそれなりに大きな支援が出来る、つまり大規模な組織である可能性が高いという事だ。

 その事に気が付いたシンはそうオウム返しに答えるとサトリは小さな溜息をついていた。


「それよりも、またここに来る事になるとはねぇ・・・」


「ここに戻って来た事に何か問題が?」


 再び溜息をついて答え始めるサトリの表情は辟易としていた。


「大ありさ。あの・・・カミコ様はわっしがここから出る事になった時、猛反対だったからね」


 サトリは「あの女」と言うこの国では大変不敬に当たる言葉を飲み込んで愚痴を零すサトリ。


「簡単にやめる様な立場じゃなかったのか?」


 当時のサトリの事を考えれば、辞めようと思えば辞めれる様な立場ではあったはずだ。それなのにカミコが猛反対された(ゴネた)のには何か特別な理由がある様に感じた。

 そう考えた時


「サトリ殿しか持っておらぬ能力を持っておったからでござる」


「「!」」


 部屋の外から声が聞こえた。

 声からして厳かさを感じさせる深みのある男の声。

 シンは気配でその声の主の正体を知っていた。


「失礼いたす」


 カミコの傍に付いていた、剣岳のの様な厳かな顔立ちの40手前の鬼人族の男だった。

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