263.この場を借りての再会
顔合わせから3日後。午前10時頃。
その場にいたのはこの国の重鎮と呼ぶ者達だった。用意された座布団の上に座り、正座と胡坐と言った様々な座り方で座っていたのだが、共通していたのは背筋を伸ばし、軍人の様なピシッたとした雰囲気を出してこの場に臨んでいた。そんな雰囲気に飲まれ込む様にシン達も臨んでいた。
シンはこうした雰囲気に慣れているからか、心境は平然としていた。そのお陰か周りを見る事が出来る余裕があった。
「・・・・・」
周りを見れば自分達は部屋のど真ん中で横一列に座り、左右にはこの国の重鎮と思しき人物達が座っていた。その人物達は老若男女で様々な種族が集っていた。
共通していたのは見た目こそ若いものが多く、年を取っている者は少数だ。だが、どことなく貫録を帯びており、佇まいからして只者ではない事を窺える。こうした雰囲気により、彼らは自分達よりも経験を多く積み重ねている老練なる者である事がヒシヒシと理解させられる。
(やっぱり多種族国家なんだな・・・)
多種族を起用していなければこうした光景には巡り合わない。こうした事にシンは素直にそう感じ取る。
だが、慣れていないのかアンリは今にも苦い顔になりそうになっていた。普段からこうした雰囲気に晒されているステラとアルバはほぼ問題無し。サクラは戸惑い気味でありながら、心境的には問題無しだった。今までにない所作に戸惑っているだけの様だ。
そして最も慣れていなかったのは今回のギュウキの件で町まで向かったヒロだった。
「・・・・・」
ヒロ自身はカチカチに体が強張る程まで緊張で固まっていた。
(・・・ヒロは少し災難かもしれないな)
少し遡って午前9:45位の事。
先に来ていたこの国の重鎮達はもう既に指定されていた座布団の上に座っていた。
後程から来ていたシン達は各々の挨拶をしようとしていたが、重鎮の一人が時間が迫っているから挨拶は後程という事をこちらに伝えてきた。シン達はその事を素直に了承して一先ず各々が指定されいる座布団の所まで行き座った。
この時、久しぶりと言うべき再会があった。
「ヒロ!」
「シンさん!」
思わずお互いに声を漏らしてしまう。シンが座る席の隣の席にはヒロがいた。どうやらヒロもシンと同じ様に今回のギュウキの件についての報告をする為にここまで来ていた様だ。
「お久しぶりですね」
気さくな声掛けをするヒロにシンは何か頭に何か過ったかのような者を感じてそっと訊ねた。
「ああ、あれからどうだった?」
シンの問いにヒロは少し苦い様な笑顔で
「・・・大変でした」
と答えた。
しかもヒロの声には陰りの色が見えた。その事に気が付いたシンは何か言おうとした時
「カミコ様の御臨座~」
一人の仕官がそう声を張った。この時、現在に至る。
「「「・・・・・」」」
するとその場に、座布団の上に座っていた者達が一斉にして徐に一礼を入れる。当然シン達もそう内の一つだ。
「・・・・・」
奥間の左側の艶やかな障子がスーッと開き、カミコは摺足気味に移動して皆がいる場の上座に向かった。
3日前の衣装とは違って更に煌びやかな衣装、分かりやすく言えば大奥の様な衣装ででこの場に臨んできた。
その衣装は実りの季節に合わせてなのか、それとも単純にその衣装が気に入っているからなのか、背景が朱を主にして、葡萄、柿、稲穂と言った秋の作物と思しき植物が事細かに描かれていた。そして後ろに控えていたのはナオだった。
以前と同じ服を着ていたナオの腰には2振りの刀、小太刀を差していた。
そしてもう一人・・・。
「・・・・・」
剣岳の様な厳かな顔立ちの40手前の鬼人族の男がいた。
角は鹿角を印象付ける様な二手に分かれた大きな角に、銀の長髪で後ろで括っている。瞳は黄金色で猛禽類を連想させる位の鋭い目だった。黒の細めの袴に、鳶職が履いている様な地下足袋を連想させる位のごつい足袋を履き、ワインレッドのスーツに近い着物を羽織っていた。はだけた所からは赤と白で構成された麻の葉模様の着物を着込み、腹には小刀1振りを差していた。左の肩から黄金色の大きな数珠を下げていた。
そして極めつけは、腰に差していた長巻と言う長刀だ。刀身部分こそ通常の刀と同じだが、柄の長さが刀身より少し短い位の長さだ。
そもそも「長巻」は刀剣の一種で、大太刀から発展した武具である。 研究者や資料によっては「薙刀」と同一、もしくは同様のものとされている事もあるが、薙刀は長い柄の先に「斬る」事に主眼を置いた刀身を持つ「長柄武器」であるのに比べ、長巻は大太刀を振るい易くする事を目的に発展した「刀」であり、刀剣に分類される武器である。
「・・・・・」
自分が座る位置まで移動したカミコは、そっと腰を下ろした。
「苦しゅうない、面を上げよ」
時代劇等でよく聞く様なセリフを口にしたカミコの言葉に、シン達含めた一同が面を上げた。
「此度の事、皆御苦労であった。しかし詳細は妾は知らぬ。故にこの場にて各々の行動を口で明かせ」
「先ずは、その方から話せ」
扇子で指した先にはこの国の重鎮と思しき者の方へと向けてそう命を下したカミコ。
指された重鎮、恐らくこの国の現代で言う所の大臣と言える者は
「はっ」
と返事と同時にこれまでの、ギュウキの件について自分が何をしてきたのかについて等を報告をした。
話の内容としてはギュウキが陸に上がってきた場合に備えて食料の確保や生活必需品の用意等を報告をした。同時に仕官がやって来て書類をカミコの元まで持ってきて納める様にして差し出した。
「…以上でございます」
「うむ。では次」
一通りの報告を聞いたカミコは頷き、そう命令を下した。
すると
「はい」
と先まで指された重鎮の隣の重鎮が答え始めた。どうやら報告した者が次に、次にという形で進めていくようだ。
こうした形で進めていくにつれて次第にヒロ、シン、サクラ…と報告をして次第に今回の騒動、ギュウキの事について詳細に明かされるようになった。
「…以上でございます」
「うむ、では最後に・・・」
カミコがそう言って視線をやった先にいた人物は
「はいはい」
サトリだった。
しかもやる気のない様な生返事をする。明らかに無礼で不敬とも取れる態度だ。そんな態度にも関わらず周りの者達は無反応の様だった。
(ん?)
周りの反応の無さに少し驚きの心情になるシンは少し周りに目をやる。
「「「・・・・・」」」
誰一人として反応する気配がなかった。この事にシンはサトリの方へ目を向けた。
「・・・・・」
淡々と今回の出来事に関する事を報告するサトリはどことなく嫌々気味の様に見える。
こうした報告やキビキビとした雰囲気には慣れているシンは割と周りの様子を見渡す事が出来る心の余裕がある。
それこそ終始ガチガチに固まっているヒロやこうした事に慣れていないサクラ達とアンリはどことなくしどろもどろの様な動きになる。
だが、サトリは嫌々ながらも慣れている様に見える。この事からシンはサトリは実は結構身分の高い所で生活していたのではないのかと考えてしまう。
「・・・以上」
そうこうして考えている内にサトリの報告が終わった。
「うむ、皆報告御苦労であった。その上大儀であった。お陰で委細の事態をこれにて把握する事が出来た」
と自信満々の顔でそう言い切った。
(!)
今までの全ての報告を各々の口から出た言葉だけを聞いたカミコは書記官も無しに全ての話をまとめて全ての事について詳細な所まで理解できたのだ。一般人であれば間違いなく混乱や纏まりのない順列になるだろう。
だが、書記官がいない事やカミコのあの自信満々の顔からして本当に今回の事について詳細に理解できたのだろう。
その事にシンは驚いていた。
「一先ずこれにて報告の為の集いをこれまでとする。皆本当に御苦労であった。此度の件ついての報いの沙汰は追々出す事とする」
カミコがそこまで言った時、カミコが入室した時に声を張った仕官が
「カミコ様の御戻り~」
と声を上げた。
するとカミコとナオ、カナラが立ち上がった。この時、一同は一礼をした。そしてカミコは元来た順路で戻っていった。
そして声を張った仕官が再び
「本日の集いをこれまでとする~」
と声を張り今回の報告会を終わりを告げた。
その事を耳にした一同はそっと立ち上がってその場を後にした。