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261.異様な雰囲気

(次はこの廊下・・・)


 仄かに光る壁画によって照らされた廊下を歩いていたのはサクラだった。サクラはシンが一定以上の距離を離れていく上に、ナオと一緒に姿が見えなくなった事に気が付き、シンを追いかける事にしたのだ。糸の魔法のお陰でシンがどこにいるのか把握できている。後はこちらが出向くだけだ。

 だが変にアルバかステラと共に行く事になれば目立つ。そこでサクラはステラに事情を話してそっと経yを後にして追いかけていったのだ。

 現状シンの後を追いかける事には何の障る様な事も迷う事も無く順調に進んでいた。


(全く、シンを誘いよって・・・!)


 少し思い出していた事、それはシンが初めてナオとあった時の事だ。

 あの時、シンはナオの姿を見て驚きつつも、ジッと見ていた。それに気が付いたナオはそっと近づき、顔を近くまで寄せていた。その事にシンはどもり気味に返答していた。

 その事を思い出した時、サクラの眉間は皺を寄せていた。


(・・・・・)


 ムスッとした表情になったサクラは同時に他にも思い出していた事があった。

 それはこの国の文化だった。


(・・・悔しいが、この国であればシンにとって見覚えのある物の方が圧倒的に多い。興味を引く物や懐かしむ物の方が変ではないか・・・)


 ナオの容姿と言えばそうだが、美しさに惹かれたのではなく、懐かしさに惹かれていたとしてもおかしい話ではない。その事を考えれば納得できる部分もあるが、思う所もある。

 そんな事を考えていると


「!」


 シンとナオの姿が確認できた。漸く追いついたようだ。今2人がいる場所は中庭の様だった。


(いた!)


 思わず、壁の影に隠れて様子を窺うサクラ。


(一体何を話しているんだ!?)


 ナオの後に付いて行くシンの口元が動いているのを確認したサクラ。するとシンの口が止まった時、ナオの肩が小刻みに少しだけ動いていた。

 この様子からして笑っているのだろうという事が分かる。

 それを見た瞬間サクラは胸の内が靄が現れ、イラつきが生まれた。


(というか何故ワタシはこんなにイライラしているんだ・・・!?)


 そんな疑問を持ちつつ2人の様子を窺った。





 剣を握った事があるといったナオにシンはそっと物を置く様な声で


「・・・主に剣を?」


 と訊ねた。


「ええ。正確には小太刀2振りでございます」


 ナオは話が分かる人物と出会えたかのような反応で明るい声で答える。

 ナオに答えにシンは少し目を細める。


「小太刀・・・」


 太刀の一種で、刃長が二尺(約60センチ)前後の刀の事である。

 一般的に、定寸刀と短刀の中間の長さとされており、脇差全般がそれに当たるという説、大脇差をそう呼ぶという説、また、大小二本を差す時は刀(本差)、脇差とそれぞれ呼び、一本のみを使用するときに小太刀と呼ぶ等、諸説ある。

 現存する物で脇差ではなく小太刀とされている物は、いずれも刃長が二尺よりわずかに短い物で、脇差では大脇差に相当する長さである。

 尚、現行の銃刀法における刀剣類登録の分類では「太刀」とあるが「小太刀」の種別はない為、小太刀とされている物でも登録上は全て「脇差」として記載される。

 後に小太刀術という剣術が生まれるが、この時代には武器として「佩く」様式の小太刀は使われておらず、これは脇差を片手で扱う剣術の事である。その為か、小太刀術のみを専門にする剣術流派は少なく、通常は剣術の中に付属しているが、全ての流派にあるわけではない。 その多くは入り身を主体とし、柔術的な技法を含む場合も多い。

 創作物等では小太刀はスピーディーな戦士が使うよくあるイメージだが、実際は戦闘では実用的とは言えない部分が多く、主に護身術や盾の代わりと言った手段が多かった。現代で言う所の警棒のような役割に近かった。

 だからナオが小太刀、それも2振りで戦う事がイメージが付かなかった。


「かなり苛烈でございますよ?」


 ニッコリと笑顔でそう言うナオ。その返答にシンは


「そうですか・・・」


 と何か確信を得た様な心境になった。そんなシンにナオがいきなり


「分かりますか?」


 と一般人なら全く持って分からない事を口にした。普通なら「何の事ですか?」と訊ねたくなるような話だ。

 だが、そんなナオの発言はシンにとってかなり的を得た発言だった。


「何を言っても追及されると思いますので、正直に言います」


 小さな溜息交じりにそう答えるシンは一呼吸整えてナオの方を戦地に赴く様な顔つきで熟練の偵察兵の様な目で見た。


「腕が立つんですね?」


 そう言った瞬間、ニッコリとしていた華の様な笑顔の細い目の奥から鋭くて獲物を射抜く様な光を感じたシン。それは強い殺気でも、悪意も、害意すらない。

 唯々、空腹だから今目の前にある饅頭を食べようとしているかの様な感覚。

 だがナオの感覚はシンから見れば異常な何かに見える。

 今服を洗濯したいから斬り伏せよう。

 支離滅裂ながら、妙に説得力のある。

 そんな雰囲気をナオは纏っているのだ。

 だからなのかナオは素直に


「はい」


 と答えた。


「もし、あの場で事を構えるような事態になっていればどう動きますか?」


 明らかに無礼どころのセリフではない。不敬どころか国家転覆を図っている、と捉えられる。この場ナオ以外の者が居れば捕縛騒ぎ、最悪シンを殺すという事になり兼ねない話だ。

 だがナオはどうともせず、笑みを崩さずに


「まず、あの場で最も人質として有効的なサクラ様を取って動きが一瞬止まった時を見計らって・・・」


 そう答えて手で斬るジェスチャーを取ったナオ。

 表情顔色どころか声色の感じからして異常以外何ものでなかった。

 仮にもサクラは王族である事はこの国の重役の者達なら重々に承知しているはずだ。少なくとも案内役の上に会議の進行に一役買う位の実力を持っている事からしてナオは間違いなく重役である可能性が高い。その事を考えればかなりとんでもない事を発言しており、最悪国際問題に発展してもおかしくないものだ。そうであるのにナオはそれを望むかのような・・・とまでいかなくともこれからどんな事態が起きるのか分からない事に不安がなく、嬉々として待っているように見受けられる。

 それこそ、まるでこれから楽しく家事でもしようとしている主婦の会話の様にそう答えた。そんなナオの異常さに感じ取ったシンに対してナオは何かを思い出して


「あ」


 と声を漏らしてしまった。

 そんなナオにシンは微動だにせずジッと様子を見ていた。


「しかし、貴方は違うかもしれませんね」


 その答えを聞いたシンは目元がナイフの切っ先の様に細くなって


「どういう事ですか?」


 と訊ねた。


「あの場で最も脅威だったのは貴方でしたので・・・」


「・・・・・」


 華の様な笑顔に変わらない声色。この事からして掴み処のない雲の様な態度であるが、シンは直感で冗談でも世辞でも無く本音でそう言っていると感じ取った。


「もしかすればサクラ様を人質にとる事になったとしても、先に首が飛んでいるのは私かもしれませんね」


「・・・どうして俺の事が脅威だと思ったんだ?」


 さっきまでの手段の方法の発言がシンの存在する事で不可能だという事口にするナオにシンは眉間に皺を寄せて更に訊ねた。

 するとナオは変わらない華の様な笑顔で


「貴方だけ、私に向ける目が違っていた事が一つ。もう一つは・・・」


 と一つ目を答え切った時、細くなっていた目を徐々に開いていき


「別世界から来たような雰囲気を持っていたからでございます」


 ともう一つの答えを言い切った。

 この時のナオの目は切れ長でありながらどことなくおっとりとした印象のある綺麗な美人画から飛び出してきたかのような綺麗な目でシンを映していた。


「・・・・・」


 ナオの態度と発言に思わず黙ってジッとナオの方を見返す様に見ていたシンにナオは今の空気を変えようと考えたのか華の様な笑顔に戻って庭の方へと目を向けた。


「ささ、この様な物騒な話よりも暫く庭の方を眺めて楽しく話しませんか?それと・・・」


 そう言いながら視線を流すかのように滑らかに動かしてサクラが隠れている廊下の方へと向けた。


「サクラ様も如何でございますか?」


「!」


 その言葉を口にした瞬間サクラは目を大きくして体をビクッと震わせた。

 短く息を吸ったサクラ。

 言い切ったナオはニッコリと笑っていた。


「気が付かれていたので?」


 そればかりかサクラがいる位置を正確に把握していた様だった。その証拠に明かにサクラがいる方向へ顔を向いていた。

 その事に気が付いたシンは少し驚きの心境になり、静かにとは言え、思わず訊ねていた。


「ふふっ。そう言う貴方も」


 どうやらシン自身も気が付いていた事に気が付いていたナオはカラカラ笑う一歩手前の笑顔でそう答えるとサクラの方へ改めて


「如何でございますか?ご一緒で」


 と訊ねた。


「・・・・・」


 サクラはそっと姿を現してコクリと頷きシンとナオの輪に混ざった。

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