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259.試す

 

「気が付いていたんだな」


 ナオに案内された部屋で座布団に座り、出されたお茶を飲んで寛いでいるとサクラがシンの瞳を覗き込む様に訊ねてきた。

 これだけの言葉だけでは何の事分からない。だから


「何が?」


 と訊ねた。


「ここまで案内されている意味と仕官達について、だ」


 サクラが溜息交じりにそう答えると


「ああ・・・気が付いていたよ」


 半ば「ああ、そんな事か」気味に答えるシンは代弁するかのように


「「お前達は私達の腹の中にいる。その気になればいつでもどうとでも出来るからな」と言わんばかりの対応だったからな」


 と答えた。

 するとその言葉に反応したのは


「あの女はこうした事を平気でするからね」


 サトリだった。その答え方はまるで呆れ混じりの嫌々さが窺える。

 そんなサトリの態度に


「あの女って・・・」


 サクラが意外そうな反応を見せた。

 そんなサクラにまだ理解できないでいるアンリとアルバとステラ達。代表してアンリが


「何でそのような事を?」


 と尋ねる。


「この国の資源は大陸にはないものがあり触れている。貴重で珍しいものが多いから今回の様な侵略を図る物知らずの馬鹿とか何かしらの方法で威して物を手に入れようとする身の程知らずの阿呆が多いからだよ。仕官とかナオの事であれば「我々の手の中にいるから妙な事はするな」とか案内されたところでも「迷いそうになる位にまで彩った綺麗な間取りだろ?しかも凄い事に引き戸・・・扉とかは外して動かせれるんだぞ」とかな」


 サトリの言葉にそれなりに納得がいったアンリ達は頷き返した。


「ああ、そう言う事でございますか。つまり・・・」


「あれだけ綺麗な扉は外せれるから案内された通りにあるとは限らない。だから迷っても別段おかしな事ではない」


 フンフン、と静かに頷いて話をまとめるアルバの言葉の代わりにアンリが答える。


「迷わせて人気が無い様にする事が出来る。それこそ人知れず・・・」


「もっと言えばサクラさん達の理解力とか洞察力とか実力とかを知る為にこうした事をしたんだろうけどね。まぁ要は試されたという事だな」


 更に付け足す様に話し始めるサクラの言葉にサトリは呆れ口調で何をしようとしていたのかを口にした。その言葉を聞いたサクラは眉間に皺を寄せて溜息をつく。


「そこが気に食わない。こうした国の事情だから仕方がないのだろうが・・・」


 更に言えば4時間、休憩もなしに話し合いと言うのも引っ掛かる。仮にも相手は王族の人間を招き入れているというのにこれではかなり失礼にあたる。

 となれば、サクラ自身が本当に王族かどうかの確認の為、シンの素性を知ろうとするために長々と話をしていたのだろう。何せこの国(オオキミ武国)は陸続きでない上に中々大陸側とオオキミ武国との情報がお互い分からない状態になる程の交通の不便と不安定があるからだ。

 変に「サクラさんは王族の人間ですか」と言って嘘を言えば意味がないし、裏を取れる方法もない。だが、実力を持っている人間かどうかやどういう事をすれば非礼にあたるのか位を試す事は可能だ。

 だからあんな回りくどくてつまらない真似をしたのだろう。

 そこまでの理解が全員に及んだ時、シンはふと思い出した事を口にした。


「気が付いたと言えば・・・」


「ん?」


 小首を傾げるサクラ。


「あのナオの事、どう見た?」


「あの女官の事か?」


 サクラはシンが意外な人物の名前を口にしたから思わず、訊ね返してしまった。


「・・・・・」


 サトリはサクラの方をジッと見ていた。


「そうだな。静かで優秀な文官で美人だったな」


 そう言ってジロリとシンの方へ見た。そんなサクラにシンは


「それだけか?」


 と訊ねた。

 するとサクラは何かあるのかと身構えるも、他に何か分かる事が無く


「え?ああ、そうだな・・・それだけだな」


 と答えた。

 するとシンは


「そうか・・・」


 と答えた。

 そんなやり取りをしている2人にサトリが割って入る様に


「サクラさん・・・」


 と声を掛けた。口調からしてどことなく「ああ、やはりか」と言わんばかりのものだった。


「な、何だ?」


 サトリの様子に思わずどもり気味に訊ねるサクラはハッと何か閃いた。


「まさか、あのナオと言う女官、文官じゃないのか?」


 サクラの答えに答えたのは


「正解。武官だ」


 サトリだった。

 まさかとは思いつつ意外な答えにサクラは思わず


「何!?」


 と小さく叫んでしまった。


「何でも昔相当名を馳せた人物だったらしいけど、詳しくは分からないね~。何となく強い事は解していたが、昔から掴み処がなくて、こうホワホワとした雰囲気を持っていた人だから、正直な所どれくらい強いのかは分からん」


 それなりに評価しているサトリの様子を見てサクラはナオの存在に改めて認識した。


「そ、そうか・・・だが信じられないな・・・とてもそんな風には見えなかったぞ」


 サクラの言葉に思わず同意したのは


「うん・・・」


 アンリだった。

 アンリの目からでもナオが武官、つまり()()()者であるとは思ってもみなかったのだ。

 今の今まで剣を持った事が無い様な雰囲気の上、武器を持たずにいたナオに対して、そう判断したサトリを除くサクラ達は驚きの上に肝が冷えた。

 何故なら昔では相当名を馳せたという事は、かなりの実力者である事は間違いない。しかも案内役は他でもないナオだ。つまりその気になれば武器を持っていないナオがいつでも組み伏せる事が出来たという事だ。

 できる者である事を見せず、武器すら持っていないナオが常にサクラ達の側にいたと思うとゾッとする所があった。

 ナオがそんな真似をしていたとなれば間違いなくサクラ達の案内役だけでなく監視役としていた事になる。

 そんなサクラ達の様子を見て空気を変えようと考えたサトリは飄々とした口調で


「まぁ、強くともわっしよりも強いという事は無いとは思うよ」


 と、どことなくドヤ顔気味に言い切ったサトリ。

 それを聞いたサクラ達は瞬時にして空気が凍った様に黙ってしまった。


「ありゃ?」


 全員が黙ってしまった事に思わずそう声を漏らすサトリ。

 そんな空気が数秒程流れてやっと口を開いたのは


「そ・・・それはどう反応すればいいんだ・・・?」


 困惑したサクラだった。

 が、この問いはサトリにではなく他の者にも訊ねている言葉だった。その言葉に同意する様に


「笑えばいいのか・・・?」


 アンリも疑問の口をした。

 その疑問にサトリはどことなく寂しそうに


「流されるよりかはね・・・」


 と答えた。

 どう反応したらいいのか分からない。

 空気をもう少し読んで欲しい。

 笑いのセンスが壊滅的だな。

 そう言った声がサトリの方へと浴びせられてサトリは矢印の様な物がグサグサと胸に貫かれていた。痛い所に触れられたり、ショックを受けていたりとサトリのアクションが忙しくなっていた。

 そんなサクラ達とは裏腹にシンの顔付きは真剣を通り越して酷く深刻そうな顔になってある事を思い返していた。


(「わっしよりも強い事は無い」か・・・)


 それはナオの事だった。

 シンは初めて会った時からナオの姿を見て妙な違和感を覚えていた。

 確かに戦闘慣れしている所謂「できる」人間特有の雰囲気こそ無かったものの、こちらを覗いて決して油断も予断を許さない厳しい視線。そんな視線がこちらを見る度に一瞬出てはすぐに柔らかい雰囲気に戻っていた。

 更に言えばカミコと言葉を交わして、ナオがシンに声を掛けた時の事。

 あの時、武器を持ってないはずのナオから何か危険な物を持っているかの・・・背筋に冷たくて鋭いものを突きつけられた様な酷く危ないものを感じた。


(・・・・・)


 シンはサトリが「自分より強い事は無い」と言う冗談めかした言葉が全くの事実である様に感じてならなかった。

そんな時間が過ぎてナオから夕食の用意が出来た事を告げられてその部屋を後にした。

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