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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
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24.静かな変化

「おはよう」


「おはよう・・・」


 朝からのシンは何かが違っていた。返事をしたナーモが何となくそう感じた。普段通り無表情な顔つきで気軽に挨拶を交わしていた。


「シーナ、おはよう」


「おはよ、シン兄」


 それに続いてニック、エリー、ククとココにも挨拶を交わそうとする。


「おはよう」


「・・・おはよ」


 ニックは戸惑いながらも挨拶する。


「お、おはよう」


 ククはいつものように元気な挨拶をした。


「おはよーシン兄!」


 ココは何となくいつもと違うという感じはするもののとりあえず挨拶をする。


「おはよー」


 全員シンとの挨拶を交わした。たったそれだけでいつものシンとは違うと皆はそう感じた。


「朝食はハンバーグにするからな。ギアはオルトラーナという種類のピザにするからな」


 毎日ピザばかり皆に提供するのはどうかと思い、とりあえず子供の人気メニューの一つのハンバーグにした。


「うむ、期待しておるぞ」


 ギアはオルトラーナと言う単語は知らない。知らないが、何となくうまそうな食べ物だと感じ取った。

 オルトラーナと言うのはピザの種類の一つでトマト、バジルは勿論、茄子、パプリカ、ブロッコリー、ズッキーニ、パルミジャーノチーズ、少量の生ハムが入ったピザだ。野菜がたくさん入っており、女性にはヘルシーなピザとして人気の高いピザのうちの一つだ。

 そのオルトラーナを4枚とギア以外の人数分のハンバーグの材料を購入する。


 シンが「ショップ」を開いている時ギアは皆の様子がおかしい事に気が付く。


(?)


 皆のいつもと違うという雰囲気を感じ取ったギアはナーモに近づきそっと聞く。


「ナーモ、どうかしたのか?」


「ギア、シン兄に何かあったのか?」


「いや、何も知らぬが・・・。いつもと様子が違うのか?」


 ギアがナーモに対して聞くと傍からエリーが


「シン兄、言葉の訛りが無くなって自然と話せるようになった・・・」


 エリーがそう指摘されるまで気が付かなかったギア。


「そういえば・・・」


 そう呟き何となく納得した。確かについ昨日まではたどたどしそうな言葉の最後に訛りが生じて話していたシン。

 だが今朝はどうだ?

 ごく自然と話していた。ギア以外の皆は何か違和感を持っていた。


「だが、それは喜ばしい事ではないのか?」


 ギアの言う通り、それは喜ばしい事だ。だが、エリーはシンの方を見る。


「そうなんだけど・・・」


 何となくギアの方を向く。


「言葉を教えたのって一昨日なんだ・・・」


「・・・・・」


 ギアはそれを聞いて目を大きく見開き、シンの方を見て何か考え込む様な沈黙していた。



(この世界の言葉を3日でここまで・・・?)



 たった3日だ。3日でこの世界の言葉をこのようにごく自然な会話で話せるようになった事はあまりにも衝撃的過ぎた。


(早すぎる・・・)


 この世界にもたくさんの国がある。国が違えば考え方や習慣、文化、そして言葉も同じように違ってくる。観光や外交、戦争等で言葉をある程度知っておかなければ不自由な面が多々ある。そのため、翻訳の魔法が存在する。


 だが、それらが出てくる前は言葉を覚えなければならなかった。シンがここまで自然に話せるようになるまで早くとも半年かかる。長く生きているギアはその苦労にかかる時間を知っていた。だからギアは衝撃を受けたのだ。




 エリーはギアにぼそりと呟くように話す。


「シン兄に本を読ませて言葉を教えたんだけど・・・」


「・・・ほう?」


 エリーにその事を聞かされたギアは頭の中で何か答えが出そうになるが奥の方で引っかかって出ずにいた。


 シンの方を見ながらエリーに小さく尋ねる。


「其方たちの持ち物の中に他に書物はあるか?」


「いくつかあるよ」


「すまぬが見せてくぬか?」


「いいけど、何に使うの?」


 ギアは魔法ではそんじゃそこらの書物を読んで覚えるという事は必要が無いほどポテンシャルやステータスが高かった。


 そんなギアが書物を読みたいというのは変だったのだ。

 エリーの疑問にギアはシンの方へ見て答える。


「シンに試してみたい事がある」


 そう言い、エリーの案内の下、書物の種類を吟味しいくつか手に取った。






「シン、これを読むと良い」


「これは・・・「魔道の指南」?」


 ククとココにナイフの扱いを教えている最中ギアはシンに近づき馬車から手に入れたある本を渡していた。


「そうだ、これを読むと良い」


 強く進めるギア。

 シンはギアに対して何かあるのかと考えていた。


「・・・・・」


 ギアがシンに試してみようと思った事。まず、本だ。「魔道の指南」と言う本は所謂「魔導書」だ。専門的な知識といくつか知らない文字や単語が多々あり、この世界の一般の人間が読むには苦労する本だ。もしこれをシンがどのくらいの時間で解読するのかを試していた。


「けどこれ読んでも俺は魔法は使えないから、必要ないが?」


 シンから「不要」という言葉が出る。だが、ギアは想定済みだった。


「うむ、確かに其方は魔法は使えん。しかし、この世界の多々ある種類の魔法を知って損はせんだろう?」


 考え込むように静かに息を漏らすシン。


「ふん・・・」


 数秒ほど経った時にギアから本を手にする。


「分かった、これは読ませてもらうよ・・・」


 納得したシンはさっそく読んでみる。


(これで、どうなるか・・・)


 そう考えながらシンの様子を見ていた。




 そんな中シンは本を開きながらギアの方へチラリと見ていた。


(こいつ、俺のコミュニケーション能力に疑問を持ち始めたな?)


 シンは薄々自分に対して何か変化あるのではというギアの疑問を感じ取っていた。


(よくよく考えてみれば急に訛りが無くなる程のコミュニケーション能力向上は異常だろうしな・・・)


 シンは最初は理由を付けて断るつもりだったが、この世界の魔法とスキルのイロハを知ることができる。そのため断らず、本を読むことにしたのだ。






「ギア、色々と学ばせてもらったよ」


「そうか、この世界の元素なども分かるな?」


「「焔獄」「栄水」「誕生」の元素がある事か?」


「正解だ。では術式の発動する時の条件は何だ?」


「「発動後の結果をイメージをする」だろ?」


「うむ、その通りだ」


 神妙な顔つきでギアを見る。


「ギア、俺を試しているか?」


 ギアの目元がごく僅かにピクリと動く。


「・・・何故そう思う?」


「さっきからこの世界では当たり前の事を俺に聞いているだろ?もしかして、俺が識字率を見て俺の学習能力を見ようとしてるんじゃないのか?」


 シンの見解は当たっていた。何故なら平然を装っているつもりのギアの側頭部から冷汗がタラリと流れ落ちる。


「・・・もしも、もしもだがそうだとすれば其方は何とする?」


 身構えたような物言いでシンに聞く。シンに対して試すような真似をして非礼にもほどがある事をした。当然シンが起こってもおかしくは無かったのだが・・・


「どうもしないさ。むしろ、学習の機会をくれて感謝をしている位だ」


 少なくとも今のシンから怒気や殺気などは感じられない。言葉の通り感謝しているのだろう。そう捉えたギアは少し安堵する。


「そうか・・・」


 もしここでシンに試すようなことが分かればギアは無礼者としてここから追い出される。それはつまりピザがもう食べれなくなる。そんな事にならないように慎重に行っていた・・・・・つもりだった。


 とは言えバレてもシンは起こることはせず、感謝をしていた。その事に安堵する。


 ギアは、シンの存在は何たるかを知り今後のどう接するべきかを探っていた。そして、ギアはシンを試す様な真似をしていた事を謝る。


「シン、すまない事をしてしまったな」


「気にするな」


 シンは気軽な返答をする。


「・・・・・すまないついでにもう一つあってな」


「ん?何だそれは?」


 ギアは意を決したような顔つきでシンを見てとんでもない事を発言した。


「シン、其方ともう一度一戦を交えたい」


「・・・・・・・・・・・・・は?」


 シンはギアが何を言っているのか理解が出来ていなかった。

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