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257.奥間

 行く先々を見て回ると和風ファンタジーにある様な城の作りである事が改めて分かる。階段を上っている今見ている光景でも、大きな回廊や螺旋階段が設けられて、吹き抜けの空間があり、その空間を縫う様にして空中に橋が掛けられていた。しかも城の内部全体が白と金と赤と黒で豪華に彩られて和風の幾何学模様がが描かれていた。

 窓がほとんどない城の中と言うのに雪洞の様な行燈が所々に固定されており、その灯りがユラユラと揺らめくと壁にある絵の色が反射されて暗いはずの城の中がまるで古き日本の夜の街中の様に明るいのだ。


「思ってたよりも明るいな」


 シンがそう思わず呟くと


「ええ、描かれている絵の塗料には光を反射する材料が入っております」


 とナオが説明する形で答えた。


「ああ、なるほど」


 確かによくよく見れば絵が光っている様に見えるが、キラキラと輝くような光ではなく、ランプの様な柔らかい光を放っていた。そんな絵がそれぞれが光っているお陰で光っているという印象がない。

 独特の光のお陰で実は天井の所に蛍光灯があるのではないのではなかろうかと思ってしまう程に自然な光だったのだ。


「・・・・・」


 不思議な城の内部の光景を目にしつつシン達はナオの案内されるがままに足を進めていった。





 かれこれ1時間程城の中を案内されている。

 さっきから城の中はどこもかしこも廊下や回廊と思しき場所、部屋の軽い説明ばかりだった。


「・・・・・」


 アルバとステラはサクラがイライラしている事に気が付いた。

 それもそうかと思ってしまう。

 かれこれ1時間以上城の中をそれも来客に対してどうでもいい事を紹介ばかりされていては退屈な上に一体何がしたいのかと疑問と不満が募ってしまう。

 これは流石にいかがなものかと考え、一言物申そうと考えたその時だった。


「こちらでございます」


 ナオがそう言った先には左右に開く形の大きな引き戸があった。当然その引き戸には幾何学模様の和柄が描かれており、光っていた。


「失礼いたします」


 ナオがそう言った時、誰もいないのに引き戸がススス…と徐に開いた。


「・・・!」


 その部屋は広い奥間だった。

 灯された行燈の光が壁や障子の絵が照らされて、それが更に反射して柔らかい光が浮かび上がり、昼の様な、夜の温かい町の光の様な光が奥間を照らされ出されていた。

 奥の方は豪華に彩られた簾が降りており、その簾の向こうには灯された行燈のお陰で人影が見えて人がいる分かった。

 簾の前にはこれから来る人数分の座布団が敷かれていた。


「よくぞ参ったのぅ」


 簾の奥の方から甘ったるい若い女性の声が聞こえた。簾向こうの女の頭の左右部分には三角形の影があった。

 その声がした奥に対してシンとサクラは思わずナオの方へ向いた。


「・・・・・」


 ナオはニッコリと笑ってこちらに向けてコクリと頷いた。どうやらそのまま進んでいいようだ。


「・・・・・」


 シン達はそっと前に出てそのまま簾の前まで行き、座布団の上に座った。


 スッ…


「苦しゅうない、楽に座ると良い」


 シンは何となく正座で座ろうとした時、そう声を掛けられた。その声に思わず体が止まって思わず簾の方を見てしまった。


「大陸ではこうした座る事は無かろうと思うてな、好きなように座ると良い」


 確かに和風とかに関してそれなりに理解あるシンとサクラ、本場のサトリは兎も角、習慣や風習の事を知らないアルバとステラ、アンリはどう座ればいいのかが分からない。

 彼ら彼女らの事を考慮して気を使ったようだ。


「・・・お言葉に甘えて」


 サクラはそう進んで言うとこうした事に疎いアルバとステラ、アンリに合わせる様にシンとサトリは胡坐をかいて座布団の上に座った。サクラも正座ではなく少し崩して鳶足に近い座り方をした。お陰で座り方を知らないアルバとステラとアンリは男女別の形で座り方をした。

 そんな彼らに対して


「それでよい」


 と簾向こうの女はそう言った。声の感じからして恐らくフッと笑っているのだろう。

 そう考えた時、簾向こうの女は扇子を持っており、そのまま


 バッ…!


 と開いた。


「こちらに居らされる方、この国の長、カミコ様でございます」


 扇の音から2秒程経った時、ナオが簾向こうの女の紹介を始めた。この場に居る、少なくともシンとサクラはああ、やはりかと思った。


「此度そち達を喚んだのは3日後の集いにて、まずは顔合わせをしたたかったのじゃ」


 どうやら今回ここまで喚び寄せたのは3日後のオオキミ武国の会議、所謂国会に当たる重要な会議にてシン達が関わった事を報告する事になっている。だが、急な上にいきなり本場の会議に参加しろと言うのは酷なものがある。

 そこで顔合わせや議題の事についてを先に打ち合わせる必要がある。今回ここに喚ばれたのはこうした理由の様だった。

 だがシンとサクラはこれだけが理由ではないと考えていた。


「顔合わせという事は、今回のギュウキに付いての事を報告すればよろしいので?」


 サクラはそうソロリと言う擬音が付く位の話しかけると


「然様」


 と答える。

 案外アッサリとした答えを聞いた一同は更に何か尋ねようとした時、ナオが口開いた。


「正確にはまず「ギュウキがどこで出没したか」から「どういう方法で討伐に至ったのか」までを説明して頂きとうございます」


「承知しました」


 簡素ながらもそれなりに具体的な説明を求めている事を理解したシンはそう答えた。

 その答えを聞いたナオは更に説明に入った。


「手順ではサクラ様方々には先に部屋に入って頂き、用意された座布団・・・今座られている敷物の所に座って下さい。時間が来ましたら「カミコ様の御臨座(ごりんざ)~」と仕官の者がお呼びしますので、その時に一礼くださいませ」


 その説明にシンは目元が少し細めて気になる事を訊ねた。


「一礼ですか?」


「はい」


 シンの問いにナオが大きいどころか小さなアクションすらもなくすぐに答えた。「はい」と。

 その答えに具体的な事を、と思い更に訊ねた。


「こう・・・深々と首を垂れる必要は?」


「必要ございません」


 同じ答え方だった。

 どういう事だ?具体的な説明、もっと言えば日本と同じなのかどうかについて確証を得たい。

 そう考えたシンは更に質問を重ねようとした。


「え、ですが・・・」


 何か言おうとした時、制止に入ったのはアカツキからの通信だった。


「ボス、それ以上質問するな」


 アカツキの言葉に、ハッと我に返って


「あ、いえ・・・以上です」


 とすぐに質問を切った。アカツキはこれ以上の質問はシンが日本人である事を示唆する恐れがあったから急いで質問を止める様に促したのだ。

 その事を覚ったシンは即座に質問を切った。

 そんなシンに


「然様でございますか」


 とナオがそう答えた。答え方と同じ様な言い方で。

 流石に何か違和感を覚えたシンにカミコが口を開いた。


「ではここからは本当の「顔合わせ」といこうかの?」


 気になる単語を聞いたシンは眉を動かした時、先に口を開くカミコ。


「簾を」


 そう言うと簾が自動的に巻かれていった。


 サラサラサラサラ…


 独特の簾を巻かれていく音と共に簾が上の方へと上がっていく。次第にカミコ様のシルエットから姿が露わになっていく。


「・・・・・」


 艶やかで雅な朱色、煌びやかな線の刺繍、汚れを知らない白に、生まれてきたような緑、流れている事を生業としている青で構成された優雅な着物が見えてきた。

 徐々に巻き上げられていく簾に姿が露わになっていくカミコの全貌が後は顔だけとなった時。


 サラ…


 最後まで巻き切った時シンは思わず


「ぇ・・・?」


 と小さな声を上げてしまった。

 それもそのはず。

 シンの目に映ったのは


(鬼人族じゃないのか・・・?)


 この国を治める王は鬼人族ではなく狐の耳を持った、20代後半の煌びやかで「可愛い」や「美しい」ではなく「綺麗」が似合う恐らく獣人族の女・・・女王陛下だったからだ。

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