256.やはり違う
あらゆる種族の事を考えてなのかあらゆる人工物が大きかった。
だからなのか大型のトラック位なら余裕で通れる位大きな堀に大きな橋を渡り、そのまま大きな門を潜り抜けて大通りに入った。
窓の外から見えるのは楼閣やそれぞれの地区に聳え立っているのか五重塔の様な塔が複数あった。その上、その近くには横に伸びる屋根の長さからして間違いなく広く、高さとして大きな寺と思しき建物があった。それらが白い漆喰の壁によって区分けていた。
まるで一つの大きな町として存在しているかの様だった。
以前アカツキのカメラの映像では確認しなかったが、想像以上に大きい。と言うよりもかなり広い。その広さはまるで平城京の都市並みと同じ広さだった。
当時、アカツキが映していた映像はほんの一部だけしか移しておらず、その上一般人の生活を確認したかっただけだったから、権力ある者達が使用しているとされている施設を確認しなかった。当然、理由としてはシン自身が権力持つ者達に関わりたくなかったからだ。
「・・・・・」
門の所まで辿り着いた時、何気なく窓の外から壕の向こう側まで見てみた。
広い。
白い壁と堀の終わりが見えない位にまで広い。
「・・・・・」
道の広さも、大型のトラック2台分、並びに人が軽く歩いても問題ない。その上、政府機関と思われる敷地内には街で見かけたあの街灯と同じ物が設置されており、人の往来もかなりあった。
ザワザワ…
「・・・・・」
人の往来を見て更に気が付いた事があった。それは人々の職業と着ている衣服だ。往来の中で様々な職業が確認できた。肩に道具箱と思しき物を担いで頭にはハチマキ・・・ではなくタオルキャップを巻いて鳶職の様な格好した男が走っているし、すれ違った女性は文官なのか書物がたくさん入ったとされる風呂敷を片手に持ち、もう片方の手には墨がたくさん付いていた。更に言えば鳶職の格好に鳶口を持ってそれぞれの施設を見回っている者、施設の中から出てきた複数の女性達の手には箒やハタキ、雑巾に水を張った桶を持っていてこの事から彼女らは施設の清掃員という事が窺える。
こうした事から一見すればただの一般人の様に見える。
だが、衣服を見れば違う事がよく分かる。まず布の生地の質が違う事が一つ。街中の一般人の服の状態からして大陸と比べれば相当な上質な生地である事が窺えた。だが城の中の者達の服はそれよりも更に高級品ではないかと思えるくらいに艶のある布地だったのだ。
そしてもう一つ。それは行き交う者達の動きだ。キビキビとしていてその上速く動いている。言い方が悪いがゆったりとしていたオオミヤコの住人と違ってどことなくせわしない様に見える。
この事から分かる事は恐らくただの住人では無い事が理解できる。
一つの街中の住人の様に見えるが、恐らく政に関わる者達で構成されてこの敷地内で住んでいるのだろう。
そう考えているとサトリが
「変わらず、せわしないねぇ・・・」
と少し呆れ気味にそう答える。
そんな様子のサトリにシンの視線がそちらへ向けた。
「・・・・・」
サトリの様子が明らかに嫌々そうな雰囲気だった。
「・・・・・」
シンはサトリの様子を見てこれから向かう所と何か関係があるのかと感じていた。そんなシン達は注射できる所までそのまま馬車を走らせた。
「広・・・」
思わずそう呟いてしまう程に広かったのだ。
今いる場所は城の手前の門だ。シンは馬車の中からしか城の様子を把握できなかったが、馬車から降りて改めて周りの様子を見た。因みに両手の拘束は解かれていた。流石に拘束されたままではオオキミ側から何か言われるのだろう。だから数本の糸でシンの行動を監視していた。
シンの目がある物を見て思わず大きく見開いてしまった。
「姫路・・・?いや、熊本・・・安土・・・?」
そう困惑するシンの目に映っていたのはオオキミ武国の王城、「コウジョウ」だった。この町、いやこの城の中で最も高い建物、間違いなくこれがオオキミ武国の王城だろう。
その城は姫路城を連想させる様な白さに熊本城を連想させる様な城の施設の配置、主体となる天守閣は安土城を連想させる様な独特の造りの大きな城が聳え立っていた。
当然この国の政を行う為の場所であり、国賓や有事の際には重要な戦力的拠点としても活用される場所だ。
こうした独特の作りの日本の城の建築物を見てすぐに思ったのが
「似てないな・・・」
これに尽きた。
実際見て日本の城の様に見えて日本の城では無い事からして和風ファンタジーに登場する様な城の造りだったからだ。
この城を見て和風の城と判断しても日本の城としては見る事が出来なかった。
(遠目からでも思ったが、やはり日本の城よりも遥かに面積が広くて高い城だ・・・)
五重塔に似た建築物の事を考えればこの城はそれらよりも遥かに大きい。最も高く天守閣とされる城の高さが80mだ。この時点で日本の城より・・・どころか遥かに大きい。その上、広さも恐らく平城京とほとんど同じ大きさかそれ以上の大きさだろう。
その事を考えればこの国の技術力と歴史、そして権力の強さが窺い知れる。
「・・・来ちゃったなぁ」
そう風に浚われる様な小さな声で呟いたのはサトリだった。
「・・・!」
気が付いたシンは思わずサトリの方へ向いた。
「・・・・・」
サトリの顔付きはどことなく懐かしくも何か苦々しいものを感じさせるものだった。その顔を見たシンは
「どうした?」
と思わず訊ねてしまった。
その声に反応したサトリはすぐに横に首振って
「何でもないよ」
と答えた。そんなサトリにシンはそれ以上声を掛ける事も無く、城の玄関口まで進んだ。
「どう見ても似てない・・・と言うか違うよな・・・」
2時間以上かけて遂に辿り着いた城の内部も日本人が知っている様な城の内部では無かった。というかかなり日本の家屋建築物が混じり過ぎていて、城とは思えないような造りだった。
有名な大きい寺の正面口を連想させる様な玄関口だった。
履物を脱ぎそのまま上がると、脱いだ履物はすぐに城で仕えている者達が手入れをする為か、そっと触れて持っていた布巾で拭い始めた。
そんな様子を見ていたシン達に
「失礼致します」
と声を掛けてきた者がいた。シン達は声を掛けてきた者の方へ向くとそこに居たのは白を基調とした羽織に袴を着た鬼人族の女性が佇んでいた。
「皆様方をカミコ様様の元までご案内たします、「イイ ナオ」・・・「ナオ イイ」と申します。どうぞお見知りおきを・・・」
やんわりとした柔らかい言葉遣いの上に、清楚で武を知らない文官と言う印象が強い礼儀正しく物腰の柔らかい「和」のイメージが強い黒髪の長髪で三つ編みで後ろの方へと束ねた妙齢の美人だった。
「・・・・・」
シンはナオを見た瞬間、身体が固まってしまった。その様子にサクラは一瞬ムスッとした顔になる。
「どうかされましたか?」
シンの様子に気が付いたナオはそっとシンの目の前まで近づき覗き込む様に訊ねた。そのナオにシンは思わず首を横に振った。
「ああ、いや・・・あ~・・・イイさん」
シンがしどろもどろの上にたどたどしい名前呼びにナオは思わず
「ふふっ。私の事は「ナオ」と読んで下さいませ」
と改めてこう呼べば言い易い事を伝えた。
「ナオさんは・・・」
シンは改めて言い直して気になった事を訊ねようとした。
「はい」
覗き込む様に見るナオにシンは小さく横に首を振って
「・・・いや、何でもありません」
と答えた。
そんな様子のシンに気になる様子もなく慣れた様に
「何かありましたら、申して下さい」
と柔らかい笑顔でそう返した。
「・・・はい」
シンが返事をするとナオはそっと案内を始めた。
「・・・・・」
そんなナオの後ろ姿をシンがをジッと見ている様子にサクラはムスッとした顔で
「行くぞ」
と強めの口調でシンを進む様に急かした。
「・・・ああ」
シンはやっと足を動かしてそのまま城の奥へと向かって行った。
次は20日以降になるかと思います。
お楽しみ!