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253.移った理由

 

 ザザァ~


 ザザァ~


 そんな波打つ音が主に鳴って


 ザパァッ


 偶に岩に撃つつける様な音が聞こえてくる浜辺にはシンとサクラが突っ立っていた。視線の先にはその場を静かに去っていくギュウキの残滓を見るかのように何も無い静かな海を見ていた。


「よく分かったな?どうすればギュウキがロウの方へ向くのか・・・」


 シンはサクラの方へ向いてそう尋ねる。


「ああ、あれに岩を投げられた事を思い出して」


 ギュウキの目にはシンとサクラがロウと敵対しているパフォーマンス見せる必要があった。

 だがあの状況でとてもでは無いがその方法を発見する事が出来なかった。

 だからシンは殺気を飛ばして牽制を図って時間を稼ぐ事位しかできなかった。そんな中サクラだけがギュウキが投げる事を思い出して、その事をシンに伝えた。

 あんなにも恐ろしい殺気を放っていたというのに。

 サクラは強く踏み出してシンに声を掛けたのだ。


「だが何故あの時、ギュウキが投げた事を俺に?」


「ああ・・・」


 実はあの時シンの殺気に当てられて殺されるというものを感じて走馬灯にに近いものを視て、ギュウキが何のつもりで岩を投げてきたのかを思い出した。

 まさかこれが決め手になるとは思わなかったが、結果としては最善に近いものだった。


「何でだろうな」


「?」


 ここで事実を言って妙な空気になっても嫌になるものがある。ここは変に言わず、軽く誤魔化したサクラ。そんなサクラにシンは小首を傾げた。

 だがシンの目にはサクラの少し乾いた笑顔が瞳に一瞬映った。


「・・・・・」


 一瞬気にはなったものの、あの膠着した時の事を考えればサクラは自分に対して何か思いたくない物を思ってしまった、若しくは感じたくない者を感じてしまったのだろう。

 そう考えたシンは小さな溜息をついて


「この近くにはギュウキはいない、だよな・・・」


 シンの呟きにサクラは一度張った糸のレーダーをもう一度張って確認した。


「もういない」


 そう答えるサクラは自信に満ちた顔だった。


「そうか・・・」


 シンは静かに呟くようにそう答える。


「・・・・・」


 アルバは浮かない顔をしていた。その様子に気が付いたサクラは


「アルバはどうしてギュウキがあの老人に目標として映ったのかが分からない様だな?」


 と聞いてみた。

 アルバは少し頭を下げて


「ええ。先程から熟考しておりましたが、全くもって答えに至りませんでした」


 と分からなかった事を口にした。

 シンは今までのアルバの対応の事を思い出す。

 アルバは魔法で地面から壁を出現したり、タイミングを見計らって突起を出現したりとサクラの指示に従っていたとは言え、見えない状況の中ここまでできる。

 この事からだいぶ戦闘慣れした人物である事が窺える。

 だからなのか、今回のギュウキが自分達にも敵意が向いていたというのにロウだけにしたのは、今後の戦闘に舞いこまれた時の事を考えてなのか、それとも純粋に戦闘に積極的に参加してしていた者の(さが)なのか。

 ただ一つ分かっているのはアルバが今回の事で気になっているのは間違いなかった。

 その様子にサクラは気さくな口調で


「知りたいか?」


 と訊ねた。

 するとアルバは更に深く頭を下げて


「お手を煩わせます」


 と申し出る様に「お願いします」と言った。

 その言葉にサクラは一息ついてから話し始めた。


「ギュウキが手を持っていて物を投げる事が出来るのは知っているな?」


 サクラの問いに頭を上げて元の姿勢に戻したアルバは


「存じております」


 とすんなりと答える。

 その答えにサクラは小さく頷いて


「ではアルバに問う。他人が相手に石等の物を投げる時と言うのはどんな時だ?」


 その問いを聞いた時アルバは3秒程間を置いてから


「敵対、でございますか?」


 と答える。


「そう」


 サクラは大きく頷いた時、アルバは頭の中に何かが閃いた。


「という事は、あの時石を投げたのはお嬢様達とあのご老人との関係をはっきりさせる為でございますか?」


 アルバの答えはほぼ正解だった。

 だからサクラは


「その通りだ」


 と大きく頷いた。

 アルバは「ああ、なるほど!」と言った心境になった。

 あれだけロウを含めて自分達に敵意が向いていたというのにロウの方だけになったのか。

 それは自分達とロウとの関係を確実に知らしめる行動をとったからだ。

 サクラがシンにギュウキが岩を投げる事を告げた時、シンはすぐに閃いたのだ。





「思い出した事がある。あの時、ギュウキは岩を投げてきたんだ。」


 サクラはロウに覚られない様に言葉最後にコソコソ話の様に続けた。するとシンはサクラの話を聞いて


(は?)


 と思った。だが一瞬と言って良い程のほんの僅かな時間で


「!」


 すぐに何か活路が開けた様な閃きを覚えた。


「どうだ?」


 と恐る恐る訊ねた。

 そして自分は何を言っているのかとすぐに分かった。

 あの時の恐怖で自分はどうかししてしまったのか?と思う位に自分を恥じるサクラはすぐに頭の靄を振り払う為に心の中で大きく首を横に振った。

 そしてシンは考える為に2秒程、間を置いてから頷いた。


「・・・どうせ策はない。やってみるか」


 意を決したかの様な口調にサクラは静かに頷いて


「ああ」


 と答えた。


 サクラは心に安堵が生まれた事により、自身を窺わせる余裕のある表情になる。

 シンはロウを生かす方向で動くの事になったから、牽制していた殺気を少しだけ抑えた。

 そしてシンは


「サクラ、あの年寄りに石を投げてくれ」


「わ、分かった」


 どういう事かと、訊ねたかったが今は切羽詰まっているに等しい状況だ。

 ここはシンの言う通りにしようと考え、すぐに糸で投石器を作って糸でその辺に散らばっている石を手繰り寄せる用意をした。


 あの2秒の間、シンが出した結論は「ロウに石を投げつける」と言うものだ。

 石を投げる行動、それは戦闘行動。更に言えば敵対行動になる。

 ロウに石を投げつける行為を行えば言葉を理解するしないを他所にしても見るだけで敵対行動をとっている様に見えるのは間違いない。

 ここで接近戦をとってもギュウキに隙を与える行為にもなるし混戦する可能性も十分にある。こうなればロウが危険と判断して逃げられればシンとサクラ、アルバがその場に残ってギュウキとの戦闘になり、ロウの思うつぼになり兼ねない。

 更に言えば接近戦自体が、もしかすればじゃれ合っているようにも見える可能性もある。

 こうした可能性があるから変に接近戦を持ち込まず、距離を取って投石するのがベストと判断したのだ。

 こうした2人のその様子にロウは僅かに戸惑いを見せ始める。


「な、何だ?何をするんだネ?」


 シンの殺気に当てられて狼狽え気味に強がりに訊ねるロウ。

 今のロウは何かにビクビクと怯える、ただのか弱い老人にしか見えなかった。


「今!」


 ドッ


 シンの掛け声に地面にある粉々になった石が吸い込まれるかのようにサクラの右手で受け取った。当然これはサクラの糸の魔法によるものだ。

 同時にシンの右側にあった石が大きな音を立てて急に消えた。まるで更に粉々に爆発したかのように見えた。だがその石の行方はすぐに分かった。何故ならシンの右手にもう持っていたからだ。


「!?」


 一体何が起きたのかが分からず一拍遅れて構えるロウ。

 シンとサクラの右手にはそれぞれ石を持っている。ロウはその事は何も知らない。ロウが彼らが石を持っていた事を知ったのは次の瞬間だった。


 ヒュンッ!


 チリッ…


 ロウの左頬に何かが掠めた。掠った所には小さな切り傷の様な物が出来ていた。


 ドッ


 足元には何かが硬い物が地面に当たった音が聞こえた。


「・・・?」


 それは石だった。2人の右手に持っていたあの石だった。

 つまり2人はロウに向けて石を投げたのだ。


(何だ?アタシとの接近戦は敵わないと踏んで石を投げたのか?)


 ロウがそう考えていた。

 そしてこの時点でもシン達の思惑に気が付かずにそのままギュウキ達に


 こいつは我々の敵


 と印象付ける事に成功した。

 これにより、終始ロウに石を投げつける事によりその場にいたギュウキの群れ全てがロウ、ロウと同じ格好した者達が敵であり、シンとサクラは無関係である事を理解した。

 そして怒りを終始持ったままのロウはこの事に気が付かないまま、結末を迎えた。





 そして静かに戻った海。

 浜辺ではシンとサクラがアルバに一頻り説明し終わった後、もう一度海の方へ眺めてサクラが気になる事を口にした。


「シン、あの老人の事どう思う?」


 その言葉を聞いたシンは


「・・・子供、かな?」


 と一拍の間を置いてからそう答えた。


「そう思われますか・・・」


 この口振りからしてアルバもそう思ったようだ。

 そんなアルバの答えにサクラは


「何者だったんだ?」


 とこの場に居る者では誰も答える事が出来ない質問をする。


「分かりません。ただ・・・」


 アルバは質問されたから答えるかのように答え始める。そんなアルバにサクラは耳を傾けて


「ただ?」


 と訊ねる。

 アルバは一呼吸整えてからの様に


「老人になりたかったのかもしれませんね」


 と答えた。

 この答えを聞いたサクラは


「老人に?」


 とオウム返しに訊ねた。


「ええ」


 頷くアルバ。


「理解が出来んな」


 呆れた溜息つきつつ、そう答えるサクラ。

 実際100人中100人がそう答えてもおかしくない、理解できない答え。

 そんな正論を言ったサクラにフッと笑って


「そうおっしゃられると思いました」


 答えるアルバはどことなく理解できない様な答えの意味を知っているかの様に言った。

 そんなアルバに


「どうしてそう思ったんだ?」


 とシンは訊ねた。


「ただ何となくでございますが、あの老人になったのは恐らく・・・」


 海の方へ見つつどことなく遠い目をして


「憧れだったのでしょう」


 と答えた。

 そんなアルバにシンとサクラは理解が出来ない部分が多かった。

 だが、一つだけ理解出来た所がある。

 それは、あの老人には何か特別な存在でそれになりたかったという事だ。

 シンは今の身体にあこがれて手に入れた。

 サクラも理想でなりたい者になろうとしている。

 それ故か2人は


「「憧れ、か・・・」」


 と同じタイミングで呟いた。

 こうした事に2人は無言で見合わせた。


「「・・・・・」」


 フッ


 先に笑ってしまったのはサクラだった。

 シンは釣られる事も無くサクラの方へ見て小さな溜息をついた。

 3人はこうした空気が暫くあると感じ取ってその場を後にした。

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