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252.後始末

ドーン…


ドーン…


何か大きな物音と思しき小さな音が海原向こうで聞こえてくる。

その物音の正体はロウ率いる軍船団とギュウキとの衝突だった。

ギュウキの戦い方は様々だった。

例えばあるギュウキは軍船に取り付いてそのまま船も諸共潰そうと動く。

またあるギュウキは軍船に寄りかかって


グァッ


巨大な黒い手が大きく広げて弟子を掴みに掛かって


「うわああああああああああああああ!」


弟子の悲鳴と共にそのまま


グシャッ!


握り潰された。


「チェエエエエエエエエエエ!」


けたたましい声を上げて持っている青龍刀の様な剣でギュウキの触手をそのまま切ろうとする弟子。

迫りくる弟子にギュウキは気が付いていないのか明後日の方向へ目を向けていた。

だが


パンッ!


別の触手で弟子の頭を吹っ飛ばした。

別の軍船ではギュウキが乗り込む様に甲板に乗り掛かって


ズォッ…


大きく手を振り上げて


「いやっ、いやああああああああああああああああああああああああっ!」


泣き叫ぶ女弟子はギュウキの手によって


グシャァッ!


潰された。

ある弟子ではギュウキの触手によって捕まってしまい


「やめろ!やめろおおおおおおおおおおっ!」


叫ぶ弟子を腕と腕の股に入れて


グァッ


股の下にはイカやタコの様に大きな口が開いて、そのままポイッと放り込む様に食い殺した。

ギュウキの戦い方は船諸共潰すか、乗組員全員のみを狙って襲い掛かるか、そのまま揺らして振り落としていた。

こうした色々な方法で戦う、いやここまでくれば一方的な蹂躙劇を繰り広げていた、のだが一つ分かっているのはギュウキがまるで遊んでいるかの様に襲っているのだ。

まるでどちらが地の利があって立場が上なのかを示すかの様に。


「・・・・・」


・・・・・


そんな惨劇の真っ只中、ロウはあるギュウキと視線が合って一触即発のような状態になっていた。


「・・・やるか?タコ風情が・・・」


ロウがそう挑発の言葉を投げかけつつ右腕のないなりに戦えるように構えを取った。


ブォォォォォォォォォォォ…


ギュウキはロウの言葉を理解して受け取ったのか、唸り声を上げた。


「このタコ野郎・・・覚悟しろよ・・・?」


ロウがそう言って今に跳びかかりそうな雰囲気にギュウキは視線を切った。


グォォォォォォン…


「っ!?」


視線を切ったギュウキの視線の先には他の軍船に移っていた。そんな様子のギュウキにロウはこう解釈をした。


お前みたいなケガ人弱者には興味がない。そのままおぼれ死んでしまえ。



そう受け取ったロウの顔が一瞬にして血の様に赤くなり、額に浮かんでいる血管がピクピクと動いている事が分かる位に血流が濁流並みに速くなった。


「ぎっ・・・ざぁま”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


フッ…


バリっ!


今までにない激昂を示したロウはその場から一瞬にして姿が消えてしまった、と錯覚する位に素早く力強い跳躍力で一気にギュウキとの距離を詰めた。

そのお陰で甲板の床には足の形をした割れ方が残っていた。


「この・・・」


怒りをエネルギーに変えて自分の右の踵に集中させてそのままギュウキの脳天にかち割るつもりで全身を回転させて一気に叩き込もうとした。


トンッ…


何か軽く叩かれた様な音が聞こえた。

同時に


グルン!


「!?」


回転を付けていた方向戸とは違う方向にクルクルと全身が回るロウは一体何が起きたのかが分からずにいた。


バキャッ!


ロウは違う軍船の方へ飛ばされて甲板を突き破ってそのまま落下していた。

実はロウがギュウキに踵落としをし変えようとした時、ギュウキの目にも留まらぬ速さで触手でロウの足を軽く払ったのだ。

そのせいであらぬ方向へ回転が付いて違う軍船へと落下したのだ。


「くっ・・・!」


船内では整えられていた武器や兵器、何かしたの書類が散乱しており、どこからか穴が開いていて浸水していた。そのせいでその軍船自体が傾いていた。

叩きつけられる形で落下したロウは痛みと悔しさ、怒りが込み上がって思わず声が漏れる。


「タコ・・・がっ!」


怒りで身体を起こして見上げるとギュウキが軍船の甲板に乗り上がって来てロウが落ちて突き破ってきた穴からこちらの様子を見ていた。


「・・・!」


ロウの事を唯々虫を観察しているかの様な目だった事にロウは更に怒りを込み上がらせていた。ロウが何かしようと行動に移そうとした時


グンッ…!


ドプンッ!


ロウの体が浸水して傾いている方向へと急な引力によって引っ張られていき、そのまま浸水している海水に沈んでいった。


「・・・!」


バキバキバキッ!


引力の正体はギュウキの触手だった。その触手がロウの左足に絡み付かせて、そのまま一気に引っ張り込んだのだ。しかも一気に引っ張ったせいで船体の壁にロウの体が打ち付けられたり、折れたり折れた個所の鋭利な部分で切ったりと、ダメージを受けていた。


ザパァッ!


ロウが浮上・・・と言うよりも触手によって左足で吊られる形で宙に浮かせられていた時は落下した軍船から外に出ていて、今のロウの様子を確認する為に上げた様だった。


・・・・・


ジロッと見ているギュウキにロウはズタズタになっている身体に反して異常なまでに怒りを持っていた。

そんな様子のロウを見たギュウキは大きく上に放り上げた。


ブンッ!


高く放り上げたロウはギリッと歯噛みしてここで一気に片を付けようと考えて今完全に動かせれるのは左腕に一気に力を込めてそのまま殴ろうと亀始めた時の事だった。


グァッ


「!」


ロウがギュウキをそのまま叩き込もうとある程度の間合いが落下の影響で詰めた時、ロウの右からギュウキの巨大な手が瞬時に現れて


ガッ!


掴まれてしまった。


ギリィッ!


「っっっ!!!」


強く握られているが死ぬ程ではない。折れるか折れないか位の強さで握られているからとは言え体から悲鳴を上げていた。


「きっさまぁぁぁぁ!」


今までの惨状の事を考えれば人間等、握り潰す事位造作もない事。そうであるはずなのに決してそのまま殺そうとはしなかった。

つまりいつでもお前を殺す事が出来るんだぞと言わんばかりの行動をとっている。

そんなギュウキにロウは更に怒りが込み上がって来て全身に力が入る。

ロウは全身に力を入れていく時、脳裏に情景がフラッシュバックの様に思い出してきた。


「何の為に・・・」





路地裏で力無く座り込む少年。

体はガリガリに痩せ細っており、痣が出来ていた。





「何の為に・・・!」





自分の前に大きな人影が浮かんで優しくて強い大きな手が差し伸べられる。

後光の様に差すその人影から


「来るかネ?」


と独特の言葉遣いで、少し癖のある人間味のある厳しくも優しさを感じられる老人の声が聞こえていた。

少年はそっと手に取った。





「俺は・・・!」





冷たい石畳の上に俯せに倒れている少年の体は傷だらけだが健康体だった。どうやら疲れて倒れた様だった。

そんな様子の少年にカラカラと陽気に笑いかけてくる老人は


「・・・ここまでだネ。な~に、急ぐ必要もないヨ」


と明らかに普段から周囲を巻き込む程のマイペースさを感じさせる口調だった。

そんな老人に少年は


「ですが、師父!」


と強く詰めかける様に体を起こして老人の言葉を止めた。

そんな少年の様子に何かを感じ取った師父と呼ばれる老人は先程迄ののほほんとしたマイペース差を窺わせる口調から一転して激情家が爆発寸前の様な口調で


「ここまでと言ったらここまでネ!・・・疲れを残すでない」


と少年がやろうとしている事を強く言葉で制止した。

そんな師父に食って掛かり気味に


「ですが・・・!」


と師父の言葉の撤回を求める。

そんな必死で焦っている様に見えた少年に師父はそっと穏やかな口調になって


「・・・お前は何の為に強さを得ようとしている?」


と訊ねた。


「・・・・・っ!」


思わず口を噤んでしまった少年は少し俯いた。

その様子に師父は小さく溜息をついた。


「まさかとは思うが強くなる理由は散々虐げられてきた連中を見返す、いや仕返しをする為か?」


「・・・・・」


その無言は肯定だった。そう察した師父は穏やかで諭す様に


「やめておけ」


と少年にとって酷く重く聞きたくなかった言葉が頭に響き、心を抉った。

少年は


「何故です!?」


と大きな声で更に訊ねた。

師父はフイッと踵を返して少年に背中を見せた。


()()()()()()()教えたわけでは無い」


聞き捨てならない台詞が少年の耳の中で大きく響いた。

だから思わず


「そっ・・・!」


聞き返そうとするも、言葉を詰まらせてしまう少年。

だが、それは仕方がなかった。

師父の体から殺気に似た怒気をを感じさせるものを溢れ出していた。


「とにかく体を癒せ。ここまでだ!」


小さくもそれでいて長い溜息をついてからそう言い切った師父はその場を後にした。

残された少年は強く歯噛みして顔が鉄が熱くなるあの赤さになるまで真っ赤になった。


「・・・っ!」





場所はどこかの路地裏。

そこに居たのは少年とそんじゃそこらにいる様な商人の服装に暗めの色したフードを被った者と邂逅していた。


「本当にこれで強くなれるのか?」


そう尋ねる少年の手には無色透明の液体が入ったガラスの小瓶だった。

少年の問いにフードを被った商人は頷いた。


「ええ。ですが副作用があります」


その言葉を聞いた少年は眉を細めた。


「副作用?」


オウム返しに商人はコクリと頷き説明を始めた。


「全身に痛みが走る、どちらか片目が見えなくなる、歯が抜ける等々様々で個人差がございます」


その説明を聞いた少年はゴクリと生唾を飲み込み冷汗を額から一滴タラリと流れた。

どうやらそのガラスの瓶は薬瓶だった。

それもかなりの劇薬で。


「だが、代わりに強さを得る事が出来る・・・」


そう言いながら持っている薬瓶を見る少年。

対して商人は


「はい」


と不気味な笑みを浮かべながらそう答えた。


「・・・・・」


そんな商人に対して少年は冷汗を掻きながらジッとその薬瓶を見ていた。

その様子に商人は


「やはり、気が引け・・・」


とやっぱり駄目か、と言わんばかりの諦め気味にそう尋ねようとした時


グイッ!


少年は薬瓶の蓋を思い切って開けてそのままグイ飲みをした。その様子に商人は


「・・・・・」


思わず驚いた。同時にいったいこれからどうなるのだろうかという、ワクワクした好奇心も持ち合わせてその様子を眺めていた。


「グッ・・・!」


パリ―ン…


メキメキメキメキ…!


薬瓶が地面に落下して割れた。

同時に少年の体が増々膨れ上がる様な形で肥大していき、少年の顔が瑞々しさが失っていき、更には頭髪が一気に輝く白色に染まっていった。

その様子を見た商人は


「ほう・・・副作用は急速な老化ですか・・・。お体の方は?」


と感心そうにそう答えたつつ、少年だった存在に具合の方を訊ねた。


「良い・・・良いぞこれ・・・!」


少年だった老人は思わず獰猛な笑みを浮かべた。

その答えを耳にした商人は


「それは何よりです。では約束通り・・・」


口角を耳まで裂けるのではないかと言う位にまで上げて、顔が不気味な笑顔として歪ませる。そして、予め交わした約束を催促をさり気無くする。


「ああ、師父・・・あの役立たずを・・・!」


老人になった少年は獰猛でどことなく憎悪を感じさせる笑みを浮かべてその場を後にした。





ボウボウ、と燃える家屋に中庭と思しきその場所は赤い光が辺りとをユラユラと揺らしながら照らしていた。

地面には嘗て師父と呼ばれていた老人が横たわっていた。

それも赤い水溜りの上から覆い被さる形で。


「・・・・・」


ハァハァと肩で息をするロウは全身に血が付着していた。


「ロウさん?」


そんな様子の老人になった少年、ロウにそう声を掛ける商人。

ロウは体を動かす事無く


「・・・何だ?」


と一瞥すらせずに答えた。

ロウの体からは異常なまでに、それこそ素人ですらも変に動けば殺されるであろうと言わんばかりの殺気を放っていた。

そんなロウに商人は臆せず


「もう一つのお約束の方を・・・」


と声を掛けた。

すると


「ああ、うむ。そうだった()。あの国の侵攻作戦に参加だった()・・・」


と独特の言葉遣いになるロウ。

その様子に商人は


「・・・はい」


と静かに答えた。




「あれ・・・?俺・・・何で師父の口調を・・・?」


疑問に感じたロウは嘗ての師父の言葉を思い出した。

それは差し伸べられた手を取って一緒に出来た帰る家に向かう時に言われた言葉だった。





「お前には強さと言うものをゆっくり教えるから、気長にネ」





温かく、単純であるも決して浅い意味でそんな事を言ったわけでは無い言葉だった。

その言葉を聞いて不意にその師父の顔を見上げた時


「ああ、そうか。俺・・・俺は・・・」


光のせいで一瞬だけしか見えなかったが


「ずっと前から・・・」


師父の強くて優しい温かいあの顔を見て


「師父になり・・・」


ゴキャッ…!


ギュウキの指がロウの頭を押し込んであらぬ方向へ首を折った。


・・・・・


ピクリとも動かなくなったロウを握っていた手と目でその様子を確認したギュウキは無情にも、そのまま仲間のギュウキに手渡す様に投げ捨てた。

同時に仲間のギュウキは手で受け取り、口の中へと放り込まれていった。

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