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242.悪魔の警鐘

 七人の祭司達は、雄羊の角のラッパ七本を携えて、主の箱に先立ち、絶えず、ラッパを吹き鳴らして進み、武装した者はこれに先立って行き、殿は主の箱に従った。ラッパは絶え間なく鳴り響いた。


 ~中略~


 祭司達はラッパを吹き鳴らした。民はラッパの音を聞くと同時に、皆大声を上げて呼ばわったので、石垣は崩れ落ちた。そこで民は皆、すぐに上って町に入り、町を攻め取った。


 ヨシュア記 第6章 13~20節より抜粋





 ザザ~…


 港でそれなりに大きな桟橋に表れたのはマエナガとアンリだった。マエナガがズイッと前に出てアンリは冷静に海の方を向いてジッと見ていた。


「アンリよ、この桟橋でいいのか?」


 マエナガがそう尋ねるとアンリはコクリと頷いた。


「うん。後は私が合図するからジャンジャンビを放って」


 アンリは普段には無い様な鋭い目付きになってそう指示を出した。


「承知した」


 マエナガは投槍を投げる構えに入った。右手には異様なまでに力を入れており、逆に重心はしっかり保ちつつ遠くに飛ばせれる様に敢えて両足に力を入れずに足を置いた。


「・・・・・」


 しっかりと狙いを定めた猛獣の様な目になって構えているマエナガの後ろにいるアンリは普段見せない冷静な目から何かを待つような鋭い目でジッと海を見ていた。


「・・・・・」


 アンリはジッと海の方を見ていると濃い群青の海原に薄い影が点々と見えた。アンリがそれを見つけた瞬間、その影が徐々に薄くなっていくにつれていくのに対して海上にポツポツと小さな黒い点の様な物が複数現れた。この事から船が出現した事が分かる。

 それを見たアンリは


「今だ!」


 と合図した。

 その合図にマエナガは目をカッと大きく見開いて


「ジャンジャンビ」


 詠唱を始めた。すると右手の平の上に小さな炎がポッと現れた。

 するとその炎は物の2秒も掛からずに槍の形に変わった。形になった瞬間


 ジャーンジャーンジャーン…


 火の槍から銅鑼の音が鳴り始めた。


「・・・っ!」


 マエナガはその槍を思い切り投げた。

 その槍はオリンピックの槍投げの様に美しいフォームで投げて為かより遠くに飛んで行った。


 ボァッ!


 ジャーンジャーンジャーン…!


 一番高く飛ばした時、火の槍は激しく燃えて加速し、より遠くへと飛んで行った。銅鑼の音も大きくなりまるで戦鐘の様だった。

 幾里か離れるとマエナガが飛ばした火の槍は遠くになるにつれて小さくなると同時にから出る銅鑼の音は徐々に小さくなっていった。




 正面真ん中の船のすぐ左に軍船に乗船している弟子が空を見上げた時、何かに気が付いた。


「ん?」


「この音・・・」


「あれは、何だ?」


 初めて聞く者にとっては一体何なのか分からずただ身構えて戦闘態勢に入る。だが、これが地面に突き刺さった瞬間、武器を投げ出してでも逃げれば良かったと後悔と味わった事の無い恐怖に支配される事になる。


 ジャーンジャーンジャーン…!


 第二次世界大戦前期にて。

 ドイツ軍ではある爆撃機を製造した。

 その名も「Ju-87 B型・D型」だ。

 その爆撃機は一部の機体にはサイレン発生用のプロペラが装備されており、急降下爆撃時の風切り音にて迫るにつれて絶叫のように高まる音が戦場を響かせた。

 その音が齎す威嚇効果はすさまじく、標的として狙われた敵国の兵士はパニックを起こした。

 故に「地獄のサイレン」もしくは 「悪魔のサイレン」とも呼ばれていた。また聖書にて吹けば国が崩壊するラッパ、通称「ジェリコのラッパ」とも呼ばれ恐れられた。

 彼が放つジャンジャンビと言う魔法、この「ジェリコのラッパ」と同じ効果があった。この魔法が発動するとまず詠唱し、利き手に炎の槍が出来る。


「結界を張る・・・!」


 弟子の一人が不穏な予感がしてすぐに魔法で結界を張ろうと動いた。

 だがその行動は遅かった。


 パシャッ…!


 海面に刺さった瞬間


 カッ…!


 眩いオレンジの閃光が発せられ


 ゴアァァ…!


 次に赤い光景が敵兵の目に映り


 ゴアァァァァァ!


 辺り一帯を焔の波が支配する。


「「「ギャアアアア!」」」


 軍船は炎に包まれて、炎に巻き込まれた者達はガソリンを頭の上からぶっかけられたかの様に激しく燃え上がり、全身を焼かれる激痛の悲鳴を上げながら海に落ちていった。





「ボス、9時の方角を見てくれ!」


 アカツキの声で思わず、海側の窓から海原の方へ覗いた。


「っ!?」


 シンは自分の目を疑った。

 海原の彼方で遠くながら激しい炎が踊って、小さな音でォォォォォ…と言う音が聞こえていた。苛烈な炎が踊っている事を確認したシンに釣られてサクラもシンが覗いている窓に張り付く様に覗いてきた。


「海が燃えている・・・?」


 率直な感想を述べるサクラは今燃えている物は船団であろうとすぐに判断した。


「恐らく、あの場所で燃えているのは船団かもしれないな」


「船団?」


 シンがそう疑問の口にすると代わりに答えたのはアカツキだった。


「ボス、嬢ちゃんの言う通りだ。国籍不明の船団、恐らく連中だと思われる船団が港でギルド長が火の槍の様な物を飛ばしたのが原因と思われる」


(ギルド長が・・・!?)


 意外な人物にシンは驚きの心境になったが、決して顔には出さなかった。


「船団が燃えているのはギュウキの仕業なのか?」


「・・・分からない」


 シンは先に船団の方が燃えたとは言わなかった。

 何故なら今見た光景は飽く迄も燃えてしまった時の事。一部始終見たとなれば窓の外を見ていないシンはどうやってこの事を知ったのか、という事になる。「多分違う」とか「恐らく違う」と言う言葉も変に目をつけられているシンが口にしていい言葉ではない。

 だから下手に何か言わない方が良いと考えたのだ。


「・・・この国の船で無い事を祈ります」


 アルバがそう言うと2人もその言葉を耳にしていた。


「せめて誰か一人でも助かっておればいいのだが・・・」


 サクラが小さく頷きながらアルバの願望に賛同した。シンもこれから起きる事に誰も死なない事を静かに願って頷く形で答えた。

 そう答えた時、シン達が覗いている窓の光景に町が目に入った。それを見たサクラは


「アルバ、ワタシが合図した時に馬車を停めてくれ」


「畏まりました」


 疑問を持っていないのか躊躇いのない返事にシンは尋ねる。


「どうするつもりだ?」


「すぐに分かる」


 意味が分からない即答にシンは小さく首を傾げた。


「何?それってどういう事・・・」


 シンがそう尋ねようとした時、町までの道が大きな弓なりのカーブに差し掛かった時だった。


「アルバ!」


 グッ


 ッヒヒーン!


 サクラがそう言った瞬間、アルバは手綱をすぐさま引いて、馬達の動きを止めて馬車その物の移動を完全に止めた。

 急に止めたせいで馬達は驚いていた。


「・・・!」


 サクラは木々の間から見えるギュウキに向かって窓から少しだけ右手を出して全指を手の平のど真ん中に向けてギュッと握る様に折った。




 同じタイミングで町の方へ進撃するように泳ぐギュウキの動きが急に止まった。


 ォ~~~…


 海の中でくぐもった音が聞こえた。

 そして、そのまま大きな黒い球体上の何かが浮上した。その質感はヌメリとしており、軟体動物の様な皮膚だった。


 ・・・・・


 何が起きたのかを確認する為に海面から2つの金色の不気味な目がチャプリ、と音を立てながら周りの様子を確認した。





 その様子を見たシンはすぐにある事を連想し、サクラ慌てて声を掛けた。


「サクラ、まさか!」


「・・・この前、食べた刺身を思い出してな」


 シンが声を掛けた瞬間、サクラは不敵にニヤリと笑ってそう答えた。この言葉通り、ギュウキを切り刻んで絶命させようと考えていたのだ。

 返答の言葉を耳にした瞬間、シンはある言葉を思い出した。


『ギュウキの「復讐」』。


 その単語から妙な不穏なものを感じ取ったシンはすぐさま、サクラに待ったを掛けた。


「待て、サクラ!動きを止めるだけに留めてくれ!」


 シンの言葉にサクラは指の動きを止めた。


「・・・何?」


 何故止める。

 そう言わんばかりの目でシンを睨むサクラ。このまま切り刻んでしまえばそれで終わる話だ。サクラが知っている限りではシンは遠くにいる大きな相手を無力化する手段は持っていないはず。なのに何故か止めた。今までの行動の事を考えれば何か理由がある。そう考えに至った。サクラに対して先に口を開いたのはアルバだった。


「どういうつもりでございますか!?シン様!」


 アルバはサクラが言わんとしている事を代わりに言うかの様に口にした。先に従者であるアルバが疑問の言葉を先に口にした事に不問にした。何故なら自分の疑問がまさにそれだったからだし、時間が無かった。


「・・・多分だが、あれを殺せば取り返しがつかない事になる!」


 サクラは目を細めてシンの方を変わらず睨む。


「・・・それはお前の勘か?」


 低く鋭い声でそう尋ねるサクラの声には、嘘をつけばどうなるか分かるな?、と言わんばかりの鬼気迫る様な声色が見えた。

 その言葉にシンは躊躇う事無く


「そうだ」


 と真っ直ぐサクラの目を貫く様な眼差しでそう答えた。

 シンは今は説明している時間が無いから、今の様に簡素な形で答えた。


「・・・・・」


 未だに目を細めながらシンを睨んだサクラは小さな溜息をついて


「そう言うからには何か考えがあるんだな?」


 と訊ねた。

 その時、ギュッと握っていた指の幾本かがググッと戻る形で動いた。

 いつまでもサクラの糸の魔法を掛け続けるのも限界がある。

 それを見たからなのか、それともこの場の空気でそう判断したのかシンはすぐに口を開いて伝え始めた。


「俺があのギュウキを相手にする。それまでの間・・・」


「時間を稼げればいいんだな?」


 シンが言わんとしている事をすぐに汲み取ったサクラは、言い切る前に答えた。


「・・・頼む」


 サクラがそう答えた時、シンは頷いた。

 それを確認した瞬間、サクラはすぐさまギュウキの糸の拘束を一旦解いた。

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