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239.準備

 遡る事、今朝の4~5時位の事。

 辺りは霧が立ち込めて霞がかった白い朝。それはどことも同じ光景で幽玄な雰囲気に圧倒されつつもミステリアスな世界が作られてそう印象付けられるそんな朝。周りは白い闇に包まれており、周りは酷く静かだ。それはどこでも同じ光景が見られて、海岸沿いでもそうだった。

 水面を見れば手前が群青で深くなればなるほどに澄んだ海水という印象が消えて暗く深い黒支配する世界になっていた。そんな海面が水平線の様に広がり、30m先の奥行きが分からなくなるほど白い霧が立ち込めていた。

 そんな朝に白い霧の中に黒い大きな影が見えた。その影の形からして船の様だった。


「中々に恐ろしいな」


「ああ」


 船の持ち主は弟子達だった。

 陸地からとは別に船から見ると、手前の陸地が辛うじて見えるのに白い闇のせいで奥地がほとんど見えなかった。

 その弟子達の視線の先に海岸沿いにある薙ぎ倒された森だった。よく見れば足跡があり、見る限りでは4足歩行で動く動物の様だ。前足が四角く、指の後が後ろ向きになっていた。後ろ足は前足と違って小さく、象の様な円形の足跡だった。この事から鑑みるに前足は霊長類の様な手、後ろ脚は象や犀の様な足である事が窺える。


「想像以上に大きかったな」


 腰に剣を携えた弟子が世間話の様に語り掛ける。


「ああ、あれなら村どころか大陸側の小さな王国でも潰せるな」


 頷くモーニングスター2振りを握っている弟子。


「そういえば、さっきのは凄まじかったな」


「ああ。同族同士で戦わせた時、「フッタチ」をかけた側が強かったな」


 この会話から察するにもう既にフッタチをギュウキに掛けた後の事のようだ。そしてフッタチを掛けられた後のギュウキの事を思い出して感心そうに語り始めた。


「やはりフッタチは能力を上げるというのは本当だな」


「主に知能が高くなったな。戦い方が知性を感じる」


 共感する様に小さく何度も頷く弟子はその様子の事をしみじみと語る。


「ああ、水飛沫を利用して目潰しみたいなことを計っていたもんな」


「確かにな」


 丁度その時、見える陸地の奥から


 バキバキ…


 大きな物が折れる乾いた音が聞こえて


 ドドォォン…


 大きな岩の様な物が落とされた様な音と共に


 ギャーギャー…


 ヂュンヂュンヂュン…!


 驚いたカラスや野鳥が一斉に飛び立ち、驚いた悲鳴を奏でていた。その音や声を聞いた弟子達はプロ野球の始球式が始まった時の群衆の様な気持ちで陸地の奥を見た。


「始まった様だな」


「今頃、大騒ぎだろうな」


 カラカラと笑い気味に言う弟子。


「いや、今頃腹の中だろ」


「抵抗する奴よりも逃げる奴の方が多いか?」


 酷く他人事の様に言葉を交わしているが彼らが原因で引き起こした事の様だった。しかもかなり物々しい事に「大騒ぎ」に「腹の中」、極めつけが「逃げる奴」という単語から察するに鳥や獣と言った生き物に対しての言葉ではないようだった。

 明らかに同じ人間に対しての言葉だった。同じ人であるのに人とは見ない無意識な冷たい見方を彼らはしていたのだ。


「さぁな」


「じゃあお前ならどうする?24号」


 普通なら「24号」と言う単語に対して少なくともここで違和感覚えるはずだ。だが、そんな違和感すらも感じずにそのまま言葉を交わしていた。


「俺なら戦うな」


「俺もだ。愚問だった」


 そんな2人の弟子達が会話をしていると別の弟子がやって来た。


「・・・なぁ、聞きたい事があるんだが」


 その弟子は女だった。女が持っていたのは狼牙棒によく似た棍棒を肩で支える形で持っていた。


「何だ?」


 そう尋ねた弟子に対して狼牙棒を持っていた弟子はチラリと海原の方へ視線を向けたその視線を追う様に海原の方へ向ける他の弟子達。


「こいつら、いつまでこちらの事を見てるんだ?」


 深い霧の中、大海原と思える場所は波打ち、奥がぼやけた黒い地平線となっている。これが本来の光景なのだが、その黒い地面の様な海面からヤギの様な、タコの様な横に伸びた瞳の黄色い目が等間隔で無数にあり、海金属の様に不気味に輝いていた。

 この目の正体は弟子達は知っていた。


「分からない。ただ、()()()()()()、という事だけは確かだ」


 顰めながらそう答える弟子に同じく顰めて海原の目に目を向ける弟子は苦虫を噛み潰したような顔で


「気味悪くて敵わんぞ」


 と答えた。

 手に持っていた2振りのモーニングスターを強く握り締めていた。体から異様なまでに殺気を漏れ出しており、今にも跳びかかりそうになっていた。

 そんな弟子に狼牙棒を持っていた弟子がポンと肩に手を置いて


「まぁ、俺達もここで思い切って戦いたいのは山々だがよ、堪えろ」


 と軽く宥めた。


「その通り。ここで変に事構えればこの国の連中に気付かれる」


 同意する弟子は海原への視線を切り、弟子達に向けてそう答えた。すると船の奥からまた別の弟子、2人がやって来た。


「いくら我々が強くとも、数で押し切られてしまえば甚大な被害がお互いになろう」


 冷静にそう答える恐らく今の子場に居る中で年長者と思しき弟子の言葉にその場にいた弟子は納得した。殺気を出していた弟子は我に返ったかのように殺気を引っ込めて、モーニングスターを軽く握り直した。


「確実にこの国を手に入れるにはコツコツと段階を踏んでソーッと慎重に・・・」


 もう一人の弟子はどことなく子供をあやすかの様な口調で言う。この言葉遣いは赤の他人からすればナメられているか、馬鹿にされているかの様な物を覚えるものだ。

 だが他の弟子達は慣れているのか誰も何のアクションを取らずにただ黙って聞いていた。


「必ず手に入れるぞ。第二の故郷を」


 そして年長者らしき弟子がそう言うと


「「「我らに故郷を!」」」


 スローガンを復唱するかのように答えた弟子達の目には何の迷いがなかった。





 時を進めてシン達が町に戻る、20分前の事。

 所は港でステラとアンリは警務隊とギルドへ報告する為に町の中で走っていた。


「・・・・・」


 だが、アンリが遠目で港にいる漁師達の様子に気が付き足を止めた。

 当然この様子に気が付いたステラは


「どうかされましたか?」


 と声を掛けた。


「漁師の動きが変」


「え?」


 短く答えたアンリ。当然ステラは疑問の声を出す。

 疑問符を浮かんでいるステラを余所にアンリはそのまま走って漁師の所まで向かった。その様子に気が付いたステラは「お待ちください」と言って走って追いかけた。


「あの・・・」


 漁師の所に来たアンリは声を掛けようとした。

 アンリの声に気が付いた漁師は先に答え始めた。


「ん?ああ、魚なら獲れ辛くなっているから高くなっているよ」


 残念で申し訳なさそうに答える漁師の様子にアンリは


「獲れ辛くなっている?」


 オウム返しで訊ねた。

 その様子に漁師は小さな声で「あれ?」と漏らして


「知らなかったのか?」


 と訊ねた。アンリは「はい」と言いながら頷いた。すると漁師は小さな溜息をついてから答える。


「今朝から魚の群れが見かけないんだよ」


「魚が?」


 アンリに辿り着いたステラがオウム返しに訊ねた。


「ああ。昨日までは大量だったんだがな。悪いんだが新鮮な魚は諦めてくれ。干物ならまだあるから」


「・・・!」


 漁師がそう答えるとアンリは目を大きく見開いて足早にその場を後にした。


「あ、アンリ様!?」


 ステラが戸惑いつつ漁師に軽くお辞儀をしてその場を後にする形でアンリを追いかけた。


「アンリ様~!」


 追い付いたステラはアンリに声を掛けた。アンリは酷く真剣な表情で急ぎ足である場所に向かっていた。


「ステラ、ギルド長の元まで向かうぞ」


「は?」


 アンリがそう短く答えるとステラはもっと具体的に答えて欲しいと言わんばかりの疑問の声を漏らす。

 だがアンリは説明している時間が無いのか、それともただ単に面倒なだけなのかは分からないが理由は酷く短く簡潔だった。


「先手を打つ」


 たったそれだけの答えを口にしたアンリは小走り気味にギルドの方へ向かって行った。ステラは疑問符を浮かべつつアンリの名前を呼びつつ、後を追う様に付いて行った。


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