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238.迫る

 無数の巨大な影を追う船団。

 その船団は無数の巨大な影よりも明らかに多くあり、慎重にと言わんばかりに距離を置いてからその影の様子を窺っていた。


「順調に進んでいるな」


 乗組員全員が弟子達と同じ格好をしていた。全員が兵士の様な装備をしており、主な武器は槍か弓矢だった。


「ああ。だがさっきから気になっているんだが」


 どことなく引き攣った顔で返答して視線を無数の巨大な影の方へ向ける。


「うん・・・」


 自信が無い様に力無く頷く男。


「何でこいつらこんなにいるんだ?」


 その疑問に答える者は誰もいなかった。そればかりか疑問が膨らみ続けて疑問に感じた事が前にあった事を口にし始める男。


「そう言えば、さっきの村を潰した時でも海の向こうから覗かれていたな」


「ああ、気色悪かったな」


 世間話の様に言う物騒な話。

 どうやら彼らはオオキミ武国(この国)のどこかの村を襲って壊滅させたようだ。


「我々、散々この国のモンスターを殺してきたが、あのギュウキと言うのには相手したくないな」


 この口振りからして彼らはロウの弟子達である事に間違えようのなかった。


「ああ、全くだ。・・・まぁでも、他のギュウキですらも退かせる位の事が出来る位に迄仕上がったのはデカいよな」


「ああ」


 ギュウキ同志と戦っている様子を見ていたのか、それとも戦わせたのかまでは分からないがギュウキの群れの内のどれか・・・それとも先陣を切る様にして一番前にいるギュウキがそれなのかは分からないがどうやら他のギュウキよりもかなり強いようだ。

 そして何よりも彼らがギュウキを操っている事である事は間違いのは確かだ。


「もしかして、あいつら先行しているあのギュウキの事をボスだと思っているんじゃないのか?」


 甲板にいる弟子がそう言葉を零した。


「ああ、かもしれないな。猿とかでも戦って自分がボスである事を見せつけるらしいからな」


 同意するも一人の弟子。

 確かにチンパンジー等の群れを成す動物の中では自分が立場が上である事を示す為に喧嘩をして自分の強い事をアピールする。そして誰が群れのボスなのかを知らしめる。

 弟子達は群れで行動するギュウキ達に操ったギュウキを使って喧嘩をして、強い事を証明できたからそれに従って町の方へ向かっているのだろうと考えていた。


「なら都市攻略どころかこの国を征服もたやすいかもしれないな」


 ギュウキと思しき影の数が50近くもある。

 あれだけの数で大きな町に向かえば容易く落とす事が出来るだろう。

 弟子の子の考えに


「ああ」


 と何の疑いの考えも無く答えた弟子だった。





「やっぱり海の方が速いか・・・!」


 苦虫を噛み潰したような顔でそう呟くサクラ。


「・・・陸には限界があるか」


 シンはやはりと言わんばかりにそう答える。

 整備されていない道があったり、入組んでいたりすればどうやってもスピードが落ちてしまう。しかも海の方は陸の様に道がない、次元が違う世界だ。だから自由に動く事が出来るし、スピードも乗りやすい。

 シン達が乗っている馬車でも十分に速くとも中々に追い付けないのにはこうした理由がるからだ。

 それだけにそれなりにこの国の文化を気に入っているサクラは追い付けない事にイラつきを隠せずにいた。


「もっと早くは出来ないのか!?」


 窓から顔を出してアルバにそう尋ねる。


「これが限界かと・・・!」


 アルバは苦し紛れにそう答えた。


「・・・・・」


 サクラとアルバがそんなやり取りをしている最中シンは海岸沿いが見える窓からジッとギュウキと思しき影を見ていた。そんなシンにアカツキから報告の通信が入った。


「ボス、ギュウキと思しき影を追いかけている連中の格好が今ボス達が乗っている馬車の上に載せている連中と例の死体と同じだったぜ」


 アカツキの報告を聞いた時、シンの目が少し大きく見開いた。


「そうか(やはり、連中はこの国で何かするつもりだったのか)」


 ロウ達が何をしようとしていたのかについてある程度寄す通りだった事に思わず、シンは小さな声でそう呟く形で声を漏らした。


「何が「そうか」なんだ?」


「!」


 シンの小さな声をサクラが耳で拾われてしまった事に驚いた。

 サクラは中々引き下がらない。変な事を言えば怪しまれるし、最悪アカツキの存在のヒントを出してしまう可能性も十分にある。


「あ~・・・今気が付いたんだが・・・」


 少し、数秒程考えて少し前にある事に気が付いた事を思い出したシン。


「?」


 サクラはシンの言葉に耳を傾けつつ首を傾げていた。


「ギュウキはあんな風に群れで国を襲うのだろうかと考えたんだ」


 シンの言葉にサクラは目を細めた。


「・・・と言うと?」


「俺が見た時、ギュウキは1体だけで獲物を狩っていたんだ」


「・・・・・」


 シンは嘘を言っているとは思えない。と言うより、こんな状況で嘘をつくとは思えない。だからサクラはシンが言っている事に唯々黙って聞いていた。


「それにあんなに群れで襲ったとしても、人サイズだったら余り腹を膨らませるとは思えない」


 シンが続けてそう言うとアルバが開いている窓から聞こえたのか、口を挟んだ。


「上陸できる場所があの町だけだったなのでは?」


 シンは静かに小さく首を振った。


「・・・その可能性も十分にあるけど、海にはサメとかクジラとかギュウキの腹を十分に満たせる餌が沢山あるだろう」


「確かに。人間の味を覚えたとしても、あんな風に群れで行動して襲うとと言うのも考えにくいね」


 シンの言葉に「確かに」と言うと同時に頷くサクラ。ギュウキの大きさは少なくとも10m以上はある。という事は人間サイズでは腹を満たすには余りにも少ない様に思える。

 群れ動いて襲うとなっても腹を満たさせるとは思えない。


「人間の抵抗もそれなりに脅威だ。だから群れとは言え、そんなリスクを冒す様な事をするのかって・・・」


「相手は怪物でございますが」


 人間よりも強くて集団でも簡単に潰せる位にまでの力を持つギュウキは怪物と表現してもおかしくない。

 そう考えたアルバが疑問を口にしたのだ。


「だが、クマでも人が沢山住んでいる所に下って襲いに来るわけでも無いだろ?」


「確かに、ドラゴンでも人間の町には手を出さない」


 獰猛な動物でも群れでいる動物は危険である事は重々に理解している。だからギュウキも人間の様に抵抗力が強くて群れている動物を襲うという可能性は低い。

 その事についてサクラもこの世界の他の動物、ドラゴンを連想する。

 この事から考えられるのが


「という事は操られている、と言う可能性が・・・」


「と俺はそう考えている」


 人為的なものだろう。

 例えいくら知能が低くて獰猛で凶暴であったとしても、人間が群れで行動する限り簡単には手を出してこないだろう。

 という事は考えられるのはエサとなる生き物不足か、人為的な何か。

 シンが今までの事を思い出す限りではギュウキのエサが不足しているとは考えにくい。何故なら、シンが最初にこの国に来た時、ギュウキは陸にいた動物を狙って獲物を捕っていた。人間よりも大型の動物はいる事は知っているはず。しかもこの時単独だったから少なくとも群れ規模でエサ不足は考えにくい。

 なら残るは人為的何か。

 この国ではフッタチと言う、動物を使役する方法がある。この国のギルドで盗難騒ぎがあった。盗難品はこの国の生き物について詳しく書かれた図鑑だ。それでギュウキの事について知って利用してこの国に混乱を招こうと考えた。フッタチの方法もどこかで知って、若しくは手に入れて成功して今に至るのではないだろうか。


「よくあんなデカい怪物を操れる事ができたな?」


 この世界で獣を従える方法を一般人程度に知っているサクラはギュウキを操れる事自体に疑問を持っていた。


「その上、あんなに群れで・・・」


 その疑問はアルバも同じく持っていた。


「ああ、もしあれが操っているのだとすればかなり拙い事だろうな」


 だが今の状況では間違いなく操られている可能性が高い。もしそうだとすれば操っている側にとって有利に働いている事になる。これだけは避けたい。

 だから


「尚更急がねばならないな」


「ああ」


 何が何でも早く町に着く必要があった。

 シン達全員がピンと糸を張った様な緊張感を持ち、アルバは可能な限り馬を急がせる様に手綱をしならせた。馬車はかなり揺れ、車軸が今にも壊れるのではないかと言う位に激しく動かして走らせた。


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