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237.挑発

 現在に戻る。

 サトリとロウが対峙しており、モミジとカエデは周囲警戒していた。


「・・・!」


 サトリは何かに気が付き顔を数cm程動かす程度にモミジとカエデの方に向けて動かして声を張った。


「モミジさん、カエデさん!確実に周囲にいる!」


 サトリの言葉を聞いたモミジはすぐにジュウベエの方へ向いて


「ジュウベエ!上!」


 と声を張った。


 キュオ!


 ジュウベエはすぐに鳴いて返事をして、すぐに行動に移った。


 タタタッ!


 ガサッ!


 ジュウベエは走って草むらに入って木々の上に昇っていった。

 不意打ちやゲリラ戦術を行うとすれば、森の中では木々の上や草むらの中にいると考えるべきだ。草むらからの襲撃と木々の上からの襲撃とであれば制空権に近いものを握られてしまう事を考えれば木々の上からの襲撃の方が脅威的だ。

 だからモミジは即座に木々の上にいるであろう襲撃者、ロウの弟子達を対処する様にジュウベエに命令したのだ。


 シャー!


 ガサッ


「うああ!」


 ジュウベエが登った木の上にいた弟子達の内の一人がどうやら遭遇して驚きの声を上げていた様だった。


 ドサッ!


「うぐぅぅぅ・・・!」


 どうやら足を切られて木の上から落ちてきた様だった。幸いと言うべきなのかこの弟子は落ちた個所が致命傷となる部分では無かった為、まだ生きていた。

 だが、出血する足と恐らく落ちてきた時に骨折したであろうかもう片方の足を押さえて苦悶の声を上げていた。


「・・・!」


 その様子に気が付いた木の上にいた弟子は即座に襲撃を掛けようと動き始めた。


 ガサッ…ガサッ…


 動く木々の枝。それも激しい。焦っている様にも見える。

 そこに弟子がいる事が窺わせる。


「ぎゃああ!」


 ニワトリの首を絞められたかの様な声を出す弟子の存在に気が付いた隣にあった木の上にいた弟子が声を上げた。


「あのイタチがそっちの木にいるぞ!」


 そう声を発したと同時に叫んだと思しき弟子が首から赤くて長いリボンを垂らしながら頭から真っ逆様に落ちてきた。

 その様子を見た他の弟子達はこれは拙いと考え、木々に移って回避行動をとった。


「!」


 木々に移る様子を見たカエデは腰に巻いていたあの長い布引っ張る形で手に取った。


 シュル…


 パンッ!


 布の擦れる音に続き、乾いた破裂音が森の中に響く。その様子を見た瞬間、カエデが持っていた武器の正体が分かった。

 音からすれば完全に鞭なのだが、決して鞭では無かった。それはカエデが本屋で使っていたハタキだった。


「「「!?」」」


 武器の正体を現した瞬間目を丸くした弟子達。ハタキは掃除道具だ。それを武器として使うつもりの様に振舞うカエデの姿に思わず驚いてしまったのだ。

 だが鞭のように扱い、鋭く乾いた破裂音の事を思い出した弟子達はすぐに構えた。

 その時だった。


 ヒュルッ…


 フォンッ!


 鞭のように動かしたカエデの視線は別の木の上にいた弟子の存在を捉えていた。その瞬間ハタキの先がその弟子の方へと向かったのだ。


「!?」


 パンッ


 パンッ


 いきなり自分の片手片足に巻き付けられた事に驚くも妙な引っ張られる力に勘付き抵抗を図る弟子。しかし、かなり力が強くて思う様に動けない。そればかりか身動きが取れなくなっていく事に焦りを出し始めた。


「・・・!」


 カエデが弟子の相手をしている事によりその場から動けないでいる事に気が付いた違う弟子はそのまま木の上から襲撃を掛けようとした。


 ガサッ!


 降りた瞬間、そのタイミングに合わせるかのように同時に降りてきたジュウベエ。その事に気が付いた時はもう既に遅かった。


 スッ…


 ジュウベエは宙に浮いている間に、尾を弟子の腹を撫でる様に軽く体を回転した。


 スタッ!


 撫でられた弟子の顔は苦痛に歪み始めて


 ブシッ!


 腹から大量の血が噴き出した。


「っ・・・!」


 ドサッ


 そのまま地面に伏せてしまう弟子。ジュウベエはスマートに地面に着地して別の木に駆ける様にして登って行った。


「・・・!」


 ジュウベエの素早さに、体の動きを封じ込めるカエデ、モミジの指示でこの場を掌握し始める事に弟子達は焦り始めた。






 モミジとカエデが対処する少し前の事。

 ロウとサトリが対峙していた。


「返り血がかなりついているな?」


 ロウから纏わりついている匂いのせいなのか見えないはずのサトリがそう口にするとロウはニヤリと笑いながら答える。


「ほ!目が見えんようだと思っていたが見えるのか?」


「見えないさ。ただ別の方法で見ただけに過ぎないだけの事だ」


 冷静に答えるサトリに変わらない興奮がエスカレートしていくロウ。


「ほっほー!どうやら中々に面白い事が出来そうじゃ!」


「わっしの問いはどうなんだ?」


 興奮するロウにサトリは変わらず冷静な口調にロウは少し面白くなさそうな顔になり、サトリの問いに答える。


「・・・ふん、角の生えたゴミを軽く掃除をしていただけじゃ」


 その言葉を聞いたサトリはどことなく怒気を感じさせる声で


「・・・そいつは剣を持っていたのか?」


 と訊ねた。するとロウは子供の様に燥いで答え始めた。


「ほ!そこまで分かるか!当たり。確かに剣士がいたな。中々に出来ていたが、やはりダメだったネ。あれは・・・」


 一拍を置いてからサトリによく聞こえる様に明らかな挑発を込めて


「ゴミでカスだったネ」


 と答えた。


「ゴミでカスか」


 サトリはオウム返しに怒気を込めた声でそう答える。するとロウは他人事に近い口調で訊ねた。


「何じゃその程度で怒っているのか?そう言えば、この国の種族、鬼人族は武を重んじて、礼儀正しいそうだネ?という事はその・・・概念というのか?それを「魂」と考えているのかネ?」


「・・・・・」


 ロウの言葉に明かな挑発が入り始めているのに対して、サトリは毅然とした態度で聞いていた。


「だとしたら、この国の「魂」と言うのは安っぽいネ!つまらないネ!しょうもないネ!」


「・・・・・」


 続けざまに更に挑発を入れるロウ。

 サトリは変わらず聞いていた。


「いや~知らなかったネェ~。こんな島国のクズカゴの中に出来る男がいるとはネ~。エセ武術の臭い臭いにおいがするネ~。それに負けそうになると暴れるんでしょ?命乞いの蛮勇という奴か?ユルシテクダサ~イ!アタシノマケデ~スって!」


「・・・・・」


 最早、言葉が通じない相手でもどう聞いてもバカに、虚仮にしている事が間違いなくそう感じる言葉にサトリは変わらず毅然とした態度でいた。


「ほんっとに面白いネ~、この国は。アタシ退屈だから一つ暴れてくr・・・」


「やたら挑発するのは」


 ロウが調子に乗って挑発を入れてそのまま言い切る前に、言葉を遮ったサトリは最後の言葉に


()()だからか?」


 ロウに負けじと挑発を入れるサトリ。


「あ”?」


 するとロウは額と蟀谷に青筋と言える血管が浮かび上がり、眉間に大きく皺を寄せた。その顔はさっきまでの子供じみた好々爺ではなく、気に食わない事に遭遇した凶暴な獣の様な顔になっていた。


「だってそうだろう?相手の実力も知らないし、相手があまりにも分からなさすぎて安くてつまらない挑発をして、怒らせて動かそうと考えていたんだろ?」


 ロウの挑発を真似するかのように口調をそのまま調子に乗って訊ねていくサトリはそのまま連想した単語を口にした。


「バカガキが」


 その言葉にロウは一旦深呼吸して一息をついて答えるロウ。だが、未だに額と蟀谷には血管が浮き出ており、眉間に今にも皺が寄せそうになっていた。


「・・・アタシは年寄りだヨ?ガキじゃないんだよ?」


 飄飄そうに取り繕っているがどことなく怒りで震えている様に聞こえる。その声を聞いたサトリは決定打と言わんばかりの言葉を選んで口にした。


「ガキの癖にジジィの振りすんなよ」


 その瞬間、ロウの顔は豹変と呼ぶにふさわしい位に瞬時に恨めしい憎悪の顔に変わった。


「「っ!!!」」


 ロウは瞬時にサトリの前まで詰めて


 ガッ!


 刀の柄を抑える形でサトリの抜刀を阻止した。これはアワダに駆けたあの技と同じ事を繰り出したのだ。ロウはこのままアワダと同じ様に柔軟な足を斧を大きく振りかぶる様に上げて踵落としを繰り出そうと次の行動に移そうとした時だった。


 クン…


 急に刀の柄が下の方へ下がる様に感じたロウは何かすると考え、踵落としを止めて刀の柄を抑え込む事に集中する事にした。

 その時、サトリの体が腰に差している左側の体を右足を軸にして後ろにやる形で逸らした。

 その瞬間、ロウの瞳には白い光が映った。


「っ!」


 ヒュンッ!


 ロウは光が映った瞬間、すぐに手を離して後ろに下がった。


 ピッ…!


 小さな音が聞こえたと同時にロウの左側の服に一筋の切れ込みが入った。

 そしてロウは理解した。

 刀を抑え込んでも抜刀が出来た事に。


「やるネェ。ただのクズじゃあないネェ?」


「・・・・・」


 称賛紛いに挑発を入れるロウ。サトリは今のロウの様子を冷静に観察していた。

 先程サトリが繰り出した刀を抑え込まれても抜刀が出来たのは、サトリが右足を軸に体を捻らせたからだ。

 本来居合いの抜刀と言う行為は平常の状態から脱力の足捌きで動きつついきなり全身同時に使って、背中、腹、腰、腕で剣を全速で抜くと同時に鞘を全速で引く。腕より「体」を使って抜く「体」の力なら剣の重み等の誤差。すると相手が想定しない速さで抜く事が出来る。

 だが今回の場合であれば、刀を抑え込まれている分普段とは違う抜き方をする。腰で鞘から抜いていく為、いつ抜いたのかが分からない。また刀の軸自体抑え込まれているわけでは無いから、そのまま刃を下の方へ翻して下から上へと一直線、つまり股から頭の頂にかけて斬るという技だった。

 だが、普段とは違う抜き方をするから、威力と速度が落ちる。だがそれでもこんな長い刃が突然抜けた状態になった様な物理的な速さ以上にどこか嘘めいた速さだった事には変わりなかった。


「アタシが褒めてんだから泣いて感謝しろや」


「・・・・・」


 とは言え、常人なら間違いなく何が起きたのか分からない位の速さの上、致命傷になる技なのだがロウは服が斬られるだけに留める位に避けたのだ。

 その為なのかいけしゃあしゃあと挑発をするロウ。

 だが何も言わず唯々黙って冷静にいるサトリにイラつきを隠しきれず、


「何か言えや」


 と吠える様に吐き捨てた。

 するとそのままロウの口調を返す様に


「吠えるなよ?ジジィモドキのバカガキが」


 と吐き捨てるサトリ。

 するとロウは目元から何かがブチッと切れる音がした。


「・・・テメェっ」


 同時に何か気に食わない事が起きてそれに駄々を捏ねて怒る、つまらない我儘な悪童の様な凶暴な顔になった。

 サトリは本当の事を言って何が悪いと言わんばかりの顔で刀を鞘に納めた。

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