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235.見た

 少し前に遡る。

 サトリ達が馬車から降りた頃、シン達も同じく降りていた。

 到着したからではない。

 事前にアカツキが索敵報告があったからだ。

 シンは止まって近くの森の中に身を潜めるように進言したのだ。するとサクラはアッサリその言葉に従って馬車から降りて森の中に潜んだ。

 すると5分未満の時、森の奥から別動隊として動いていた5人の弟子達がやって来た。当然彼らは武器を持っていた。今にも殺しそうな顔つきの上、馬車の前に立ち止まった時に至っては構え始めていた。

 完全に殺す気でいた。

 間違いない事を確認したシン達。

 弟子達は馬車が大人しく道の真ん中で止まっている事に不審がり警戒しつつ近付いていたという、「今」に至る。


「誰もいない!空だ!」


 生きた馬がおり、無傷の馬車はあった。だが戸は開いており、中には誰一人いなかった。その光景に戸惑う弟子はキョロキョロと辺りを見回した。


「どこに行ったんだ?」


 おかしい。

 これはどういう事か?

 そう頭の中で疑問符を大量に浮かばせながら同じく辺りを警戒していた。

 そんな5人の弟子達の内の一人が馬車の座席をそっと触れていた。

 そして気が付いた。


「まだ温かい。この近くにいるぞ!」


 ハッと気が付いた弟子はそう荒げた声で言った瞬間だった。


「正解だ」


 どこからともなく突然サクラの声が聞こえた。同時に


 ギュリッ…!


 張り詰めた丈夫な糸と糸が擦り合わせて独特の音が弟子達の体中から聞こえた。


「「「っ!?」」」


 弟子達がい辺に気が付いた時にはもう遅かった。弟子達はフワリと体が浮いてそのまま空中に浮く様に昇った。


「な!」


「これは・・・糸!?」


「動けん・・・!」


 自分達が動けないのは体に絡まっている様に拘束しているこの糸のせいである事に気が付いた。だがもう手遅れで動く事すらままならず、何もできないままサクラに捕まってしまったのだ。

 何もできない弟子達の前にシン達が出てサクラが口を開いた。


「貴様らの身柄を拘束するぞ?」


 そう言うと左手の人差し指をクイッと動かした。その瞬間糸が切れたのかフワフワと浮かんでいた弟子達が急に重力を思い出したかのように地面に軽く叩き付けられた弟子達。


「「「ぐあがっ!」」」


 地面に叩きつけられた事による驚きと痛みの声を漏らす弟子達。

 そんな様子を見ていたシンにアカツキから連絡が入った。


「ボス、その道とは別のもう一つの道でそいつらとは別に動いている部隊と思しき連中がいる。しかも、その連中の後ろに多分首謀者と思われるジジイがいる」


 それを聞いたシンは目元が鋭く細めた。


「・・・方角は?」


「ボスから見て7時の方角だ」


 アカツキの言葉取り7時の方角へ向くシン。


「・・・・・」


 シンは「方角」と言う単語でふと思い出した。

 確かにここまで来るまでに道は2手に分かれていた。1つはシンが村から町に向かう時に使った道。村の人間がよく使う道だ。今回もその道を使っていた。

 もう一つの道は遠回りながらも安全な道で途中で綺麗な小川がある道だ。その道はサトリ達が使った。つまり、丁度シン達とサトリ達が2手に分かれる結果になったのだ。


「どうかされましたか?」


 シンの様子に気が付いたアルバは尋ねてくる。


「・・・いや別に?」


 シンはそっとそう答えて首を横に振った。その時シンの耳にある男が聞こえた。


 ザザァ~…ザザァ~…


「!」


 波打つ音。

 その音を聞いて連想するのは「海」。


「どうしたんだ?」


 シンが何かに気が付いている事に気付いたサクラはもう一度糸を使って馬車の上に弟子達を括りつけて固定していた。

 その場で尋問してもいいのだが、シンから話を聞いていたサクラは一旦弟子達を捕えて、この国の役人や官憲に任せようと考えた。だから逃げられない様に拘束して馬車から落ちない様に固定したのだ。


 ザザァ~…ザザァ~…


 この音を耳にしたサクラは音のする方へ向いた。


「もしかしてこの近くに海があるのか?」


 サクラの言葉にアルバは少し疑問を口にする。


「こんな森奥深くにですか?」


 アルバの疑問は最もだ。

 今いる場所は明らかに森の奥深い所と表現してもいい位の場所だ。


「あるぜ。ボスが見ている光景と俺が見ている光景とではかなり差があるかもしれんが」


 アカツキの言葉を聞いたシンは改めて森の中にある巨木に大木と表現してもいい位の木々の根元を見た。


(ああ、なるほど。前々からこんな大木が多くある地域の近くに何で崖がすぐにあるのかと思っていたけど、それぞれの木々が竹みたいに根で繋がっているからか・・・)


 無人島でも海岸沿いやほぼ海に隣接している形で山で見かける針葉樹の様な木々が生えている事も多い。だが、人が両腕を伸ばしても覆い切れない位の大きさの木々が潮風や海水の塩分等の関係で生えている事はまずない。生えたとしても精々一般的な杉の木の様なものが限界が多い。

 だが根と根が繋がっているのであれば話は違ってくる。木々のお互いの栄養分を分け与える、若しくは奪い合う形であれば塩害はある程度問題ない。恐らくかなりの年月を経ているお陰で津波や嵐の様な事が起きても恐らく平気だろう。

 それ位にまで生命力が溢れて、異様で、逞しく、美しい光景だ。


「凄いな、少し歩いた先にこんな海があるのか」


「ええ、普通はこんな海の近くに大木等生えないのですが・・・」


 如何にこの国の自然体系が独特なのかがよく分かる言葉を口にするサクラとアルバ。そのまま歩いて崖近くまで行くシン達はそっと覗き込みように海原を見た。


「結構高いな」


 崖の高さで想像していたよりも高かった事にそう簡単な感想を呟くサクラ。


「大きな波はありますね」


 アルバも同じく簡単な感想を言う。その様子に口を挟む様に参加するシン。


「いや、静かだと思うぞ」


「シン、静かと言うのはどういう事だ?」


 シンの言葉に振り向いてそう尋ねる。


「ん?いや見ての通り・・・ってもしかして見た事ないのか?」


 サクラの質問とアルバの視線に違和感を感じたシンはそう尋ねた。


「ああ、ワタシの領では湖はあっても海はなかったし、こうした機会も無かったからな」


「なるほど」


 シンはサクラが住んでいる地域を思い出した。確かにサクラの領は海に面した地域は無かった。だからサクラにとって海は新鮮、若しくはあまり知らないものだったのだろう。

 そう気考えているシンにサクラは言葉を続けた。


「それよりも貴様は海の、波を読む事が出来るのか?」


 サクラがそう尋ねるとシンは小さな声で「ん~…」と唸って


「・・・漁師とか海女とか船乗りとかそう言った職業だったわけじゃない。けどどれ位なら海が荒れているとか静かだなとか位は分かる」


 と答えた。

 実際シンは所謂傭兵で軍属にあたる身分だから海の様子を見てどういう状態であるか位にしか分からなかった。

 その事を告げると


「そうなのか」


 とあっけらかんとした返事を言った。その様子にシンは他にも疑問は無いのかと思っている時、今度はアルバが疑問の言葉を口にすべく開いた。


「今の季節では海は穏やかなのでございますか?」


「いや、そうでもない。季節の変わり目の時に海が荒れて嵐や台風とか暴風雪がやって来る。だから海に詳しい人は海の様子がおかしければすぐに天候が分かったりする。俺の場合は知らない事の方が多い。ただ単に海が静かだなとか荒れているな位しか分からない」


「「・・・・・」」


 首を振りつつそう答えるシンに唯々ジッとシンの方へ見るサクラ達にシンは首を傾げた。


「どうした?」


 そう尋ねるとサクラもアルバもどことなく答えづらそうにして、数秒後に代表の様に答え始めるサクラ。


「あ、いや・・・正直ワタシからすれば知らない事の方が多くてな・・・。こう・・・新鮮な気分で・・・その・・・」


「・・・・・」


 しどろもどろの答えをするサクラにシンは特に何か言うわけでも無く只ジッと聞いていた。そんなシンにサクラは自分の答え方にあまり伝わっていない事に諦め気味に開口した。


「すまない。上手く言えない」


「そうか・・・」


 サクラがそう答えるとシンは答えた当人の心境を察してからなのかそうアッサリとした返答をした。

 その時アルバは何かに気が付きシンに訊ねた。


「シン様、あれは・・・?」


「ん・・・。!?」


 アルバの視線の方へ向くと瞳に映ったのはとんでもない光景だった。

 海面に浮かぶ黒い影にギョロリとしたヤギや軟体生物の様な目をした何かが泳いでいた。

 間違いない。

 それはギュウキだった。しかも1体だけでない。10体以上のギュウキの群れがいたのだ。


「2人とも下がって!」


 サクラ達にそう言うシン。ギュウキの事について何も知らないとは言え、脅威ではある事は間違いないからサクラ達を下がらせるのは必然的だろう。

 サクラ達は今いる位置からそのまま下がって身を屈める形でギュウキの目から隠した。


「何だ?あれは?」


 小声でそう尋ねるサクラ。


「分からない・・・。ただ、あれはこの国で相当恐れられている生物、ギュウキと聞いている」


「ギュウキ?」


 淡々と答えるシンにサクラはオウム返しに訊ねた。


「ああ。全体の姿は見た事が無いけど・・・(でもあんなにいるなんて・・・)」


 確かに全体の姿は見た事は無かった。だが今回、ギュウキがああして群れで行動しているのは初めて見た。

 もしギュウキが群れで行動しているとすればギュウキの脅威は想像以上に高い事になる。

 その事を考えているとギュウキの群れがそのまま沈む様にして潜っていった。


「ぁ・・・」


 思わず小さな声を漏らすシン。


(何だ・・・?すぐに潜った・・・?)


 急に潜った事に気になったシンは潜った付近を改めて見ているとサクラがある事に気が付き、シンの肩を軽く叩いた。


「シン、あれは何だ?」


 サクラの視線の先を追いかける様にその先を視線を向ける。


「!」


 それはギュウキだった。いや、正確にはギュウキと思しき黒い影だった。

 その影は先程消えていった群れを追いかける様にやって来ていたのだが、群れの影と違っていたのは一向に沈む気配が無かったのだ。


「どこへ向かうんだ?」


 進む方向を確認するもその先は唯々海岸沿いに進んで行くようにしか見えなかった。そうやってじっと見ているとアカツキから連絡が入った。


「ボスから見て10時の方角にて1kmにて謎の船団を確認した。しかもその影と船団は、町の方へ向かっているぜ!」


「!」


 アカツキの報告を聞いたシンは目を瞬時に大きく見開いた。丁度その時、アルバとサクラの会話を耳にする。


「お嬢様・・・」


「うん。間違えていなければ、町の方角だ」


 サクラもアカツキと同じ事を口にしていた。シンも改めてその方角を見て確かに町の方へ向かっている事を確認した。


「ギュウキの事についてこの国の住人から聞いたんだが、相当恐れていた。もしかすれば町を襲う可能性がある」


 地元の漁師等の住民からギュウキの事について思い出しサクラ達に伝える。するとサクラは目元が鋭くなった。


「急ぐぞ!」


 喊声の様な気迫ある声を上げてすぐに動く様に言ったサクラにシンはもう既に立ち上がり、足早に馬車に向かっていた。


「ああ」


「畏まりました」


 アルバは走って先に馬車に乗り込み、御者の役目に入った。サクラとシンはもう既に馬車に乗り込んでいた。

 その事を確認したアルバは手綱を鞭のように扱って馬を動かした。

 アルバの急ぎと焦りの様子に何かを感じたのか馬はそのまま力強く走り始めた。


「・・・・・」


 ガラガラと力強く走る馬車の中から窓の外を見るシンの視線はこれから向かうはずだった村の方角を見ていた。


(・・・・・・・・・・)


 シンは数分の間、唯々ジッと村の方角ばかりを見ていた。

 そして決して村の様子について知ろうする素振りすらも見せなかった。

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