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233.先手打つ獣

 同時刻ラッハベール合衆国にて。

 アルミラージを討伐して解体作業に入る冒険者達。

 今の雰囲気だからなのか、さっきまでの緊張感が解けたエリー達を始め、他の訓練に参加していた冒険者達がぞろぞろと近寄ってきていた。但し、万が一の事に備えて決して武装は解かずにいた。


「でっか・・・」


 思わずそう呟く抜身の剣を握るナーモ。

 その言葉に反応した獣耳の女性冒険者が少し残念そうに口を開いた。


「確かに大きいね。テイムされていたらどれだけ良かったか・・・」


 その言葉に気が付いたシーナ。


「え?「テイム」って調教ですか?」


 その言葉に小さく頷く獣耳の女性冒険者。


「そうよ、子供の時に育てれば人に慣れて、余程の事が無い限り襲わなくなるよ」


「・・・という事は、戦力になるの、ですか?」


「なるよ。でも中々難しいんだけどね」


 苦笑気味にそう答える獣耳の女性冒険者。


「やっぱり、教えるのが?」


「そうそう。懐いても思う通りに動かないし、訓練で苦労するわで・・・」


 獣耳の女性冒険者がそう答えると横から獣耳の男性冒険者が口を挟む形で加わった。


「ルシャターク君主国だと、そう言った事に力を入れているらしいんだけどな」


「あと、オオキミ武国もね」


 付け足す獣耳の女性冒険者。


「だけどオオキミ武国だとフットチ?フッケチ?とか何とかの魔法で従えている動物の能力を上げるらしいな」


 少し感心気味に答える獣耳の男性冒険者。


「ええ。でも結構それ危険らしいね。ただでさえオオキミ武国の怪物は大陸よりも比べ物にならない位に驚異的なのが多いのに、更に能力を上げるなんて・・・」


 少し不安そうに言う獣耳の女性冒険者に獣耳の男性冒険者は少し呆れ気味に答える。


「だけどそれだけ進んでいるという事だろ?ルシャターク君主国何か、特定の怪物は特定の種族でなければ育てられない特性を利用して、軍事利用しているからさ」


 その言葉に共感する獣耳の女性冒険者。


「だよねぇ。だいぶ昔の戦争の影響だからかな?」


「そうとしか思えない。そもそも・・・」


 ここからは世間の事について知らないシーナは少しずつ獣耳の冒険者達の話から置いてかれるようになる。


「「‥‥……!…………?…………!!…~!」」


 ヒートアップする世間話。獣耳の冒険者達に何がそうさせているのかと言いたくなる位に白熱する世界情勢談義。遂には獣耳の冒険者達にシーナは話が入り込めないと判断してその場を後にした。

 結局、シーナはエリー達の所に戻ってナーモから


「どうだった?」


 と訊ねられるが、白熱する世界情勢談義についていけなかった為、シーナは


「ううん、何も」


 と答える以外何も言えなかった。





 同時刻、オオキミ武国にて。弟子達5人の内、2人以外は動かなくなっていた。よく見れば四肢の何れかや首筋には鋭利な刃物の様な物ででサックリと切り裂かれており、切り傷はパックリと大きかった。お陰で大きな赤い水溜りが出来ていた。

 この様子から見て間違いなく弟子達の戦闘が終わってこの場を治めたのはサトリ達だった事が分かる。


「・・・やってくれたな」


 サトリは恨めしそうに声を上げてジュウベエの方へ向く。


「わっしの獲物をとってくれよってからに・・・」


 更に恨めしそうに言うサトリにジュウベエは


「サキ、テ、ダス、オレ。ワカッタ?ドウドウスケベ」


 と答える。答え方や内容が完全にサトリのマウントを取っている事が分かる。その事に気が付いたサトリは


「この・・・スケベイタチめ・・・!」


 と今までで一番恨めしく低い口調でそう言い放った。そんなサトリにモミジは小さな溜息をついてジュウベエに寄り添って顎を撫でた。


「先に手を出さなかったお前が悪い」


 ピシャリとそう言い切るモミジにサトリは小さな声で「ぅっ」と声を漏らして


「不覚・・・」


 改めて何故あの時、先に仕掛けなかったのかと後悔していた。





 現在より少し前の事。


「やれ」


 モミジが冷たい言葉を放った時、ジュウベエは弟子達がいる所から見て3時の方角から飛び出してきた。


「「「っ!?」」」


 弟子達向かって一直線に素早く駆けていた。だが驚く程のスピードだ。並の人間や戦闘経験が浅い者なら対処は至難の業だろうと言う位の。

 いきなりジュウベエが飛び出て驚いて一斉にその方向へ向く弟子達。


(速いが一直線か・・・。タイミングを見計らって動けば問題ないな・・・)


 そう考えた弟子達の内の一人は待ち伏せる形で構えた。するとその意を察してなのか、今の状況を考え見てからなのか同じく待ち伏せる形で構え始めた他の弟子達。


(ここだ!)


 一人の弟子に向かってくるジュウベエの速度を見切って草を薙ぐ様な速さの鋭い蹴りを入れた。


「っ!?」


 蹴りを入れた瞬間、ジュウベエはその足を避けて、支えている片方の足に纏わりついて、螺旋階段を上る様に登ってきた。


 ダダダダダッ!


 そのまま登り切って登った弟子以外の3人のそれぞれの頭に目掛けて飛びつくジュウベエ。


 トッ


 素早い動きで近くにいた弟子の頭に乗って


「わっ!」


 と驚きの小さな声を上げる弟子の耳元に


 ヒュン


 と風を切る音が聞こえた。近くにいた弟子の頭目掛けて


 トッ


 飛び移って


「おっ」


 と驚きの小さな声を上げる弟子の耳元に


 ヒュン


 と風を切る音が聞こえた。またその近くにいた弟子の頭目掛けて


 トッ


 飛び移って


「あっ」


 と驚きの小さな声を上げる弟子の耳元に


 ヒュン


 と風を切る音が聞こえた。そして最後にまだ何もされていない弟子の頭に目掛けて


 トッ


 飛びついた。


「!」


 弟子は驚いて短く息を吸った。


 スルスル…!


 頭の上から体の側面を螺旋階段で下る様に降りるジュウベエは弟子達の後ろに回った。


 バッ!


「「「!」」」


 弟子達はすぐに構え直した。さっきは素早く動いて自分達の頭の上に乗る事で回避していた。もうカマイタチの素早さは見切った。次は確実に仕留める事が出来る。

 今の光景からしてただ単に弟子が最初に仕掛けた蹴りをオーバーアクションに避けて慌てふためく獣の様にしか見えなかった。

 弟子達はそう考えていた。


「「「・・・・・」」」


 弟子達はジュウベエが頭から頭へ飛び移っていた時の事を思い出していた。


 ヒュン


 あの時、何か風を切る様な音が聞こえた。

 その音は恐らくジュウベエの尾の方から聞こえた。

 何故そんな風邪を切る様な音が聞こえたのか。

 疑問を感じたその瞬間だった。


 ブシィーッ…!


 ドッ…!


「「「っ!?」」」


 何をされたのか分からず、3人は首から赤い噴水を出していた。そして5人全員が全身の力が底に穴の開いたバケツに水を注ぐ様に抜けていった。


(こいつ・・・。っ!?)


 倒れた弟子達は体の様子を見てすぐに何をされたのかをすぐに分かった。

 切られていた。

 3人からは首には切り口の断面が見える位にパックリと切り裂かれて、勢いよく出していた血飛沫はほとんどなくなり、小さな沢の様に流れ出ているだけだった。徐々に寒気を全身に帯び始めて瞼が徐々に重くなっていった。後はもう冷たくなる事以外何も出来なくなっていた。

 残り2人の手と足からは徐々に込み上がる様に現れてくる痛み。ドクドクと波打つ様に出てくる赤い血が沢の流れの様に出て来て、地面には赤い水溜りが出来ていた。


「な、何が・・・!?」


 未だにいつ何がどう切られたのか分からず、思わず声に出してしまう弟子の前にジュウベエがやってきた。


「き、貴様・・・っ!?」


 生殺しにされた蛇の様な目で睨む俯せに倒れた弟子の目に映ったのは、ジュウベエの尾の先から何か白くて金属ではない光沢を放った何かが飛び出していた。


(牙・・・いや、爪か・・・!?)


 ジュウベエの尾の先から鋭い刃の様なエナメル質に近い色の鎌の様な形をした物が出ており、光沢からして金属では無いがそれが酷く鋭いものである事を物語っていた。


 クオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”…


 森の中に潜んでいた時とは違って更に低い唸り声で威嚇するジュウベエ。全身の毛が逆立ち、牙を剥き、いつでも跳びかかれる様に構えていた。


 スッ…


「!」


 ジュウベエは倒れている弟子の首の頸椎に当たる部分に尾の刃の先、刃先とも言える部分をいつでも刺し貫く事が出来る様に首の柔肌に当てていた。


「うっ…!」


 手足の腱を切られてまともに動く事が出来ない弟子は悶絶する様な苦しみの声を上げる。


 グッ…


 止めを刺そうとするジュウベエ。

 弟子はもうダメだと覚悟を決めて目を素早く強く閉じた。

 その時


「ジュウベエ」


 とモミジから制止の声が掛かった。


「こいつらから聞きたい事が沢山あるから」


 そう答えてつつ俯せで倒れている弟子に近付き、ジュウベエの頭を撫でるモミジ。だが、その目は未だに冷たいままだった。


「なるほど、こいつ等はBランク以下って事ね・・・」


 今までの事を思い返してそう冷たい言葉を投げるモミジは弟子達に聞きたい事を訊ね始めた。

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