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229.予測

次回は12/31の23:00の投稿になります。

 それは突然だった。


 ドンドンドンドン…!


 午前8~9時頃の事。

 今の季節にして珍しく暑い朝。陽の日が差して気温が上がっている。外は霧が晴れ始めていた。外が明るくとも霧の影響でそれ程外へ出ず、家屋の中、或いは店を開ける準備の為に家屋のすぐ外にいる者が多い。

 その為眠っている者もまだ多い時間でもある。働き始めている者はチラホラ程度だ。そんな時間帯に宿屋の中でけたたましい足音が聞こえた。


「んん・・・」


「何だ?煩いな・・・」


「・・・・・っ」


 騒々しい朝にサクラ達は起き始めた。そんな朝に苛立ちを覚えたり、眠気眼を擦りながら目を覚ましたり、唯々体を起こして目を閉じて今が夢なのか現実なのかを確認していた。


「・・・っ!」


 サクラはある事に気が付き、眠気を一気に吹っ飛ばすレベルの驚愕の事実を目の当たりにした。


「切られている・・・」


 サクラがシンの両手足に巻いた糸どころかシンの行動を把握する為の糸の鳴子が全て切られていたのだ。いくらサクラが眠っていたからとは言え糸の鳴子には鋭敏になる様に訓練していた。とは言え、寝返り等の何気ない動きもある。だから起きて大きな動きだけに留めて気を配っていた。

 それなのに糸が全て切れらた事に信じられなかったのだ。


(バカな・・・。いくら鋭い刃物を使ったとしても張った糸にそれなりの圧力を感じるはずだ。それが全く無いなんて・・・)


 あり得なかった。

 いやそれよりも。

 そうした状況に考えの切り替えに入ったサクラはすぐに布団から飛び出した。


「お嬢様?」


「んん・・・どうした・・・?」


(寝返り位の動きだと思っていたが、まさか同じ程度の動きをして切ったというのか・・・!?)


 強く歯噛みしたサクラはすぐにアンリとステラの方へ向いた。丁度その時、引き戸の向こう、部屋の外の廊下から引き戸を叩く音とアルバの声がした。


 ドンドンドン!


「お嬢様!火急の報せがございます」


 流石に急ぎとは言え女性だけの部屋に入り込まず、部屋の前で呼びかけるアルバ。アルバの声にサクラはさっき頭に過った者を口にする。


「アルバ!シンはどうした!?」


 サクラの問いかけにアルバは歯噛みし苦悩する顔になり、腹の底からて引き絞る様な声で答え始めた。


「申し訳ございません!突然起きてすぐに部屋から出られてしまって・・・」


 その言葉を聞いたサクラはすぐに今着ている寝間着を脱いだ。


「全員すぐに支度しろ!追いかけるよ!」


 そう言ってステラから渡された服にそでを通しているとアンリから声が掛かった。


「サクラちゃん」


「何だ?」


「こんな時に・・・」と言わんばかりの心境と「何か当てがあるのか」という期待の心境が表情となってアンリに向けるサクラ。


「シン君がどこに行ったか予測が出来る」


「どこだ?」


 その言葉を聞いたサクラはシンに向ける意地悪で自信に満ちた笑みを浮かべてそう尋ねた。対してアンリは普段の変わらない態度を崩さずに


「付いて来て」


 と早々に着替えていた。


「頼む」


 そうしたアンリの自信満々な雰囲気にサクラは仁王立ちになって腕を組み、全面的な信頼を込めてそう答える。そうした凛としつつ決して自信を崩さない態度はサクラらしく王族と思わせるものを感じる。


 だらしなく寝間着をほっぽり出して、普段服を半端に袖を通して女性として見えてはいけないものをステラが呆れた顔で隠しさえしなければ・・・。





 時を遡る事僅か5~7分程前の事。


 ゾワッ…!


 全身に広がる鳥肌の波が押し寄せて


 カッ…!


 いつ瞼を開いたのかが分からない位の速さで目を開けたシン。


「・・・!」


 目をキョロキョロと動かして辺りの様子を窺った。だが、周りには何もなく、小さな変化すらない。静かに眠るアルバと布団をはだけてグ~グ~と大きな鼾を掻くサトリに、枕元にある荷物は動かされた気配もない。


(何だ?このザワザワ感・・・)


 何の寒気なのかと考えていたシンはふと自分のワークキャップを連想して寝返りを打つような自然な動きでそっと手に取り被った。


「・・・・・」


 だが何も変化はない。

 そのまま数分程経ちシンは未だにキョロキョロと辺りを見渡していた時の事だった。


「ボス!すぐに外に出ろ!」


 アカツキの言葉に反応してサクラから巻かれた拘束用の糸と見張る為の鳴子の糸を


 スパッ


 素早く息に切り裂き


 ガバッ


 枕元にあった自分の服や装備品をすぐに抱えて


 ドンドンドンドン…


 宿の廊下へ出て行き、下に降り、靴に履き替えて外に出て行った。宿に人がいたとはいえ、チラホラ程度の人しかいない時間帯故に誰とも出会わなかった。だからなのか宿の外まで辿り着くその速さは10秒にも満たなかった。


「ボス、その建物の小脇に入ってくれ」


「分かった」


 今のシンは宿屋から貸し出された寝間着の姿だ。

 人通りが少ないとは言えこのまま街中に出るのは拙い。着替える必要がある。シンもアカツキもそれを理解しているからこそ提案して承諾した。





「それでどうしたんだ?アカツキ」


 普段服に着替え終わって寝間着を腕にかける形で持っていたシンはこの場に誰もいない事を確認した上でアカツキに通信を入れる。


「さっきカメラで周辺の町や村を偵察していた所、ボスが最初に言った村、あっただろ?」


「ああ」


 アカツキがそこまで言った時、嫌な予感を感じたシンは目を錐の先の様に鋭く細める。

 そしてその予感は的中した。


「何者かに襲われているぞ。それもあの死体と同じ格好の連中だ」


「何だと?」


 目と目、鼻の上辺りに一瞬歪む形で皺を寄せるシンは「やはりか」と考えていた事が的中したくない心境でいつつ、現状はどうなっているかを更に訊ねた。


「やはりテロ組織か他所の国の武力集団だったか。今どうなっている?」


 シンがそこまで言った時、何かの気配を感じた。

 アカツキもその人物の姿を視認した。


「ボス、どうやら・・・」


「ああ、みたいだな」


 その気配は覚えがあった。しかもその気配はほとんど今の生活の一部と言って良い程にまで浸透した馴染み過ぎた人物達の気配だった。


「・・・・よく俺がここにいる事が分かったな?ここ、結構分かり辛いと思ったんだが?」


 シンがその人物達の方へ向いた。

 その人物達は


「私も宿に訪れる時にここにを見ていたんだ。もし入るとすればここだろうと考えたんだ」


 サクラ達だった。

 シンは今の状況が信じられなかった。

 シンはアカツキが案内された小道は近付いて見なければ分からない場所だったからだ。つまりこの土地の事をよく知っている人間でなければ知らない様な道に入ってサクラ達から隠れようとしていた。

 しかしこの場にはサクラ達がいる。今のこの状況に信じられないでいたのだ。


「・・・まるで探偵みたいだな。前の職業は衛兵とか憲兵みたいな町の治安を守る様な職業でもしていたのか?」


 シンはそう答えつつ、どこかに逃げる算段を探すシン。対してアンリはシンの言葉に何か引っかかりを感じて少し間を置いてから答えた。


「・・・どちらでもない。私は何の職業にもついていなかった」


 どことなく陰りのある答えにシンは少し皮肉交じりに答えて動揺した一瞬の隙に逃げる算段が付けられるように地面を強く蹴ろうと自然な動きで足を移動させた。


「へぇ、それは・・・」


 シンがそのまま言葉を続けようとした時だった。


「「凄いな」と言うと同時に地面の砂を我々にかけた隙に路地奥に行くつもりだろう?」


「!?」


 アンリがシンが考えていた事を事細かに答えたのだ。その事にシンは動揺して思わず一瞬固まってしまった。実際そのつもりで動こうとしていたからだ。

 それなのにアンリがまるで見てきたかのように看破したのだ。今でもシンの心の中では「嘘だろ」と叫んでいるのだが、声に出して言いたくなる事を看破の言葉を口にするアンリ。


「更に言えばここ以外の路地裏を探してまた隠れた後に、私でも想像がつかない場所に行くつもりだろう?」


「・・・っ!」


 本当に言いだしそうになるシン。だがここで言えば自分が動揺している事を相手に教えてしまう可能性も十分にある。だから言葉を飲み込んだ。

 代わりにアンリについての情報を手に入れようと考え、口を開いたシンは真っ直ぐ見た。


「確か、アンリ・・・だったな?」


 アンリは静かに頷き、シンが尋ねたい事を口にする。


「シン君が聞きたいのは私がどうしてそこまで動きを読む事が出来たのかだろう?」


 それを聞いた時、シンはまた目を鋭く細めて静かに頷いた。


「私は相手の動きを予測する事が出来る」


 その言葉を聞いたシンはドスの効いた低い声で


「「動きを予測」?」


 とオウム返しで訊ねる。

 するとアンリは静かに頷き


「全ての予測は演算によって」


 と冷静に答えた。


更にその次の話以降の投稿予定日と時刻は1/1~1/4の00:00に投稿します。

年末年始の特別投稿とさせて頂こうと思い切りました。


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