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228.危うき者がやって来る

 霞がかった白い朝。それはどことも同じ光景で幽玄な雰囲気に圧倒されつつもミステリアスな世界が作られて町も森も村も霞がかった事でそう印象付けられるそんな朝。周りは白い闇に包まれており、周りは酷く静かだ。

 それはここシンが立ちよった村も同じ事だ。


「ここがそのギュウキを見かけた場所ですか?」


「そうだ」


 アワダ達とゴンゾウがシンがギュウキを目撃した場所にいた。アワダ達は町で起きている事件と目撃したとされる村と何かつながりがあるのかと考えて昨夜に村に着いて次の日の朝にて目撃されたとされる場所を調査をする事になった。


「流石にこんな朝早くだと何もいないね」


「ああ、大体の生き物は眠っているか、起きていても寝ぼけ眼だからな」


 生き物の大半は朝の3~5時の間、特に4時位が深い眠りについているか今から起きようとしている浅い眠りのどちらかが多い。例え夜行性の生き物であったとしてもこれから眠りに入ろうとする時間帯でもあるから夜行性の生き物ですら弱い事も多い。つまりその時間帯を利用して安全に移動して調査をするという事だ。しかも今朝は霧が深いから遠くから見られる恐れがないからより安心して行動が出来る。臆病な生き物であればこれ見よがしに行動を開始する。周りが静かで足音すらもそれなりに聞こえる。

 アワダ達が行動を開始した時間は午前4時頃。この近辺の土地を知っているゴンゾウが案内する事になった。

 お陰で現地まで辿り着くまで鉢合せや気配がないどころか、視線すら感じられなかった。つまりこの道では寝静まっている動物が多いから安全だという事になる。


「まだ霧が深ぇから目撃って言われている所は分かり辛ぇとは思うが間違いないだろう」


 ゴンゾウがそう断言するとアワダは小さな声で「う~ん」と唸った後数秒程黙って考え込んだ。


「・・・・・」


 アワダは足元にあった拳の半分程の大きさの石を拾い上げて


 ヒュッ


 軽く放り投げる様に海の方へ捨てた。すぐにアワダは前にのめり込む様にして前に出た。


 ボチャン…


 1秒も満たない位の僅かな時間が経ってからこの音が聞こえた。幸い波の音こそそれなりにあるが、耳が良いもの出れば落ちた時の音を聞き分ける位の事が出来る程度に鳴った。

 その音を確認したアワダは


「・・・結構近い」


 と呟く。


「は?」


 首を傾げるゴンゾウにアワダは「ああ、いや」と小さく呟く様に答えて


「ここからと海面との距離を調べていました」


 と答えた。

 その言葉にゴンゾウは今一つ分からない物事に首を傾げていた。


「さっきの石を海に投げる事が?」


 ゴンゾウの問いにアワダは軽く頷いた。


「ええ。軽く放り投げた後、どれ位数えた時に海面に落ちたのかを知る事で大雑把ですが距離が分かります」


「ほぉ~」


 空気中で音が伝わる速さが約340m/秒とされている。つまり音が一秒間に聞こえてくる距離は約340mという事になる。つまり340m未満という事になる。そこから更にアワダの長年の勘を頼って大体50~100m程かと考えた。そしてそれは正解である。シンが見下ろした崖の高さは67m程だ。アワダの耳による距離感でここまで測るという事はとんでもない技術だ。

 こうしたとんでもない位に素晴らしい技術に未だに今一つ分からずも感心するゴンゾウにクスリと笑ってすぐに真顔になって調査の件について話を進めるアワダ。


「今は見えませんが大体あの辺ですか?」


 そう言って指差すアワダ。指さす方へ見てすぐに頷くゴンゾウ。


「ああ、そうだ」


「・・・・・」


 その返答にアワダは改めて目を凝らした。その行動に時間にして僅か3秒程の事だった。


「流石に何も見えないか・・・」


 すぐに諦観する言葉を口にするアワダ。事実何も見えなかったのだから仕方がないと言えば仕方がない。そんなアワダにゴンゾウはある事をふと思い出す。


「あ、そうだ」


「はい?」


 ゴンゾウの方へ向くアワダ。


「シンの素性は分かったのか?」


 その言葉に一瞬キョトンとするも小さな溜息をついてからすぐに答えるアワダ。


「ええ、分かりましたよ?確かに彼は身元がありました。ギルドで確認しました」


 何かと思えばと言わんばかりの口調で答える。


「腕は立つのか?」


 少し世間話気味に訊ねるゴンゾウにアワダも乗っかる形で話を交じり始めた。


「ええ」


 そう肯定した時アワダの頭の中に何か雷の様なものが閃いたものを感じた。


(そうか、考えてみればギュウキが見ていたのが落ちてきたツチコロビ以外の獲物を探していたのではなく、強いシンさんに向けていた可能性もある!)


 ギュウキは知能が高い生き物だ。崖から落ちてきたのがギュウキにとって恰好の獲物であればまだ何か落ちてくるのではと考えて上を見上げるはず。アワダは最初はそう思っていた。

 しかし思い返してみると初めて目撃した場所に向かった時は、今回の様に霧が深い時では無かった。当然危険がぐんと跳ね上がる。だから腕の立つ者で編成して大勢で向かった。それでも襲ってくる場合が多い。だがそうであるにも関わらずこちらの様子を窺うだけで動く気配がなかった。まるで怯えて手を出せなかったかのようだった。

 もしギュウキがシンを見た時、何か感じていたとすれば何を感じたのか?


「どうかしたので?」


 そう疑問が浮かんだ時、部下がアワダにそう尋ねる。アワダはゴンゾウある事を訊ねた。


「失礼ですが、シンさんはここで見たとおっしゃったのですよね?」


 少し眉間に皺を寄せてそう尋ねるアワダには僅かではあるが迫力があった。


「あ?ああ、間違いねぇさ」


 少しその迫力に気圧されつつ答えるゴンゾウの頭の中では疑問符がいっぱいになっていた。そんなゴンゾウに更に訊ねる。


「ここまで来るのにどこから来たとかは?」


「いや、そこまでは・・・」


 思い出す為に数秒程してから答えるゴンゾウにアワダは一息つく為に軽く深呼吸をした。


「ですよね・・・」


 そう答えて少し考え込み周りを見渡した。


「・・・・・」


 何か手掛かりがあるのではないかと考えてグルリと見渡した時、目にあるものが映った。


「隊長?」


 何かが目に映り込んだ時、アワダは歩きだした。その様子に部下が声を掛けた。


「!」


 目に映ったあるもの元まで行ったアワダはそのまま屈んで手に取った。後を追ってきた部下は後ろからアワダの手の中を見た。


「これは・・・?」


 それはシンがここに降り立ってツチコロビと一戦の時に使用したKSGモドキの生分解性バイオ薬莢だった。大分分解されてボロボロと脆くなっていた。だがそれでも原型はどんなものだったのか位は分かる位の形は残っていた。


「隊長何か見つかりましたか?」


 更に後から来た部下達が声を掛けてきた。


「ああ、これだ」


 そう言って生分解性バイオ薬莢を見せるアワダ。


「何ですか?これ?」


 当然見た事も無いものだから首を傾げる部下達。だがこれが何かは予め聞いていたアワダは見当はついていた。


「恐らくシンさんが持っていた魔法具」


 間違っているが合っている答え。

 この場にシンが居れば「そうだ」と答えていたに違いない。

 嘘ではあるが・・・


「結構小さいですね」


 この件の事について知っていた部下は思っていた大きさよりも小さかった事に拍子抜けしていた。


「うん。これより目撃した場所近くの戦闘痕を調べてくれ。()()があるかもしれない」


 アワダは今回の件と生分解性バイオ薬莢の件とは何か関わっていると考えていた。だから部下達に生分解性バイオ薬莢を探す様に言った。だがそれは無理だった。


「しかし隊長、時間が・・・」


 霧が晴れる時間が刻々と迫ってきていたのだ。戻る時間の事を考えれば今発たなければ怪物達が起き出していつ襲われてもおかしくない状況になってしまう。当然一般人である案内してくれたゴンゾウを危険に晒すわけにはいかなかった。

 それは避けたい。


「・・・・・そうか、仕方がないな」


 歯痒い思いを殺してその場を立ち去るべく踵を返した。


「ここで切り上げるぞ!」


 気迫のある声を上げ、命令を出すアワダに部下達も負けじと


「「「はいっ!」」」


 と気迫ある声で返して、その場を後にした。






 歩いて数分経った頃。

 未だに危険はなくお互いが緊張感なく話せる位に安心な移動が出来ていた。というのは変わらずまだ霧が晴れていなかったからだ。


「どうもすみません、何度も案内させて頂いてしまって」


 さっきまでの迫力ある様子のアワダではなく普段の気さくでどことなく物腰の柔らかさを感じる雰囲気で接していた。


「いやいや、お陰で落としてくれる金も多いって事で」


 そんなアワダにゴンゾウは難なく接していた。


「では安めの食事を頼むしかありませんね」


「お?天下の警務隊は腹が太くねぇので?」


 アワダとゴンゾウのこうしたやり取りのお陰でドッと笑いが起きた。これを機にお互いのそう言った冗談や冗句を言ったり言わせたりとして場の空気が明るくなった。そのまま歩いて村に戻るまでの間は明るい空気のままでいられるだろうと思った。

 その声がするまで。


「ちと訊ねたい事があるだけどねェ~」


 カラカラと笑い合いながら進んで行くと道の脇から声がした。

 アワダが目に映ったのは深緑の少林寺の修行僧のカンフー服を着た子供かと言う位の背の低い初老の老人だった。頭髪は白髪が主で前頭部がツルツルの水晶が如くの頭だった。顔つきは細めの目でにこやかな印象の小柄な好々爺。少し腰を曲げ、手を後ろに組んでおり、出で立ちはまるで隣のお爺さんと言う様な印象だ。

 そう、その老人は師父だった。


「この近くに村はあるかのォ?」


 師父の目は獰猛な獣のような目だった。

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