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226.恐れ

 カマイタチは鼻をヒクヒクさせながら、サクラとステラ、アンリを見て近付き


「オンナ、サワル、イイ」


 と口にした。

 そんな光景にシンは驚きながら


「こいつ・・・」


 と呟いた。

 驚くシンを余所にサトリはそっとカマイタチに近付き


「じゃあ、わっし・・・」


 と言いながら触ろうと手を伸ばした。


 シャー!


 カマイタチが威嚇した。

 思わず慌てて手を引っ込めるサトリは困惑した。


「え?何で?」


 困惑した言葉にカマイタチは


「オトコ、イラナイ」


 ときっぱりと言い切った。その言葉を聞いたサトリは唖然とした沈黙が数秒程流れてやっと喉の奥から出た言葉が


「こ、こいつ・・・」


 と少し呆れ混じりのイラつきの言葉だった。

 カマイタチの威嚇にサクラは一瞬躊躇った。その様子を見たステラが挙手する様に声を掛けた。


「お嬢様私が対応いたします」


 ステラの生き生きとした目にはきはきとした口調。普段メイドとしてそつなくこなす事が多いステラだが今のステラは初めて可愛い生き物を見た時の無邪気で活発な子供の様な様子だった。


「う、うん」


 久しぶりで中々見ないステラにサクラは少しどもり気味に頷き返した。

 サクラの許可を確認したステラはそっとカマイタチに近付き徐にしゃがんだ。


「・・・・・」


 2秒程ジッとカマイタチを見つめていたステラにクリクリとした瞳を向けるカマイタチは


「アゴ、カユイ」


 と言ってその場に座って頭を上げた。その言葉にステラは喜びながらも燥ぎ出そうとする心を抑えてそっと手を出した。


「触りますよ?」


 そう言って静かに手を伸ばした。手を伸ばしても威嚇どころか避ける事も逃げる事も決してしなった。嫌がっている素振りは一切見せなかった。


「・・・!」


 サラサラ…


 カマイタチの顎の下の毛に触れた時フワフワのサラサラの感触に思わず感激の短い息を漏らすステラは静かに燥ぎ始める。


「こ、ここでございますか?」


 今にも感激の言葉が心から漏れ出しそうになるも抑えながらそう尋ねるステラ。するとカマイタチは


「イイ」


 と言って気持ちよさそうに目を細めた。次第に尻尾も前両足を巻きつける形で収めた。その様子にステラは何とも形容し難い感激と幸せの気持ちが溢れ出した。多分脳内ではセロトニンやオキシトシンと言ったホルモンや物質が大量に流れているだろう。

 そんなステラとカマイタチの様子に「納得いかねぇ」と言わんばかりの心境で


「このスケベイタチめ」


 と普段のサトリとはかけ離れたぶっきら棒な口調になる。

 そんなサトリに対してシンは冷静にカマイタチの様子を見て唯々思った疑問を口にした。


「オスなのか?」


 そうどこの誰かに訊ねる。それを聞いたサトリは「そんなの知らないな」と言わんばかりの拗ねた気分になり、何か言おうとした時


「ジュウベエはオスだよ」


「!」


「・・・・・」


 代わりに少女の声が聞こえてそのまま答える。どうやらカマイタチの飼い主で名前は「ジュウベエ」というそうだ。

 サトリはその言葉を聞いた時、周りには聞こえない位の小さく短い息を素早く吸った。シンはその音を聞きサトリの様子に気が付いた。

 その答えがした方向へ向くとそこには15歳位の鬼人族の少女がいた。

 15~16歳のポニーテールが特徴的で活発そうな印象のある所謂「御転婆娘」と言う単語が合いそうな少女だった。黒が強い赤色の外套に緑色の袴に緑色の脚絆、黒のブーツを履いていた。腰には匕首の様な武器(えもの)が2丁持っていた。


「私の「獣使い」」


「「獣使い」・・・」


 シンがそうオウム返しに呟くと少女は小さな声で「あっ」と何かに気が付き修正した。


「あ、えーと「相棒」、「口寄せ」、それとも「テイム」かな?」


「ん?」


 一体何の事なのかが分からず思わず一言で聞き返すシン。そんなシンにサトリが代わりに答えた。


「幾つも呼び方があるんだよ。一般的には「相棒」が多いな」


「へぇ」


 更に詳しく聞けば国や土地柄、民族等の理由で呼び方も様々で「魔獣使い」、「召喚士」、「テイマー」、「多対(たつい)」等々ある。


「言葉が話せたのはその「フッタチ」のお陰か?」


「その通り」


 更に詳しく聞くと、主にオオキミで「召喚使い」や「テイマー」と呼ばれている者達が使用している魔法。

 テイミングしている生き物の能力を大幅に向上させて、知力や運動性能、簡単な魔法を使えるようにする事が出来る。

 但し使用する前に自分に歯向かう様子や素振りが無い事を最初に確認する必要がある。禁忌ではあるが洗脳を最初にする、行動制限をする魔法を最初にする等をする必要がある。

 これらをしなければ単純に知力と運動性能を大幅に増やす為、知力人類並み、或いはそれ以上に能力を出す。それ故にその生き物が飼い主や知力人類に反抗意思を持っていれば真っ先に反抗行動を起こすからだ。


「もっと凄いのがあっちにいる・・・ああ、あれよ」


 そう言った少女が指差した先には外套と着物、分かりやすく言えば江戸時代の旅人のような格好をした赤色のゼリーの様な人形がペタペタと裸足で歩いていた。よく見れば顔立ちは整っている少女の顔立ちだった。

 その光景を見たシンは思わず


「え?」


 と疑問の声を零す。

 それもそのはず指差した先が少女の型取ったゼリー状の何かだったからだ。だからシンは疑問になっている事をそのまま口にした。


「これは何の・・・」


 言い切る前に少女の口からすぐに出た答えは意外で驚きのものだった。


「アカナメ。名前は「トウカ」」


「アカナメ・・・!?」


 単語が耳に入った瞬間シンは思わずオウム返しをする位にまで驚いた。つい最近まで知ったアカナメはゲーム等で登場するスライムの様なフォルムだった。だが今目の前にいるアカナメは赤を基調とした半透明の樹脂製の等身大フィギュアを見ている様な感覚だった。

 ジッと見ていたシンは見て疑問に思った事を口にした。


「姿が人間・・・少女の姿なのは?」


 最もな疑問だ。少女の姿とは言え、顔の感じや形が飼い主である少女とは違う姿だ。もしこのアカナメ自身が考えてこの姿になったとしたら相当知能が高いという事になる。


「沢山の赤の他人の女達を見てこの姿になったのよ」


 どうやら知らない人物を見て来てこの姿になった様だ。という事はこの姿は別の誰かに真似ているという事になる。


「・・・もしかしてどこかの宿屋か風呂屋?にいるのか?」


 少女の姿に服の様な物を着ているという事は事細かに見る事が出来る環境にいたという事になる。つまりこのアカナメはどこかの浴場がある場所にいたという事になる。

 そしてシンの疑問は正解だった。


「まぁ、そうね。この子は女風呂の所に居た子だから真似てこんな姿になったのね。お陰で外套とか着物を着させる必要が出来ちゃった」


「体格まで真似るって凄いな・・・」


 少女の物言いから察するにどうやら体形や体格すらも真似ている事になる。つまり今のアカナメの姿形は裸の少女その物のだという事になる。どこの誰だか分からないとは言え若い女性の裸を街中で堂々と見せびらかす様な形で歩くのは流石に拙い。

 だから着物や外套を着させているのだ。

 納得がいったシンは改めてジッとアカナメを見た。すると少女から


「触ってみる?」


 と提案された。当然シンは驚いて


「え?」


 と声を漏らす。

 だが今回の驚きの声にどことなく訝し気を感じた少女は少し強い口調で釘を刺す様にシンに提言する。


「念の為に言っておくけど胸とか繊細な場所は触らないようにね?」


 感触が柔らかく、整った顔立ちの少女であるから邪な考えをする者もそう少なからずいるのだろう。だからなのか慣れた様な物言いで注意をする少女にシンはそんな考えに気にも留めず、目新しい動物を目にした子供の様な心境で


「・・・触ってもいいのか?」


 と訊ねた。そんな様子に警戒心を解いたのか少し物言いが柔らかくなる少女。


「うん、いいよ。さっき言っていたところ以外ならね?」


「・・・・・」


 いやそういうわけでは無かった。

 警戒のない物腰の柔らかい物言いなのだが、決して信用していない事が窺える言葉に少し呆れるシン。小さな溜息をつき、気を取り直して改めて触れようとした。


「じゃあ・・・」


 そっと手を伸ばした時の事だった。


「サワラナイデ」


 アカナメの口が開いた。声は少女っぽく高音に近い音であり、小鳥の様だった。だがしかし拒絶の言葉だった。


「・・・・・」


 拒否された。その事に少しショックを受けて固まってしまうシン。


「あれ?」


 まさか拒否されるとは思ってもみなかった少女は思わずそう声を漏らした。


「ゴ、ゴメンね~。普段は人懐っこくてあんな事言わないんだけどね」


 申し訳なさそうにする少女を余所にサトリが触ろうとした。


「じゃあ今度はわっしが・・・」


 そう言って手を伸ばそうとした時


「スケベ、サワラナイデ」


 と単語が増やして拒絶した。この事にサトリは飄飄とした口調で


「傷付く」


 と吐き捨てた。

 その言葉にシンは自分はそう言う風に見られているから拒絶したのかと考え恐る恐る訊ねた。


「・・・俺は「スケベ」だから嫌がったのか?」


 だがアカナメは頭を横に振った。


「オマエ、コワイ」


「コ、コワイ?」


 その言葉にシンは少し困惑気味になる。そんなシンに対してサトリは自分に対しても怖かったからではないのかと考えて改めて訊ねた。


「じゃあわっしは・・・」


「スケベ、サワラナイデ」


「更に傷付く」


 答えは変わらず心に傷を負ったサトリだった。そんなサトリを余所にサクラ達は撫でようとソワソワしつつカマイタチに訊ねた。


「ワ、ワタシはいいか?」


 ソワソワしながらそう尋ねるサクラのその様子は初めて可愛い小動物を見て触りたそうにしている・・・ステラと同じ反応だった。


「イイ」


 その言葉を聞いたサクラはパァァァとした明るく輝いた表情になる。

 それに連なってステラが進んで出た。


「じゃあ私めも」


 するとアルバも、アンリも手を挙げる様にこぞってアカナメに近付いた。


「私も」


「私も」


 その様子を見たサトリはそっと手を挙げて


「じゃあわっしも・・・」


 と進言した。だが当然


「ハナレテ、スケベ」


 と拒否の言葉を投げた。


「砕ける」


 そう言ってショックを受けてしょげるサトリ。

 そんなサクラ達を余所にシンはただ黙って考え事をしていた。それはカマイタチとアカナメが言っていた言葉で心に引っかかる単語を思い出していた。


(怖い、か・・・)


 彼らにとって何気ない言葉だが、この言葉が酷く突き刺さる様に連想するシン。

 何故こんなにも気にしてしまうのか、何故こんなにも気になってしまうのか。

 分からない。

 だが、何故か気になり考え込むシンは結局どの動物にも触れる事は無かった。


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