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223.把握する者

 同時刻。

 ここ共同部屋ではシンを除くサクラ達が集まって今日の事について話をしていた。

 各々があらゆる形で笑い合って、隣で眠っているシンに聞こえてもおかしくない声量になっていたのだが実際シンの耳に入っていた。


「・・・・・」


 そんな時間帯、シンは浴衣姿だった。そして灯りのない男部屋で既に布団を被っていた。その時シンは「収納スペース(インベントリ)」を開いて整理と確認を行っていた。布団を被っていたのはいきなりサクラ達の誰かが入って来た時に「収納スペース(インベントリ)」や丁度今出しているマグライト型タブレット端末の存在を隠す為だった。 シンが居る部屋の壁の向こうから賑やかな声が聞こえていた。どうやら隣の共同部屋で何か談笑している事に耳を傾けていた。


「まるで修学旅行だな」


「ああ。しかも俺がアカナメが来なかった事を酒の当てにしていやがる・・・」


 シンは少しムッとした心境でそう言う。事実とは言え笑われると耳障りな心境になる。その事を察したからのかアカツキは現状についての報告に入った。


「今分かっている事について報告するぜ」


「ああ」


 一息整える様に答えるシン。


「まず、ボスと鉢合わせたあのロクロクビとかいう死体の事だが、似たような格好の奴が至る所で確認できた」


 その言葉を聞いたシンは眉間に皺を寄せる。


「やはり組織ぐるみか・・・」


「ああ。それから連中この国で危険とされておる動物を殺しまくっていやがる」


 更に皺を寄せるシンは低いトーンで訊ねる。


「殺しまくっている?」


「それも自軍の犠牲を厭わずだ。一体何のつもりなんだ?」


 その言葉を聞いたシンは数秒程黙って考え込み、どんな様子だったのかについて知りたくなった。


「なぁ、その映像を見せてくれるか?」


「ああ、タブレット端末を開いてくれ」


 丁度マグライト型タブレット端末を持っていたシンは起動させた。当然映像の光が漏れ出ない様に布団を深く被って。

 開いたタブレット端末の画面にはシンが見つけた連中の死体と同じ格好した者達が1人に付き1体の怪物と呼ばれる危険な生き物を対峙して戦い殺していた。その中にはガッキとヤマンバと言った怪物と戦っており、殺されて食われている者も多くいた。

 しかも手段は限定されており、近接系の武器のみだった。しかも武器を持たず、素手で挑む者もおり、見事に倒している者も少なくない。

 その様子の映像を見たシンは目を細める。


「・・・確かに、何かしらの動物を殺しているな」


「ああ、でも返り討ちにあっていたり襲われていたりしているな・・・」


 少し拡大してみれば返り討ちにあって絶命している者も少なくなかった。と言うよりも返り討ちにあって絶命している或いは重傷を負っているいるのが大半だった。


「酷ぇ有様だ」


 喉笛に食いついて絶命する者、首の骨を折られた者、毒で動かなくさせられにそのままゆっくりと喰われる者、酸の様な液体で焼かれて死ぬ者、体をズタズタに引き裂かれる者等々様々だった。例え生きていたとしても腕を無くしていたり等、決して五体満足ではなく、命辛々逃げ延びてきた者もいたがその数十後には体が動かなくなっていた。

 どれもこれもが悲惨と言う他ない惨状だった。


「ああ」


 シンはアカツキの言葉に生返事で返しつつ映像の様子を見ていた。その時ある事に気が付いた。


「お互い相当離れているが等間隔にいるな」


 確かに戦っている連中はお互いの距離が50m位の感覚で離れている。お互いの様子が見える距離だ。


「だが助ける気配が一切ない」


 だがそれなりに離れているとは言え助けられない距離ではない。そうであるにも関わらず味方が殺されかけているというのにも関わらず無視している。


「何がしたいんだ?こいつらは・・・」


 困惑気味に言うシン。


「分からない。後、恐らくこいつらのボスと思しき人物を確認した」


 アカツキの言葉を聞いたシンは食い入るようにしてタブレット端末の画面を見た。


「どこだ?」


「一番わかりやすいのが・・・今の映像から右にチョイ動かして、少し拡大。少し時間を戻して見てくれ」


 シンは言われる通りに今見ている映像を少しだけ右に動かして少しだけ拡大する。そして時間を少しだけ戻して再生をした。

 すると数秒後、真ん中より少し左の木々の間から腕をなくした青年が現れた。無くした腕の切断面から出る血液を抑える為に押さえて、跛行していた。


「こいつ、腕がないな」


 シンは見たままを口にしてそのまま見ていると老人と鉢合わせる瞬間を見た。その老人は師父と呼ばれる老人だった。師父は跛行していた青年に近付き、片手で優しくポンと載せて、もう片方の手は手刀に変えてそのまま胸に埋め込む様に刺し貫いた。


「!?」


 その様子を見たシンは思わず目を大きく開いた。

 師父はそのまま手刀を抜いて一瞥もせずそのまま去って行った。


「・・・・・」


 その様子に眉間に皺を作り最早死体以外何も無い現場を見ていたシンはどことなく呆れた感じの溜息をついた。それをタイミングとして見計らったのかアカツキは師父の存在意味について口にする。


「何者だ?このジジィ」


 胡散臭さを滲ませた物言いをするアカツキにシンは変わらず目を細めていた。


「分からない。ただ分かるのは只者では無い事だけは確かだ」


「こいつ等の「ボス」、だけでは無いようだな」


 現場を取り仕切っている立場の人間とは思えないやり方で取り仕切り、自分の部下を殺めている事からしてこの老人は只者では無い事が窺える。

 相当な技術を持った者である事は間違いない。


「ああ。多分こいつらに戦い方を教えている立場、教官のような存在だろう」


 お互いの距離を一手に保たせて、1人に付き1体の怪物を相手にする。

 そして手負いになった部下は上司と思われる老人に殺させれる。

 この事からこの老人は教示する立場にあるものである事が分かる。軍属に身を置いたシンから言えば「教官」に当たる。


「教官ったって普通は自国の兵士を育てるのに追い込む事はすれども命を落としても構わない様な訓練をするのか?」


 とは言え優秀な兵士を育てる為にむざむざ絶命を推奨する様な訓練は絶対と言って良い程しないし、させない。

 だから考えられるのは自分の命すら軽視できるようにする為の訓練。

 つまり命知らずの突撃や同士討ちすらも想定した育成だ。


「普通はしない。だが自分以外の命を平気で奪う様な育成方法をとるとなれば従来の対応方法では通用しないという事なる」


 その言葉を聞いたアカツキは深刻そうに



「・・・それってかなり拙い話なんじゃないのか?」


 と言った。同じくシンも


「ああ」


 とたった2文字でどれだけ深刻なのかを物語っているかが分かる言葉を口にした。


「こいつ等はテロでも起こそうとでもしているのか?」


 前々から連中を注視していたシンからすればテロの兆候はあった事は想定していた。だが、今の今までの行動からしてただのテロとは思えなかった。


「テロ・・・と言うよりもどこかの国による侵略戦争を起こそうとしているのかもしれないな」


 アカツキはシンの言葉ですぐにアイトス帝国と連想した。


「侵略戦争?という事は国絡みという事かどこだ?・・・まさかアイトス帝国か?」


 アカツキの言葉にシンは小さな溜息をつきつつ答える。


「それはまだ分からないが、この国の覇権を欲しがっている国はかなりいてもおかしくない」


「まぁ、危険とは言え資源という宝の山が山ほどあればな」


「ああ」


 オオキミの脅威は何も危険な生き物、所謂怪物だけではない。ジンセキと同じ様に地震や暴風雨と言った自然災害もある。大陸と違って頻度は非常に多い。

 そんな危険な島国であると同時に自然体系が独特でありながら大陸では比にならない位の資源が豊富にある国でもある。それ故に戦争言った手段以外の方法でこの国を狙っている事も決して少なくない。

 だが今回の場合では恐らく戦闘いう手段を取っている。


「・・・ボスは連中はどう動くと思う?」


 その事からアカツキは連中がどう動くかについて訊ねた。

 シンは小さな声で「う~ん」と唸りながら答え始める。


「連中、何かしらの動物を殺しているよな?動物を殺した後食べるような真似はあったか?」


 確かに気になる行動だ。その事についてアカツキはすぐに答える。


「いや、狩猟目的ではない様だ。タブレット端末の画面を見てくれ」


 シンは再びタブレット端末の画面を見た。

 連中の様子を見れば狩って食べている事もあったが基本的に殺した後はすぐにその場から立ち去っている。

 その様子から一つ思い浮かんだ事を口にするシン。


「・・・という事は自分自身の強化目的、若しくはこの国の動物を使って何かしようとしているかのどちらかだな」


「動物を?」


 シンの答えで「動物」気になったアカツキはオウム返しで訊ねた。


「ああ。例えば、最初ここに来た時に襲われたツチコロビを魔法とかそういった方法で飼いならして、村とか町を襲わせるとかな」


「・・・あり得るな。あのギュウキとかを飼いならせばとんでもない戦力になるよな。だがギュウキだけでは無理があるよな?」


 シンの言葉に数秒程考え込むアカツキは他にも更なる戦力のぞんざいを示唆した。いくら町単位レベルの脅威とは言え全く対処できないわけでは無い。ギュウキを襲わせたとしても軍を動かせば問題ない。

 となればギュウキに襲わせているだけではなく他にも怪物を戦力として導入する、若しくは自軍を動かして混乱に陥れる、のが考えられるだろう。


「ああ。だからアカツキに頼みたい事がる」


「こいつ等の・・・少なくとも大隊規模の戦力となる団体を探すんだな?」


「そうだ。考えられるのは漁船とか商船とかそう言った船に偽装している可能性がある」


 本土に入ったとしても誰にも怪しまれず自軍を駐在させる様な安全な場所はない。という事は考えられるのは大きな船の中と言う可能性だろう。そこであれば安全だし、水路が整っていれば下水路を逆から入り込めば街中に出られる可能性もある。

 とは言え船も大きく偽装しているはずだ。だから念入りに探す必要がある。


「という事は言葉通りの草の根を分けてでもってか・・・。分かった探してみるぜ。無論ボスのサポートは変わらずするからな」


「ああ、頼んだ」


 シンは頷きながらそう答えた。


「OKボス、これからどうする?」


 その問いにシンはサクラ達がいる部屋の方向の壁を見た。


「今更向こうに行ってもあれだからな。俺はもう寝る」


 今頃行けば質問攻めや揶揄われる可能性が高い。酒も入っていれば変に絡まれるのは確実だ。だったらそのまま就寝した方が良いだろう。

 そう決めたシンは出していたマグライト型タブレット端末等の物を「収納スペース(インベントリ)」に収納して布団を被り直した。

 それを理解したアカツキはここで終了する事に決めた。


「OKボス、ここいらで通信を終了する。それからお休み」


「ああ、お休み」


 シンはそう答える様に挨拶を返してそのまま就寝した。その1時間後にアルバとサトリが戻ってそのまま床に着いた。


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