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222.申し渡す者

大変長らくお待たせいたしました。

続きをどうぞ!

 同時刻。

 暗く広い奥座敷。その奥座敷には簾があり、更にその奥の簾の先には行灯なのか和式ランプなのか灯りのお陰で誰かがいるのがわ分かる。


「余所から面倒事を持ち込むとはのぉ」


 カサリ、と紙を擦る様な音がした。

 奥座敷向こうから聞こえてくるのは妙齢の女の声。艶っぽい声ではあるが、「気品がある」だけでは表現力に欠ける程の高貴な雰囲気を出しており、決して誘っているわけでは無い事が窺えて、その声を聞けば思わず守ってあげたくなるような甘え上手で得な性分がある不思議な声。

 言葉遣いが年を取った者が使う様なものだが、これも不思議としっくりくる物がある。

 今の声はどことなく怒気が混じっているのが窺える。

 手元には間を均等に折り目が付いた蛇腹状の書状を手にして内容の文に目を通していた。


「彼奴らの目的は一体何なのじゃ・・・?」


 一通り読んだ彼女はそっと傍らに書状を置き、溜息交じりに胸の内にある愚痴の様な言葉を吐く。


「むぅ、これは中々に厄介な事になるのぉ」


 更に小さな溜息をついてスッと奥座敷の出入り口付近を見た。


「これが届いたのはいつじゃ?」


 簾の手前はおろか今いる奥座敷には彼女以外誰もいない。今こうして誰かに訊ねる事は奇妙な光景なのだが、これに答える者がいた。


「先程でございます」


 低い男の声がした。

 しかも、この声が聞こえてくるのは天井からだった。天井からというのは不気味さを窺えるのだが、それが彼女にとって日常的なのか狼狽えるどころか、身体が微動だにしなかった。

 男の答えを聞いた彼女は


「裏を取れ。事実ならば早急に対策を練る為に家老達を集わせよ」


 と命令する。佇まいや口調、態度、部屋の装い、座っている位置からしてどうやら彼女はかなり上の立場の人間である事が窺える。


「は!」


 躊躇のない返事をした男の声はこれ以降耳にする事は無かった。彼女が目に通していたのはアワダのギュウキ目撃情報の現在把握できている事についての報告書だった。


(目撃者・・・)


 彼女はそう考えて口元に長細いものを覆い隠す様に当てた。


「これ」


 代わりに今度は天井から若い女の声がした。


「は、ここに」


 若い女は・・・と言うより若すぎる。声からして15~17歳位の少女の様だ。


「ギュウキが目撃者の実態はどうじゃ?」


「は、大陸から来訪してきた者との事でございます。ですが、話を聞くに当たって黒髪に黒い瞳、更に黒い手の男だとの事で」


 その報告を聞いた彼女は目を細めた。


「・・・ほぉ、随分と黒尽くしじゃな」


 少し皮肉を交じりに気になる部分がある事を示唆する。その言葉に少女はその示唆した言葉に徐に答え始める。


「ええ、まるで・・・」


()()()からやってきた者、じゃな?」


 言葉が詰まりかける様な止め方に代わりにと言わんばかりに答え始めた妙齢の女。少女はその答えに


「はい」


 と迷いのない返事を返した。


「むぅ」


 返事を聞いた妙齢の女は何かを考え込む様に唸って再び長細い物を口に当てていた。


(手も黒であるのは気になるが、黒髪、黒い瞳は紛う事なく、()()()から渡ってきた者・・・)


 妙齢の女は「黒髪」、「黒い瞳」を聞いてすぐにある事を連想してしまう。それは来訪者、つまり「日本人」だ。だが、この世界、少なくとも大陸側では転生者や来訪者は強力な戦力として重要視している。オオキミでは他国牽制と、転生者及び来訪者擁護という目的で転生者と来訪者を積極的に保護している。だから妙齢の女はどこの誰でもわかりやすい「日本人」ではなく曖昧な「向こう」と言う単語を使った。


(どうにかして接触したいものじゃ・・・)


「黒髪」と「黒い瞳」で日本人である可能性がある以上、このまま放っておくわけにもいかない。だがだからと言って違う可能性もある。と言うのは遥か昔に来訪者が来て現地の人間と結婚して子孫を残した。その子孫が先祖返りと言った日本人特有の特徴が現れており、それを利用して日本人と名乗っている可能性がある。もしそうなら目的明らかにして悪用ならしっかりと取り締まる必要がある。

 そう考えた妙齢の女性は天井の方へ向いた。


「モミジよ」


「は」


 どうやら天井裏にいた少女の名前は「モミジ」と言うらしい。


「その男の素性等を調べてはもらえんか?」


 日本人特有の特徴が現れたこの世界の住人なのかそれとも本物の日本人なのかについて知りたい妙齢の女はモミジに素性を調べる様に言いつけた。


「素性を調べた後、如何なされますか?」


「偽りなら警務隊に引き渡せ」


 目を閉じて心底どうでもいいような物言いで吐き捨てる妙齢の女。モミジは更に真剣な口調で訊ねる。


「真ならば?」


「連れて参れ。何をしてでも」


 それら問いに妙齢の女は間髪入れずすぐに答える。特に最後の問いには獲物を狙う様な目になり、そう答えた。


「は、では・・・」


 モミジがそう言ってその場から立ち去ろうと会話を切ろうとした時、突然男の声がした。


「夜分にお立ち寄りとご無礼をお許しを」


 声と共に天井から降り立つ黒い装いをして頭には顔まで覆い被さる形の頭巾を被り、黒い足袋を履いていた。腰には脇差サイズの刀を差していた。一応なのか履物は脱いでいる様だ。その格好からして時代劇に登場する忍者の様な格好をしていた。その男は頭を下げ、立膝を付いて簾の向こうにいる妙齢の女と対面するか形で向かい合っていた。

 恐らく彼らはこの国の「目」と「耳」の役割を持つ者達のようだ。

 そしてこの男のこの言葉からして急ぎで妙齢の女に耳に入れたい事があるようだ。


「何事じゃ?」


 そう尋ねる妙齢の女。男は更に頭を下げて口を開き始める。


「御耳に入れたい事が・・・」


 どうやら只ならぬ事であると感じ取った妙齢の女は目を細めた。


「申せ」


「はっ、実は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 妙齢の女がそう言うと男は少し前に出る。簾一歩手前まで出た男は1匹の虫が飛び立つ様な小さな声で報告する。


「・・・!」


 男から全ての報告を聞いた妙齢の女は目を大きく開いて改めて男の方へ見た。


「真か?」


 低く妙な圧力のある声でそう尋ねる。

 これが偽りであれば「死」と思え、と言わんばかりに。

 その問いに男は迷う事無く真っ直ぐと取っていい程の答えを口にした。


「間違いございません」


 力強い忠義を感じ取れる答えに妙齢の女は小さな溜息をついて少し困った顔になった。


「・・・ほぅ、それはちと厄介な事になったのぉ」


 そう呟いてまたあの長細い物で唇に当てる妙齢の女。


「モミジよ、この事の話を全て聞いておったな?」


「委細全て」


 その答えを聞いた妙齢の女は持っていた長細い物をバッと音を立てて一気に広げた。どうやら持っていたのは扇子のようだ。


「例の男の素性の件じゃが、慎重に事に当たれ」


 どうやらモミジの任務と男の報告と何やら関係がある様だった。


「承知!」


 強く返事をしたモミジに妙齢の女は冷静な口調で今回の件について念を入れる様に詳細を口にする。


「相手は王族ぞ。万が一も覚られてこちらに非がある様な行為は慎め。その上で男の素性、()()()の者であれば連れて参れ」


 どうやらこの国、オオキミにどこかの国の王族が来賓しており、今回のその目撃した男と大きく関係しているようだ。それ故に来賓した王族に自分達が不利となる様なものを握らせない様に動く事を念を押したのだ。


「仰せのままに」


 モミジはそう返事した後、男の報告の件についてを妙齢の女は申し渡す。


「カンスケよ、例の王族の来訪目的について詳しく調べよ」


 男の名は「カンスケ」というそうだ。カンスケは来賓した王族の真の来訪目的を探る様に言い渡した。


「は!」


 予想していた命令だったからなのか申しつけを渡された後すぐに返事をするカンスケ。

 2人の返事を聞いた妙齢の女は


「では行け」


 と申し渡した。


「「は、これより事に当たります」」


 2人はこの返事以降何も言わなくなった。・・・と言うよりその場から立ち去った様だ。奥座敷は今の雰囲気通り暗く静かな雰囲気に戻った。


「少し前まではゆったりとしておったというのにのぉ」


 苦言を呟く様に取ろする妙齢の女。

 その時妙齢の女の後ろからドタドタと小さくも大きな足音が聞こえた。


「カカ様~!」


 可愛らしくもやんちゃで腕白そうな少女の声が聞こえて来て、ガバッと妙齢の女に抱きついてきた。簾のシルエットからして幼いようだ。

 優しく受け止めた妙齢の女は少し呆れ気味に


「これ、チャチャ!ここでは妾の事は「カミコ様」と呼ぶように申しておろうに!」


 と注意する。どうやらこの妙齢の女は「カミコ様」と呼ばれる存在のようだ。オオキミでは国王は「オオキミ様」と呼び、女性の場合であれば「カミコ様」と呼ばれている。つまり実質このオオキミの王族に当たる人物の様だ。


「はい、カカ様!」


 分かっていないのかそれとも態とそう言っているのかまでは分からないが、変わらず「カミコ様」とは呼ばず「カカ様」と呼んでいる様だ。「カカ様」とは母という意味だ。つまりその少女はカミコの娘という事だ。


「これ!チャチャ!早う寝え!」


 更に軽く注意するカミコ。その言葉にチャチャはクスクスと笑って


「はい、カカ様!」


 と返事をして返事をしたチャチャはキャッキャッと燥ぎ笑いながらタタタッと走り去った様だ。その様子にカミコは


「一体誰に似たのじゃ・・・?」


 と言いつつ小さな溜息をついていた。カミコは困っているがどことなく今のこの時間が幸せだと言わんばかりにニッコリと笑ってチャチャを構っていた。

 その証拠にその影の耳より6cm上に三角形の形をした何かがピコピコと動いていた。

本当に長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

今後の予定ですが、11月はもう3話程投稿します。12月は普段通りに投稿しますが、12/31~1/4まで連続投稿する予定となっております。

ただ、その後の投稿予定は決まっていませんし、仕事や体調面で頻度が落ちてしまうかもしれません。こんな不安定な投稿で申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いいたします。

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