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221.不明な点

今回は長めです。

 現時刻20:00~21:00頃の事。人々の目に映るものが一気に限られてしまう時間帯。遠くのものほど暗く何も見えず、手元であれば手探りで探さなくては分からない位の暗闇が支配する世界。故に頼りになるのは火の灯りか、灯りを出す魔法によるものでなければよく分からない。

 いや現代世界でもより明るくなったとはいえ、懐中電灯や電気式ランプはおろかサーチライトや街の灯りですらも完全なる闇を光で覆いつくす事が出来ない。そんな世界で時間帯の中街中は提燈に似たランプや和風にアレンジした洋式ランプ、中には小型で折り畳み式の龕灯を持っている一般人が行き交っていた。

 行き交う目的は今日一日の疲れを癒す、若しくは吹っ飛ばす為に酒を飲む為に動いていた。中には不満や自慢を誰かに聞いてもらいたくて異性がいる居酒屋を選んだり、其処に参加するだけで非日常のスリルを味わえる為に博打が出来る居酒屋を探す者もいた。

 この国では遊ぶ為に軽い賭け事と異性を買う事は許されている。だからそれらを売り買いしている事に決してご法度ではないからそういった店がよく見かける。最早「色町」と表現してもいい位の街中も存在する。

 そんな夜の町が活発になる時間帯、シンは浴衣姿だった。そして灯りのない男部屋で既に布団を被っていた。その姿は拗ねて不貞寝している子供の様だった。


「「「ハハハハハハハハ…!」」」


 シンが居る部屋の壁から賑やかな声が聞こえていた。どうやら隣の共同部屋で何か談笑していた様だった。





「くくくっ・・・はっはっはっはっは!そっかそっか、あいつにはアカナメには寄って来なかったか・・・」


 ケラケラと大笑いしていたのはサクラだった。

 ここ共同部屋ではシンを除くサクラ達が集まって今日の事について話をしていた。当然、この宿の浴衣を着てゆったりとした格好であり、部屋の灯りは辛うじて部屋全体が分かる位の光量のランプで照らし、酒と肴を用意していた。


「まるで拗ねた子供の様だったよ」


 クスクスと笑いながら言うサトリ。


「今はブランケットにくるまっているのか?」


 話をする為に一旦堪えて話をするも、未だに笑いが出てしまい、話の途切れ途切れに「くふっ」と笑いが零れるサクラ。


「そうそう。・・・というかサクラさん、それを言うなら掛布団」


 軽く頷き、ついでにこの国ではブランケットとは言わない事を伝えるサトリ。そんな笑い合う2人にステラが


「シン様には申し訳ありませんが・・・くふっくくくふふふ…」


 と先程迄笑いを堪えていたがついに耐え切れなくて噴き出してしまうステラ。


「あまり笑っては・・・なりま・・・せんぞ・・・」


 同じく笑いを堪えているもついに耐え切れなくて噴き出してしまうアルバ。


「アルバも笑っているではないか」


 そんな様子に冷静に言うサクラ。


「こればかりは仕方がないだろう。意外な一面を見れたのだから」


 アンリは小さく微笑む様な形で笑っていた。

 各々があらゆる形で笑い合って、隣で眠っているシンに聞こえてもおかしくない声量になっていた。そんな彼らだが、一頻り笑い合った後、笑いが徐々に収まっていく。そしてシンの事についてで気になる事を口にするサクラ。


「しかし、アカナメに嫌われるなんて事があるのか?」


 その疑問にサトリは小さな声でう~んと唸って答え始める。


「嫌われるというよりも相手が綺麗すぎて食べる所がなかったらからというのが正解かもしれないな」


 意外な答えに一同キョトンとした顔になる。


「つまり、あいつにはアカナメに擦られる様な汚れが無かったという事か?」


 サクラの言葉に言葉に詰まった時の小さな声で「う~ん」と唸りながら自身の考えを口にするサトリ。サクラが言っている事が全く分からないわけでも無かった。というのは垢が全く無い人間と言うのはまずあり得ないからだ。サクラは医療が発達した国で育っているから疑問に思う。その上こう言った手の話はサトリにもしている。

 だからサトリもさっき言った言葉に対して疑問の念を持ったのだ。


「或いはシン自身アカナメに嫌われる何かの匂いを出していたからか」


 その言葉を聞いたサクラは目元が鋭くなって


「匂い?」


 とオウム返しをする。


「「「・・・・・」」」


 その言葉に一同思わず黙ってしまい沈黙の空気が漂っていた。

 その十数秒後に


「まっさか~」


 とサトリが手をヒラヒラと揺らしてカラカラと笑い気味にそう言った。その瞬間ドッと笑いが起きた。また部屋の中が騒がしくなる。これも考えられない話だ。

 確かに身を守る為に体から他の動物から嫌われる様な匂いを発する生物は確かに存在するし、この世界にも当然いる。だがシンは見る限りでは自分達と同じ人類で普人族だ。だからこの可能性は限りなく低い。だから「あり得ない」と一同は考えて冗談で笑って済ます事になった。

 だがこの中で決して笑っていなかったのはアンリとサクラだけだった。


「そうだよな、そんな訳ゃないもんな」


 サトリがそう言うと小さく頷くステラとアルバ。

 だがサクラの次の言葉でこの場の全員がキョトンとした空気で凍り付いた。


「いや、そうかも知れないな」


「「「え?」」」


 一同、サクラの方へ注目が集中する。


「あいつ自身の体から何かツンとした薬草の様な匂いがするんだ」


 サクラの言葉にアンリは疑問に思っていた事を口にする。


「自分の身体に香水とかそう言ったものを体に塗っているのではなく?」


 確かにツンとする匂いの薬品の様な香りのするものを体中に振りまくのは、冒険者でもある事だ。

 というのは冒険者は森や草の中と言った自然の中に入って調査や探索をする仕事が多くある。その為、毒虫やヒル、蚊と言ったものに食われる事が多い。その為、虫よけ剤としてキツイ匂いのする除虫菊の様な薬草の汁を体に塗る必要がある。だから一般人がそんな薬草の匂いしていても別におかしな事ではない。

 だがアンリの問いかけにはサクラは首を横に振った。


「最初はそう思ったのだが、匂いの元が体からなのは間違いない」


 自信満々に答えるサクラ。

 サクラは吸血族だ。吸血族は嗅覚が敏感で血の匂いや体臭の匂いを嗅ぎ分ける事が出来る。それ故にサクラが言っている言葉が嘘や偽りはおろか、間違っているとは誰も言わなかった。


「・・・体臭が薬草の様な匂いのする種族っていたか?」


 アンリはチラリとサトリの方へ見る。この国出身のサトリなら何か変わった種族がいるかもしれないと踏んでの質問だった。


「いや、聞いた事も無いな。巨人族ならそうした匂いはするが、シンさんは普人族だと思うからあり得ないな・・・。「高笑い」なら何か知っているかもしれんが」


 首を横に振るサトリ。代わりに知っていそうな者を提案する。


「ウルター、か・・・。彼なら知っていてもおかしくないか」


 サクラはこの場に居ないものの名前を口にして納得する。どうやら「高笑い」というのは2つ名で本名はウルターという様だ。


「・・・一度、奴にも顔を合わせる必要があるか」


「そうね、何せメンバーの中で一番の古株だから」


 サクラとアンリの言葉からして、ウルタ―と言う人物は古株、つまりかなり年を取った人物である事が分かる。

 一先ず話が進まないから、進むかもしれない方向を決めた一同はアルバとステラ以外の者が肩の力が抜けてその場でリラックスした。


「分からない事が多いな、シンさんという存在は」


 小さな溜息をつきながらそう言うサクラ。その2秒後に「分からない」と言う単語からある事を連想した。


「分からないと言えば・・・」


 その言葉に気が付いた一同はサクラの方へ注目の視線が集中した。


「あの死体は何なんだ?」




 所変わってオオキミ支部ギルドのギルド長室にて。

 今この場に居るのはアワダとマエナガだけだった。今現在ギルド長であるマエナガがロクロクビの被害者である例の遺体の事についての意見とアワダのギュウキに関する事について等を対面する形で2人とも椅子に座って意見交換して考察をしていた。


「身元が分かりませんか・・・」


 すこし残念そうに言うアワダ。


「うむ。そればかりか彼らは密入国者の可能性もある」


「密入国者、ですか」


 この国ではよくある話なのだが、ここまで同じ装備で整っているのは稀だ。

 この国は良くも悪くも恵みがある。自然の恩恵が大陸とはあまりにも違う点が多い為、それを利用して億万長者人ある事も決してあり得ない話ではない。だが危険が多くある為、入国する際には厳しい審査が必要になる。

 その厳しい審査を抜ける為に密入国する者は決して少なくない。当然、オオキミにとっていい話ではない。密入国する際に地元の人間でも危険地帯である事を知っている場所を入国してその時に危険な怪物と鉢合わせして襲われて食い殺される事がよくある。

 そうなればその怪物は人間の味を占めたり、人間に対する危険認識の低下により平気で人間を襲う様になってしまう。それを避ける為に密入国者は厳しく取り締まっている。

 刑罰は重ければ処刑、軽くても多額の罰金刑に処される。

 それだけ危険な事である事なのにも関わらず、豊かさを求めるという強い欲望がある限り、密入国者は絶つ事はない。


「彼らは何者なのか・・・」


 眉間に皺を寄せそう言うマエナガ。


「まるで兵士ですね」


 考察するアワダはそう愚痴を零す様に言う。

 マエナガは他に情報がないかと訊ねた。


「・・・他に同じ格好の者は?」


「それを訊ねるという事はそちらも把握していないのですね・・・」


 アワダの言葉にお互い大きく溜息をつく。


「それにしても、連中のあの装備は・・・」


 呆れた様に言うマエナガに


「ええ、まるで死にに行くような格好ですね」


 同じく呆れた口調で答えるアワダ。

 それもそのはず。弟子達の格好は人間相手を目的とした軽装備だからだ。

 この国の危険生物や怪物等の事を考慮すれば、最低でも冒険者の様な格好で挑むのが普通だ。それこそ、携行食や縄、薬、ナイフ等々の野宿等が出来る様な物を持っている。

 だが弟子達の装備はそれらがない。そればかりか、武器は対人用が中心で、軽防具は一般的な丈夫さはなく、回避を重視したものになっていた。

 そんな装備でこの国の自然地帯に挑むのは自殺行為だ。


「一体何を考えているのだ・・・?」


 疑念が重なる事に声のトーンが低くなっていくマエナガ。


「この国の事を知らずに入国したのでしょうか?」


 困惑気味に疑問の言葉を口にするアワダ。

 対してマエナガは


「或いはこの国の事をナメているか・・・」


 と低くドスの効いた声を発する。この言葉の意はこの国の事を低く見て侮ってやってきた大陸側の人間ではないかという意味だ。


「・・・・・」


 その声にアワダは鋭い目をして殺気が漏れ出していた。

 マエナガの意を察した様だ。

 2人ともこの国の出身故にこの国で()()()()()事をしようとする者達に対して強い怒りを露わにした。


「いずれにせよ、ロクロクビの被害は最近多くなってきているのは事実だ。・・・あまり言いたくないが、もし連中がロクロクビに寄生されているなら、後は報告を待つしかない」


 一度冷静になったマエナガは徐に立ち上がり、ゆったりとした深呼吸してこれからの事についてを提示した。


「この件は仕方がないですね」


 アワダも冷静になってマエナガの提示した案に頷いた。今は情報が少ない。

 こうした事情により、そう納得して頷いた時、マエナガは少し考え込む様にして黙った。


「・・・・・」


「どうかされたのですか?」


 マエナガの様に気が付いたアワダも立ち上がり、顔を覗いた。


「最近、漁業の収穫が盛んになっているな?」


 その言葉にアワダは首を傾げた。


「ええ、それは喜ばしい事では?」


 マエナガの世間話にアワダは話の方向性や趣旨が分からず、半ば適当に返した。だが次の言葉で糸を張った様に緊張感を持った。


「いや逆だ」


 マエナガの目は酷く真剣。


「と言いますと?」


 その事に気が付いたアワダは声色が重く固いものになる。


「海向こうで何か恐ろしい()()が近付いてきて浅い所へと追いやられているから大漁になっているかもしれない」


 飛び出しそうに目を剥いたアワダは短い息を吸った。


「っ!すると、ギュウキがこの近くにいるかもしれないという事ですか?」


 その問いにマエナガは静かに頷いた。


「決してないとは言い切れぬ」


「・・・・・」


 マエナガの言葉で漸く話の趣旨とどれ位の危機なのかやっと分かったアワダ。

 無理もない。

 アワダは飽く迄警務隊、つまり治安を守る組織に所属している。狩りや漁業を主な仕事であるギルドでは分かる事でも警務隊では分からない事の方が多い。

 だから今の状況がどれだけの危機が迫っているのかが曖昧な物が多かったのだ。

 思いつめた様な顔になったアワダを見たマエナガは


「すまん、威かせすぎたな」


 と謝罪した。

 現状は飽く迄も状況証拠が出ているだけに過ぎない。これだけでは組織レベルで動かす事は出来ない。


「い、いえ。・・・ですがその可能性ですと早急に」


「うむ、手を打たねばな」


 だからと言って動かないわけにはいかない。

 今できる事をするべき。

 2人はそう考え各々が出来る事を提示しあい始めた。


「この事は上に報告は?」


「部下に早馬で行かせました。恐らくもう耳に届いている頃だと」


 一拍空けずにすぐに答えるアワダ。


「そうか」


 アワダはギュウキが目撃した事について警務隊の上層部に報告する事にした。その為、総本部がある町まで部下に早馬で報告しに行かせたのだ。


「引き続き調査します」


「うむ、我々も可能な限り調査する。場合によってはギルドの正式依頼として張り出す事も検討する」


 やはり今できる事と言えばこれに尽きる。

 現在、謎の死体が発見されたのがスタートなのだ。という事は情報は余りないという事になる。

 だからどう考えようとも情報が少ないものは少ない。故に情報をかき集めるのが最善と言う他ない。


「それから私はギュウキを目撃したとされている村にもう一度向かおうと考えております」


 アワダはギュウキを目撃したとされるあの現場にまだ何かあるかもしれないと考えた。

 現場百遍。

 事件現場にこそ解決への糸口が隠されているのであり、100回訪ねてでも慎重に調査すべきであるという意味の言葉で、警察による事件の捜査等に際して使われている。

 だが警察関連でない場合にも使われる事もある。

 今回もそうだ。


「うむ、気を付けてな。ギュウキと連中の件、全くの無関係とは思えんのでな」


 冒険者ギルドは言わば、一種の調査機関みたいなものだ。だからアワダの言葉に決して異議や疑い等はなく、すんなりと頭を縦に振ったのだ。


「はい」


 アワダは強くそう返事をして立ち上がり、ギルド長室を後にした。

ここ最近まで自分は9月から投稿した話を修正に入っていましたが、まだできていない部分がございます。申し訳ございません。

それから9月以前の話を読者の方々から誤字脱字の報告を下さりました。お陰様で大変助かっております。ありがとうございます。


書き忘れの為、追記。

11/11位に1話程、投稿して今後の投稿頻度についてと今後の活動についてを報告します。グダグダで先延ばし先延ばしにしていって結果として思う様な話を執筆できない上にミスが多いという悪循環。

こんな作者で申し訳ありません。

そして読んで下さりありがとうございます。

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