表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
22/396

20.転生者と来訪者

 凍り付いた朝食の場。その理由はギアが言ったこの一言。


「そこの娘は「転生者」のようだが?」


 そこの娘。それはエリーの事を指していた。


「ギア、「転生者」って何だ?」


「む?そこの・・・エリーと言う娘?に聞かなかったのか?」


 シンはエリーに目を向ける。エリーは何かバツが悪そうに目を背ける。


 するとギアが何か考えエリーの方へ向く。


「エリーとやら、我は人間の事情はあまり知らんがシンに知られると何か困る事があるのか?」


 そっと聞くギア。だがそれでもエリーは口を噤んだままだった。


「・・・・・」


 シンはある事を思い出す。


「エリー、もしかして前に言っていた言いづらい話の事カ?」


 それは「“日本人”がいる世界の人間」の話だ。するとエリーはコクンと頷く。


(やはり・・・。それにエリーと俺がこんなに日本語で話しているのに皆は驚いてた様子はない。つまり最初から知っていた)


 シンはエリー達と最初にあった時の事を思い出す。おかしな点はいくつかあった。

 まず、シンとエリーが日本語で話が通じているのに他の皆は驚いていた様子は無い。つまり、エリーの秘密は皆知っている可能性がある。

 次にエリーは何故かシンの事を日本人と言っていた。だが、詳しく語ろうとしない。シンはエリー個人の問題と受け止めてしまっていたが別の理由だろう。

 最後にギアに対して警戒心が丸出しと言って良いほど身構えていた事。シンはここまでのおかしな事をまとめて一つの結論にたどり着いた。


「もしかしてエリーが「転生者」って事が誰かに知られてしまうと何かまずい事があったじゃないのカ?」


「!」


 エリーは数秒程間が空き静かに頷く。


「・・・どういう事だ?」


 ギアはどういう事なのかさっぱり分からず何か分かったシンに聞く。


「多分だが、この世界では「転生者」の扱いはあまりいいものではないのだろウ。どんな形でエリーと皆が出会ってエリーの事を知ったのかは知らないが、少なくとも皆はエリーの味方ではあるだろウ。」


「ふむ・・・」


 詳しく自分の語らないのは恐らく自分の身を守る為。しかし、シンはまだ腑に落ちない事があった。


「けど、分からない事がいくつかあル。何故、俺に話さなかっタ?それから何でギアに警戒していタ?」


 エリーは馬車からこっそりと隠し持っていた書類をシンに見せた。


「これは・・・リスト?」


「うん、シン兄と一緒に馬車に言った時に見つけたの・・・」


 やや黄色ががった羊皮紙に6名の名前が書かれてあった。そこにはナーモ、シーナ、ニック……と連なって書かれていた。恐らく馬車の中にいる奴隷の詳細だろう。だが、一部シンは分からない単語が書かれていた。それはエリーの名前の横の所に書かれてあった。


「これは「・・・~の・・・~の、・・・あり、売る」。いや「売れ」カ?」


 部分部分の助詞や単語しか分からないためリストの要点がよく分からなかった。


「・・・何て読むんダ?」


 ギアはシンが見ていたリストを覗く。


「・・・ふむ、「通常の倍の額、可能性あり。国に売れ」とあるな」


「読めるのカ?」


 シンはギアが文字が読める事に驚いていた。


「うむ、この世界の文字であればたいてい読める」


「・・・・・」


 文字が読めないシンは心の中で文字が読めない事に対するもどかしさとギアに対する見方が大きく変わった。


「だが、「通常の倍」とはどういう事だ?さっぱり分からん」


 ギアが疑問に思っていた事を口にしする。シンも同意する。


「ああ、それは俺も気になっタ。それに「国に売れ」っテ・・・」


 ギアとシンはリストにある「通常の倍」の意味は分からなかった。ただ、これでわかる事はきな臭くあまり良い事ではないという事だ。


 シン達が唸っているとエリーが


「・・・利用価値があるから」


 と答える。


「利用価値?」


「うん・・・」


 6人の子供の中でエリーだけが「利用価値」。エリーは「転生者」。2つの単語で推測し最も考えられるのは・・・


「もしかして「転生者」は一般人と違って何か特殊な能力でもあるのカ?」


 特別な力を持っている事だ。シンは導き出した答えをエリーに問う。するとギアが


「確かに「転生者」や「来訪者」には特別な力を持っていることが多い」


 と答えた。ギアの口から聞きなれない単語が飛び出していた。


「待て、「来訪者」って何ダ?」


 シンはギアの「来訪者」という単語に反応する。


「うむ、「転生者」はかつて違う世界で何らかの形で死に、この世界に転生する者の事だ。逆に「来訪者」はこの世界に召喚或いは向こうから出向く者の事だ。まぁほとんどの場合は召喚だ。双方に共通するのは特別な力を持っている事が多いのだ」


 そこまで聞いたシンは絶句する。何故なら自分もそのどちらかの可能性があるからだ。


 ギアは様子がおかしいシンを見る。


「それでシン、其方はどちらだ?」


「!」


 ギアはシンが「転生者」か「来訪者」のどちらかではないかと考えていた。


「・・・分からなイ」


「分からない?」


「俺は前の世界で眠って、気が付いたらこの世界に居タ。前の姿と今の姿とは違うんダ。しかも、この世界の魔法では無い魔法を持っていル・・・」


 嘘は言っていないが、自分が望んでこうなった事については言わなかった。


「よもやとは思っていたが・・・。我の魔力が急に半分まで減らされていたのもそれか?」


「ああ、そうダ」


「ふむ、だとすれば言葉の訛りにも合点がいく」


「?」


「喋りづらい或いは、言葉が通じなかったといった事は無かったか?」


 思い当っていた。シンは頷く。するとギアは推測していた事を話す。


「本来、「転生者」と「来訪者」は魔法によって言葉が通じるようになっている。だがシンは違っていた。つまり、其方はこの世界の魔法が効かないかもしれないという事だ」


「・・・!」


 シンはポーカーフェイスである顔の内目が少し大きく見開く。自分の存在について大きく考えさせられる事が一つ出来てしまった。

 自分は何者でそして何のためにこの世界に・・・




 場の空気がより重くなる。その場の空気を変えようと思ったのかギアは話の路線を戻し、エリーに尋ねる。


「話が逸れたな。エリーよ、利用価値と言うのはもしや戦争ではないのか」


 転生者と来訪者には特殊な力がある。この世界の住人以外の力を持っておりそれを欲しようとしているのか戦争をしたがっている者達。


 或いは国だ。


「・・・・・」


 エリーは頷く。


「・・・もし事実ならば、近いうちに其方達を狙う者が来るだろう」


 狙ってくる。という事はどこかと戦争でもしているのか?とシンはそう考える。


「どことどこが戦争しているんダ?」


 皆に問いかけるように尋ねるシン。すると、その問いを答えたのはギアだった。


「確か帝国と隣国のエーデル公国だったか?以前戦争しておったな・・・」


 シンは答えたギアへ向く。


「・・・・・今ハ?」


 少しだけ間を開けてからギアに訊ねる。


「今は休戦となってはいるが、帝国は隣国に戦争を仕掛けるために準備をしているという噂がある」


「そうカ・・・。そう言えば、俺達がいる所が分からないな。ギアは分かるか?」


「うむ、ここは帝国領だ。」


「・・・そうカ」


 シンは呟くように答える。改めてこの先について考え直さなければならなくなった。



 だが今はエリーに聞きたい事があった。


「エリー、もしかして連中の狙いがエリーと俺である事が俺に知られるとエリー達を助けられなくなって俺がどっか行くと思っていたのカ?」


「・・・・・」


 エリーは頷く。


「じゃあ、ギアに対して警戒していたのは俺達を狙ってきた連中の一人だと思ったのカ?」


 再び頷き、シンは少し考える。


「・・・・・」


 数秒間が空くと今度はギアを見る。


「ギア、俺とエリーが怪しいと思ったのはいつダ?」


「其方達を最初に見た時からだ」


「・・・もしかして「解析系」があるのカ?」


「何だ、知っておったのか。・・・まぁ、その通りだ。」


 シンは声を掛ける前から、エリーは窓から外を見ていた時からだった。


「なるほどナ・・・」


 シンは瞼を閉じ、黙り考え込む。

 閉じていた瞼を一気に開き皆を見る。



 シンは大きな決心をする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ