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217.意外

 

 カッカッカッカッ…


 現時刻7~8時。朝日が昇り切り、各々が朝飯前の仕事を終えた後、漸く朝食にありつける時間。

 箸を持って器を勢い良く素早くかき回している時の箸と陶器製器とが当たって擦れた時の音が2人の器から聞こえていた。卵独特の濃厚で生臭い香りが漂ってきている。同時に醤、シンから言えば醤油の香りが鼻腔を擽る。

 朝食のメニューは焼き魚、多分冷奴と思われる白い立方体の食べ物、ダイコンと人参に似た根菜類の酢漬け、鶏肉の・・・香りからしておそらく梅肉和え、山菜の味噌汁、ダイコンに似た根菜類の御香物だった。

 シンとサトリが持っている一つの器でかき回していたのは卵かけご飯だった。2人は卵かけご飯を納得がいくまでかき回した後、そのまま口の中へ流し込む様に頬張った。

 朝食を摂っている最中、2人にサクラ達の視線が集中していた。


「何だ?」


 シンとサトリ以外の視線は信じられないと言わんばかりのものだった。そんな視線にシンが尋ねるとサトリは「ハッハッハ!」と笑っていた。


「無理もないよ。わっし達が食べている物が物だから」


 その言葉を聞いた時、シンはすぐに納得した。


「ああ、そうか。生卵か」


 外国では食中毒のリスクを懸念している為生卵は食べない。主にサルモネラによる食中毒が多く、日本でも賞味期限を過ぎた卵が原因で子どもが死亡した事例がある為、生で食べない事だ。また、乳幼児や高齢者、妊娠中の女性、免疫機能が低下している場合しっかり加熱調理する必要がある。

 ただ品質管理や衛生管理が十分に整っていない海外では、食中毒になる人が毎年続出している事が悪いイメージを定着させた一番の理由だ。食中毒を防ぐ為に十分に卵を加熱して食べる事が推奨されている国も多い。

 日本人なら知っていると思うが、洗卵、検卵、選別等の厳しい品質管理が行われている為、賞味期限さえ過ぎていなければ生でも問題ない。


「その通り」


 少し呆れ気味にそう答えるサクラ。


「信じらない。そんな体調を崩すかもしれない物を腹に収める等・・・」


 アンリはいまだに信じられないという顔をする。


「普通は火を通して食べるものです。その様に生で食べる等・・・」


 少し戸惑い気味にシンの器を見るステラ。


「半熟でしたら、まだ分かりますが・・・」


 同じ反応するアルバ。


「取れたての時は生でも大丈夫だ」


 シンはそう言って生でも大丈夫である事を言った。するとサトリから補足の説明が入った。


「それもそうだが、この国の卵はキンキンに冷えた川の水に沈めて汚れを洗い流しているから生のままでも問題ないよ」


 サトリは穏やかな口調で安心させるように言う。


「そ、そうなのか・・・」


未だに少し戸惑い気味のサクラの手元を見るシン。


(下手くそだけど、箸の使い方ができる様になってきているな・・・)


 サクラ、ステラ、アルバ、アンリ達がシンと初めて食事を摂っていた時、拙い箸使いだったのだが、今の食事風景から見て以前と比べると上達している。


「ほぉ、思っていたよりかはイケるな」


 どうやらサクラは卵かけご飯の味が気に入った様だ。

 恐らく卵の生臭い香りが平気なのは恐らく吸血の時、血の独特の生臭さで慣れているからなのだろう。一口頬張った後、そのまま食を進めていくサクラ。

 対してステラとアルバは一口頬張るもやはり抵抗があった。


「生臭さが・・・」


「このねっとりした食感が・・・」


 一口一口食す毎に段々と顔が顰めていく2人。


「ああ、やっぱりステラさんとアルバさんにはちょっときついか」


 サトリはカラカラと笑う。


「まぁ、食べれなくもないか・・・」


 アンリは好きでもないが嫌いでも無いと言わんばかりに言って卵かけご飯を食べ進んだ。


(このアンリと言う小人族の少女・・・は魚が好きみたいだな・・・)


 シンは初めてこのメンバーで食事していた時、アンリが食べ進めていた時の事を思い出していた。魚が好きなのか朝食が出て早々、アンリはすぐさま魚に食いつく様に頬張り始めた。そして現在、魚は骨だけとなっていた。

 シンは各々の食事風景を眺めながら朝食を済ませた。





 午前10時位の時間帯。辺りは朝とは言えずかと言っても昼とも言えない時間帯に張り切って仕事を始める者達が安定して動き回る時。

 その時シン達はオオキミ支部ギルドの前にいた。シンは両手首に拘束こそ解かれたが、全身の皮膚にピンと張った蜘蛛の糸の様な感触があった。恐らく糸の鳴子の様なものでシンを監視を付けているのだろう。

 だからシンは迂闊に下手な動きが出来ないでいる。

 そんなシン達は外で待つ形で待たされてサトリがギルドの中に入っていったのだ。そして用事が終わって出てきた。


「お~い、仕事を受けたよ~」


 そう言って手を振ってギルドから出てきたサトリにサクラは少し呆れ気味に訊ねる。


「態々ギルドでお前は何を受けたんだ?」


 サクラの問いにサトリは持っていた依頼書を広げて見せつけた。


「ロクロクビの討伐だよ」


 依頼書が書かれている通りの事をそのまま飄飄とした口調で答えるサトリ。


「ロクロクビ?」


 サクラは聞いた事も無い単語にオウム返しする。シンは「ろくろ首」と言う単語自体は知っている。


(確か首が矢鱈長い何かよく分からない妖怪だったな・・・)


 シンが知っているろくろ首は首を伸ばして相手を驚かせるだけの妖怪。江戸時代以降『武野俗談』、『閑田耕筆』、『夜窓鬼談』等の文献に「寝ている間に人間の首が伸びる」と言う話として度々登場する。最近では心霊科学でいうところのエクトプラズム(霊が体外に出て視覚化・実体化したもの)に類するものとの解釈もある。ろくろ首の伝承は頭が胴体から離れて浮遊する中国の妖怪、「飛頭蛮」に由来すると考えられており、古典の怪談や随筆によく登場し、妖怪画の題材となる事も多いが、ほとんどは日本の怪奇趣味を満足させる為に創作されたもの考えられている。

 しかしこの国のロクロクビはかなり違う事をサトリの口からシンの耳に入る。


「ロクロクビは蟲なんだよ」


 飄飄とした口調ながらもどことなく困惑、或いは言い難そうな言い方をするサトリ。


「蟲?」


 シンは「ろくろ首」と「蟲」がどういう関係性があるのかが分からずサクラと同じくオウム返ししてしまった。






 同時刻。

 蛇の鱗の様な鎧を身に付け、茶色の少林寺の修行僧のカンフー服を着ている男が森のど真ん中でフラフラと歩いていた。


「おい」


 そう声を掛けたのは同じく蛇の鱗の様な鎧を身に付け、茶色の少林寺の修行僧のカンフー服を着ている男がいた。この2人は師父と呼ばれる老人の元にいた弟子達のようだ。

 フラフラと歩いている弟子に近付くもう一人の弟子。


「おい、聞いているのか?」


 恐る恐る肩に手を掛ける弟子。すると振り返るフラフラと歩く弟子は振り向いた。


 良く見れば鎧や服がボロボロで薄汚れている。武器も持っておらず、傷だらけで顔色も土色になっており悪い。明らかに様子がおかしい。

 これは拙い。

 彼がそう思った時、フラフラと歩いていた弟子の口から


 ヒュー…ヒュー…


 喉笛をかっ切った様な不安を煽る嫌な音が聞こえる。


「お前、大丈夫か?」


 本来なら同じ弟子でも修行している時は手を貸す事や手を出す事はご法度だ。だが師父がこれからやろうとしている事、そして自分達、弟子達の悲願を達成させるには一人でも多く戦闘に関わる様にせねばならない。

 だからご法度に触れる事になってもいい。

 そう考え両肩に手を掛けて軽く揺さぶってフラフラと歩いている弟子に大きな声で呼びかけた。


「おい、しっかり・・・」


 ガシッ…


「っ」


 酷く強い力で両肩を手に掛けた弟子にやり返す様に両肩を掴むフラフラと歩いている弟子。強い力で掴んだ事に痛みが走り、思わず苦痛の声を漏らす弟子の目に映ったのは信じらんれないものだった。


「あ」


 それは目から頬から開いた口の歯茎から白い針金の様な細長いウネウネト動く糸の様な気持ちの悪いモノ、恐らく寄生虫が無数に湧き出てきた。


 バキゴキッ


 寄生虫に寄生された弟子は首の方から骨が折れる音がして首が千切れ、伸びた。伸びた首は断面が見えず代わりに無数の白い寄生虫が筋肉の繊維の様に束ねてそのまま声を掛けた弟子に向かって小さく伸びた。


「ぐごぎゃっがぁっぁぁぁっぁぁぁ…」


 顔と首から出た寄生虫が声を掛けた弟子の顔に接触してそのまま口の中に入り込んだ。無数に入り込み喉に不快な異物感と目と歯茎に激痛が走った。


「~っ」


 口に入り込んだせいで声が出せずそのまま寄生される事を許してしまった弟子の力が次第に抜けていく。


 ドサッ


 膝から落ちてそのまま地面に倒れ込む弟子に寄生された弟子はゆったりとした動きで再びフラフラと彷徨うかのように歩き出した。


 ビクン…!


 ドスッ…


 声を掛けた弟子が痙攣をし始める。


 ゴリンッ…


 ベキンッ…


 グジュグジュグジュ…


 体中から骨が折れる音、砕ける音、何かが体中の中ではいずり回って気持ちの悪い音が出ていた。音が出る度に腕や足、胴体があらぬ方向に動き回り、次第にその動きに慣れていったかの様にごく自然とした動きになり始める。


 ヒュー…ヒュー…


 虎落笛の様な呼吸音を出し、腕と脚があらぬ方向へ向き、体操のブリッジの様な四足歩行で動き始めた声を掛けた弟子は先に寄生された弟子の後を追いかける様に後を付いて行った。その光景は宛らあるホラー映画の有名なシーンを彷彿とさせるものだった。


 ヒュー…ヒュー…


 ア”~…


 つまり弟子は最初から1人だけで、最後には0人になってしまった。

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