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216.言いたくない話

 ゾクリと身の毛のよだつ鋭い日本刀ののような目で睨むシン。


「・・・・・」


 対してシンの瞳を井戸の奥底を覗き込む様にして見るサトリ。


「・・・・・」


 そんな2人にサクラはサトリのセリフで気になっていた事を訊ねようと声を掛けた。


「サトリ、それは・・・」


 スッ…


 サクラが尋ねようとした時、制止する様に掌をサクラの方へ向けたサトリは


「本人があまり言いたく無さそうだから、この話は無しにしようか~」


 ヘラヘラとした口調でそう答えた。その答えに当然シンもサクラも


「!?」


「は・・・?」


 目を大きく見開く形で驚く。


「サトリ、それはどういう・・・」


 理由を聞こうとするサクラにサトリは盃を取った。


「どうもこうも言いたくない奴に言えって言っても言わんだろうさ」


 カラカラと気楽な口調でそう答えるサトリはクイッと杯に入っていた酒を一飲みする。


「だからそれは・・・」


 サクラが何か言う前にサトリは「やれやれ」と言わんばかりの大きな溜息をついた。


「無理に話させる様な環境でもないし、状況として出来るわけでも無いだろ?」


「む・・・」


 正論だ。

 知りたがるサクラに穏やかで陽気な口調で正論で説得する。サクラはサトリの言葉に何も言えずに思わず口を噤んでしまった。


「なら言うまで待とうじゃないか。シンさん、お酒~」


 いつもの陽気な態度になりシンに御猪口を差し出してお酒を注ぐようにせがむサトリ。


「あ、ああ。どぞ」


 シンは思わず近くにあった徳利に似た容器を手に取って酒を注いだ。


「忝いね。シンさんも鱈腹食いなよ」


 今度はそそくさとシンに食事を進めるサトリ。


「・・・いただきます」


 半ば押されるままにシンはたじろぎが見える返事をする。


「お~、その挨拶を忘れずにか~!いいねいいね~、この国生まれのわっしとしては嬉しいよ~。あ、そのエビ美味いよ~」


 そう言ってシンの肩にポンポンと叩いた。


「・・・・・」


 そんな様子にサクラはただジッと静観していた。





 コーン…


 硬い床に何か硬い物が置かれた乾いた音。辺りが白い霧・・・ではなく湯気が立ち込めて辺りから水しぶきの音が聞こえてくる。


「なぁ」


 白い湯気の中心であり、原因となっている湯の中に浸っていたのはシンだった。シンは1~2程白い湯気の向こうにいる何者かの存在に声を掛けていた。


「何でアルバがここにいるんだ?」


 その人物はアルバだった。

 アルバはシンの方へ向き軽く会釈する様に頭を下げた。


「申し訳ございませんがお嬢様からシン様を監視する様にと申しつけられています。どうかご気分を悪くさせる事に深くお詫び申し上げます」


「・・・・・」


 シンとアルバは夕食の後、入浴する事にした。その事をサクラに伝えるとすぐに両手首の拘束は解かれた。

 代わりにアルバが監視役として付いて来るようになったが・・・


(あの時案外すぐに解いたな。俺が逃げるかもしれないというのに・・・)


 サクラがすぐに拘束を解いた事にシンは少し疑問を持っていた。


(あんな行動を取るという事は俺に聞かれたくない話でもしているのか?)


 すぐに拘束を解いた後、シンとアルバだけが浴場へ行き、ステラはシンの荷物を見張り、サクラとサトリは何かの話をしていた。因みにアンリは先に入浴して女部屋で眠っている。


(俺が風呂に入るに当たって干渉してこないどころか拘束迄解いてくれた・・・のは、まぁ、ありがたいが今度は荷物が人質にとられたからな・・・。ここは変に動かずに風呂を楽しむか・・・)


 シンは入浴を利用してサクラを巻こうと考えたが、すぐに部屋に置いている荷物の事を思い出しすぐに諦めた。部屋にはステラが居り、荷物には金銭とスコップがある。それらを失ってこれからの行動がBBPを頼った行動になる。また、「収納スペース(インベントリ)」に頼って新しい装備に替えたとしても、どこからその装備を手に入れた、とサクラ達含む赤の他人から追及される可能性も十分にある。そうした可能性があるからすぐに諦めたのだ。


(まぁ監視がいるとは言えゆっくりはできるからいいか・・・)


 シンはそう考えて入浴を満喫した。





 共同部屋に残ったサクラとサトリ。

 サクラはサトリに鋭い目を向けてシンの事について問い質していた。


「どういうつもりだ?サトリ」


 低い声で訊ねるサクラにサトリは変わらない陽気な口調で答える。


「さっきも言ったじゃないか。どうもこうも言いたくない奴に言えって言っても言わんだろ?」


 こうした言い草と言い分にサクラはムッとした心境になった。


「なら、お前は気にならないというのか?」


 更に低い口調で訊ねるサクラ。


「気にはなるよ?でもね・・・」


 そんなサクラにサトリは静かで穏やかな口調になって答え始めた。


「無理に話させるなら、他に方法を取ったらどうだい?って言っているのさ」


 その答えにサクラ何か考えあっての事と勘付きすぐにムッとした怒りを鎮めてサトリがやろうとしていた事について尋ねる。


「・・・「食わせ、飲ませ、抱かせ」か?」


「そそ」


 陽気な口調に戻って短く答えるサトリは更に酒を飲んだ。

 つまりシンに何かしらの御持て成しを施して心を開かせるというのがサトリが考えている方法だ。


「・・・・・なら、この国の事について知っているのは」


 サクラが答えを出そうとした時、食い気味に答えるサトリ。


「わっしだけさ」


 穏やかだが自信がある力強い答えを出したサトリ。丁度その時、ステラがサトリが持っていた盃に酒を注いだ。


「・・・・・」


 確かにもしこの国がオオキミ武国ではなくレンスターティア王国であれば、サクラが持て成しや案内を施す様に動く事が出来る。だが残念ながらこの国はオオキミ武国だ。

 しかもサトリはこの国の出身だから詳しい。だから現状ではサトリが持て成しや案内を施す事が出来る。

 サクラはその事に少し歯がゆい思いを覚える。

 だからなのかサクラは話題を変え始めた。


「そう言えばなのだが・・・」


「どうした?」


 陽気な口調に小首を傾げるサトリ。


「お前は何故シンが何かしらの戦争(いくさ)に関わっていると思った?」


 その問いを聞いた時サトリは静かに笑って


「勘、さ・・・」


 と穏やかに答えた。


「・・・・・」


 その答えにサクラ何か言うわけでも無く静かに聞いていた。この時サクラはの目にはサトリの陰に何か重く深いものを感じた。

 そんなサクラにサトリは杯を置いて


「煙草いいかい?」


 と変わらない陽気で飄飄とした口調でそう尋ねた。


「ん?ああ」


 その問に我に返ったように気が付き、少しどもり気味に答え頷いた。


「・・・わっしもいくつもの戦争(いくさ)で沢山遊んだからなぁ~」


 カラカラと笑いながらそう答えるサトリは短い煙管を取り出して煙草を入れて火を付け口に咥えた。


「・・・お前は」


「ん?」


 煙草の御香の煙りを燻らせ香りを楽しんでいるサトリにサクラの言葉に気が付き、思わず素っ頓狂な返事をする。


「お前は遊んでどうだった?」


 サクラの疑問に幾度も出した静かで穏やかな口調になりどことなく懐かしそうに遠い目になるサトリ。


「変わらない答えさ。充実はしていたが、どことなく虚しさがあった・・・。その感覚は今でも変わらない」


 顔襟を楽しむ為だけに軽く口に含んだだけなのか、吐いた煙は短く薄かった。おまけに香りは決して強くなく辺りに紫煙や白煙が残らなかった。


「・・・・・」


 サトリは元服を迎えて武芸の修行の為にすぐに国を出ていった。当時行く先々では必ずと言って良い程に紛争地域が起きていた。サトリが傭兵生活にすぐに入ったのはそう時間がかからなかった。

 人を殺め、金を稼ぐ日々を過ごしていった。そんな日々を過ごせば過ごす程に充実した心境に浸っていき、いつしか虚しさを覚え始めた。

 サトリはそんな虚しさを知る為に更に幾人もの武を携えた者に剣を交えて更に血の道を作った。そんな時、サトリは自分の祖国で自分の答えを出してくれるかもしれない人物の存在を知り、その人物といくさう事を決心した。その為には何かしらの支援やコネを手に入れる為に、サクラが所属している組織に入った。

 サクラもその事を知っていた。


「そんな日々を送ってきたせいで色んな事を学んだよ。その内の一つが戦争(いくさ)の中で生活してきたか、否か、が分かる感覚」


 サトリは穏やかなだがどことなく重みのある言葉でそう答えるとサクラは


「そしてシンは戦争(いくさ)が日常の人間だったと」


 そう尋ねた。

 するとサトリは軽く頷いた。


「多分だがわっしらが思っている以上にあのシンと言う少年はかなりの場数をこなしてきているだろう」


 その言葉にサクラは目を鋭く細めた。


「お前よりもか?」


 サクラにそう尋ねられた時、サトリは少し間を空けて「ふむ」と声を零した。


「いや、そうじゃないな。多分場数よりも戦争(いくさ)の質が違っているのかもしれないな」


 その答えにサクラは一拍の間を置いてから口を開いた。


(いくさ)の質?・・・まぁあいつ自身違う世界から来たからな」


 サクラがそこまで言った時、シンが置かれた日常を少し頭を過る様にして想像した。

 見た事も無い服。

 見た事も無い道具。

 見た事も無い食べ物。

 見た事も無い仕草。

 見た事も無い習慣。

 見た事も無い世界。

 自分がこの世界の常識ではありえない様な事が次々と起きる争いの中で日常として過ごしているシンの姿。

 そんな想像した瞬間、サクラは改めて自分とシンが住んでいる世界が違う事を思い知った。


 バタバタ…


 ガラッ…


 突然大きな足音が共同部屋に迫って来る形で聞こえてきたかと思った瞬間、部屋の引き戸が大きく開いた。


「すまない、サクラ」


 開いた主はシンだった。今のシンの格好はズボンを履いており、シャツは着ずに半裸の上から軽く羽織っただけのだらしのない格好だ。髪は濡れており顔からは水滴なのか汗なのか分からない水滴が滴っていた。

 突然シンが入って来たからサクラとサトリは思わず身構えていた。だが次の言葉で身構えが少しだけ緩める事になる。


「アルバをのぼせてしまった」


 その言葉を聞いたサクラは


「は?」


 と素っ頓狂気味に声を漏らす。


「急いで男部屋に運んだ」


 どうやら監視していたアルバは湯に当たり過ぎてのぼせてしまったようだ。それに気が付いたシンは急いでアルバを運んで着替えてすぐにまた男部屋まで運んだ。


「ステラ」


「畏まりました」


 サクラはステラの名を呼ぶとすぐに廊下の外に出て行った。どうやらサクラはステラに介抱に向かわせる様に命令したのだ。ステラはすぐに察してそのまま出て行ってアルバの介抱に向かったのだ。シンはサクラとサトリにこの事を伝えてに来ていたのだ。

 その事を聞いたサクラは小さな溜息をついて


「そうか。そろそろ時間だし、ここでお開きにするか」


 とサクラとサトリの対談を終える事にした。サトリも軽く頷いて


「だね。アルバはわっしが見とくからサクラさん達は入浴しておいで」


 と入浴を薦めた。


「分かった。・・・とその前に」


「・・・あ」


 シンの両手首を拘束したのは言うまでもない。

 シンは両手首を拘束されたまま白い布団の中に潜り就寝をする事になった。隣にはアルバが横なっており、サトリが面倒を見ていた。

 そしてシンはあの騒ぎの時にそのまま逃げてしまえばよかったと後悔しながら目を閉じた。


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