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213.解消

 日が暮れる一歩手前の事。

 一般的に逢魔が時とか薄明と呼ばれている時刻。

 シンは未だに両手首にはサクラの糸によって拘束されていた。このまま自分で解くにもBBPの存在を明らかにしてしまいかねない。だからサクラに解く様に頼み込んでいたが結局聞き入れてもらえなかった。そんな状態のままサクラ達が泊まっている宿屋に着いてしまった。


「・・・結構豪華だな」


 シンの目の前にあるのは自分が泊まっていた宿屋と違ってかなり大きくて高級な宿屋だった。その宿屋はそれなりに裕福な人間でなければなかなか泊まれない宿屋だ。


「でしょ?」


 サトリは少し威張り気味に答える。

 当然そんな態度のサトリに


「何でお前が威張っているんだ?」


 サクラは呆れ気味に訊ねた。


「いや~つい、ね?」


 カラカラ笑うサトリにサクラは小さな溜息を付きつつシンを犬の様に引っ張って宿屋に戻った。

 当然宿屋の帳簿にシンの名前が記入する。

 無論両手首を拘束されたままで。




 サクラ達は共同用部屋いたシン達。共同用部屋ではシンはサクラの前に座って


「サクラ」


「ダメだ」


 拘束を解く様に頼み込んでいた。だがサクラは変わらず首を縦に振る事は無く、食い気味の返答を送っていた。


「いい加減」


「ダメ」


「これを」


「解かない」


「解いてくれ」


「自分で解いたらどうだ?」


「・・・解けないから頼んでいるんだが」


「自分で解けるだろ?」


 こうしたやり取りを続けているシンとサクラ。やり取りをしていく内にサクラは徐々に意地悪そうな笑みを浮かべ始めシンは変わらずポーカーフェイスのままだった。そんな2人の様子を見ていたアンリとサトリは眺めていた。


「いつまであんなやり取りをしているんだろうね?」


 アンリは呆れ気味に言って頬杖をついていた。


「さぁ・・・。でも自分で解く瞬間を誰にも見せたくないのは間違いなとは思う」


 世間話をする様な口調でそう答えるサトリ。


「やっぱりそれが自分の強さとかあの黒い腕と脚とか関係あるのかねぇ」


 のんびりとした口調だが内容は酷く真剣な内容だ。アンリは普段と変わらない口調で


「多分だけどある」


 とアッサリとした答えを出した。サトリはシンへの視線を切ってアンリの方へ向けた。


「どんな関係かは・・・」


「知らない、分からない」


「やはりか~・・・」


 アンリの食い気味の答えに態とらしくガックリと肩を落とすサトリ。

 同時に2人は変わらずシンへの視線を切らずにずっと眺めていた。


「・・・傍から見ているとじゃれ合っている様にしか見えないね」


「そうだな~」


 傍から見ればサクラはどことなく楽しそうに見える。

 そんな楽しそう(?)にしているシンとサクラだが、やっと話が終わるきっかけが来た。


「・・・もういい」


 先に切り出したのはシンだ。シンはそう言って立ち上がって


「どこへ行く気だ?」


 眉を潜ませて訊ねるサクラ。


「トイレだ」


 素気なく答えるシン。


「「トイレ」・・・ああ、厠か」


 サトリは「トイレ」と言う単語に一瞬首を捻ったがすぐに「厠」だという事に気が付く。

 シンが答えるとサクラが付きの言葉を発した時、一瞬にして場の空気が凍った。


「よし、ワタシも行くぞ」


「「「・・・・・」」」


 サクラ以外の者達がサクラに視線が集中した。サクラ以外の全員の顔が酷く強張っており、疑問の表情になっていた。


「な、何だ?」


 今の空気を読んで流石にたじろぎ始めるサクラ。


「可哀そうに・・・」


 静かに目を閉じして横に首を振るアンリ。


「さ、流石に拘束を解かなくても一人で行かせてやりなよ・・・」


 穏やかで説得の言葉を出しているが態度で明らかに引いている事が丸分かりなサトリ。


「お嬢様・・・」


 口元を手で覆い、何か信じられないものを見て絶句一歩手前の声を発するステラ。


「どうかご再考を・・・」


 アルバは普段の真面目な口調で説得の一言を発する。


「変態少女サクラ」


 ゴミを見る様な酷く凍えて鋭利な刃物の様な言葉をサクラの心に止めを刺したシン。


「・・・・・」


 散々な自分以外の各々の反応を受け止めたサクラは気持ちが沈み始めていく。

 そんな様子に対してシンは落ち込むサクラを通り過ぎて部屋を出る手前まで行った。


「・・・・・」


 変わらず沈んでいるサクラ。そんなサクラにサトリは半ば気を使う様に声を掛けた。


「か、厠の入り口位は見張っておくよ」


 その言葉を聞いたサクラは力無く


「・・・・・ああ」


 とだけ答えて項垂れた。そんな様子のサクラにステラとアンリが寄って身を案じてアルバは茶を入れ始めていた。

 サトリはシンに近付いて


「案内するよ」


 と案内役を買って出た。


「どうも」


 シンはそう答えてサトリの案内の下トイレに行った。





 この宿の品格はかなり高い物だ。そう判断してもいい程にまでトイレは隅々まで清潔に保っていた。トイレは木の板で個室として作られており便器は石造りで酷く清潔でまるで使われていないかのような物だった。便器の渕には高級な壺の様な青い紋様があり、白を基調としていた。

 仮想空間とは言え世界各地で旅をするような生活をしていたシンからすれば感心する光景だ。

 店や宿の品格や清潔さはトイレに表れる。

 格言とか名言、定番文句として表してしてもいいかもしれない。

 そう考えていたシンは奥のトイレの個室に入った。


「大丈夫なのか?」


 シンはアカツキと会話をしていた。


「多分大丈夫だろう。サクラのあの様子だったらトイレしている人間の音を聞いて愉しむ変態ではないのは間違いないから」


 トイレの個室でシンの独り言の様な会話が小さく響いていた。だが響いていると言っても外のサトリには聞こえないようなヒソヒソ声だった。


「あの目隠しサムライは?」


「小さな声を拾う事を考えて一応奥に行っている。まぁあのサトリという男も音を聞いて楽しむとか特殊な趣味は無いと思う」


「なるほどな」


 サクラの時のサトリの反応から察するにサトリはトイレの最中のシンを監視するわけでは無いようだ。飽く迄トイレまで付いて来て逃げない様にする為に動いていただけだ。

 サクラみたいに執拗な監視はしない様だ。


「それよりも何かあったのか?」


 アカツキから通信が入るという事は何か報告があるという事だ。


「まず、いい報せからだ。アダムが資金調達に成功して資産運用と経営を始めた。滑り出しは上々だ」


 その報告を聞いたシンは小さく頷き、喜色を帯びた声を発した。


「そうか。今後のジンセキの経済と資源が潤ってくるな」


 ジンセキを維持するには資源がいる。その資源はどうしても資金を必要とする物も多くある。

 今回の報告でその不安が解消された。


「ああ。それに魔素を帯びた金属の事も調べられるしな」


 しかもこの世界にしかない金属を調査も開始できる。今回の報告からはシンが、ジンセキが大きく進んだ事が窺える事が出来た。

 こうして喜色を帯びた声を発したシンにアカツキは普段の口調で更に報告を続けた。


「今度は逆に悪い報せだ。今晩、俺は月面で補給に入るから上空からとかの支援する事が出来なくなる。ボスのワークキャップのカメラだけしか出来なくなる」


 シンは目元を細めて気難しそうに眉を歪ませた。


「という事は大人しくいるべきだという事か」


 アカツキの言葉を聞いたシンは真剣な口調になる。


「そういう事だな」


「分かった」


 小さな溜息混じりに答えるシンはすぐに頭に思いついた閃きが過った。


「ああ、それからリーチェリカはいるか?」


「何で~?」


 ものの数秒も掛からずにすぐに通信の輪に入るリーチェリカにシンは「早ッ!」と思った。


「ちょっと作って欲しいスタッフがいるんだ」


「聞かせて~」


 若干猫撫で声に聞こえるのは恐らく気のせいではない。間違いなく何か面白そうな事を見つけた時の子供の反応と同じだった。


「ああ、それは・・・」


 シンは製造して欲しいスタッフの具体的な内容を事細かにリーチェリカに説明と注文をした。それを聞いたリーチェリカは子供の様にはしゃいだ声色で


「ええで~!」


 と二つ返事をした。シンはリーチェリカが嬉々としている様子が目に浮かんでいた。


「まぁ、それなら怪しまれずに移動できるな」


 シンの提案を聞いたアカツキは感心したように言うとシンはトイレの時間の事に気が付いた。


「ああ、そう言う事だ。悪いがそろそろ切るぞ」


 急かす様に言うと


「OKボス」


「は~い」


 軽く承諾したアカツキとリーチェリカ。

 その言葉を最後に今日の通信は終了した。シンは個室から出て念の為に誰もいない事を確認してトイレから出て行った。


「スッキリしたか?」


 人を喰ったような口調でそう尋ねるサトリにシンは


「ああ」


 と決して嘘ではない言葉を言った。

 自分が不安と疑問、要望がかなった事に対するスッキリではあるが・・・。


「じゃあ戻ろうか。迷わない様に案内するよ」


「・・・どうも」


 まるで迷子の子供をあやす様に言うサトリにシンは子供扱いの様な態度に少しムッとした感情が言葉に出していた。

 そして、その言葉を皮切りにサトリと共にサクラ達がいる共同部屋へ戻っていった。

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