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212.警戒すべき者

 シンが泊まっていた宿屋は次の宿泊予約をサクラ達によって強制的にキャンセルさせられて、現在サクラ達が泊まっている宿屋へ向かっている最中だった。


「・・・・・」


 シンは両手首に巻かれている糸をサクラが引っ張って連行される形でサクラ達が泊まっている宿屋へ向かっていた。

 シンの前にはサクラとアンリ、アルバが、後ろにはサトリとステラが控える様に歩いていた。この配置からして完全にシンを囲んで簡単に逃がさない様にしていた。


「サクラちゃん、いつもあんな風に揶揄っているの?」


「いや、あれはワタシの気まぐれだ」


 サクラとアンリがそう呑気な会話をしている事を余所にサクラが連行されているシンに行き交いすれ違う通行人や店を経営している店員等から視線がシンに集中して浴びてくる。

 この状況にシンは少しイライラしていた。


「サクラ」


「ん~?」


 サクラはチラリとシンの方へ振り向く。シンは少しそっと耳打ちする様な声で提案する。


「逃げないから、この・・・」


「解かない」


 食い気味の即答。

 さっきからこうしたやり取りが続いていた。シンが威圧した言葉に対してでも穏やかな言葉に対してでもサクラの答えは拘束を解く事を否定した答えばかりだった。


「サクラさん~、いい加減拘束解いたらどうなんだい?」


 サトリは今のシンの状況を見て少し同情心を持ってそう説得する。だがサクラの答えは


「ダメだ」


 拘束は解かないと、一点張り。

 そんなサクラにアンリが答え始める。


「サトリ、哀れに思うのは分かるが恐らく拘束を解いた瞬間その男はすぐに逃げるだろう」


 アンリはチラリとサトリを覗き見る様に後ろを見てそう答える。アンリの答えにサトリは小さく小首を傾げる。


「こんなに囲んでいるのにか?」


 サトリの疑問は最もだ。実際シンは囲んでいて下手な行動が出来ない状況だ。そうであるにも関わらずアンリとサクラは酷く警戒していた。


「恐らくは」


 アンリの妙な説得力のある強い言葉。


「ふ~ん・・・」


 サトリはそう納得した声を出してシンの方を見た。


「・・・・・」


 シンはただ無言になりアンリの方を見ていた。


(あの合図、俺の動きを呼んでいたからなのか?)


 確かにシンを確実に拘束した時の事を振り返るとあの時合図、


「サクラちゃん、糸!」


 この合図を出したのは間違いなくアンリだった。サクラはその言葉に躊躇う事無くすぐに動いてシンを捕らえる事に成功した。

 あの合図を出すにはタイミングが非常に重要となる。そのタイミングを見極めなければ糸は空ぶって糸同士で絡み合っていただろう。

 シンがどう動くか分からないあの状況であのタイミングでサクラに拘束する事を合図したアンリの判断にシンは背筋に冷たい一滴の水滴が流れていくのを感じていた。


(それに俺の両腕がこうやって拘束されているというのに警戒を決して解かない)


 おまけにシンがこうしてほぼ身動き取れない状況に決して警戒を解かない様にしていた。シンは自分の能力であるBBPの存在を公にするわけにはいかないから大胆な動きが出来ない。その為サクラの糸の拘束を解かずにいたのはそうなる可能性が非常に高いから大人しくしていた。


(今までの的確な・・・いや的確過ぎる判断はただ単に経験による直感からくる判断ではないように感じる)


 今までのアンリの判断から経験上からくる手慣れたものではなく、もっと機械的なもののように感じた。

 例えば相手の情報を手に入れ、そこから繰り出す緻密で酷く正確な冷たい計算の上で成り立っているかのような・・・


(もしそうだとすればこのまま下手に動かない方が今後の為になるか・・・)


 睨み付ける様にアンリを見ながら歩いていくシン。

 対してアンリはシンの事を考えながら歩いていた。


(あの時、妙にすんなりと捕まった・・・)


 横目で流す様な形でシンを見ながら今までの事を振り返っていた。

 シンが捕まった時、シンは抵抗する事なくすんなりと受け入れる様に捕まった。アンリはそれが気担っていた。


(サクラちゃんからの情報を考えれば、彼はあの拘束の糸を解く事が出来るだろう。けど解こうとする素振りが無い)


 サクラからの情報の内の一つでシンはサクラよって拘束された糸をいつの間にか解かれていた事を知っていた。アンリはシンがその意図を解く瞬間を見たがっていた。だが今のシンはその素振りが無くさっきからサクラに拘束を解く様に説得をしていた。


(という事は糸の解き方が酷く特殊で他の人間に見せたくない、からか?)


 今のシンの様子からしてアンリは、シンは糸を解く事自体は非常に簡単な事なのだろう。だがその拘束を解く手段自体が非常に特殊だから誰にも見せない様にしているのではないかとアンリはそう推理していた。

 実際その通りでシンが諦めて拘束されたのはシン自身が持っているBBPの存在と能力を誰にも見せたくなかったからだ。


(それにサトリのあの抜刀を避ける為に後ろへ引くというのはなかなかできない。あれが出来るのは自分の手や足の速さに自身が無ければできない芸当・・・)


 アンリは更に拘束される前のシンとサトリが一戦交える一歩手前の事を思い出していた。


(つまり、彼はサクラちゃんですらも知らない何かを持っている可能性が高い・・・)


 アンリがそう考えている時、サトリは自分の顎を撫でながらシンを見ていた。


(わっしの抜刀を後ろに避けるとは・・・)


 通常突撃してくる相手に抜刀すれば足で踏みこみ重心を後ろに寄せて身を引けば避ける事言が出来るのだが、それを即座にするには至難の業だ。


(その上、あの目だ・・・)


 サトリはシンはスコップを振り上げて自分に向かって突撃した事を思い出していた。

 その時、シンの目は手前が仄暗く奥に行けば行く程飲まれていくような暗闇のような目をしていた。サトリはその目を見た瞬間、全身の皮膚に夥しい小さなイボが一気に立った。


(わっしが子供ん時、近くの廃屋、お化け屋敷に言った時以上に怖かったねぇ・・・)


 サトリの子供時代、修行と仕事が終わり遊べる時間が出来た時、近くに廃屋があり夕方その廃屋へ行った事があった。その廃屋は昼でも酷く薄暗く不気味だった。その外見から当時の子供達からお化け屋敷と呼ばれていた。やんちゃ坊主だったサトリはそこに言った事があるのだが、その時の怖さとシンの目から読み取れる怖さが似ていた。唯一違っていたのはその怖さのベクトルが違うと言うべきか多さと言うべきか。

 もし怖さに単位があるとすればお化け屋敷の時が1だとすればシンの目から読み取れたあの怖さは100位あった。

 それだけ違っており、サトリはシンに対して警戒と注視しつつ普段の態度と余裕を崩さずに接していた。


(確かにサクラさんの言う通り、「何か」を持っている感じだなぁ・・・)


 抜刀時のあの回避力、目から読み取れる今までにない恐ろしさ。

 この2つの事から分かるのはシンは只者ではない。

 いや、只者どころか()()と言うべきだろう。

 そう表現してもおかしくない位にシンはどこか異質で「何か」を秘めた存在だ。

 そうした考えを持っていたのは何もサトリだけではない。サクラに糸を出す様に指示を出したアンリも実行したサクラもそうだった。


(あの時と比べるとあまり変わっていない。けどあの武器は何なんだ?)


 サクラは再びシンの方へチラリと見て背中に背負っているスコップに注目した。


(・・・一見すれば短槍に見えるが多分円匙(えんし)とかスコップの類の物だろう。あれを持っているという事は何か土木に関する物にでも関わっているのか?)


 サクラはシンが持っているスコップを幅広い短槍と考えずすぐにスコップと考えた。サクラの故郷レンスターティア王国は薬草園が多くある。故に土木で使われいる道具はかなりの頻度で目にしている。

 旅をしている人間が武器を持たずにスコップを持つ、何てかなり馬鹿げた話だがシンならあり得なくない。

 つまりサクラはシンが土木に関わっている事を想定してスコップを持っていざと言う時は武器にでもしていると考えているのだ。

 実際は武器を前提でスコップ等々の機能はついでなのだが。


(もしそうならスコップで用いるとすればこいつの目的の可能性である「ヨネ」・・・)


 シンが持っているスコップの使用目的が「ヨネ」に使うものではないかと考えるサクラ。


(もしシンの目的が確実に「ヨネ」だとすればこれは大きな取引材料になり得るか・・・)


 そこまで考えに至ったサクラは不敵にニヤリと笑った。

 もし「ヨネ」が大きな取引材料となるのであればサクラ自身がこの「ヨネ」を手に入れられるように動く事は可能だ。そうなればサクラはシンに対して大きく動きを制限を掛けられる事が出来る。


(ここで逃がさないのが前提で動くか・・・。まぁでもこいつが逃げようとして動くのであればそれはそれでいいが)


 万が一シンが逃げる事になったとしても前の糸の拘束と違ってシンの体にある程度の動きを感知させる事が出来る鳴子の様な役目を持った糸をシンに纏わせている。

 だからシンがどう動くか等をすぐに知る事が出来る。もしシンがこれから何か行動を起こすものならそれはそれで構わない。

 何故ならサクラの知らないシンの一面を知る事が出来るのだから。


「~♪」


 上機嫌になるサクラ。

 サクラの気持ちには福袋やサプライズボックスと言った何か入っているのか分からない箱の様な容器の蓋を開ける様なワクワクした高揚感を持っている。

 所謂「怖いもの見たさ」を持っていた。

 各々がそれぞれ警戒するべき相手を再認識していく中で、シンは飽く迄アンリの事を警戒していた。

 だが、もしかすればサクラこそが「警戒すべき者」かもしれない事をシンはまだ頭の中に無かった。

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