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210.ただの挟み撃ちにあらず

 一瞬誰なのか分からなかった。

 だが聞き覚えのある声に見覚えのある帽子を被った瞬間、目の前にいる男の素性を知った。その瞬間今自分が置かれている状況があまりにも拙い事を知る。


(しくった・・・!帽子を深く被っていたから顔が分からない上に帽子を被っているかどうかで判断してしまっていた・・・!)


 帽子を被った瞬間、声を掛けてきたのはサトリだとやっと気が付いたのだ。


 シンが知っているサトリの情報はカーキ一色のキャスケット帽を深く被り、顔が分からなかった。馬の赤鹿毛より更に赤みを帯びた羽織に似たコートのはだけた所からはデニムの様なライトな紺色の着物、所謂「着物スーツ」と呼ばれる様な服を着ていた。腰に丈夫な帆布で出来た小さなポーチが幾つも付いた藍色の腰帯をベルトの様に巻いており、侍らしく武器(えもの)は鍔の無い刀で左側に差していた。

 声は30代前半の男の声。

 それ以外は何も知らなかったのだ。


「っ・・・!」


 シンは焦った。故にすぐに行動しようとするが


(待てボス、その食事処の周りにサクラ達が取り囲んでいるぞ!それも一人ずつ等間隔で!)


「・・・!」


 気配を殺してシンを取り囲む様に待機しているサクラ達がいた。慌てていたせいでサクラ達の存在に気が付かなかったシンは歯噛みする。

 シンがサトリをここまで接近を許してしまったのは気配を感じる特性から除外される条件がサトリに当てはまっていたからだ。

 そもそもシンは気配をを感じる能力が高く半径2km以内であれば察知する事が出来る。だが街中で人がごみごみしている中で一々気配を察知して気にする必要は無い。言うなれば砂の中にある一つ一つを確認していくようなものだ。だからシンは自分に対して明らかに殺気や敵意、悪意を持っている者以外、気にしない様にしていたのだ。

 だが食事を始める時に、友人を見つけて気軽に声を掛けるつもりで来たサトリの気配には悪意も殺気もない。しかもここは食事処でシンは食事を始めていたから集中力が落ちて注意力が散漫になっていた。

 更にサトリが羽織っている羽織は群青でキャスケット帽を取っている。そんな姿で食事処に入れば分かりにくくなるし、他に客もいれば調理人や給仕の者がいるから視認では分かりにくいし、気配はたくさんあるから普通の人間と同じ気配でシンに近付く事もそう難しくない。


(後は、こいつ自身の歩き方・・・。俺に近付くまで足音がしなかったし、かなり早くここまで来ているように感じた・・・)


 歩き方一つ変えるだけで音をさせず、気配を抑える事も出来る技術がある。これも相乗してより気が付きにくくなっていた。こうした歩き方から明らかな実力者のオーラを感じ取ったシンは今自分の前にいるサトリを瞬時に警戒をする。


「・・・俺はアンタの事は知らないが、どこの誰だ?」


 水をかけられて唇を強く結ぶ程にキュッと引き締まる顔になるシンがややドスの効いた低い声でそう尋ねるとサトリは普段の様に飄飄とした態度で答える。


「やはり初めましてか!」


 カラカラと笑いながらサトリは自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかります。わっしはサトリ、サトリ・クニイと申します」


 サトリは自己紹介を終えたすぐ後に気が付き


「あ、いやこの場合だと、クニイ・サトリになるのか・・・すまんすまん、わっしはクニイ・サトリだった!訂正訂正」


 と陽気に改めて自己紹介したサトリにシンは今だに引き締まった表情のままだった。


「そう固くならんでも~。食事の続きでもさ。ね?」


 と図々しい形で食事に誘うサトリ。

 シンは


「・・・・・」


 沈黙を漂わせてサトリの様子を窺っていた。


「そんな怖い顔に怖い目をしなさんなって、言っても無理か・・・」


 言葉尻辺りが急に声が低くシリアスで真剣な口調になるサトリ。サトリは何かに気が付き笑みをなくしシンに静かに訊ねる。


「外にわっしの仲間がいる事を把握している様だね?」


「・・・何故そう思う?」


 シンの胸の内から一回の大きなノック音がする程にドキリとしたが、表情は変わらずポーカーフェイスで訊ねる。


「今の状況なら物を倒したり、人質を取ったりしてわっしを動かさない様にするだろ?だがそれをしないのはわっしの仲間にそれが出来ない様にする力を持った者がいる事を知っているんじゃないのか?」


「・・・・・」


 シンはジッとサトリを見等見つける様に見ながら再び沈黙を漂わせていた。

 そんなシンにサトリは更に続ける。


「そして朝のギルドの騒ぎでは我々がいた。その時お前さんもいて力を持った者の存在を知った」


「・・・・・・・・」


 シンはそこまで聞いた時、両手をフリーにする。


「当然その人物の名前は「サクラ」さん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 サトリのその意言葉を聞いた時、視線を周囲の様子を見始める。だがサトリはそれを許さないかの様に


「逃がす気はないよ?」


 と舌で牽制をした。

 シンはその言葉を聞いた時、今どうしようとしていた事を考える事を止めて逃げる算段を改める。


「逃げる事を考えるのを止めて大人しくお供してくれないか?」


「・・・断る」


 シンがそう静かに答えた瞬間、サトリの雰囲気が一気に変わった。


「そうか」


 そう答えるとサトリは刀に手を掛けて鯉口を切る。


 カッ…


 シンはそれを待っていたかの様に座っている椅子諸共後ろに飛び退き、座っていた椅子をサトリに向けて投げた。


 ブンッ…!


 目の前に来た椅子に鯉口を切ろうとしていた左手を瞬時に持ち直して柄の部分で突く形で椅子を受け止めた。


 コンッ!


(っ!やっぱり斬らないか・・・!)


 シンはそう考えながらも突いてそのまま椅子が地面に落ちていく瞬間を狙ってサトリが持っている左側面、すれ違う形で瞬間的に走り抜けた。

 サトリが飛んできた椅子を斬らなかったのは切れば自分スレスレで回避かもしくは肩と言った体で横方向に出っ張っている部分が斬った椅子が当たる恐れがあった。また、例え斬って回避する、もしくは避けたとしても後ろの客に飛んでくる椅子が当たってしまうかもしれない。

 だからサトリは斬る事も避ける事もせず、突いて受け止めたのだ。


 ドドン…


 地面に椅子が落ちた瞬間にはシンは店の出入り口に手を掛けていた。


「!」


 サトリがすぐに後ろを振り向いた時にはシンは扉を開け切ってもう出ていた。


(早い・・・)


 サトリはシンの方へ視線を向けていた頃にはもう既に店から出ていた。


「追いかけっこ、ね」


 顎を撫でてニヤリと笑って追いかけようとしていた時、サトリの肩にポンッと手で軽く叩かれた。

 サトリがその方向へ向くと店の主人が立って


「お客さん、お勘定」


 代金を請求していた。





「・・・・・」


 店を出たシンは急いで向かい側にある路地裏に入った。

 だが、入ってほぼ真ん中あたりで身構える形で止まっていた。何故止まっていたのかと言うと理由はシンの前にいる人物達に原因があった。


「やっと会えたなシン・・・」


「君がシン君だね。初めまして」


 シンの目の前にはサクラとアンリが立ちはだかっていた。

 サクラは不敵そうな笑みを浮かべ、アンリはどことなく興味津々な顔つきでシンを見つめていた。


「・・・・・」


 シンはそのまま引き返そうと後ろの方へ見た。だが後ろには


「おお、サクラさん」


 サトリがシンを挟み込む様に追い付いてしまっていた。


「遅かったな」


 サトリが予想以上にここまで追い付いてきた事が遅かった事にサクラは少し呆れて提言する。


「すまんすまん、金を払っていたもんで」


 サトリは少し苦笑い気味にそう答えていた。


「そんなの無視すればいいんじゃないか。迷惑料と口止め料を払えるくらいなら持ってきてはいるぞ?」


 シンを追いかけて捕らえるという目的であれば当然何かしらの迷惑が被る者達が存在する。だが、サクラは王族で財力もある。少々位の事であればちょっとした大きな施設位での迷惑料と口止め料を払える金額はある。

 だがサトリはそうせず食事代を払ってからここまで追い付いてきた。


(金を払って・・・って、1分はかかるだろ!?なのにここまで追い付くのにそんなに時間が経っていないぞ?)


 確かに金を支払う行為でかかる時間は勘定の計算の為に早くとも1分はかかる。その間であればシンはかなり遠くまで移動する事が出来る。だとすれば足止めされていたとは言えあっと言う間にここまで追い付くサトリの速度には目を瞠る。


(それに俺の姿を見失っていたはず。なのに迷わずここまで追い付いてきたという事は俺がここまで来る事を予想していたのか!?)


 いくら足が早いからと言っても目標を見失っていれば、捜索するのに時間がかかる。だがサトリは迷う事無くここに来た。という事はそんな時間もかけていないという事は予測していたという事になる。

 シンがそう考えているとサトリは呑気そうに答える。


「わっしらも今日の昼食はまだだったであろ?ついでに今日の食事も予約をしたんだ」


 確かに昼食はまだだが、今は欲しきシンを今ここで手に入れようとしている重要な盤面。だから昼食どころの話ではない。それなのにサトリはのんびりと昼食の予約を入れていた。


「何を呑気な・・・」


 当然その事に呆れた口調になるサクラ。だがサトリの呑気な態度は一向に崩さなかった。


「そりゃ呑気にもなるさ」


 サトリの答えにサクラは思わず小さな声で「は?」と漏らしてしまう。だが次の言葉でサクラは少し納得する。


「ここで彼を捕らえるんだからね・・・」


 サトリは低い声に張り付いていた様ないつもの笑顔から一転して戦争が始まる前の兵士の様な程良い緊張感を持ち、思い切った表情だった。

 サトリの答えと様子を鑑みたサクラは勝ち誇ったように目を輝かせ得意満面の若々しい笑顔になった。


「そうだな・・・」


 対してシンは後にも先にも引けない子鹿の様な立場に目に入るもの全てを否定するような強張った顔になる。


「・・・・・」


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