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208.マーク

 シンは食堂で朝食を摂っていた。周りには数人程朝食を摂りに来ている者がチラホラといた。

 朝餉は炊き込みご飯として出されたヨネとシシ汁と玉子焼き、焼き魚、何か根菜類の香の物だった。シンはズズッとシシ汁を啜りながら独り言を呟く様にアカツキと言葉を交わしていた。


「さて、これからどうするか・・・」


 口に含んだ汁を飲み込み小さな溜息交じりでそう呟く様に言うシン。


「ボス、それ何だが、昨夜の窃盗犯と思しき人物をマークしておいた」


 その言葉を聞いたシンは箸を止めた。


「そうか、早速見せても」


 シンはそう言って箸を置こうとした。


「OK、問題ないぜ。だが先に・・・」


 アカツキはそれよりも先に朝餉を済ませてから見る様に促す言葉を掛けようとした。シンはアカツキが何が言いたいのかをすぐに分かって


「ああ、そうだな」


 と答えて箸を再び動かした。そしてシンは「お前はオカンか」と心の中でボソリと呟きつつ朝食を食べ進めた。





 朝食を済ませてすぐに自分の部屋に戻って持っているマグライト型タブレット端末を起動させて巻物の様に広げて映像を見始めるシン。

 そこに移っていたのは灯りの付いていないギルド近くで5人程窃盗犯と思しき者達がギルドに中に入っていく様子が映し出されていた。窃盗犯と思しき者達は頭には竹か笹で編んだ笠を深く被って暗めの色の修行僧のような服を着ていた。


「この世界に寺とか神社とかあるのか?」


 この世界は大分日本に似せているが実際はかなり違う点が多い。だから日本の主な宗教である仏教や神道があるとは思えない。

 いや、正確には神道に似た宗教があるかもしれない。

 と言うのはこの世界に「いただきます」があるからだ。

 だが次に映し出された映像で彼らはこの国の宗教の僧侶でないと知る。


「こいつらが持っている防具や武器(えもの)、本当にこの国にあるものなのか?」


 次に映し出された映像で窃盗犯と思しき者達の服装が蛇の鱗の様な鎧を身に付け、その鎧に似合うかのように腰には剣を携え、手には槍、棍の様な長い棒、杖、クロスボウを持っていた。


「服装が皆一緒だな・・・。おまけに持っている武器が妙に場違いと言うか・・・」


 シンは目を鋭く細める。


「ああ。それにクロスボウを持っているのも変じゃねぇか?」


「うん、鬼人族が大半を占めるこの島国で飛び道具を「鬼の強弓」を主力の内の一つとして使われているからクロスボウは必要が無いはずだ」


 実際この国でクロスボウを持った鬼人族は見ていない。持っているとすれば他所のから来た冒険者位しかいないが、ほとんどはこの国の衣装を着ていない事の方が多い。


「それを必要とするとすれば、鬼人族以外の種族の武装を必要とする連中か・・・」


「別の武装勢力か、だな」


 映像に移っている者達の格好がオオキミの服装から鑑みるにどことなく別の国、例えば中華服の様な服装に見えるか、オオキミの服装に似せて着込んでいる様にしか見えなかった。

 おまけに武器も対人用の武器が多く目立っており、鬼人族には恐らく必要のないクロスボウを所持している。

 この事から考えられる可能性が2つある。この連中は特定の服を冒険者の一つの軍団、所謂クランとかパーティの制服として着ている可能性。だが自分達が世話になっている上に冒険者に対して圧力をかける冒険者ギルドに忍び込んで盗みを働く等の敵に回す行為に至るとは考えにくい。

 となればもう一つのこの国に別の国からやってきた軍属の者達の可能性。今回の場合こっちの可能性が高い。


「問題はその別の武装勢力がこの誰なのかって事どだよな?」


「ああ・・・」


 ギルドから生き物に関する書物が盗まれている。ギルドでオオキミだけだが生き物についての資料を調べた所かなり脅威的な存在であるを知った。

 少なくともこの国においての生き物は一体だけで国家にとって大きな脅威になる存在となる種類が多い。故にその脅威を軍事利用する可能性も十分にある。


「この勢力はこの国でテロでも起こそうとでも考えているのか?」


「さぁな。だが、一つ言えるのは連中は碌でも無い事に使おうとしている事は間違いない」


 何にせよこの国で集団による犯罪行為を行い、その上武装している。他国の武力を持った何かの組織の可能性が高い。しかもギルドで盗まれたのは生き物に関する書物だ。この事からこの国で何もしないという可能性はほぼゼロに等しい。


「・・・「ヨネ」を手に入れるには潰す必要があるか」


 シン達はこの国の穀物「ヨネ」を手に入れる為にやってきた。もしこれから何か過激な事を起こす事と「ヨネ」を手に入れる機会が重なるとすれば大きな障害になる。

 だからその謎の集団の素性を調べて場合によっては潰す必要がある。


「まず先に知るには・・・」





「サトリ、この国で最も危険な生物って何?」


 アンリは白い饅頭を頬張りながらそう尋ねた。サトリは「口の中にある饅頭を飲み込んでから喋って」と小さく注意してから答え始める。


「そうだね~、幾匹かいるけど、ここ最近で騒動になっている「ギュウキ」だね」


 顎に手を当てて視線を上に向けて呑気そうに答えるサトリ。対してアンリは白い饅頭を喉の奥へ押し込み更に訊ねる。


「その「ギュウキ」と言うのはどんな生態なんだ?」


 さっき訊ねた時の声よりも低く真剣な口調にサトリはギュウキについて更に詳しく教える。


「普段は海に住んでいるんだが、必要なら陸上に上がる事があり、獰猛で残忍な性質で怒らせると手が付けられない。自分よりも大きな相手でも捕食対象にしてしまう程の10~20m近くもある頭部がウシで身体が蛸みたいな怪物だ。海の民達では畏怖の対象だね」


 サトリがそこまで答えるとアンリは小さく頷いた。


「「海」ね・・・。そうか、かなり危ない生き物なんだな・・・」


 何か納得したような言い方にサトリは頭に「シン」という単語が過った。


「うん。それが今回の泥棒騒ぎと関係があるのかい?それともシンという男と?」


「どっちも関係ある」


 そう答えるとサクラは横目で流す様にアンリを見た。


「ほう?」


 サクラは食いつく様に声を上げた。

 アンリは気にも留めていないのかの様に話を続けた。


「今回の泥棒騒ぎではそのギュウキを利用して何かをしようとしていた。シンという男はその事を推測して動こうと考え始める」


 次第に鋭くなるアンリの目にサクラは疑問の言葉を投げかけた。


「動こう、か・・・。アンリはどう動くと思っているんだ?」


 アンリは小さく頷き出来るだけ丁寧に答え始める。


「まず生き物に関する書物が盗まれている事について。ああ言った書物が盗まれているという事は特定の生き物について調べようと考えるはず」


「それが「ギュウキ」って訳か・・・」


 感心する様に納得するサトリに対してステラは疑問の言葉を投げる。


「しかし、何故ギュウキと言う生き物を?」


「ここは港に近い大きな町だ。大きな町の近くの山等に町一つを潰せる位の大きな生き物が住んでいるとは考えにくい」


 鋭い目でそう答えるアンリ。宛ら刑事ドラマや推理ドラマの名探偵の様だった。


「だから海、か。そうした脅威のある生き物を選んでいるとなればやはり・・・」


 腕を組み眉を顰めてそこまで答えるサクラにサトリは普段の様な飄飄とした雰囲気が無くなりまるで鋭い日本刀の様なゾクリと身の毛がよだつものを身に纏って


「この国を手中に入れようとする連中が存在するという事、だね」


 と答えた。

 言葉には怒気が混じっているような印象のある低い声でそう言うとアンリは頷いた。


「シンという男はこの国にしかない穀物「ヨネ」を手に入れるべくしてここにやってきた。しかもその「ヨネ」の収穫の時期が今の時期。今回の事件がもし国盗り目的であれば決行が今の時期である可能性が高い。そうなれば「ヨネ」が手に入れ辛くなってしまう。だからその前に手を打ちに動くと思う」


 筋が通り納得がいく説明。しかも今までの手掛かりや情報でここまで推測を立てたアンリに誰も疑念を持つ者は誰一人いなかった。


「なるほど、どうしてシンが動こうとしているのかは分かった。なら今後はどう動くんだ?」


 サクラがそう尋ねるとアンリは少し自信が無さそうな雰囲気を出して力が籠っていない様な声で答え始める。


「これから言う話は飽く迄私の推測・・・というより賭けになる。だからあまり当てにしないで」


 そんな少し弱々しい印象のある声にサクラは自信に満ち溢れたあの笑顔になり


「ああ」


 と答えて、アンリの言葉に耳を傾けた。

 そして一頻りアンリの説明を聞いた一同は誰も異を唱える者は居らず、すんなりとアンリの推測を信じた。

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