202.不要
「こいつで最後、っと・・・」
そう言って箱馬車に金品いっぱいに詰め込まれた麻袋を乱暴に載せる破落戸の男。どうやら台詞から鑑みるに今持ってきた麻袋で最後のようだ。
ドサッ
ジャラ…
乱暴に載せたせいで重い音と共に激しい金属と金属が小さくかち合う音が幾つも重なって大きな音が鳴って麻袋から今にも零れそうになっていた。
「よーし、よしよしよしよし、これで何事もなく持って帰れば僕のおじぇじぇになるじぇ~」
アダムはそう小さく叫びながら箱馬車の中の見ながらニマニマと笑っていた。
アダムの様子を見て言葉を聞いた破落戸達はお互い顔を見合わせて頷き返し粘着く様な笑みを浮かべた。
「ボス・アダム」
アダムの下で動いていた破落戸の内の一人、アダムと共に屋敷正面から侵入した石弓を持っていた痩せた男が声を掛けた。
「ほい?」
アダムは箱馬車に載せている金品が入った袋に夢中なのか顔はおろか視線がブレる事も無く袋一点に集中して見ていた。
だから生返事だけするアダムの後ろにいる痩せた男と同じくアダムと行動していた斧を持っていた大男がこれからに何をするのかについて何も気が付かなかった。
そして痩せた男が口を開いた。
「今までありがとうございました」
「ふぇ?」
何か含みのある言葉に違和感を持って後ろへ振り返った瞬間、大男が持っていた斧を振りかぶって
ブォン!
ボキッ!
アダムの首を折った。
「チュパラッシャイッ!」
ドサッ…!
甲高く傍から聞けばふざけた叫び声を上げて、横に飛ぶように倒れたアダム。
「・・・・・」
アダムの首は明後日の方向へ向き、首そのもの自体が悲惨に折れ曲がり目は大きく見開き切っていた。これを見れば誰もが絶命していると判断するだろう。
斧を持った大男がパンパンと斧を持っていない方の片手に軽く叩いていた。
最期の最期にこんなふざけた言葉を、いや断末魔を最後の言葉として終えた事にその場にいた破落戸達は哀れを通り越して呆れすら感じていた。
「・・・はっ、最後の言葉がこれかよ」
冷笑を浮かべゴミを見るような目でアダムを見る破落戸の内の一人。
「こんな死に方は嫌だな・・・」
哀れ寄りの呆れた声で呟く破落戸の内の一人。
「こいつの鬱陶しいお喋りも聞かずに済むな」
痩せた破落戸の男は倒れたアダムから物色をする。懐に手を入れた時使っていた改造G18をアダムの抜き出して、ベルトに挟んだ。間近で改造G18威力を目の当たりしていた2人はこれも欲しいと考えていた。だから殺した後すぐに手に入れたのだ。
そして、まだ屋敷の中に何かあるかもしれないと考え踵を返して屋敷の中に戻る。
「ああ、耳障りだった」
同じく踵を返す大男は呆れ口調で答えた。
そんな様子の2人に気が付いた破落戸の内の一人が声を掛ける。
「どこへ行くんだ?」
その言葉を耳にした痩せた男はアダムを出し抜いた時のあの粘着く様な笑顔で振り向いた。
「あ?金目のもんがまだあるかもしれねぇだろ?」
痩せた男の言葉に続いて屋根伝い組の短剣持っていた破落戸の内の一人のメンバーが答える。
「おめぇは知らねぇかもしんねぇが、本とか言うあの紙の束、あれも高く売れんだぜ」
その言葉に納得してうんうんと静かに頷き、残りの破落戸達はいそいそと屋敷の中へ再び入っていった。
「・・・・・・・・」
その場に誰もいなくなった時、開き切ったアダムの瞳が破落戸達を追う様にして視線を動かした。
ギョロ…
屋敷から更に物色して麻袋に詰めに詰め込んだ物品をこの屋敷の使用人達に運ばせていた破落戸達は監視をしながら雑談していた。
順調に事が進んでいたから、余裕が生まれ、怠けても問題ないだろうと思い始めていた。
「けど、あいつ殺して良かったのか?」
その破落戸の声は罪悪感と言うよりもあれを殺してしまっても問題無かったのか、という疑問の様なものだった。
「馬鹿!あいつの言葉を思い出せよ」
殺して当然とばかりに若干声を荒げながら答える破落戸の内の一人。
「そう、あいつこれを持って帰れば全部僕のだ、ってぬかしやがってただろ?」
確かにアダムは「僕のおじぇじぇ」言っていた。「おじぇじぇ」と言う言葉は聞き覚えは無いが、あの前後の言葉から察するにあの単語は金品の事を示していたのは間違いなかった。
「あのピエロ野郎、俺達を出し抜こうとでもしてたんだろ?」
イラつきながらに答える破落戸。
「或いは俺達を皆殺しでもするつもりだったんじゃないのか?」
何気なく言った破落戸の内の一人の言葉に数秒程凍り付く様な静けさが漂い
「「「ガハハハハハハハ!」」」
と馬鹿笑いした。
「あいつ一人で何が出来んだ?」
腹を抱えながら言う破落戸。
「と言うかもう死んでるし!」
何気なくいった破落戸の背中を「お前中々面白い事を言うな!」と言わんばかりにバシバシと叩く。
「だな、後は袋を載せたら・・・」
「ああ、俺達はまた冒険者として生きていけれる」
クックックと笑いながら箱馬車の方へ向かって行くと、先に着いていた破落戸達と脅された使用人達が顔を顔を蒼白にして目が見開き、口を大きく開けて、立っていた。
何かこの世では無い恐ろしいものを見ているかのように。
「・・・・・!」
そんな様子の破落戸達と使用人達に
「んあ?」
「何やってんだ?あいつ・・・」
と大した事の無い異変と考えていたのか少し呆れた様な口調で箱馬車の方へ向かって行った。
先に行った破落戸達の内の一人が目にした瞬間、先に着いていた破落戸達と使用人達の仲間入りになってしまった。
「!?」
先に着いた破落戸の内の一人も同じ様な反応を示した事に流石に異変を感じた後続の破落戸達は急ぎ足で箱馬車の方へ向かって行く。
「どうし・・・っ!?」
「「「・・・!?」」」
残りの破落戸達が箱馬車に辿り着いた瞬間、何故彼らは何かこの世では無い恐ろしいものを見ているかの様な反応して立ち尽くしていたのか漸く分かった。
「ご苦労ご苦労、大儀であったのぅ~」
それは確かに首の骨を折り、明らかに明後日の方角を向いていたはずのアダムが箱馬車のドアの前で左腕を杖にしてで頭を支える形で寝っ転がり、ケラケラと笑いながら時代劇の悪代官の様なセリフと口調で答えていた。
そんなアダムの様子に顔面蒼白でガタガタと震えながらも人指し指でアダムの方へ精一杯指していた。
「な、何でテメェ生きてんだ?」
小さな声で「う~ん」と唸って
「生きているから?」
と軽い口調で返した。そんな返答に誰も「ふざけるな!」と言う怒声も悲鳴も上げられずに唯々黙って見ていた。
そんな空気の中アダムは何か思い出して懐から
「あ、あとこれ返してね~」
と言って改造G18を取り出した。
「え?あ!あれ!?」
驚いた痩せた男は挟んでいたはずの所のベルト部分を慌てて確認した。そこにあったのはG18ではなくマークII手榴弾が代わりに挟まれていた。
それも安全ピンが抜かれて。
「代わりにこれをPresent for you」
アダムがそう言うと痩せた男はマークII手榴弾の方へ手を伸ばして
「これ・・・何だ?」
とそのまま手に取ってしまった。
当然使い方を知らないから「手に取る」は掌の上に乗せる形になっていた。
だから
バンッ!
痩せた男の腕が吹っ飛ぶのは明白だった。
本来ならマークII手榴弾のレバー諸共握る形で持ってピンを抜いてそのまま放り投げるのが使い方なのだ。
握ってピンを抜くだけでは爆発しない。何故ならレバー諸共握っているからだ。レバーは爆発しない様にする為の本当の最後の安全装置なのだ。それを握らず掌の上に乗せてしまえば爆発するのは当たり前だ。
「「「!」」」
爆発して軽い爆炎が晴れた時、痩せた男は爆風で胸部分に強い衝撃受けてしまいショック死していた。痩せた男の近くにいた破落戸達と使用人達もその被害を被っていた。手榴弾の破片や爆風で複数の死傷者が出ていた。
「HYA-HAHAHAHAHAHAHAHA!」
そんな様子にアダムは嘲り笑っていた。それも寝っ転がりながらのせいでまるで喜劇を見て他人事の様に馬鹿笑いだ。
そうしたアダムの態度に顔面蒼白から顔面真赤に変わり、額の血管を浮かせて腰に携えていた剣を一気に引き抜いた。
隣に脅された使用人がいるにも関わずに抜き、使用人の腕に切り傷が出来てしまっていた事に気が付かない程にまで怒り狂っていた。
「テメェ・・・このクソピエロが!」
今にも斬り掛かりそうになっていた破落戸連中に未だにケラケラと笑いながら手を破落戸達と使用人達に向けて手を翳して
「ジェノサイド」
と唱えた。
その瞬間、破落戸達の足がピタッと立ち止まった。
そして
「「「っ・・・!?」」」
全員に共通して胸に手を強く当てて強く握ろうとしてもがき苦しがり始めていた。まるで心臓を握ろうとでもしているかのように。口から涎を垂らしている者もいる。
「ぐうぅぅ・・・!」
「がぁっぁあああ・・・!」
破落戸達と使用人達が次々と倒れ込み苦悶の声を上げ始める。
そんな様子にアダムは軽いステップを踏みながら使用人達の内の一人に近付き
「チミ達は僕ちんの顔を覚えちゃったから、ここでサヨナラって事で、ソーリー、ソーリー!」
と全然申し訳なさそうには見えず、むしろ神経を逆なでする様な口調で平謝りするアダム。そして散々もがき苦しんだ破落戸達と使用人達は後に冷たくなる形で静かになってしまった。
アダムは「フム」と言って
「後は私目はこのまま退場とさせて頂きますんで・・・」
と普段の態度とは打って変わって真摯で真面目な印象のある口調と言葉遣いになり、
「御後がよろしい様で」
と言って宮廷道化師の社交儀礼を取ってクルリと箱馬車の御者席に乗ってその場を後にした。
そして今に至る。
だいぶ先へ進みヨルグのスラム街どころか国境を越え暗い平原の道の中、箱馬車はまだ走っていた。
その走っている箱馬車の上で操縦ながら顎を撫でながら破落戸の言葉を思い出していた。
「ああ、俺達はまた冒険者として生きていけれる」
その言葉に小さな声で「う~ん」と数秒程唸り、導き出した答えは
「どー考えてもいらないよね~」
これに尽き、そのまま更に暗い平原の道の奥へと消えていった。
「「冒険者」っていう職業は」