200.彼らの強さ
気が付けば200話・・・。
何気なくここまで続けてきた事に驚いています。
ザワザワと賑やかで楽し気な声と共にカチャカチャと陶器に硬い物が軽く当たった音が聞こえていた。その音が鳴っていたのはギルドの中に併設された酒場兼食堂、だった。ギルドの中の食事処を利用している冒険者達は今の時間帯であれば依頼を受けて今はいない事の方が多いのだが、受ける依頼が無かったり、今日はオフと決めているのこの2つが主だ。
そんな冒険者達は昼食をここで済ませようと食事をしていた。だから雑多で日常的な音は彼らにとっては耳障りなものではなく、むしろ心地よい気味の良い音として聞いていた。
そんな中で普段では聞かない音を立てていた。
グググググッ…!
ギリギリギリ…ッ!
簡単に切れない様に丈夫にするために植物の糸や動物性たんぱく質で作られた糸に膠等の接着剤で固めた強く張った弓の弦に触れて強く引く。
するとピンと張った弦を強く引けば引く程握っている弓柄を強く握る音と弦を引く側の手から握りしめる音、弓幹から鳴る軋む音が混ざり合って、弓矢の初心者であれば壊れてしまうのではないのかと不安を煽り、熟練者以上の腕前を持った者であれば当たり前の混ざった悲鳴の様な雑音。
しかももそれが「鬼の強弓」であればその音も通常の弓よりも鋭く大きく聞こえる。そのお陰か本来ならこうした雑多な音が鳴っている環境でも聞こえてしまうから、弓矢を扱っている者であれば鬼人族が使っている弓矢がどれほど異常なのかがよく分かる。
「おお~凄いね、君」
そんな異常な弓を大きく引いていたのはシンだった。そしてその弓を貸して引かせて、感心の声を発していたのは偶々昼食の為、食堂に来ていた鬼人族の冒険者だった。
何故こんな事になっていたのか。
それは今から数分前の事だ。
「思っていた以上に鬼人族の方が多いな・・・」
シンがそう呟いてしまう程に食堂には鬼人族が飲み食いをしていた。中には別の種族の人間・・・正確には獣の耳を持っている者やシンの様な一般的な人間もいた。だがそれはひどく少なく食堂にある食席が40あるとすればその内の5が別の種族で更にその1が一般的な人間の種族だった。
こうした種族の偏りがあれば少数派の種族達は肩身の狭い思いをするのだが、それが一切なく隣に別の種族が座りカラカラと笑い合いながら酒と飯をカッ喰らっていた。
(弓持ちは・・・)
シンの目的は鬼人族が使っていた弓に興味を示していた。と言うのはお手軽に手に取ってどんな物なのかを知りたかった。
それを知るには店で売っている新品よりも使いこなして持ち主が手に滲んだお古の方がどれ位手入れされており、どれ位長持ちして、そしてどれだけ弦の張りが固いのかを知りたかった。
(いた・・・!)
弓を使っている持ち主から借りて手に取ろうと考えたシンは適当な弓を持っていてそれなりに使いこなされた弓を持つ鬼人族の冒険者を探し出す。
そしてそれはつい先程見つけた。シンはその鬼人族の冒険者に近付いていった。
「失礼」
「ん~?」
のんびりとした口調でシンの方へ向く一本角の金髪の鬼人族の男性冒険者。見た感じ30代の様だ。
「持っている弓矢を貸してくれないだろうか?」
シンはやんわりとした口調で弓を貸してくれるように頼んでみた。
だがこんな頼みでは余程のお人好しかバカでなければ頭を縦に振らず、横に振っている事の方が主だ。だがそれは当然の事だ。自前の商売道具で危険な物だ。それを悪用や何か細工でもされたら堪ったものではない。ましてや初体面の人間で明らかに怪しい人間になぞ触れさせる事すらさせないだろう。
シンが金貨を店員に渡して人差し指を立ててさえいなければ。
「如何か?」
シンが小さく頷くと金髪の鬼人族の男はニカッと笑って
「ああ、いいよ~」
とアッサリと承諾した。
シンが金貨を店員に渡して人差し指を立てていた意味は、この金貨で食堂の酒を出せる分だけ出してくれ、と意味だ。つまり「俺の奢りで酒を飲んでくれ。代わりに弓を見せてくれ」という事だ。
この意味を理解した金髪の鬼人族の男はお菓子を手に入れた子供の様に無邪気そうに笑って快く引き受けたのだ。
そして今に至る。
弓の弦をゆっくりと戻しながら
(使い込んでいてそれなりに柔らかいかと思っていたが想像以上に固いな・・・)
と考えていた。丁度その時金髪の鬼人族の男から感心そうに
「それを引けるって相当力必要なんだけど、そこまで引けるのは早々いないよ~」
酒を片手にカラカラと気を良く笑いながらそう評価する。
「それに引いた時、力んでプルプルと小さく震えるんだけどそれもないよな」
シンが弓引いていた様子を見ていた別の鬼人族の冒険者がそう言って評価する。
「ああ。なぁアンタ、どこかで硬い弓でもか扱った事でもあるのかい?」
また別の鬼人族の冒険者がひょっこりと輪の中に入る形で顔を出してシンに訊ねる。
「いや、これが初めてだ。ただ、力は強いとはよく言われる」
そんなやり取りの中シンはごく自然な対応で返答する。
「「「おぉ~」」」
シンの返答に思わず、感嘆の声を上げてしまうその場の鬼人族の冒険者達。そんな声を上げている鬼人族の冒険者の中でシンの背中に背負っているスコップに気が付いた。
「そういやアンタの武器、槍か、それ?」
気が付いた鬼人族の冒険者は指差す。
「ああ、これか?槍っちゃ槍だな」
指差した方向へ向いてスコップを触って答えるシン。
そんな答えに
「随分パッとしない返事だな」
少し困った表情になり、呆れつつもどこか笑い交じりに言う鬼人族の冒険者。当然だがシンは笑いを誘っているつもりで答えたわけでは無い。
今度は金髪の鬼人族の男が
「変わった形だが、他にも使える用途でもあるのか?」
と訊ねた。
その質問にシンは小さく「う~ん」と唸りながらシャベルを抜いた。
「ここの刀身の部分が幅広だろ?」
「ああ」
シンがシャベルを抜いて今いる冒険者達に刀身部分を指さして説明する。するとその場に居た鬼人族の冒険者達がシンのシャベルを取り囲んでまじまじと見ていた。
「この部分が盾の代わりになってある程度の攻撃を防ぐ事が出来る」
シンがそう説明するとその場にいた鬼人族の冒険者達は感心そうに「ほぉ~」と納得して頷いた。
「まぁ他にも用途があるけど主な目的は防御だ」
シンはそう答えてスコップをもう一度背中に差した。
その時シンは槍と言う単語である事に気が付き丁度この場に居る鬼人族の冒険者達に質問する。
「「犬槍」と言う言葉を聞いた事はあるのか?」
シンの単語に反応したのは金髪の鬼人族の男だった。
「犬槍?ああ古い言葉を知っているねぇ」
「古い?」
意外な反応にシンはオウム返しする。
「槍を投げちゃいけないやつでしょ?」
そう答えたのは別の鬼人族の冒険者だった。
「ああ、そうだ」
頷いて答えるシン。
すると金髪の鬼人族の男が詳しく答え始めた。
「今では投げた後で利用されない様に巫術や魔術が施された槍であれば投げる事が多いね。投げる理由としては相手に不意打ちの牽制の為や大きな決定打で投げる事が多い。普通の槍では投げる事は無いね。ああ、でも木槍や竹槍は投げる事があるけど」
彼の言葉にシンの目は少し細めた。
「利用されない様にって何を施されるんだ?」
シンの質問に金髪の鬼人族の男は小さな声で「う~ん」と数秒程唸ってから答える。
「基本的には巫術等で付与させて投げた後、自分の意思で戻って来たり、刺さった瞬間燃え盛る炎で辺りを包んだりして相手に利用されない様にしているかな?あ、当然その場合相手に当たったら燃えるからね?」
「結構遠くまで飛ばせるのか?」
「他の種族は知らないけど鬼人族は弓矢程じゃないけどそれなりに遠くまで飛ばせられるよ。それこそこっちが気が付き、相手がこちらの事に気が付いていない程度の遠さであったら十分当てられる距離だ」
「・・・・・」
気付かれない程度の遠さ。状況にもよるが、50m以上100m未満の距離感と考えるのが自然だろう。
つまり物陰や雑木林の中等、自分が身を隠せる状況でこちらが気が付き向こうが気が付いておらず、なおかつ100m未満の距離であれば十分に大きな牽制が出来るという事になる。
「他に知りたい事はあるか?」
「いや、もうないな」
シンがそう言って立ち上がり、今度は銀貨を置いた。
それを見た金髪の鬼人族の男は何かを思い出した様に口を開いた。
「あ、そうだ。ここを出て5軒先に飯が美味い宿がある。そこへ行ってみるといい」
その言葉を聞いたシンは立ち止まり金髪の鬼人族の男の方へ首を動かし視線を向けた。
「感謝する」
シンは頷く様に小さく頭を下げて感謝の言葉を述べてギルドから立ち去った。
「「「・・・・・」」」
シンが立ち去る瞬間まで静かにジッと見つめていた金髪の鬼人族の男を含む鬼人族の冒険者達。今いた冒険者達は今いる席に座り酒を片手に持った。
「さっきの奴が例の銀メダル持ちなのか?」
その言葉に頷く金髪の鬼人族の冒険者。
「ああ、あの弓を引けていらない力みが無いという事は少なくとも同族の兵士並みと考えていいだろう」
「その考えが妥当だろうな」
そう答えて頷く隣に座ったもう一人の鬼人族の冒険者。
「で、どうだ?あいつはギルドの事を」
僅かに身を乗り出して他の鬼人族の冒険者達に訊ねる金髪の鬼人族の冒険者。
「何とも言えないが、事情を知っていれば敵でない可能性が高いだろうな」
軽くグビリと酒を飲んで答える鬼人族の冒険者。
「だな。変に勘ぐって目を付けられる必要もあるまい」
同意して頷く鬼人族の冒険者は肴を摘まんでいた。
「よし、取敢えずは様子見って事で」
金髪の鬼人族の冒険者の言葉にその場の全員が頷き
「「「賛成」」」
と声を合わせて軽く盃にある酒を飲みほした。
「ボス、どうだった?」
金髪の鬼人族の冒険者から教わった宿に向かう途中。
50m程の間だけ周りに誰もいなかったからアカツキは軽く声を掛ける様に通信を入れた。
「ああ、強かった。それも相当な強さだった」
歩きながら小声でそう答えるシン。
「あのギルド長はどうだ?」
「強かった。あれはかなり現場慣れしている」
目が細めてそう答えるシン。
「一般人とかはどうだ?」
アカツキが言う一般人のモデルの代表は間違いなくゴンゾウ達、村人の事を差していた。
「判断材料は少ないが恐らく十分すぎる位強い」
シンがそう答えると
「ボス・・・」
と何か含む様な言い方をするアカツキ。対してシンは
「ああ・・・」
と理解してそいう答えるシンは更に何か続けて言おうとしたが前から多くのオオキミの一般人が来ていた。それに気が付いたシンとアカツキは
「一旦切るぞ」
「ああ」
と短いやり取りをして通信を切った。
そして、シンは軽く息を吸って上を向いて
「俺達にいくら程手に入っているかな・・・」
と呟き、前の方へ向き直してその人混みの中に消えていった。
気が付けば200話。
いつの間にかの200話。
ここまで話を執筆してきた事に驚きと喜びが自分自身の中でグルグル回っている形で狂っています。
つまり何が言いたいのかと言いますと
おめでとう自分!
遂に200話!
だからこれでこの物語が・・・
終わりません!
当然続きがあります。
自分自身でもどう表現しどう喜んでいいの変わらない状態でありますが、今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いいたします。