18.対峙
「む~?」
ココが目を擦りながら可愛らしい声を出しながら周りを見た。同時にククも起き上がり眠気眼をどうにかしようと擦っていた。すると2人は何かが違う朝だと気が付いた。それは皆がキャンピングカーの窓に張り付くように外を見ていた。
「っ・・・」
ククが皆が何を見ていたかを訊ねようとしたがすぐにやめた。皆の顔が怯えていたのだ。ククとココはそっと皆の方へ近づき窓の外を見た。
「「!」」
ククとココは窓の外を見た瞬間皆と同じく怯えた顔になってしまった。2人の存在に気が付いたシーナ。
「こっち来て!」
そう言って2人を連れてキャンピングカーの奥へ入って行った。そんな3人をよそに未だにナーモ、エリー、ニックは外の様子に釘付けになっていた。
窓の先にはこの世界において決して敵対したくない存在がそこにいた・・・。
シンが目覚めると白銀のドラゴンがいた。シンがそのドラゴンを見た瞬間とんでもない強いと思った。第六感と言うべき勘と言う漠然としたモノで相手の強さを読み取った。だが、シンはそんな漠然とした勘を信じていた。
「・・・・・」
シンはそのドラゴンをじっと見ながらキャンピングカーの屋根から降りる。
「その前に自分から名乗るものではないのカ?」
警戒しながら少しずつドラゴンに近づいて行った。するとドラゴンは少し笑ったように見えた。
「ふむ、確かにそうだな・・・。我はギア・バルドラ」
「・・・俺はシン」
ギアは腕を組みシンの方をジッと見る。
「シンとやら、いくつか聞きたい事がある」
シンは少し身構えた。
「何ダ?」
ギアと名乗ったドラゴンはシンに見せつけるように徐に翼を広げる。
「見ての通り我は空を飛ぶ事ができる」
「・・・」
少し勿体付けるような言い方だった。だが、その勿体付けるよな言い方はシンにとってプレッシャーに感じる。
「それで、地上に気になるものがあった」
「・・・・・」
そこまで言えば何が言いたいのかは大体予想はついた。中世ヨーロッパとほぼ同じ文明で数百m上空からで目立つ物と言えば軍隊の行進。或いはシンがエリー達を助け出した時の・・・
「2台の馬車と複数の死体だ」
「・・・・・」
ギアの口から予想通りの答えが返ってきた。
「・・・・・・・・・」
目付きを鋭くし、相手に悟られない程度に身構える。シンは警戒した。
(このドラゴンがここに来たのはここが縄張りだからか・・・?)
ここはギアと名乗ったドラゴンの縄張りで勝手に荒らしその制裁を加えに来たのではと考えたのだ。
「あれは、其方が?」
シンが考えている間にも話が進んでいく。
「・・・」
シンはどう答えようかと考えていた。「あれは自分ではない」と答えても「ではなぜお前達は無事なのか」と問われる。また、後ろにあるキャンピングカーに話題を移したら今度はまだ起きていない皆に危険に晒されてしまう。遠くの地から逃げて来たと言っても空を飛ぶドラゴンからすれば少なくともこの一帯は知り尽くしている。すぐに嘘はばれてしまう。どう答えても怪しまれるばかりだ。そこで思い切って
「・・・確かに俺がやっタ」
正直に答えた。
(少なくとも連中と組んでいるならとっくに襲われてるしな・・・)
少なくとも奴隷商人連中とは関わっている可能性は低いと思ったのだ。もし、仮に奴隷商人達と関わりがあるのならば既に問答無用でこちらに襲ってきてもおかしくは無かった。
それが無いという事は別の要件でここに来たという事になる。シンがそこまで考えを纏めた時
「安心しろ、殺された連中とは関わりは無い」
シンの考えを見透かしているのか、頭の回転が早いのか、シンが懸念していた事を次々と答えるギア。
ギアの返答に突っ込む余裕もなく、さっきの返答を推測し
(という事は考えられるのはこの辺一帯の主か何かか?)
そんな疑問が浮かび上がりギアに訊ねる。
「この辺の主カ?」
ギアは明らかにニヤッと笑っているかのような表情を作り視線を車の方へと向けた。
「主ではない。それよりもシンよ、後ろにあるあの荷車は何なのだ?」
やはり聞いてきたか。あの中には子供がいる。シンはポーカーフェイスではあったが内心冷や冷やしていた。もしギアがこちらに害意が出た瞬間シンは即座に子供らを逃がす事を優先した戦闘に入る事になる。しかし目の前にいる相手は相当強い。子供らを守り切れる自信があまり無い。なるべくなら戦闘は避けたい。シンは慎重に言葉を選ぶ。
(長話をして時間稼ぎをするか?)
そんな事を考える。
だが急にキャンピングカーを見ていたギアが目を細めて次第に目を閉じた。
「・・・まぁよい、それよりも」
興味を無くしたかのような返答をし、視線をシンの方に向ける。シンは更に身構える。
「其方自身についてだ」
「俺?」
鋭くなった目付きが細くなる。
「そうだ、其方は馬車の連中を殺した。その時の傷跡を見るとかなりの腕前の様だ」
「・・・・・」
ギアはシンの強さについて聞く。
(魔法、とかでも答えるか)
そんな事を考えていた。考え着いた事を答えようとするシンよりも先にギアが話す。
「しかし・・・!」
急に声色が変わり口調も荒々しくなった。
「口で語っていても嘘が混じるだろう。ならば・・・」
と「しかし」の続きを言うギア。
「・・・?」
シンはギアが何が言いたいのかさっぱり分からなかった。そんなシンをよそにギアは徐に腕を組むのを止めていき、目が徐々に見開いていく。
(口では嘘・・・まさか!)
シンはまさかと思うセリフが頭に浮かんだ。ギアは腕組みから右手を前に出し左手は拳を作り、腰に当てるような形で構える。そして、シンが予想していた
「この場で試させてもらう!」
そのまさかのセリフが飛んできた。
(くそ、やっぱりか!この脳筋トカゲ!)
シンは「BBP」で刀に変形しようとするが少し遅かった。
フッ…
「!?」
ギアが一瞬でシンの間合いに入り込んだ。
(早っ!)
「では、参るぞ」
ギアが格闘技でもやっているのか素早く拳を突いてくる。
ドドドドドドドドドドドドドドッ!
「くっ」
上から下から右から左からとあらゆる方向からギアの拳の雨がシンの身体に降り注いだ。シンはギアからの猛攻に堪え切れず素早く離れる。
(ちっ・・・。目では追い付けられるが、間合いに入り過ぎて反撃ができない・・・!こんな事なら格闘技でもやってれば良かった・・・!)
「BBPで刀状で対応しよう」という考えで変形しようとしていたため、刀状にする前に間合いに入った為至近距離で対応できる指を刃状にするのが遅かった。しかも、恐ろしいぐらいのギアからの猛攻を防ぐのに精一杯だったため結果的に素手の状態での戦闘になった。
「・・・・・」
シンにとっては重いミスだった。
しかしギアはギアで
(うむ・・・、一発一発重く殴ったが、ビクともせんとは。頑強な奴だ・・・)
お互いが予想以上の事に驚いていた。
(これは・・・)
(・・・参ったものだ)
次の手をどう進めるかを考えるシンとギア。
(だったら・・・)
シンは閃き
バッ!
「!」
一気に間合いを詰めたシンは攻め続ける!そして負けじとギアも応戦する。
ガガガガガガガガガガガッ!
(急に攻め込んできた!?)
ギアは何故シンが急に攻め込んできたのか分からなかった。右手左手を使って次々と素人拳法で攻める。
「考えなしで来よったか!?」
ギアは応戦しつつシンの攻め込んだ理由を考えていた。
すると
「!?」
ギアは何か異変を感じて右の拳を全力で突き飛ばした。
ドゴォォォンッ!
バキバキバキ…ドォォォォン!
「っ・・・!」
シンは吹っ飛ばされて木にのめり込む形で打ち付けられる。木は折れシンの口から血を吐き出す。大木とはいかないものの材木に使われそうなそこそこ良い木が折れてしまったのだ。明らかにとんでもない力である事が分かる。
ギアは信じられないといった顔でシンを見る。
「我に何をした?」
シンは薄ら笑みを浮かべ
「お前から魔力を戴いただタ」
「・・・戴いた?」
シンは徐に立ち上がる。シンが閃いた事。それは、猛攻を仕掛けるふりをして徐々にギアの魔力を奪っていくという考えだった。こうすればいずれ魔力切れを起こし何らかの体調不良を起こすのだろうと考えていた。また万が一、体調不良が起きなかったとしても魔法を使う事は出来なくなる。そうすれば長期戦を持ち込んで何とか倒す機会をうかがう事ができるようにしたのだ。
しかし、シンが考えていた以上に気取られたのが早かった。
(・・・どうしたものか)
シンは再びどう攻めようか考える。
「・・・・・」
ギアは考えていた。このままシンと戦えば何とか勝つことはできると。しかし、ギアの目的はシンを倒す事ではなかった。飽く迄シンの正体が知りたかっただけだ。
(それに・・・)
再びチラリと車の方へ目を向ける。
「・・・・・」
こんな状況なのにも関わらず瞼を閉じる。
(俺と戦っても余裕がある、か)
シンはギリッと歯を噛み締める。
徐にシンの方へ目を向ける。
「ふ、ふふ・・・」
「?」
「ふはははははははは!」
ギアは突然笑いだした。突然の事にシンの頭の上ではクエスチョンマークが飛び交い警戒していた。
「見事なものだ。其方の勝ちだ」
「!?・・・どういう事ダ?」
クックックと笑いながら理由を話す。
「・・・単純な話よ。我はもう戦う気はない。ただそれだけよ!」
「・・・・・」
他にも理由があると考えていたシンだが深く聞こうとしなかった。理由はまずギア自身が殺意や敵意が無かった事。全身がほぼ「BBP」化としたは本能的に殺意や敵意を遠くからでも確実に感じ取ることができる。だが今回はそれが無かった。まるで試されていたかのようだった。
しかし、それだけではないように感じるシン。
そしてギアはシンにアドバイスを送った。
「シン、悪くなかったぞ。だが、其方の元々の身体能力と魔法に頼り過ぎだ。あれではいつか敗れるぞ」
ギアが言っていた事はほぼシンが危惧していた事と合致していた。確かにシンは「BBP」の身体能力にかなり頼っていた。同じ力を持ちかつ武術の心得を持った相手には負ける可能性はかなり高かったからだ。この世界の負けは「死」とほぼ同義だからである。だからこそどうにかして武術を会得しようと考えていたのだ。
「助言どうモ・・・」
急にギアからアドバイスを受ける事になったかも分からないままだったシンは取敢えず現状のギアは敵ではないと認識していた。
「ふむ、ではあの荷車を近くで見させてもらうがよいか?」
「・・・・・中にいるやつを驚かすなヨ?」
「ふむ、やはり気が付いておったか」
ギアが2回ほどキャンピングカーに目を向けていた様子を見て、中に誰かいるの見たのだろうと考えていた。ギアはキャンピングカーに誰かいるのを気づかないふりをしたのだが、結果は言うまでもない。
「うむ、気をつけるとしよう」
これによって早朝の短い戦闘は幕を閉じたのであった。