197.守れるか
続きをどうぞ!
マエナガの武器は脇差に似た刀剣。その脇差は刀特有の鍔が無く刀身は肉厚で鍛造特有の紋様に白刃だった。
(脇差風のマチェットみたいだな)
シンはマエナガの武器を見てスコップを持つ手を軽く握り直し横薙ぎをする構えに入った。
(コイツの武器は短槍か・・・。妙な形だな・・・)
マエナガもシンが持っているスコップを見て警戒をしていた。だが、特殊な形状にシャベルとは思わず、幅広な形をした特殊な短槍と見ていた。
マエナガの脇差の構えは右手で軽く持って左手を軽く腰に当てていた。所謂中断の構えをしていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
お互い何かする事も無く只ジッと相手の出方窺う駆け引きが行われていた。
(一見すれば隙がある様に見えるが、相手が短槍を使っている。となれば隙は態と見せていると考えるべきか)
短槍の横薙ぎの構えに出来る時、どんな振り方ができる様に両手で柄を持つ間隔が長い。と言うのは短く持ってしまえば小さく振る事が出来ず、野球のバットの様な大振りになってしまう。間隔を長めに取っていれば柄の部分を盾にする形で不意の斬撃や突き等の攻撃を防いだり、早くて距離が短いナイフの様な物での攻撃を防ぐ事が出来る。
シンの場合は若干だが、短めに持っている。長い間剣や槍等の原始的な武器を握っている者であればシンの持ち方が素人と思われても仕方がない。
だが、マエナガはシンの横薙ぎの構えの時の足元の重心のバランスを見てこれは誘い、所謂フェイントと考えた。
そして、マエナガの見解はまさしくその通りで見事に見抜いていた。実際シンは態と隙らしい隙を見せつけてマエナガの動きを誘っていた。
(誘いに乗ってこないな・・・。やっぱりかなり出来る男という事か・・・)
時が止まった様に、湖の水面が一切波が立っていない様な不動の構え。シンの一向に誘いに乗ってこないどころか、ビクともせずただ只管シンの出方を窺っているマエナガに改めて実力を認識したシンは摺足で前に全身を始めた。
ザリッ…
大してマエナガも構えたまま摺足でシンに詰め寄る形で前に進んで行く。
ザリッ…
お互い出方を窺いつつ牽制して摺足で距離を詰めていく2人。
ザッ…!
お互いの距離が2m程の時、お互い立ち止まり相手の様子を窺い始めた。
それが30秒程経った時の事。
事態は動く。
「・・・っ!」
先に仕掛けたのはシンだった。
ヒュッ!
横薙ぎに構えていたから当然そのまま横薙ぎに振った。
「!」
早い。
想像以上に早い。
「っ!」
ヒュッ
だが、避けれない程ではない。そのまま下に潜り込む様にしゃがんで避けつつ一気に距離を詰めた。
「・・・!」
振った時に両手ともスコップの柄のギリギリ後ろ部分で握っているせいで次の動作にタイムラグが入る。それを狙ってマエナガは持っていた脇差でシンの喉元を狙う。
ヒュ!
「!」
シンは咄嗟に振ったスコップを戻す様に引いて、その勢いでスコップ面の裏の中心部分の分厚い部分で喉元を迫りくる脇差の切っ先から防いだ。
「ぬ!」
スッ…!
マエナガは咄嗟の行動に目を細めて一度身を引いた。シンも一歩程引いて体勢を立て直した。
(流石に今のは誘い込みすぎたな。早く対処できなかったら喉元グサリだった・・・)
(今の防ぐとは・・・やはりこうした事には慣れているな。だが・・・)
軽く息を整えて再び例の構えに入るマエナガ。シンはスコップを持つ両手の感覚を最初に構えた時よりも大きく開けてスコップ全体を盾にする形で臨機応変に対応できるように構え直した。
(やはり誘いだったか)
シンが構え直した事を見て確信を得たマエナガはもう一度呼吸を整えた。シンは攻撃の構えではなく防御の構えのまま動かずただジッとマエナガの様子を窺った。
そんな2人にただ只管ジッと眺めていたのは受付嬢とアワダだった。
「・・・・・」
受付嬢は唖然としていてただ只管見守っているばかり。
「・・・・・」
アワダは唖然とはいかないもののシンの動きを見て目を少し見開いて驚いていた。
(は、早い!。今の動きであれば軽い脇差の方が明らかに決め手を取っていた。それを防いでしまうとは・・・!)
アワダが考えてえていた事は当たっていた。と言うのは常にすぐに動く事ができるマエナガの武器は脇差に似た刀剣。脇差は片手で扱えるように作られた日本刀。それと同じ作りであれば当然軽いはずだ。加えて彼の種族は鬼人族。片手で扱える刀剣を鬼人族の素人が振っただけでも常人ではありえない位の振りの早さと重さを出す事が出来る。
比べてシンが持ているシャベルは短槍並みとはいえ、重さと長さがある為脇差程早く扱う事が出来ない。その上本人以外の他人から見ればシンは常人、つまり鬼人族以外の種族だから振っても遅くて軽い不利しかできない。
アワダはそう考えていた。
だがさっきの武器を交えた瞬間を見た時、一気にシンに対する認識をガラリと変えた。
少なくとも鬼人族の兵士並みに強い。つまり冒険者ランクC以上あってもおかしくない。
アワダと受付嬢の認識と評価はそこまで上がっていた。
そんな中2人は動き始めた。
「!」
シンはここは流石に本気でいかなければと考えた時、僅かではあるが殺気を漏れ出した。するとマエナガは目を鋭くさせて微動すらもさせない様に動きを止める。
「・・・・・」
「・・・・・」
膠着する2人。
「「・・・・・」」
固唾を飲み込む2人。
緊迫し糸を張り詰めた等との表現では浅く感じる位に重く酷く息苦しい凍り付いた空気。加えて僅かとはいえ酷く鋭い殺気を出すシンにマエナガは動じる事無く動きを止めて構えを維持していた。
模擬試合とは言え、お互い相手を殺しに掛かってもおかしくない位の異様な状況。
数秒ですら酷く長く感じて、見てる側ですら冷汗を掻き、全身が硬直して動けないでいてしまう程の殺伐とした空気の中、先に動いたのは
「ここまでだ」
マエナガだった。
開口してすぐに構えを解き脇差を腰にある鞘に仕舞い込んだ。
シンはその言葉に
「はい」
と返事をしてシンも構えを解いた。
相手にもう戦う気が無いと判断したシンは持っていたスコップを背中に仕舞い込んだ。
その瞬間、お互い相手を殺しに掛かってもおかしくない位の異様な空気が無くなり普段の闘技場に戻った。
「「・・・・・」」
フ~と呼吸を整えたのはアワダと受付嬢だった。
酷く息苦しくて重い空気が無くなり普段の空気に戻った事により緊張が解けて体の硬直が無くなり、そのままヘタレ込んでしまいそうになる受付嬢に、水中から顔を出した様に安堵の呼吸をするアワダは肩の力が一気に抜けた。
そのタイミング、シンとマエナガは距離を縮めて軽く話し合っていた。
「見事な腕前だった。正直な所ここまでできるとは思ってもみなかった」
初対面の時よりも更に穏やかな口調の上、どことなく不器用な笑顔でシンに接するマエナガ。
「いえ。まだまだ未熟です」
シンはそう答えて首を横に振る。
返答を聞いたマエナガは数秒程何か考えた後小さな声で「やはり言っておくか」と呟き
「前から思っていたんだが・・・」
「はい?」
「お前は敬語に慣れていないな?ならば敬語を使わずとも普段通りに話せ。・・・何と言うか・・・こう、気になる」
と答えた。
どうやらシンの敬語にぎこちなさや違和感がある事に気が付き、元から慣れていない事ではないかと考えた。その上、酷く機械的で人を寄せ付けない不気味な言葉に聞こえる事もあり、敬語を止めて普段通りの口調で話す様に言った。
その事を理解したのかシンは頭を縦に振った。
「・・・分かったよ、マエナガギルド長」
普段通りの口調にマエナガの表情は少しずつ柔らかくなっていった。どうやら初対面の時のあの雰囲気はシンの様子を見て隙の無い様に気を張っていた様だ。
そう判断したシンは肩の力を徐々に抜いて気楽な話しを始める。
「さっきの模擬戦闘で俺の評価は?」
お互い殺し合う気が無かったとはいえ素人では決してできないレベルの模擬試合をしたシンとマエナガ。シンの立ち回りや技の速さと正確さ等々判断すべき点が多かった。
そしてシンの疑問にマエナガはどことなく不器用な柔らかい声色で
「銀メダルを持っていてもおかしくない、と判断した」
と答えた。
その答えに
「そうか」
と只淡白にそう答えただけだった。
対してマエナガはシンに対する評価の続きを話し始めた。
「最後に俺の部屋でその銀メダルの事を調べさせてもらえるか?」
確かにいくら銀のメダルを持っても問題ない実力を持っているからと言ってシンが持っているその銀メダルが本物であるという確証はない。
本物かどうかを確かめる必要があるのは間違いない。
「分かった」
やはりあの模擬戦闘は銀のメダルを持つに当たって相応しいかどうか御見極める為のものか、という考えと共に真贋の確認を必要がある事を理解出来たシン。
シンが理解した事を確認したマエナガは
「こっちに来てくれ」
と言って先に歩き始めた。シンは小さく頷いてそのままマエナガに付いて行く。同じくアワダと受付嬢もシンの後を追う形で付いて行く。
「・・・・・」
数歩程歩いた時、マエナガとアワダ、受付嬢の視線はシンの方へ向けていた。
シンもその視線に気が付いていたが何かするわけでは無いと判断して気にしない事にして黙って付いて行った。
以上を持ちましてゴールデンウイーク間の3連続投稿を終了となります。
本当は明日も投稿しようと考えていましたがそこまで間に合いませんでした。
心の中では「チクショー」と小さく叫んでいます。
当然ですが「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」はまだ続きますのでご安心ください。
今後の予定ですが一応目途として今月内の5/20以降のいずれかに一話投稿しようと考えています。
また私の都合で暫く待たせる事になり、ご迷惑をお掛けしますが今後ともよろしくお願いいたします。