196.身分確認
明日にも投稿します。
駅から降りて数分歩いた頃。アワダは部下を引き連れながらシンと共にギルドに向かっていた。そしてある建物の前にいた。
「・・・・・」
和風の建物の連なっている中で一際目立っている建物があった。その建物は横に広がる形で大きく、3階建てで、黒い屋根瓦に白い壁、大きな石材で造られた階段があり、縁側には大きな屋根を支えるか形で大きな柱がズラッと並んで木造の手すりがあった。その奥には白い壁にはめ込まれた格子状の窓があり、玄関と思しき門は武家屋敷で見かける様な門があり、近くに開き戸の「小扉」を設けていた。その建物の風貌はまるで本願寺の様だった。窓の外から冒険者らしき人間がウロウロと動いているのが見える。
シンがまさかと思った時タイミングよくアワダ達が口を開いた。
「ここがギルドです」
そしてこの建物がどうやらギルドのオオキミ支部の様だ。ギルドと分かったシンはギルドの門の方へ見た。
「参りましょうか」
「はい」
シン達はそのままギルドの玄関口へ吸い込まれるように歩み始めた。武家屋敷の様な門を押して開けた。
ガタッ…ガラガラガラ…
小扉はを引き開けると、冒険者達がこちらに気が付きピタリと喧騒が止み、シンを観察する様に見ていた。
「「「・・・・・」」」
シンは普段と変わらない飄飄とした感じで、アワダは毅然と平然とが合わさった様な態度で前へ進んだ。当然素性の知らないシンを知ろうとするべく冒険者たいの視線はシン達の方へ追う。
「おい、警務隊だぜ」
「隣にいる奴、誰だ?見かけねぇ顔だな」
「中々強そうに見えるわ」
シン達が前に歩いていくにつれて様々な種族の冒険者達からシンとアワダの印象や分析結果を各々の小さな意見となって言葉を交わしていた。
シン達はそんな声に気にせず受付窓口に向かう。
こういった場の空気に慣れていない一般の人間であればこの異様な光景に冷や汗を掻き、足が竦んで引き返す様にギルドから出て行く事だろう。
つまりここギルドに用事ある人間は度胸のある人間でなければ通過できない所でもある。
(思っていた以上に和風だな)
ギルドの内部の光景ははっきり言えば和風ファンタジーそのものだった。幾何学模様に敷き詰められた石畳に木造の段差があった。左右の壁には木製のボードが掲げられて何かしらの依頼書が貼られていた。その場所では張り付く様にして冒険者達が自分に合った依頼書を探していた。それ以外の冒険者達は待合室となっている大広間にある無数の数人で囲むタイプの円卓に座り、情報交換をしていた。気楽に情報交換ができるように食事や酒が飲めるように食事処が併設されていた。更にその奥には畳が敷き詰められて文机が置かれてそこに受付係が座っていた。どうやら受付窓口の様だ。その奥には書棚や別の文机がたくさん置かれてその席で何かしらの書類に目を通して処理するギルドの職員達がいた。
シンとアワダは目の前にある受付窓口に向かうと受付嬢から声が掛かった。
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
受付嬢は白を基調とした着物を着ており、額には小さな角が付いていた。どうやらこの受付嬢は鬼人族の様だ。
受付嬢の問いに答えたのはアワダだった。
「彼の身分を確認したいのですが、宜しいでしょうか?」
アワダがそう答えると受付嬢の視線がシンの方へ向いた。
「失礼でございますが何か身分を確認できる物はございますでしょうか?」
シンは窓口に近付いて後ろから横から誰にも見られない様にして懐から銀のメダルを取り出して
「身分証明になる物になるかどうか分からないけど・・・」
受付嬢に見せた。
「!」
銀のメダルを見た受付嬢は目を大きく見開きシンの顔を改めてジッと見た。
「失礼でございますがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「シンと言います」
淡々とした口調で答えるシン。
「シンさん、銀のメダルを受け取った場所は覚えておられますか?」
「ああ、ヨルグという所です。確かアイトス帝国と言う国の町だったと思います」
先の質問を聞いた瞬間、銀のメダルの所持者が本人かどうかを確かめているのだと確信したシンは即座に答えた。
銀のメダルはこれは只のメダルであり、特権と身分証明ができる代物である。特権は身分が高い者しか利用できない施設を使う事は出来ないが、銀のメダルがあれば問題なく使える。代わりに悪用した、或いは盗まれて悪用された場合、罰則として相当額の罰金を支払い命令が出る等の相当なリスクがある。故にこれを持つに至っては相当の覚悟が必要になるという事だ。
だから事実確認の形で質問をしている。そう考えていた。
そしてそれは正解だった。
「最後に伺いますが、過去にこれを使われた事はございますか?」
「身分を証明をする為に警務隊と今貴方に見せた位です」
シンがそう答えると受付嬢は小さく頷いて答え始めた。
「分かりました。申し訳ありませんが少々お待ちいただけますか?」
シンはアワダ達の方へ見て時間がかかりそうだが大丈夫か?、という視線を送った。するとアワダはコクリを頷いた。どうやら問題なさそうだ。
それを確認したシンは改めて受付嬢の方へ向き
「はい」
と返事した。返事を聞いた受付嬢は立ち上がり軽く会釈して
「ではお待ちください」
その場を後にした。
シン達はその受付窓口でただ待つ事になった。
待つ事10分程の事。
受付嬢が壮年の鬼人族の男を連れてシン達が待っている窓口に戻って来た。
「お待たせしました。ギルド長、こちらがシン様です」
受付嬢が連れてきたギルド長と呼ばれる男は長い茶髪で後ろを紐で括り、整った髭の厳格そうな壮年の長身の男だった。灰色に近い緑の着物にブーツ、腰に脇差に似た刀剣を差していた。
「俺はオオキミ支部ギルド長マエナガ・ジョウと言う。お前さんがシンだな?」
低く厳格だが、どことなく気を使っているのか柔らかくしようと努めた様な口調で自己紹介と本人かどうかの質問をした。
「ええ」
シンはそう答えて頷いた。
それを聞いたマエナガは小さく頷き、改めてシン達がいる広間へ行き、
「悪いんだが、俺達に付いて来てくれないか?」
と付いて来るように言った。
「どこへ行くんですか?」
銀のメダルを手渡して何かしらの方法で自分の身分証明をするんだろうな、と思いながら心にも思っていない質問をするシン。
「闘技場だ」
少し意外だった。
故に少し目を見開くシン。
「闘技場?自分に戦えと?」
身元を確認するのに何故闘技場を?
普通は応接室のような部屋で面談する形で身元を確認するだろう。いくら銀メダルを持っていて怪しいとは言えいきなり闘技場に連れて行かれるのはどういう事なのか。
そう言わんばかりに少し訝し気に訊ねるシンはエーデル公国支部のギルドで試された事を思い出す。
「まぁそれに近い事をする」
そう答えるマエナガに更に食いつく様に訊ねるシン。
「どういう事ですか?」
「詳しくは着いてからだ」
マエナガの口調が変わった。
厳かでひどく緊張の糸が張った強い声にシンは
「分かりました」
と答えてそれ以上追及する事なく付いていった。
シンが黙ったのはエーデル公国支部のギルドで試された事を連想し何か試されている可能性を示唆した。
それ故に黙って付いて行く事にしたのだ。
ギルドの裏口から外に出て、別の建物に入った。
その中に入ると円形の観客席に円形の砂地の舞台。観客席に舞台の壁は古代コンクリートで造られて和風にアレンジされたような造りになっていた。舞台の隅に藁や茣蓙の様な物を巻いた木の杭と大きな木槌が置かれていた。
どうやらここが闘技場の様だ。
シンがキョロキョロと辺りを見渡しながら進んで、闘技場のちょうど真ん中で立ち止まった。
「ここで何をするのですか?」
シンは今度こそと言わんばかりに強めの口調で訊ねる。
どうやらここで何かして銀のメダルの所持者が本人かどうかを確かめるようだ。
強い口調の声を聞いたマエナガは小さくニヤリと笑い
「俺と軽く手合わせてしてくれ」
と答えた。
シンはその答えに別に驚く事は無く小さな溜息を吐いた。はっきり言えば想像していたからだ。
「これで俺の実力を計って身分を証明できるのですか?」
シンはそう尋ねながらいつでも背中にあるスコップを取り出せるようにフリーにした。
シンの問いにマエナガはコクリと頷き答え始める。
「銀のメダルはある程度実力が無ければ持つ事が出来ない」
マエナガの答えにシンは納得が出来るものを感じた。
と言うのは銀のメダルを狙っている原因は間違いなく「特権」だろう。これさえあれば身分を偽って国立図書館の深層部にすらも入れる事が出来る可能性がある。もしこれが起きてしまえば、犯罪どころか外交問題になり兼ねず、最悪戦争に発展して侵入された側の国が滅んでしまう恐れもある。という事は下手すれば国からも狙われる恐れがあるという事だ。
つまり銀のメダルは自分の命以上の価値がある。
それを守れる力があるのかどうかをマエナガは知りたがっていたのだ。
そこまで理解に至ったシンは
「分かった」
と答えて背中にあったスコップを手に取った。同時にマエナガも腰に差していた脇差の様な刀剣を抜いた。
続きは明日にも!
お楽しみに!