189.絵面
今回の話は少しグロテスクな(?)表現があります。ご注意下さい。
いつもと変わらない清々しい朝。
起きてすぐに鱈腹食って朝食を済ませたシンは外を出て少し歩いた所で奇妙な光景を目の当たりにした。
バシッバシッ!
ドス!
6人程の村の子供達が人型の何かに群がって棒で叩いたり、股間辺りを棒の先で突いていた。傍から見れば何かの種族を迫害している様に見える。
まるで子供達が叩いているのが人形の様に見えるのだ。
「何やってんだ?」
シンは強めの口調でそう言いながら子供達の元まで行った。
「お兄ちゃん誰?」
「あ、この人お客さんだよ!」
シンが一体誰なのかについて話している子供達をよそに人型の方を見た。
人型の何かは一瞬死体ではないかと間違えそうになる位の木製の人形の様な人型だった。手と脚には指が無く顔に当たる部分はのっぺりとしていた。
だがあれだけ叩かれていて突かれているというのに助けはおろか苦痛の声が聞こえなかった。また痛みを感じていないのか叩かれているのにそれらしい防御する等の動きをせず唯々只管立ち上がろうとしている。
そんな人型に気が付いた子供の一人が
「あ」
と言って持っていた棒を大きく振りかぶって人型を殴った。
ボカッ!
中々に鈍く重い音。
そんな音がする程に強く殴ったというのにやはり苦痛による悶えた声が聞こえない。少なくとも動物の類では無いらしい。
「その叩かれている・・・人形?って祭りか何かあるのか?」
指差してそう尋ねるシンに子供達の中で年長者の10歳位の2本角の少女が答える。
「これはカキオトコっていう植物なの」
「植物?」
シンは改めて叩かれているカキオトコの方へ見る。確かに人形の様に見えるが良く見れば継ぎ目や人工的な間接が無く木の肌に節々に隙間があった。その隙間から植物特有の青々しい色が見えていた。一本の木が人の形になっていて動いている。
それを見ていたシンは巨人族を連想した。
「何で叩いているんだ?」
そう尋ねると次に答えたのは1本角の8歳位の少年が答える。
「ああして叩いてこかして食べるんだ」
少年の無邪気な返答に少し顔を曇らせるシン。
「食べる?食えるのか?」
どうやら迫害ではなく食用の為に叩いていた様だ。この様子から知性ある生き物・・・この場合であれば知性ある植物を殺して食べる為ではなく、木苺の実を取って摘まむ様なおやつ感覚でいる様だ。
「食べれる。お兄さんはカキって言う植物、知っている?」
また戻って2本角の少女が答える。
「あ、ああ。確か果物の・・・(この世界にも「カキ」って言う単語があるのか)」
まさかこの世界にも果物の「柿」があるとは思わなかったシン。いや、正確には柿と言う植物があり名前がありそれを食用である事をこの国の住人が知っている事に意外だった。
「そう。あのカキオトコって言うのは、中が甘いカキの味がするの」
2本角の少女が両手で頬を覆ってうっとりとする様な顔になってそう語る。だがよくよく考えてみれば食べるのは植物とは言え人の形をしている。
そのまま切って食べる、手足となる部分をもぎ取ってムシャムシャと食べる等々の絵面が中々にスプラッターでヤバイ。
そんな事を想像をしたシンは恐る恐る訊ねる。
「・・・じゃあ捕えてそのまま捌くのか?」
凄く聞きづらそうに尋ねるシンにうっとりとしている少女に代わって平然と答える1本角の男の子。
「うん。でもかなり堅いんだ。切るのが酷く時間がかかるんだ。だからこかして手と足を掴んで大人の元に持っていく」
「じゃあどうやって食べるんだ?」
シンがそう尋ねると子供達は全員で顔を見合わせて小さく頷いた。
「教えてあげるけど、その代わりにお願いがあるの」
「何だ?」
シンがそう尋ねると子供達がシンの方へ一斉に見て
「「「こいつを運ぶのを手伝って!」」」
とお願いされた。
「ゴンゾウ~」
シンは子供達を連れてカキオトコの手と足部分を縛って片手で運んでゴンゾウの宿の庭に来ていた。カキオトコは動いていた。だが、その動きは縄を振り解こうとしていたり、逃げようとしている様な激しい抵抗している動きではなく起き上がる為に腕を動かし歩こうとする為に足を動かす何ともゆったりとしたものだった。
この様子に違和感にも似た変な感覚を覚えるシンは宿の庭を見渡した。
「いないな・・・」
ゴンゾウの姿はない。だからシンはゴンゾウの名前を呼んでいた。
「ここにいるぞ」
ゴンゾウは宿の裏手にいた様だ。肩に鉞を乗せて宿の壁越しに顔を覗かせていた。どうやら薪割りでもしようとしていたのか、或いは終わった所だったようだ。
「何だって・・・ああ、そうか。そう言う時期だったな」
ゴンゾウはシンが運んでいるカキオトコを見てそう答える。
「そういう時期って何だ?」
「今位の季節になるとカキオトコの木から実が落ちるんだ。その時丁度それみたいに人の形をしていてその辺をウロウロしているんだ」
「何の為に?」
「新天地でカキオトコを芽吹かさせる為だ」
更に詳しく聞くと手と足があるのは足は言わずもがな歩いて新天地にて新たな命を芽吹かせる為の物だが、手は万が一こけた時に起き上がれるようにする為にあるのだと考えられている。ここで一つ疑問が出来る。何故カキオトコは人の形をしているのか。実の所よく分かっていない。
ただカキオトコは二足歩行で歩く動物を模倣している所からそれらに擬態して動いて自分よりも大きな動物に襲わせて、中にある実と種子をその場にばら撒いて苗床を確保しているのではないかと言う説があるらしい。
「(予想はしていたけど独特の生態だな・・・)それで子供らに聞いたんだが、これは食べられるらしいんだが、どうやって食うんだ?」
「ああ、それならこっちに来れば分かる」
ゴンゾウは言葉最後に「ついてこい」と言って再び宿の裏手に向かった。シン達も付いて行くように裏手に向かった。
「丁度これがあるしな」
ゴンゾウは持っていた鉞の方をチラッと見て小さくそう呟いた。シンはその呟きを耳にしたが未だにどういう事なのか分からなかった。
その呟きはどういう意味かという質問や考える間もなくすぐに宿の裏手に来たシン達。
ゴンゾウはシンの方を向いて
「シン、今抱えているカキオトコをそこの切り株に乗せてくれないか?」
と言って顎で切り株の方を指した。
シンは頷いて縛っていたカキオトコを切り株の上に乗せて少し離れた。カキオトコは未だに起き上がろうともがいていた。
「これでいいか?」
「ああ十分だ」
シンがそう尋ねた瞬間、ゴンゾウは持っていた鉞を薪を割る様に大きく振りかぶった。
「フンッ!」
ズンッ!
コンッ!
ゴンゾウはカキオトコの腹部めがけて鉞を思いきり振り下ろし突き刺さり、大きく割れた。
ブシ―ッ!
突き刺さった瞬間、カキオトコの腹部から大量の血のような赤い液体が噴き出した。だが噴き出す液体は血ではない事は間違いない。何故なら噴き出す液体の香りがメロンの様な甘い香りがしていたからだ。どうやらカキオトコの果汁のようだ。そしてそのひと振りであれだけ動いていたカキオトコは動かなくなった。
「・・・まぁそうするだろうとは思っていた」
シンがそう呟いた瞬間同じ位置にいた子供達が腹部が割られたカキオトコに群がってしゃがんだ。
「え?」
あんな光景を見てよく食べる気になるなと思いながらそう声を漏らすシン。
群がる子供達の内、2人の兄弟がカキオトコの腹部の前に来ていた。
「兄ちゃん、今すぐ甘い物が食べれるってどんなの?」
4歳位の1本角の少年は口に指を咥えながら、8歳位の2本角の兄の少年に服の裾を掴んでクイクイと動かして訊ねる。
「ちょっと待ってな、すぐに食わせてやるから」
兄はニンマリ笑顔でそう弟を窘める。その様子を見ていたからか、その兄弟に譲る様に他の子供達はカキオトコに触れなかった。
「うん!」
弟は素直で元気な返事する。その様子の弟に兄は頷いてカキオトコの割れた腹部に
「よし、じゃあここの間に手を入れて・・・」
そう言って手を挿し込んだ。その様子を見ていた弟は躊躇う事も無く手を入れた。
「こう?兄ちゃん」
手を入れた弟に小さく頷いた兄は
「中にコロコロしたものがあるだろ?」
そう尋ねる。弟は数秒程カキオトコの腹部の中で手を動かして
「・・・うん」
何か分かったのか頷いた。弟の返事を聞いた兄は説明を続ける。
「これの横にあるブヨブヨしたのを・・・」
そう説明してすぐに
ズルゥ…!
「引っ張る!」
カキオトコの腹の中から酷く鮮やかな赤の線維性のある長い果肉を引っ張り出した。引っ張り出した時と同時にあの赤い果汁が噴き出した。この光景を傍から見れば人の腸を引きずり出している様にしか見えない。
そんな光景にシンは数秒程間を置いてから
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
と声を漏らして今までにない位に顔が曇った。
そんな曇った顔をするシンを余所に兄は引きずり出した果肉を弟に見せつけた。弟も兄の真似をする様に引っ張った。
「えい!」
弟も果汁を噴出させながら果肉を引っ張り出した。
可愛らしい掛け声とは裏腹にやっている事がスプラッター系ホラー映画である様なグロデスクなシーンそのものだった。
そして兄は持っていた果肉を
「これを喰う」
と言ってすぐに齧り付いた。
それを見た弟も齧り付いた。
「甘い!」
齧り付いた弟はすぐに顔が綻んだ。
その様子を見た他の子供達は徐にカキオトコの割れた腹部の中に手を入れて果肉を引っ張り出して食べ始めた。
ムシャムシャ…
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その光景を見ているとゾンビ映画や宿にやってきた旅人を殺して生で食している様な御伽噺を連想した。当人達はただ単におやつの果物を頬張っているだけしかしていないのだろうが、シンが居る位置から見ればホラーな光景だった。
それ故にその光景に対する感想が
(絵面がヤバイ・・・!)
これに尽きる。
「・・・・・・・」
シンが唯々眺めているだけでいる事に気が付いた年長者の2本角の女の子が
「お兄さんは食べてみて」
と誘う言葉を口にしてまた手を入れた。そんな様子にシンは尋ねてみた。
「えーっと・・・腕の部分?を齧るとかは・・・?」
今の光景が人の腸を食べているゾンビにしか見えないから少し食い辛さがあった。そこでまだ大丈夫そうな腕や足の部分は食べられるかどうかを訊ねてみた。
だが、シンが期待していた答えは儚かった。
「硬くて食べられないよ。甘くもないし」
そう言って振り返る1本角の少女。手には果肉を手にしてシンに差し出していた。
「・・・・・そうか」
シンはそう答えて差し出した果肉を手に取った。
「・・・・・」
シンは少女が差し出した時、「朝食を鱈腹食べた」と言って断ろうかと思ったが差し出した時の子供達の視線が妙に潤んでいた。まるで何かをおねだりをする小動物の目の様に。
だからなのか断る機会を失ってしまったのだ。
「・・・・・」
意を決する程でも無いが小さな溜息を吐いて上から口に降ろす様な形でカキオトコの果肉を口に入れた。
「!甘いな・・・!」
舌の上に乗せた瞬間、ブドウの様な濃厚な甘味が広がり、メロンの香りが鼻に突き抜けた。
さっきまでのホラーな食べ方は兎も角、味は間違いなく良かった。
「お兄さんも」
1本角の少女の言葉に子供達はシンが入れるスペースを空けた。
シンは薬品による効能は効かない。だから麻薬の様に常習性のある植物ではない。純粋なバナナやリンゴと言った果樹の仲間だ。
だからその甘い味をもう一度口にしたいと思い子供達の誘いに頷いた。
その様子を見たゴンゾウは
「それじゃ手が入らないだろ」
そう言って再び鉞を構えた。その様子を見た子供達とシンはカキオトコの腹部をもう一度割れる様にその場から少し離れた。
そしてゴンゾウは鉞を振りかぶってカキオトコの腹部を割った。
ズンッ!
その様子を遥か上空、成層圏内から見ていたアカツキは
「絵面がヤベェな」
これに尽きた。
モデルとなった柿男の話は結構な下ネタな伝承であったに衝撃を受けた事はここだけの話。
詳しい話は検索をお勧めします。