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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
19/396

17.夢

 ドオオオン…


 ズン…


 ターン


 タタタタタ…



 爆音とともに上がる黒煙。聞きなれた機銃の銃声。血と硝煙の匂い。風景は崩れたヨーロッパ風の建物と瓦礫の山。車体を蜂の巣されて廃車となった黒こげの車。燃え上がる敵のテクニカル(民生用ピックアップトラック等一般車の車体や荷台に銃器や兵器を据え付け、装甲を施さず、車上戦闘を可能にした即製戦闘車両の事を指す)。銃による硝煙や爆炎による煙のせいか空は本来の青ではなく灰色だった。

 傍から見ればその場所は明らかな戦闘状態で所謂紛争地域だった。


 その中で迷いなく只管戦場を駆け抜ける自分。自分は傷と泥にまみれたどこかの国の軍服とヘルメット、弾倉を運ぶためのポーチがズラリと並び付けているベストを身に着け、89式5.56mm小銃(日本製のアサルトライフル。陸上自衛隊の主力小銃)を背負っていた。


「ハァハァハァ…」


 息を切らし目の前にいる小銃を持った異世界からやってきた兵士と肉食獣の様な怪物。


「!」


 自分の存在に気が付き持っていた小銃を構えたり、怪物をけしかける。


「・・・」


 そんな相手に対して決して怯む事無く、指が刃状となった右手でいつ振りかぶったかもわからない速さで切り刻む。


 キィィィィンン…


 金属と金属が勝ち合う音。そして勝ったのは自分。後ろを振り向くと、兵士と怪物が血の海で横たわっていた。右手には血が滴っていた。


「・・・」


 その事を確認すると迷い無く目標地点まで真っ直ぐ走る。




「これか・・・」


 目の前にあるのは敵勢力の旗だった。守っていた連中は血の海となっていた地面に伏していた。自分の手を見ると「BBP」によって鋭利な凶器となった指には大量の血が滴っていた。


「・・・・・」


 自分の手に付いた勢いよく血を振り払う。敵勢力の旗を下し、引きはがす様に取る。


 キンッ シュボッ


 持っていたライターでその旗を燃やし、自分のカバンから自軍の旗を揚げる。これで、自分達の勝利。その行為に何の疑問もなく掲げた。


「・・・・・」


 掲げたのを見て、いつもの様に味方の陣営へと戻る。






 敵地を制圧し、味方の駐屯地へ凱旋する自分。目の前に広がるのはややさび付いた鉄条網が付けられた金網に囲まれたと迷彩柄の大きなキャンプと建物が所狭しとあった。


 凱旋した自分の存在に気が付いた味方の兵士達が自分を称える言葉を投げかけてくる。


「流石だな、シン」


「見事なもんだ」


 するとシンは顔が強張り目を少し見開く。


(シン・・・?)


 自分が「シン」だという事に何か信じられないという違和感を感じた。何かおかしい。


(俺は・・・シン?)


 居ても立っても居られない焦燥感に駆られる。


「シン?」


「シン少尉どこへ行く!?」


 称賛する味方を兵士たちを押しのけ急いで自分のキャンプへ戻る。







「ハァハァハァ・・・」


 自分のキャンプの中に入り


「・・・・・」


 ゴクリと生唾を飲んでベッドの横の鏡を見る。


 いつもと変わらない自分がそこに立って欲しい。





「変わらない自分」?





「変わらない自分」って何だ?





 そんな思いから集中が切れ、鏡に自分が映っている事に気付き、我に返る自分。上手く言い表せない「何か」に期待に込めて鏡を見る。


 鏡に映っていたのは・・・



 長すぎず短すぎずの黒髪。整った顔に黒い瞳。その顔は、「ブレンドウォーズ」の黒元 真の「プレイヤーキャラクター」でもなければ現実世界の「黒元 真」でも無かった。


 そして、さっきの違和感は大きくなっていた。


「これが・・・俺?」


 自分の顔の頬を触ったり、髪をつまんだりした。


「キミは望んで体を変えた」


「!」


 声がする後ろの方へ見ると光に身を包んだ人の形をした何か。


「ノルン・・・?」


 見覚え、聞き覚えがあった。夢の中で出て来た「ノルン」。


「何で、ノルンがここに・・・」


 自分がそこまで言った時に


「お前は誰だ?」


 今度は横から聞こえた。自分は声の主を見て明らかな驚愕の表情に変わる。


「父さん、母さん・・・」


 自分の父と母だった。しかし、その表情は得体のしれない何かを見る目だった。自分はそんな親の様子等見た事もない。その上自分の事を「誰」という単語を実の父親が口にしていた。


「お、俺は、あんたの息子だろ?」



「知らんな、お前のような奴」


 冷たく突き放すように言い放つ父。


「息子を・・・息子を返して・・・!!」


 泣きながら懇願するように叫ぶ母。


 おかしい。自分はこの人達を家族だと知っているが、向こうは自分に対して冷たい。何かと間違ってるのではと考えた自分は異を唱えようとする。


「何言ってんだ!?俺はあんたの・・・」


 そう言いかけた時…


「お前は「プレイヤ―」でも「黒元 真」でも無い」


 遮る様に声が聞こえた。自分目の前にある鏡の方だった。


 鏡を見ると自分が映っている。だが、驚愕した自分の表情と鏡に映っていたが、何かを見透かしたような目でこちらを見つめるの自分。今映っている自分は自分で無い。少なくともここに居る自分はそう感じた。


「お前は・・・俺は何だ?」


 恐る恐る問いかけた言葉は奇妙なものだった。


 今映っているのは自分ではないのか、或いは何かを知っているのか。こいつは何なのか。自分は何なのか・・・。


 そう言ったあらゆる疑問が混ざったような問いかけだった。


「・・・・・」


 すると、鏡に映った自分はニヤッと笑いこう答えた。


「俺はお前であり、お前は俺だ。

 聞かなくてもお前が一番知ってるだろ?



「アンノウン」」



 鏡に映った自分は謎の言葉を口にした瞬間、今自分の中にある疑問を具現化したような仄暗い暗闇が広がっていった―





「ハッ!」


 気が付くと目に映るのは薄い青とやや赤みがかった空と雲。山の向こうから徐々に上がっていき暗い夜に終わりを告げるかのように光を差し込んでいく太陽。


「・・・・・」


 それは朝焼けだと気づく。上体を起こし、ぼんやりとした思考から段々としっかりと頭が働いて、昨夜は何をしたのかを思い出す。


「昨日は・・・ああ、そうか星空を見とれて寝たんだったっけ・・・」


 完全に思い出したシン。昨夜は星空を見て感動していたシンとエリー。エリーは星空を見つめながらキャンピングカーの中へそっと戻っていた。その時シンはウトウトとしていつの間にか眠っていた。そして、あの夢を見る。


「夢か・・・」


 夢だった。しかし、やや息を切らし、自分の身体を見れば冷汗でびっしょりと掻いていた。おまけにあの夢の事が忘れずに覚えていた。「たかが夢」。そんな一言では済ませられず、心に引っかかるような腑に落ちない様な、漠然とした不安の様な、とにかく釈然としない感覚。


「紛争地域に行っていた頃の俺・・・。紛争?」


 何かおかしい。黒元 真は平凡な高校2年生だったはず。


 それに黒元 真は戦争映画でもアニメやゲームでもあんなシーンは見た事が無かった。


(じゃあこの記憶は何だ?)



 シンはまさかと思う事があった。


「もしかして俺は・・・」


 と言いかけた時…



「其方は何者だ?」


 別の何者かの声声が聞こえる方へ見ると


「ここで何をしている?」


 白銀のドラゴンだった。


 シンはドラゴンが喋った事に驚いていた。だが次の瞬間…


「・・・・・!」


 ゾワッ


 冷たい氷水を背中に思いっきり浴びせられて、そこに冷たい風が吹いてくるような寒気を覚えたのだ。


(こいつ・・・)


 シンは大きく見開きドラゴンを改めて見る。


「もう一度言う。何者だ?」


 ドラゴンは真っすぐ見据えた目でシンを見る。

 シンは未だかつて無い危機感を覚えていた。





(強い・・・!)





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