表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/396

187.どう報告するのか

 崖から少し離れた場所・・・正確には目撃した崖から少し離れて傾斜角が少しなだらかな崖にシン達がいた。


「どうだ?いたか?」


 鋭い目付きで海岸や海面辺りをキョロキョロ探っていた若い一本角の男は何か見えたかどうかを仲間に訊ねる。


「いや、何もいないように見える」


 何かいないかどうか探っていたから訊ねた男とは視線こそ合わせてないものの首を横に振って否定する二本角の男。

 その返答を聞いた一本角の男は「そうか・・・」と答えて少し前に乗り出す様にして探る。


「お~い、あまり身を乗り出すなよー。()()()()()()()()()()()()も知らねぇからなー」


 身を乗り出す様にして窺っていた一本角の男に注意する同じ一本角の男だが明らかに年上だった。若さゆえに危なさそうな事をしている若い一本角の男に注意するのは老婆心なのだろう。

 そうやって隈なく探しているものの何も見つからない。その事をゴンゾウに伝えようと考えた若い一本角の女は近付きゴンゾウに耳を貸す形で伝えた。


「確認しましたが、いない様に見えます」


「うむ・・・」


 若い一本角の女の報告に少し考える様にして目を細めてシンの方へ見るゴンゾウ。

 対してシンは海の方へ見ながら目と気配で辺りを探りつつアカツキに半径600m以内に何か怪しい物が無いかどうかを小さな声で訊ねていた。

 だが、そのアカツキの返答は


「ボス、念の為に俺も確認したが見かけたのは小舟位なものだ。ギュウキとやらの姿はおろか海面に黒い影みたいな怪しいものすらも無かったぜ」


 だった。昨日の出来事の事を考えればあまりにも静かすぎる。ツチノコの縄張りの地に足を踏み込んで襲われたり、ヤマビコに襲われているヒロを助け出したりと人里に着くまでの間かなりの頻度で遭遇していた。

 今回は遠征した人数が多いお陰か襲われる事は無かった。ただこちらの様子を窺う視線だけはかなり多くあった。昨日の森の中の行軍でも視線や気配は感じていた。だが襲ってくる気配はなかった。これらの事を考えるとこちらの様子を窺っていつ襲うかと機会を待っている、或いは相手の力量を窺って襲うに問題ないかどうかを探っていた可能性があった。

 しかし昨日の頻度と視線と気配の数の事を考えれば海上で何か見えていてもおかしくない。それこそ何かしらの影や体の一部が見えてもいいはずなのにそれすらも見かけなかった。

 まるで嵐の前の静けさの様な不気味ささえも感じる。


「・・・・・」


 そんなシンにゴンゾウはジッと見ていた。そんなゴンゾウに若い一本角の女は声を掛ける。


「ゴンゾウさん」


「ん?」


 若い一本角の女の言葉に現実に引き戻されたように我に返ったゴンゾウは耳を傾ける。


「あの男が嘘を言っているというのは?」


 ボソボソではあるが言葉に力が籠っていてどこか強張ったような印象のある声。間違いなくシンの事を怪しみ警戒して緊張している声だった。

 そんな若い一本角の女の言葉にゴンゾウは即座に


「あり得ないな」


 と否定した。

 意外な返答に若い一本角の女はすぐに聞き返した。


「何故です?」


「あいつはこの国の危険生物の名前の事とか知らなかったようだ。だとすれば大陸から来て間もないだろう。そもそも考えてみろよ。第一嘘言ってあいつに何の得があるんだ?」


 考えるまでもなく的確に伝えるゴンゾウの言葉に信憑性があり、反論できるような要素等どこにもなかった。


「それも・・・そうですね」


 納得できるがそれでも腑に落ちない部分が心のしこりとして残る様な気持ちでそう答える若い一本角の女。対してゴンゾウは


「まぁでも怪しいって言うのは俺でも感じるがな」


 と若い一本角の女の意見に一方的に否定したわけでは無い事を伝えた。だが、これは本心だ。昨日来たシンの様子から見て信用は出来るがどこか不自然さがあった。嘘は言っていないし、現状こちらの味方だがどこか怪しい。故にゴンゾウ自身はシンの様子をジッと窺っていたのだ。

 そんなゴンゾウにシンはこちらの方へ向いて近付いてきた。

 その事に気が付いたゴンゾウは少し体をビクつかせてしまい思わず身構え気味になってしまった。


「・・・なぁ」


 シンはその事に気が付いていたが、その事には触れず今のこの状況について尋ねた。


「これ以上近付く必要はあるのか?」


「・・・いやこれ以上は必要ない。崖とは言え危険だし、相手は海の中にいる。これ以上の調査はお上に任せた方が良いな」


 首を振りながらそう答えるゴンゾウ。


「調査をお上にって事は崖付近から調べるのか?」


「いや変に刺激するわけにはいかないから、船からの調査になるだろうな。それに崖付近から降りて調査するには海からの調査よりも危険な事だしな」


 また首を振りながらそう答えるゴンゾウ。

 まだ何も分からない事の方が多い。ここでギュウキの調査を切り上げるには早すぎる。だからはっきりと異を唱えず調査で危険で出来ない事について訊ねてみた。


「やはり危険なのか?」


「頭のいいのだとじっくり観察してその動きを見ている。そこで崖から降りる事になって見ろ、あっと言う間だぞ」


 ギュウキは少なくともカラス並みの知能を持っている。他にも知能が高いのがいてもおかしくない。だから崖から降りている様子を見て何か仕掛けてくる生き物がいても変とは思わない。


「頭のいい怪物だと何がいるんだ?陸の上で」


 シンはそう尋ねるが崖から降りる様子を見ていて襲う事が出来る生き物等想定しやすい。空を飛んで襲ってくる鳥の様な生き物か、崖の様な絶壁でも容易に移動が出来る猿の様な生き物か。

 シンの疑問にゴンゾウは「ん~」と小さく唸りながら答え始める。


「色々いるぞ。オニグマにヒヒにショウジョウにサイミョウショウ、あとサトリとかな・・・」


 聞いた事が無い。辛うじてオニグマとヒヒ辺りは哺乳類のクマと猿である事は分かった。だがこの国の事情を考えればただのクマと猿ではないのだろう。


「(人の名前みたいのがあったな・・・)結構いるんだな」


「ああ。だから危険なんだ」


 ゴンゾウの言う通り、それらがこの森にいるのであれば下手に崖から降りるのは危険すぎる。

 シンとゴンゾウがそう話しているとさっきの若い一本角の女が話しかけてきた。


「ゴンゾウさん、これからどうするんです?」


 これからどうするかと考えているからか腕を組み眉間に皺を寄せるゴンゾウ。数秒程考えたゴンゾウは口を開いた。


「そうだな・・・。早いがここで切り上げよう」


 他の場所を調査すると考えていたシンは驚いた。


「もう調査しないのか?」


 シンの疑問にゴンゾウは「うん」小さな声で肯定して答える。


「当初は大雑把な方角と場所しか分からなかったから何日かかかる位の遠征になる事になっていたが・・・」


 ゴンゾウはそう答えて一旦話を切りシンの方をジッと見る。


「・・・・・」


 3秒程経ってから話の続きをするゴンゾウ。


「シンが詳しく覚えていたお陰で早く着いたし、比較的安全な場所を確保する事も出来た。これだけでも十分な成果だ。それにこんな所で一晩を明かすのはかなり危険がある」


 ゴンゾウは静かに頷き話の続きをする。


「明日には役人が来る。目撃した事と目撃された場所の事について報告する。その時に役人を連れて案内して向かう事になるな」


 その言葉を聞いたシンは眉間に皺を寄せた。


「報告はそれだけでいいのか?」


「嘘は言えねぇよ」


 ゴンゾウは腕を組んでそう答えた。正直に報告する事に尚更疑問が浮かんでくるシンは更に聞く。


「だったら尚更、調査は本当にこれで切り上げていいのか?」


 確かに今回収穫した調査結果は余りにも少なすぎる。役人に「ギュウキらしき怪物を見た。向こうの海岸にいる」と報告する事になる。それだけで本当に役人が、行政が動くとは思えなかった。

 せめて今回の調査で自分以外の人間がギュウキそのものでなくとも影や一部と思しきものでも目撃していれば信憑性が増す。そうなれば行政も動く可能性が高くなってくる。

 だからシンが示した海岸以外の場所を調査しないのかと疑問を持ったのだ。シンが目撃した場所以外で何か痕跡となるものがあるかもしれないからだ。

 だが、シンの思惑とは別にゴンゾウは首を横に振った。


「見たとか聞いただけでもかなり重要なもんだ。それに早めに戻った方が良いだろうな。無理に調査して遅くなるも危険だしな」


 確かにゴンゾウの言う事にも一理ある。頭のいい危険生物の事やここまで来る時の異様な数の視線や気配の事を考えれば、自分達を襲うものからすれば夜を待って寝静まった時に襲う可能性が高く、例え見張りがいたとしてもそれなりに被害を被る可能性も十分にあった。この場で一晩明かす事はかなりの危険を伴う。最悪の場合今いる調査隊の何名かは命を落とすか負傷する恐れがある。

 だからシンは頭を縦に振ってそれ以上調査の事に関して何も言わなくなった。


「・・・そうか」


「・・・・・」


 シンが理解してくれた事にゴンゾウは静かに頷き、キヨの方へ向いた。


「キヨ、頼む」


「はい」


 キヨはそう答えて調査隊全員が寄与に注目が出来る位置に立った。

 どうやら号令を掛ける様に言ったようだ。


「皆!引き上げ!けど気を付けて!帰りの時程襲われやすいからね!」


 行く前の鯨波の様な声を張り上げて士気と調査隊全員の気の引き締めさせた。

 キヨの言葉に強く感化されたように調査隊全員が


「「「応!!!!」」」


 とキヨ以上に声を張って答えた。それを合図と言わんばかりに歩き始めた。

 結果としてそのままゴンゾウ達がいた村まで何事もなく帰路に付ける事が出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ