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185.入港

 ザァ…


 ザザァ…


 ミューミューミュー…


 朝日が昇り切り朝食には遅く昼食には早すぎる時刻。ウミネコ・・・の様な鳴き方をする鳥がフワフワと飛んでキラキラと光る大海原を見ていた。

 漣のうねって白い飛沫を飛び交わせるその音は海に馴染みのない者にとっては新鮮な音だろう。

 だが、2日も船に乗っていればその音も新鮮な音ではなく海近くで住んでいる者の様に当たり前の音になる。

 その音に慣れ切った者達が甲板に上がってある風景を見ていた。


「2日で着いたな」


「うん、あのアヤカシが出てからは何も襲われていなかったからね~」


 オオキミに向かうサクラ達だった。

 正確にはサクラ、アルバ、ステラ、サトリだった。アンリは船内にいた。

 そしてサクラ達が見ていたのはオオキミの巨大商業都市「サカエ」だった。その都市は元々は小さな漁村だったのだが、近くに「カミコ様のお膝元」がある為商業的に国家的に重要な拠点である為、力を入れて今は巨大商業都市に成り代わった。それが今から140年程前の事だった。

「カミコ様」と言うのはオオキミの女王の事であり、王の場合は「オオキミ様」と言う。言わずもがなオオキミ武国の建国者が「オオキミ様」であるが為に「オオキミ」が付いている。武国と言うのは建国前オオキミには魑魅魍魎と比喩してもいい位に危険な生き物が幾万もいた。

 オオキミの主な種族の鬼人族はこの世界において2番目に力が強く、人間サイズの種族であれば最も強い。筋力がそれだけに発達していながらも襲われて命を落とす時はいとも簡単に落としてしまう。そればかりか鬼人族以外の種族は鬼人族よりも力が弱い。その為必然的に武道が発展、現在は最先進となり、オオキミの民は戦闘多種族国家になっていった。


「アンリ様の見立て通りでございましたな」


「うん、こういった時は本当に助かる」


 アンリの予測は正確だった。

 しかも運がいい事に危険な生物が多いオオキミに向かっているというのにあのアヤカシ以降何も遭遇していない。危険な生き物がいるという事は海も例外ではない。なのに襲われなかったのは本当に運がいい。

 だから2日でオオキミに着いたのは僥倖だった。


「何の話をしていた?」


 そう言ってサクラ達に来たのは話に出ていた。


「アンリ、朝食前だが?」


 アンリだった。本人は船内で何かしらの甘い物を自分のカバンの中から取り出して今いる甲板上まで持ってきて食べていた。食べていたのは出港前に手に入れたカラフルな宝石のような飴だった。それをガリガリと噛み砕きながら食べてサクラ達を呆れさせていた。


「これを食べていないと落ち着かないから」


 噛み砕いて小さくなるまで溶かした飴玉をゴクンと飲み込みそう答えるアンリ。

 対してサクラは朝食前に飴を食べているアンリにモワエストの時と同じような気持ちで食事前に食べているのはどうなのと言わんばかりの口調で訊ねる。

 だがアンリは変わらず食事前だろうと食事後だろうとお構いなしに甘い物を頬張る。


「(まぁ、これがアンリだからな・・・仕方ないといえば仕方ないけどさ・・・)朝食はそろそろだ。いい加減それ位にしたらどうだ?」


「分かった」


 若干渋々気味に頷き答えるアンリ。まだ食べ足りないらしい。

 そんなアンリに更に呆れた溜息をするサクラにサトリは朝食の話題を切り出した。


「今朝の朝食は魚だよ」


 それを聞いたアンリは小さな声で「おお」と言って目を輝かせて


「また魚か!魚はありがたい!」


 と少し興奮気味になる。


「じゃあ、行こう~!」


 サトリは案の方へ向きながら船内の出入り口の方へ指さして歩き始める。


「おお~」


 アンリはそう言って飴玉が入っていた瓶の蓋を閉めてサトリに付いて行った。

 その様子を見ていたステラはそっとサクラに近付いて耳打ちするかのようにボソボソと話し始める。


「アンリ様は甘い物と魚が好きなのですか?」


 ステラの疑問にサクラはコクリと頷き同じくボソボソ声で答える。


「ああ。ただ正確には魚の脂が大好きな様だ」


 サクラの答えにステラは更に小さな声で「脂、でございますか?」と訊ねる。サクラは小さな頷きで答えた。

 その会話に気が付いたアルバもそっとサクラに近付いてボソボソ声で参加する。


「肉の方は?」


 サクラは小さな声で「うん」と言いながら


「嫌いではないが肉か魚かどちらか選ぶ事になったら魚の方らしい」


 と答える。

 その答えに目を丸くしたアルバとステラはすぐに意外そうな顔になる。


「変わっていますな」


 アルバの言葉に頷き返すステラ。


「そうですね。内陸部でも海岸沿いでも魚よりも肉の方が好きな方々の方が多いらしいですし」


 ステラの言う通り内陸側は兎も角、海岸沿いでも魚よりも肉の方が好きと言う者の方が多い。理由は力が付きやすいとか、手に入りやすいとか、焼くだけで十分美味しいから等々様々だ。だが、主な理由は肉の方がピンキリが激しいものの味が濃ゆくて、魚の様にパサパサした食感が無く、臭みが無いからだ。こうした理由で魚よりも肉の方が好まれる事が多い。

 だからアンリが肉よりも魚の方が好んでいるのは意外だった。


「でもどうしてここまで好きなのかは本人でも分からないらしい」


 アンリが魚の・・・脂が好んでいるのは本人でも分からないらしい。ただ一つ言えるのは肉と魚の料理が目の前にしたら魚の方を先に手を付けるのは間違いないらしい。


「然様でございますか」


「まぁ本当に先に手を付けるのは料理の方じゃなくて甘い物の方なんだがな」


 サクラの呆れ口調で皮肉を言うとアルバは小さく微笑む。

 実際どんなに美味しそうな料理を見せても真っ先に飛びつくのは甘い物だからだ。

 つまり肉<魚<甘い物の順のアンリは典型的に好きな物は真っ先に齧り付く子供の様な食べ方をする子供らしさが窺える。

 そんなやり取りをしているとサカエの方から一隻の小型の和風の帆船、ヨットががかなりのスピードでサクラ達のいる船までやってきた。

 ヨットの甲板には青の服と帽子を被り、腰には和風の剣を携えた男が立っていた。


「失礼いたす!貴船はどこから参った者か!?」


 青の男はそう声を張ってサクラ達に訊ねた。するとその問いに答えたのは丁度甲板まで昇ってきた船長だった。


「こちらはレンスターティア王国モワエスト港から参った「ケーワ号」!」


 船長も負けじと声を張って答える。その言葉を聞いた青の男は頷き


「承知した!発着可能な港まで案内をする!」


 と言った。するとヨットは進路帰る為に船首の方角を港の方へ向け始める。青の男はどうやら役人の様だ。

 船長はその様子を見て


「分かった!」


 と答えて踵を返して船員達に向けて声を張った。


「総員、聞いたなあの船に付いて行くように準備をしろ!」


「「「おおっ―――!」」」


 船長の声に答える様に野太い声が船全体に響かせ船員達はヨットが案内する方角へ向けて進みだした。





 無事港に付いたケーワ号からサクラ達は港に降り立ちヨットにいた役人の男達と接触していた。

 周りを見れば幾つもの船が木造の桟橋に沿って停泊していた。それぞれの船から船員達や客人達が降りて来て青の男達と何かやり取りをしているか、荷の積み降ろしのどちらかを行っていた。

 また、港に停泊せず港から少し離れて他の船に迷惑にならない場所で停泊して小舟に荷を降ろしり積んだりして港まで向かう船も見かけた。


「渡航の目的とギルドの許可証を確認させて頂きたいが、宜しいか?」


 1人の役人の男はそう言って手を差し出した。船長の右手には丸めたギルドの許可証を持っていた。


「こちらがギルドの許可証で・・・」


 船長はそう言って持っていたギルド許可証を役人の男に手渡し、サクラの方へ視線を向けた。サクラはアルバからある物を受け取り、役人に見せた。


「渡航の目的はこれだ」


「・・・!」


 サクラが見せたのはレンスターティア王家の丸いレリーフだった。それを目の当たりにした役人の男は目を大きくした。

 他に控えていた役人達もそのレリーフを見てお互い頷き合う。


「「・・・・・」」


 お互いの頷き合いは今目の前にいる少女は王家の人間で何か政治的か外交的な目的でここに来たのだろうと判断し、通しても問題ないだろうと確認のものだった。


「レンスターティア王家の家紋とギルドの許可証を確認しました。どうぞ通りを」


 そう言って役人の男達は左右に開ける形でサクラ達を通した。

 サクラは小さく頷く形で一礼して


「良き務めに感謝する」


 と上に立つ人間が使う様な言葉で役人の男達に労いの言葉を掛け、そのまま先に進んで行ったサクラ達。


「はっ」


「勿体なき言葉」


 役人の男達は深々と頭を下げてサクラ達を見送った。

 サクラ達がそのまま人の往来の中に入って見えなくなっていった。その様子を見た役人の男達の内の一人が


「やはり王族ですな」


 とサクラ達の様子を見た感想を口にする。


「ああ。人数とか少なかったし、使節の来訪も報告が無かったから少し怪しく感じたが、あの家紋と我らに対する接し方。間違いなく王族だろう」


 そう分析した事を口したのは役人の男達の班長だった。


「しかし、一体この国に何の用でしょうか?態々こんな危険な海域を通ってまでして・・・」


 サクラ達が通ってきた海域は普段ならば危険で巨大な生物が出没しやすく度々被害が出ていた。今回こそあのアヤカシ以降出なかったが、本来ならもっと警戒するべき海域で、冒険者等の武力を持つ者を乗せて渡航する必要がある。

 最もサクラ達がいるからそんな心配は杞憂に終わるわけだが。


「分からないが一つ言えるのはあのお方々は不法者ではなく、この国に重要な用事で来たのは間違いない」


「・・・そうですね」


 疑問を呈した役人の男はそう答えて小さく微笑む。誇れる自国に一人のお客人として来る事に嬉しくない訳が無い。その上、お世辞や社交辞令とは言えああして感謝する言葉を送ってくれたのだ。尚更うれしさが込み上がる。

 班長の男は小さな声で「あ、そうだ」と言って、気になっていた事を口にした。


「海域と言えば、ここ最近妙に被害が少ないそうだな」


 班長の男が言う「海域」はサクラ達が通ってきたあの海域の事だ。


「ええそうなんですよ。これ見よがしに漁業関係者はこぞって獲物を取ろうと躍起になっています」


 疑問を呈した役人の男はそう答える。

 実際ここ最近、サクラ達が通ってきた海域は危険な生き物が出ておらず被害も以前と比べると遥かに少ない。

 その為これ見よがしにサカエの漁師達は普段よりも大漁を狙ってサクラ達が通ってきた海域にまで進出していた。実際サクラ達が通ってきた海域にもチラホラと漁業船らしき船が見かけていた。


「・・・こういう時程危険だからな。全員警戒を怠らない様に気を配れ!」


 静かで何も起きない時こそ嵐が来る前だったりする。

 それと同じ様に何かの前触れの可能性がある。だから班長の男は役人の男達の方を向いて声を張った。


「「「はいっ!」」」


 班長の男に負けないような真剣で迫力のある声を張って返事をして、そのまま次の船の方へ向かって行った。

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