179.岸の手
執筆出来ましたので少し早いですが投稿しました。
トレンチガンという古いタイプの散弾銃がある。
この散弾銃の正式名称はM1897というポンプアクション式散弾銃である。
最も活用されたのは当然戦争だ。第一次世界大戦中、塹壕戦を想定され、狭い場所で振り回すために銃身を短くし、銃口下部には銃剣を装着できるように改良された。
そしてもう一つの特徴である、スラムファイアという連続射撃ができる事。
スラムファイアとは引き金を引いたままポンプアクションして銃を連射する方法の事で一種の暴発。
それを活用した為に過熱から射手と銃身を護るべく銃身にはパンチングメタル製のバレルジャケットが備わっていた。
こうした速射が出来る為クレー射撃のトラップ競技と同じ要領でドイツ兵が投擲してくる手榴弾や、更には迫撃砲弾までもを撃ち落としていた事があるそうだ。こうした威力や臨機応変に対応出来る汎用性から対戦国であるドイツ帝国が戦時国際法に違反しているとして抗議する程の白兵戦に特化した武器だ。
そしてこうした優秀さから別称トレンチガンと呼ばれるようになった。
つまりシンはスラムファイアという一種の暴発を意図的に起こしていたのだ。
「・・・・・」
シンは持っていたKSGモドキの薬室部分のレバーを操作してバックショットに切り替える。
スラムファイアは初心者には危ないという事で、近年のショットガンではできないようになっている。当然最近作られたKSGも同じくスラムファイアが出来ない様に出来ている。
しかし、シンが手にしているKSGモドキはスラムファイアが可能だ。KSGという散弾銃に似ているからKSGモドキ、という訳ではないではないのだ。
グッ…
ドンドンッ!
シンはダメ押しと言わんばかりにバックショット弾でスラムファイアをした。
グラッ…!
スラムファイアをした事で連続して大型獣用のライフルドスラッグを喰らったツチノコは体が膠着する。
強い衝撃を持つ物体が体に当たった時、動物は瞬間的に膠着させる。ライフルドスラッグはかなりの威力がある為衝撃もとんでもない。
ガシャガシャ!
銃弾が切れた事と膠着したツチノコを確認したシンは
ダッ!
ツチノコに向かって跳んで
ドッ!
渾身のキックをツチノコに食らわせて
ガラガラ…!
そのまま断崖絶壁の下へ落とす事に成功した。
ド・ガラガラガラ!
ボール状であるからかゴロゴロと転がって落ちていくツチノコ。
その様子を眺めるシン。
ドズン!
転がり落ちた先は崖下の岩礁だった。荒々しく波打ち、白い飛沫が岩礁を包んではすぐに消える事を繰り返していた。
シンは取敢えず崖にツチノコを落とそうと考え、まず崖の所まで引き付けた。一見するとシンが追い詰められたように見えるが突進を避けれる位の余地はあった。上手くいけば転がるツチノコを勢い余ってそのまま崖に落ちてくれればよいと考えていた。
だが、ツチノコは尾を利用してカーブする形でシンの方へ向いて体勢を立て直しに掛かった。そこでシンはもう一つの切り札であるショットガンのスラムファイアで速射してツチノコを膠着させてそのまま突進して蹴って落とす方法に出た。
結果としてツチノコは崖の下まで落とす事に成功した。
ググググググ…!
カパァ…
再び軋む様な音を鳴らし、ボール状の形から蛇の形となって姿を現すツチノコ。
シュ~…
元の蛇の姿に戻ったツチノコは舌をチロチロと出して頭部をシンの方へ向ける。
「当たり前だけど効かないか・・・」
撃った銃弾はどちらもチューブ弾倉にあった効果のない狩猟用の物ばかりだったからだ。
シンは銃弾が切れているKSGにフラグ12とフェレシェットを装填し始める。とは言えどちらの銃弾を合わせても10発はおろか5発にも満たない弾数だ。
またツチノコは転がって攻撃をしてくる。その為衝撃には強いはずだ。だから崖から落とす事にしたのだ。
シンは登って来るツチノコに向けて威力の高いフラグ12を最初に撃って落として、フェレシェットを撃って効果があるかどうかを確かめようと考えたのだ。
もし万が一撃っても落ちず、効かなければ一時その場から逃げようと考えた。もし蛇らしく執拗に追いかけてくる場合があれば何かしらの方法でツチノコを葬ろうと考えた。
だが蛇らしい執念深さを断ち切ったのはシンでは無かった。
ザパーッ!
持っていた弾丸をKSGモドキに込め終わった時だった。海辺の方から何かの気配を感じたシンは視線を海辺の方へ向く。
「!?」
シャッ!?
突然海の名から出てきたのは3m弱もある薄黒くヌメヌメとした巨大な両手。
ガッ!
その巨大な両手素早く伸ばしてはツチノコを捕まえた。
シャ~…!
ガリッ…!
当然、そんな手にツチノコは驚きつつも掴まれた手に強く噛みついて抵抗する。しかし、いくら強く噛みついても離れる気配が無い。そればかりかドンドン強く握られてくる。
ギュゥゥゥゥ…
シャ~ッ!
ズ…
ズズ…
「・・・・・」
掴まれたツチノコは海に引き込まれて行く。シンはその様子に只々呆然と見る事だけしかできなかった。
シャ~ッ!
ジタバタと暴れもがくも虚しく
ザブンッ!
姿が見えなくなるまで引きずり込まれていった。
ザバァッ…!
ツチノコは死にたくないと必死さと突然の事でパニックを起こして海面上でも暴れまくっていた。だが、それもあっと言う間に海の底まで引きずり込まれ一気に静まり返った。
「・・・・・」
シンはあの巨大な手の持ち主は一体何なのかと考えながら警戒しながら引きずり込まれた現場をジッと見ていた。
「!」
ジッと見ていると引きずり込まれた海面から何かが顔を覗かせていた。
・・・・・
「・・・・・」
それはタコの様な軟体動物の薄黒い頭でメンダコの様にそれぞれの目の裏に2本の角があった。黄色い目には軟体動物特有の横に長い瞳でギョロリとシンの方を見ていた。
その目は酷く暗く何か定めている様な、何かを確かめている様な何とも言えない目だった。
シンはその目に睨み返す様にジッと見ていた。
・・・・・
ボコボコボコボコ…
用が済んだのか、興味が失せたのか、視線を切って少量の泡が浮かばせながら徐々にその頭は沈んでいった。
「・・・・・」
薄黒い頭がそのまま沈んでいって次第にシルエットすらも分からなくなった。シンはその様子に軽く深呼吸する様に息を吐いた。
「何だったんだ?ありゃ?」
息を吐いたタイミングでアカツキから通信が入る。
「分からない。ただ一つ言えるのは今持っている銃程度ではまず勝てない」
シンはそう言いながらKSGモドキを軽く撫でる。
「だな。もっと言えばあのまま蛇を引きずり込んだ「何か」には感謝しかねぇな」
「ああ。あの海の中にいた何かも退いてくれて助かった」
僅かに目を細めるシン。
「あの手のデカさの事を考えると相当デカいぞ」
4m近くもあるツチノコを掴み取る位の手の大きさ。その事を考えれば体の大きさは少なくとも全長は10m以上ある可能性がある。
「おまけにあの手の早さだ」
「モンスターって、考えている以上にヤバイな」
頷きながら答えるシンにアカツキは思いの外この世界のモンスターと呼ばれる生き物の脅威度を改めて認識する。
「・・・「ブレンドウォーズ」の時ともあの時のモンスターよりも強い」
「あの時って・・・ああ確かグルフとか言う・・・」
「ああ」
確かに不意打ちとは言え4m程もあったツチノコをあっという間に海底まで引きずり込んだあの早さから考えるに今持っている装備のみではまともに戦う事が出来ない。
ツチノコとの戦いで狩猟用の銃弾はほぼ無効で、フラグ12は有効。という事はツチノコは少なくとも軽装甲車両とほぼ同じ防御力を持っている事になる。
そのツチノコよりもはるかに大きく、早い生き物がいる。フラグ12だけではとてもでは無いがまともな戦闘すらできないだろう。
これらの事をまとめていくと、大陸にいたグルフだけで参考にはならない位の脅威を持つモンスターがおり、対軽装甲車程度の装備ではまともに戦う事すらできない。下手をすれば対戦車装備すらも意味が無い可能性も十分にある。
これまでの事柄から判断を先延ばしにした事柄を纏めたシンとアカツキは
そんな今のシンの装備にアカツキは疑問の言葉を口にする。
「他にも武器を持ってくる事は考えなかったのか?」
確かに銃の種類は何もショットガンだけではない。小銃に至ってはアサルトライフルやスナイパーライフル等々があるし、銃弾のサイズも様々ある。
それこそ一発であのツチノコを仕留める事が出来るアンチマテリアルライフル等がある。
だが、シンはそれをせずショットガンだけに留めた。
「「収納スペース」から一々出して構えるのでは遅いし、弾薬が手に入り辛いこの世界の事を考えれば使える銃はかなり限られてくる」
「なら、いっその事そのショットガンだけにして弾を多く持って出しやすい装備にしようと考えたのか」
アカツキの疑問にシンは静かに頷き話を続ける。
「拳銃とかサブマシンガンとかでは対人限定になるからな。かと言って小銃とか機関銃とかだったら嵩張って目立つ可能性もある。・・・今でも目立っているだろ?」
「まぁな」
シンが旅をするに当たって気を付けなくてはならない事の内の一つ、「銃を奪われてはいけない」。その為にはあまり目立たないサイズが可能な限り小さいものでなくてはならない。アンチマテリアルライフルでは大きすぎて目立つし、マグナムタイプの拳銃ですらもどこか心許ない。
また、あらゆる状況の事を考えれば汎用的で多目的でなくてはならない。という事は状況によって銃弾を変えても問題ない銃。
それらの事を考えればタクティカル仕様のKSGの様なショットガンが適当と考えた。
「かと言ってBBPで対処すれば、俺みたいなイレギュラーな存在に大半の人間は忌避、最悪殺しにかかる連中が出てくる可能性もある。場合によればBBPと同じ力を得ようとして人体実験まがいな真似をする連中が出てくるだろう」
「・・・なるほどな」
ショットガンと銃弾をこの世界のモンスターにでも通用できる、つまり少なくとも対軽装甲車レベル位の威力にしなければならない。
だが、だからと言ってこのまま戻って出直すのは時間がかかりすぎる。
だったらこのまま進む。
そこまで考えに至ったシンとアカツキは話をこのまま先を進む方向で進めた。
「・・・まぁ、いざとなりゃBBPがあるしな」
「使う事に越した事が無いがな・・・」
シンはそう答えて現状役に立ちそうになく奪われるリスクの事を考えてショットガンを「収納スペース」にしまい込み、代わりに斧にも鋸にもなる取っ手部分が無く、折り畳み式ではない全長約60cm程のタクティカルスコップを出した。
「・・・ボス、それを武器にするのか?」
「ああ、取敢えずはな」
アカツキの「え、何でそれ?」と言わんばかりの口調にシンは冷静に答える。
「アカツキ、ナビを頼む」
「あ、ああ」
シンからの説明が無いままナビをするように催促されてアカツキは半ば流される形でナビを再開した。
次は少なくとも3月の最初の週には投稿する予定です。