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176.彼の地に降り立つ

明けましておめでとうございます。

 日が完全に沈み、暗闇が支配する空。光る月はおろか星すらも無い新月の夜。

 いや正確には極々僅かだが小さな星がチラチラと光る程度にしか見えなかった。


 ゴォォォォォォォォォォ…


 そんな一切の光源のない夜空の中、この世界では信じられない高さで飛んでいる何かがいた。鳥の様な形をしているが鳥ではない。もっと言えば新月の夜のせいでより分かりづらい・・・と言うより分からなかった。


「ボス、そろそろ・・・」


 フリューだった。

 現在シンを乗せたフリューは高度1万フィートで飛んでおり、地上ではエンジン音はあまり聞こえなかった。

 フリューは降下地点上空に差し掛かろうとしている事をシンに伝える。


「分かった」


 シンはそう答えると降下の準備に入った。等間隔に備え付けられたライトから照らされ、灯りはほんのりと明るい巨大な筒の様な空間の中、シンは扉の方へ向かう。

 丁度その時、主翼と尾翼の向きが上に向きホバリングしていた。


「目標地点上空に到着。これより高度を下げる」


 フリューがそう言うと高度を下げ始める。降下地点は森の中で開けた場所だ。

 大きなエンジン音はするものの、新月の何も見えない世界では何が起きているのか等分からないだろう。それこそアカツキの特殊な暗視鏡やシンの様なBBP化された目の様な目でなければ確認できないだろう。

 だが、それはその近辺に誰かがいたの話だ。

 アカツキのカメラには半径500m圏内には誰もいない事は確認済みだ。

 つまり、誰もおらずほとんど誰にも見えないような状況でシンは降下するのだ。


「高度20mに差し掛かる!」


「フリュー問題ない。高度を維持してくれ」


「了解!」


 フリューがそう言うと


 ジリリリリリリリリリ…!


 耳がつんざきそうになる位のけたたましくベルが鳴った。すると扉近くにあるさっきまで赤く光っていたはずのランプが青く光った。

 シンはそれを確認した。


「青確認、降下する!」


 そう言って扉を開けた。


 ガチャ!


 グォー…ガタッ!


 ノブを回しそのまま引き戸の様にスライドして扉を開ける。スライドするに当たって特有の大きな音を鳴らす。


「お気を付けて!」


 シンはワークキャップが飛ばされない様に手で押さえながら飛び降りた。


 ドォォォン…


 辺りに土煙が漂っていた。それなりに大きな地響きがしていたはずなのだが、20m上のフリューのエンジン音によってその音が微妙な大きさに感じる。

 パラシュートを使わず、飛び降りたのには理由がある。パラシュートは一度開いて元のバックパックに戻すには手間と時間がかかる。いくら新月で見えないとは言え、こうした暗闇でも見える事に特化した人類や生き物がいてもおかしくない。

 シンがパラシュートを戻している時に襲われても面倒な上に、パラシュートをこの世界に広めたくない。

 もしパラシュートをこの世界の住人に見せてしまえば結果として早めに空挺部隊が組織されてしまう。これがあるかないかだけで大きく軍事バランスが変わる。

 だからサクラを救出した時と同じ方法で降下する事にしたのだ。


「・・・・・」


 屈む様な形で着地したシンは体を起こして上を見る。


「・・・・・」


 フリューはシンが問題なく着地した事を確認したからか数秒後にはすぐにその場を離脱する様なか形で離れた。

 フリューがそのまま離れて行った事を確認したシンは「収納スペース(インベントリ)」から久々に鈍く光り、黒くて長い見慣れた物を出した。それはKSGモドキを取り出し左手で撃てる形で構えて森の中へと進む準備が整った。

 丁度その時アカツキから通信が入った。


「ボス」


「通信状況は良好だ。問題ない」


 初めて通信機を使った時と同様に非常にクリアに聞こえていた。通信の方は問題無い様だ。


「こっちも問題なく聞こえるぜ」


 どうやらアカツキの方でも問題ない様だ。


「何か用か?」


 通信状況の確認で通信を入れたわけでは無いだろう。そう考えたシンは周りを警戒しながら訊ねる。


「銃器を持ってる様だが、使うのか?」


 アカツキの言葉にシンの顔は少し難しそうな顔になった。


「ああ、ちょっと気になる事があるんだ」


「気になる事?」


 オウム返しに訊ねるアカツキにシンは静かに頷く。


「銃器が無いのは本当に発展がないからなのか?」


「もしかして、タムラ・ソウイチの件か?」


「うん。ソウイチさんはどういう経路でレンスターティア王国にいたのかは分からないが、少なくとも糸の魔法による戦闘技術や合気道の事は知っていた。というより戦闘技術を生み出したりアレンジしていた。なら糸と合気道のスタイルを生み出すそれまでの間の考えや戦闘技術・・・」


「銃や火薬って事、だよな・・・」


 戦闘技術と現代の日本人という事から連想したのが「銃」と「火薬」。この2つは知識と技術さえあれば1人でも十分に作る事が可能な代物だ。


「火薬の知識がなくとも筒から弾丸が発射できる装置や道具の様な物があれば火薬の無い銃を十分造る事が出来る」


 確かにこの世界には魔法がある。それを活用さえすれば火薬が必要のない銃を造る事だって可能なはずだ。


「もしそれが無いとなれば、作る必要がないか作れなかったか・・・」


「或いは両方か・・・。何にせよここまで広まらなかった事と伝わらなかった事に何かあるはずだ」


 タムラ・ソウイチは少なくともサクラが45歳の時に亡くなっている。もし15歳で結婚して子供を産んだとしたら早くとも60歳で亡くなっている事になる。この世界の医療レベルは性格には分からないが、もし中世ヨーロッパと同じであれば60歳で亡くなるのは妥当か、或いはやや長めに生きた方になる。

 という事は事故死や戦死したのではなく60歳まで生きて老衰、或いは病死するまでの間がかなり長い。その間に銃の事が広まらなかった事が気になる。

 ただ単に思いつかなかったとも考えられるが、思い付かなかった事にも理由があるはずだ。

 例えば銃を使う必要性が無い程、戦闘技術が確立されているとか。


「スタンに日本人がいるかどうかを探る様に言ったのはそうした理由か?」


「幾つもの理由の内の一つだな。後はこれから先、銃が本当に通用するのかどうかだな・・・」


「まぁ確かにボスの()()は誰にも見せるわけにはいかないからな」


「・・・・・」


 無言になるシン。


 BBPは銃器と比べればBBPの方が問題がある。そのくせ銃器全般はこの世界に大きく影響を齎すからあまり使えないし手放す心配もないからBBPで戦う


 今までのが通用しない相手だったらどうするつもりだ?


 あの夢で()()に言われた事を頭の中でグルグルと回る様に思い出す。

 確かに言われている通り、銃器と比べればBBPの方が問題があるくせに銃器全般はこの世界に大きく影響を齎すからあまり使えない。だから手放す心配もないからBBPで戦っていた。

 だが今までの手段が通用しない相手だったらどうするのか。

 具体的な案も閃きもない。だが一つの判断基準として今持っている銃器を活用して通用するかどうかについて調べようと考えた。

 しかし、シンは不安だった。


 もしこの世界で銃器が通用する様な相手が現れた時、自分は以前の様に戻ってBBPで戦うのか。


 もし戦ってBBPを見られた時今後はどう反応するのか。


 見られた相手が殺したくない相手だった時、自分は・・・。


 そんな不安に駆られていたシンにアカツキはふと気になった事を口にした。


「そういや排莢ポーチが無い様だが、どうした?」


 アカツキの疑問の言葉で我に返ったように気が付いたシンは何か答えようとした時、真っ先に答えたのは


「薬莢を生分解性バイオ薬莢に変えたんや~」


 リーチェリカだった。


「他人に拾われて利用できない様にしたのか・・・」


 シンはリーチェリカの口から出た単語「生分解性バイオ薬莢」を聞いてすぐにポーチが無い理由が分かった。

 従来、銃弾用薬莢及び一体ワッズは自然界では金属や分解され難い合成樹脂で構成されているものが多い。しかし、これらの銃弾用薬莢および一体ワッズ(発射体の背後にガスを封じたり、ショットから粉末を分離するために銃で使用される材料のディスクの事。発射物が発射されている時に発射体を通り抜けて漏れるガスはすべて無駄になる為、銃の効率には詰め物が不可欠)は使用後、土壌等の微生物によって分解される事がない。それ故に銃のぱっぽうの瞬間と、薬莢をその場で残したままにすればこの世界で銃を開発されるきっかけになり兼ねない。

 それ故に排莢ポーチが必要だった。

 だが、この生分解性バイオ薬莢は熱に強いバイオポリエステルで構成された薬莢である為、地面にそのまま放置しても微生物によって分解されて土に還る。その為証拠となる物は残らなくなる。


「うん。せやけどすぐに拾うて分析やらはされる可能性があるさかい、完全に人気のあらへん所で使うてな~」


 いくら分解が出来るとは言え排莢してすぐに拾われでもすればその意味もなくなる。

 だから、完全に誰もいない事を確認した上で発砲する必要がある。または適当に土を被せる等の何らかの処置が必要がある。

 当然シンはその事を理解している。


「分かってるよ。使ったらすぐに「収納スペース」(インベントリ)に戻すよ」


 シンは飽く迄も調べたいが為に使用するつもりだったから、使用する銃弾はそれ程必要としない。


「そっか~。やったらいけるね~」


 若干他人事に近い口調で答えるリーチェリカ。リーチェリカの事を知っているシンからすればらしいといえばらしいな位にしか思っていなかった。


「ああ。そろそろ・・・」


 シンは視線をこれから向かう先の方向へと向ける。


「分かったで~。こっちもやりたい事があるさかい~」


 半ばマイペース気味に言うリーチェリカ。何かしらの開発や研究に向かいたいのだろうなと思いながらシンは


「じゃあ」


 とマイペースな口調で答えた。


「ほな~」


「ああ、一旦終了」


 さっきまでの半ばマイペース気味から完全なマイペースな口調でそう答えたリーチェリカ。リーチェリカの変わり身と言うべきかあっけらかんと言うべきか、普段の様なリーチェリカだったなと呆れ気味に思うシン。

 取敢えずはリーチェリカとの通信はここで切る事になった。

 代わりにこれから向かう人がいる村までナビをしてもらうべくアカツキに声を掛ける。


「アカツキ、ナビを頼む」


「OKボス。任せろ」


 シンは改めてKSGモドキを構えてそのまま森の奥へと入って行った。


本年も宜しくお願い致します。

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