175.出航
1月の更新予定なのですが1/1にはすぐに投稿しますが、家の用事等々の関係でそこから大きく期間が開きまして1/15か1/20以降になると思います。
また大きく期間を空けてしまって楽しみにされいる方々にはご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
時刻は夕方の5時位の事。夏至が過ぎていこうとしているのか太陽が山に吸い込まれていく時間が早くなり辺りが薄暗さが日に日に増していく内の一つの時間。
陰りが帯びるのが増々濃ゆくなり闇の時間が始まって行こうとしていた時似つかわしくない轟音が辺りに響いていた。
ゴォォォォォォォォォォ…
その音が鳴っていたのはジンセキにある滑走路にていつでも離陸可能なように準備が完了しているフリューからだった。フリューは滑走路のど真ん中におり、後部の搬入口を大きく開いていた。
そんな轟音を出しているフリューの側にいたのは
「そろそろか・・・?」
シンだった。
黒いTシャツに上から黒い着物を着て、更にその上から黒が強めの灰色の羽織を羽織っていた。カーキの細めのカーゴズボンと焦げ茶のブーツを履いていた。着物の様に着ている為、当然Tシャツも着物も中に入れており、腰帯に近いベルトには大小様々の軍隊で使われるキャメルのバンダリアポーチを巻いていた。
そして半ばトレードマーク化している黒いワークキャップは今は被っていない。
何故なら
「若~!」
リーチェリカが持ってきていた。手渡された帽子を見たシンは小さな声で文句を言う。
「・・・毎回思うんだけどたまには黒以外のワークキャップが欲しいな」
見た所代わり映えしない帽子にせめて色だけでも変わえて欲しいという主張にリーチェリカは
「え~?別にええやん~」
と半ば一蹴の言葉が口から出た。
「同じものばかりだと、飽きてくるんだよ」
シンは更に文句を言いつつもその帽子を被った。
手渡された帽子はいつもの様に黒いワークキャップだったが、大きく違う機能が備え付けられていた。その事をリーチェリカは早速説明に入る。
「これは今までのとはどう違うんだ?前の通信機は良かったが」
実はシンの体に埋め込んでいた通信機とワークキャップを一旦取り外してリーチェリカに渡してバージョンアップや改良を行っていた。
「前の通信機やと一対一の会話しかできひんかったやろ~」
リーチェリカの言葉にシンはすぐに何が言いたいのかを理解して答えであろう事を口にした。
「複数のスタッフとの会話が出来るのか?」
「骨伝導による通話性能の向上に~通信最中に会話に入る様な形で通信出来るようにした~。それから複数のスタッフとの会話出来る様になった~」
シンの質問に具体的な説明で返すリーチェリカ。内容から察するにどうやらシンの想像は正解の様だ。
更に具体的な説明を聞くとワークキャップ付属のカメラを更に薄くして衝撃耐性を向上に高画像度上昇、カメラ直接に骨伝導スピーカーが付属させて直接声が聞こえて周りには聞こえない様に出来ている。
その上複数による通話が可能で、所謂グループ通話機能が使用可能になっている。例えばアカツキとの会話に急にリーチェリカやグーグス、ディエーグが話に参加する事が出来る。
つまり、状況に応じてアカツキに相談しつつ誰をバディとして要請する事が可能になる。しかも複数人要請する事が可能だ。
そこまで考えに至ったシンは
「それはありがたいな」
と思わず口にする。便利になった事に素直に喜ぶ。だがリーチェリカの次の言葉で喜びが止まる。
「せやけど帽子を取るとアカツキはんも含めて他のスタッフとの通信出来へんようになるさかい、注意してな~」
リーチェリカの言葉を聞いた途端、喜びによるテンションが一気に下がり、そっと尋ねるシン。
「つまり性能を良くした代わりに帽子に一纏めにしたって事か?」
「そないな事や~」
急に不便さを感じるシンは文句を口にする。
「じゃあ前の通信機も一緒に使えばいいんじゃ・・・」
「無線のチャンネルの混線やキャパオーバーするさかい長期間無理やってん~」
シンの文句に静かに首を横に振りながら前の通信機が使えない理由を言うリーチェリカ。
「そうか、その辺は少し不便になるんだな・・・」
残念そうにそう呟くシン。
「そやさかい帽子を無うさへん様にしてな~。念の為に予備の帽子は渡しておくけど~」
リーチェリカは念を押す様に言いながらもう一つの黒いワークキャップをシンに手渡した。
確かにリーチェリカの言う通りだ。
改良して便利な機能をたくさん付けた為にワークキャップ一つに纏めざる負えなかった。それ故にワークキャップを無くしてしまえば通信は使えなくなってしまう。
「ああ、ありがとう」
シンは受け取り、予備の黒いワークキャップを収納スペースに収納した。
そんなシンにリーチェリカは銀色の棒を取り出し、シンの目の前に出す。
「それと、例のペン型のタブレットも大きゅう変えてん~」
リーチェリカから手渡されたのは長さペンサイズの銀色のマグライトだった。
「何これ、ライト?」
シンの疑問の言葉にリーチェリカは首を横に振る。
「ちゃうって~ペン型タブレットやで~」
更に詳しく聞けば、長さは変わらないが、細いペンタイプから太くて重くなったマグライトタイプになったタブレットは黒いワークキャップ同様、機能の追加と改良点が大きく加えられた。
前のペン型のタブレットと同じ様に巻物の様に広げる事が出来るが、新しい機能としてライトの様に照らすとホログラム映像を映す事が可能。これにより平面的に立体的に図面や映像を確認する事が出来る。
レーザー式ミサイル誘導機能。アカツキや別のスタッフに支援砲火を要請する時に目標をレーザーで誘導する必要になる。その時にマグライト型タブレット端末で誘導する事で目標に正確にミサイルを着弾させる事が出来る。
「そうか、思っている以上に凄い物だな」
そう呟き持っているマグライト型タブレット端末を見るシン。そんなシンにリーチェリカは使い方を早速教え始める。
「電灯部分には電球ちゃうくてプロジェクターに使われとお様な特殊なレンズを使用しとるんや~。そやさかい、ホログラム映像も誘導用のレーザーも一つのレンズちゅう事や~」
「技術的に凄いのは分かったが、何が言いたいんだ?」
「スイッチ部分も軍用とおんなじで後ろの方にあってぇ・・・」
「ああ、こう言う事か」
シンはそう言って右手で持って親指でスイッチを入れた。ほとんど慣れ親しんだように扱っていた。それもそのはず、ライトの扱い方が軍隊で使われている様な扱い方だったからだ。どうやらシンは「ブレンド・ウォーズ」の軍隊経験からによるものの様だ。
するとどこか海に面した土地の地形の立体映像が映し出された。
「そないな事~」
映し出された映像を見たシンはリーチェリカに確認する様に訊ねる。
「今映っているのは例のオオキミの港か?」
「そうやろ~。こまいやろ~」
リーチェリカの言う通りかなり細かく映像に映し出されている。その為、状況等を把握する事が出来る。
「ボタン部分の円筒部分はダイヤル部分になっとるんや~。回す事で立体映像にも平面映像にもなるん~」
リーチェリカの言うままにダイヤルを回す。すると立体映像から平面映像に変わった。正確には地面がスクリーンとなって映像は変わらずオオキミの地図になっていた。
「切り替える事が出来るのか。いいなこれ」
「せやろ~?」
地図においても平面的のメルカトル図法と立体的な地球儀では経緯線や高度、土地や海域の面積の本当の大きさ等が違ってくる。
これにより、正確な空間座標や立体座標が把握可能である為、地中や水中等3次元空間での探査や調査がしやすくなる。
シンは新型のタブレットを見て感心していると若くて真面目そうな声が聞こえた。
「ボス、そろそろです」
それは通信からで声の主はフリューだった。早速新型の通信機、黒いワークキャップの使い心地を試す事になった。
「分かった、向かう」
「どうかお早めに」
以前の通信機の音声と比べるとだいぶクリアに聞こえる。その上、以前の通信機でも雑音らしき音は聞こえなかったが、こちらは更に聞こえなかった・・・と言うよりも一切ないと言った方が正しい。
また面白い事に以前の通信機は集中して聞けば首から聞こえてくる様な感覚だったが、今回の通信機は頭に直接聞こえてくるような感覚だった。
「(ファンタジーとかのアレはこう感じだったのか?)ありがとう、リーチェリカ。これは役に立つ」
ファンタジー系やSF系の漫画や小説等の作品で頭に訴えかける様な声が聞こえるというのはこういう事なのだろうかと考えるシン。
そんな新鮮な体験をするシンにリーチェリカは手をヒラヒラとさせる。
「いいよ、いいよ~。被験体の一体か二体位で十分だから」
カラカラと笑いながらそう答えるリーチェリカにシンは間髪入れずに
「それは絶対にしないからな」
と素早く答える。するとリーチェリカは先程と変わらず
「冗談だって~」
とまたカラカラと笑いながら答える。
お前が言うと冗談には聞こえない。
そう訴える様な目とそう言わんばかりの無言と溜息の付き方をするシン。
「・・・行ってくる」
呆れ混じりに出発の挨拶をするシン。
対してリーチェリカは手を軽くヒラヒラと振って見送り始める。
シンはフリューの開いている搬入口から入り降下する兵士達の為の硬い座席に座った。
「風速、気圧共々問題無し。これよりオオキミへ向かいます」
フリューがそう言うとその巨大な翼を上へと向けてホバリングで離陸準備を完了する。
「上昇開始」
そう宣言する様に言うと
ブォォォォォォォ…!
ホバリングで徐々に浮かび始める。
すると通信が入り
「気ぃつけてな~」
とリーチェリカが送り出していた。
シンはすぐに窓の外を見て下の方へ見るとリーチェリカが未だに手を振っていた。
「ああ」
シンはたった2文字の言葉だけ言ってリーチェリカが見えなくなるまで見ていた。
「・・・・・」
視線をリーチェリカの方から夕陽の方へ向ける。
夕日が沈む。そんな当たり前でありきたりの言葉が太陽が水平線に沈んでいく姿を見れば「夕日が沈む」という当たり前でありきたりな言葉が何か深い意味を持ち重みがある様に感じる。
そんな夕日をシンは完全に沈みきるまで眺めていた。
その視線は何かを感じ、何を思っているのかはシンにしか分からない。
出発したシンとサクラ。
求める者と追う者。
双方目的が違えどオオキミに向かう事には違えなかった。
そして夜が来る。
新しい始まりの夜が来る。
勘のいい方々はもう気が付かれていらっしゃるかもしれませんが、今回の話で今章は終わります。次回からは次章になります。
すぐに投稿しますが、来年も「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いいたします。
良いお年を!