173.似て非になる文明
青い空の下に広い平原の真ん中に白いテーブルに白い椅子。テーブルの上にはコーヒー一杯の白いカップに白い椅子にはシンが座っていた。
シンの手にはペン型のタブレット端末を手にしてコーヒーを啜りながらある映像を見ていた。
「これがオオキミ上空の映像だ。映っているのはそれなりに大きい都市と思われる町だ」
それは近い内に向かう島国、オオキミ武国の偵察衛星映像だった。
黒い屋根とちらちら見える木造と白い壁の様々な建物。大陸側の様に石畳等で舗装されていないが綺麗な道路には箱馬車と思しき馬車とオオキミの民と思しき無数の人間の行き交う映像だっただった。
上空映像の為見えている光景はかなり限られているが日本人であればすぐに連想するのは
「ほぼ日本の江戸時代か明治時代に似ているな」
これに尽きる。
「良く見りゃそうじゃねぇってのも分かるけどな」
アカツキの言う通りよく見れば変わった町並みだった。
黒い屋根、瓦を主にした和風の建物が主ではあるが洋式の建物は一切見受けられず、最も高い建物は5階建て位しか見受けられず、それより高い建物は物見櫓だけだった。大通りには電柱等はなく、灯篭のようなが石造りの背の高い街灯があり、現代の車両2台分と歩行者が楽に歩ける程道幅が広く、馬車が行き交っていた。
行き交う人の服装は和装が多いが、肩から革製のカバンや洋風の帽子がチラホラと見かけていた。髪型は丁髷や丸髷等の様に江戸時代では主流となっていた髪型ではなく現代的で様々な髪型だった。中には武器を携えている者もそれなりにいる。髪の色も様々で金髪や茶髪、中にはピンクと言った髪の色の人もいた。
そして何よりも気になるのが行き交う人々の頭にある部位。
「角があるな」
角だ。行き交う人間の大半が角が生えている。
「ボス、こっちには動物の耳と思しき人間がいるぜ」
良く見れば耳の少し上部分から頭頂部近くに動物の耳と思しき者が生えている人々がの姿が確認できた。
「見た感じ角が生えている人間が多いな」
「ああ。でも流石に帽子を被っている人は分からないな」
あくまでも上空映像だ。帽子の下に角があるのか耳が生えているのか等分からない。
角や耳の事を考えればこの国の主な種族は角か獣耳がある種族が多い様だ。いや正確には角が生えている種族の方が多い。
シンは角がある人々の姿を見て「鬼」を連想した。
「ついでに言えば窓にガラスがあるのかどうかも分からないな」
窓にガラスがあるかどうかでどれ位発展しているかどうかが分かるが、今の映像では難しそうだ。
諦めたシンは
「アカツキ、クローズアウトして近くに港はあるか?」
と訊ねる。すると、物の数秒も掛からずすぐに答える。
「それならここだ」
アカツキがそう言うと画面が切り替わった。
「こことか・・・こことか。妙に高級そうでデカい船がバカみたい停まっているだろ?」
ガレオン船やキャラック船が停泊しており、大小様々な無数の木箱を降ろしていた。
他にも停泊している船があったが恐らくオオキミ製の船と思われる。何故なら船体が安宅丸で最後列のマストに縦帆、残りに横帆を持つバークの帆装の船が大半だったからだ。
また外から来たと思われる貿易船では下りてくる者達が並び、青い服に青い帽子に刀と思しき剣を携えた役人と思しき者達に手形を見せている様子が映っていた。
「江戸時代みたいに出島は無い様だな」
出島は、1634年江戸幕府の外人流入防止政策の一環として長崎に築造された扇型の形が特徴の人工島であり貿易港。主にポルトガルとオランダとの貿易が行われていた。
この世界にもあるのではないかと思っていたが、それらしい土地が無かった。
「まぁ、これだけ手形っぽいのがあるから出島なんてもんは必要ねぇのだろ?」
アカツキの言う通り、貿易が盛んでキリスト教等の外部宗教や変な輩を監査や検閲する組織がある様だ。そんな組織がいるから出島の様な物を必要としなかったのだろう。
「取敢えず、この国は和風ファンタジーチックだって事だけは言えるな」
一見すれば江戸時代か明治時代の日本に見えるが良く見れば中世ヨーロッパに似ている所もある。はっきり言えばゲームで言う所の和風ファンタジー系の国と言うべきだろう。
これらの事から江戸時代と明治時代と中世ヨーロッパの文化が掛け合わせた様な風景でここはオオキミ武国と思い知らされる。
「ああ。でもこれ以上は現地に赴かないと分からないな」
上空からの映像だけではどうしても限界がある。これ以上の偵察は現地に赴かなければ分からない。だが、一見で明らかに怪しいグーグスやディエーグでは行かせるわけにはいかないし、リーチェリカはジンセキの開発に勤しんでいる。他にも外見や違う任務等の理由でオオキミに向かう事は出来ない。
ここはやはり赴くしかない。
「都心部近くの田舎はどうだ?」
都心部と思しき町の様子を見たシンは何を思ったのか田舎の様子について尋ねてみる。
「田舎か。田舎は・・・」
アカツキは別のカメラで都心部近くの田舎の上空映像を映し出した。
田舎は子供達が追いかけっこしていて農夫と思しき者達が畑や田んぼで何かしらの作業をしていた。舗装されていない道には人や馬車が町程ではないものの行き交っていた。
田舎に立つ家々は日本昔話で出てくるような民家や、白川郷・五箇山の合掌造り集落のような茅葺屋根の大きな家が立っていた。
「田舎は・・・やはり栽培しているんだな」
思いの外家が大きくて見知った物であった事に驚きつつ「ヨネ」思しき穀物を確認したシン。
「「ヨネ」を確認したかったのか?」
アカツキの言葉にシンは首を横に振った。
「それもあるが、降下以降の段取りの為に少し確認したかったんだ」
「ああ、なるほど。確かに街道のような所に出ないと不自然だからな」
どこで降下するのかは予め打ち合わせていた。
人気のない森の中にシンが降り立ってアカツキが街道と思しき道まで誘導してそのまま「ヨネ」が手に入りそうな場所まで向かうという算段をとっていた。
問題はどこで「ヨネ」が手に入るのか。まず最初に手に入りそうといえば田舎が思い浮かぶ。だが、オオキミに年貢という義務があるとすれば簡単に手に入らない可能性が高い。
江戸時代では備荒貯蓄用等、長期保存を目的とする場合があった為、籾で備蓄する事例も多くあった。もし同じ事をしているのであれば毎年年貢の調整を管理している役人がいる町に向かい役所で交渉する必要がある。
だから夜間人気のない森の中で降りて田舎に向かい、「ヨネ」を手に入れる。無理ならば町に行き交渉し「ヨネ」を手に入れるというプランで進めようと考えた。
その事をアカツキに伝えた所
「OKボス。そのプランでフリューにも伝えておくぜ」
と反論する事なくすんなりと承諾するアカツキ。
「頼んだぞ」
「OK以上、通信終了」
「ああ」
早速行動に移したためかアッサリとアカツキとの通信を終えた丁度その時、
「ウイっす!」
とお茶らけて軽々しい口調の上にウザったらしい高い男の声がシンの通信に入って来た。
「ああ、スタンか」
シンは「何だお前か」のような口ぶりでそう答える。名前から察するに男だろう。
「諸君待たせたな!本日の主役の~…ボクチンっっっ!」
ウザさが垣間見える・・・と言うよりウザさしかない。しかもセリフから鑑みて決めポーズがありそうなものだった。もしあるとするならば、間違いなく通信向こうでは決めポーズをとっている事だろう。
「ウザさ」が大きく付いて来て・・・。
返す言葉が一々軽々しくウザったらしい男と話している様だ。
「・・・何か用か?」
シンはスタンのウザい言葉に少し呆れつつも耳を傾ける。
「取敢えず商売を始められる準備は完了したからボスがここを出発と同時に僕も出発しようと思うんだけど~、という報告」
口調の割には内容はかなりしっかりとしたものだった。どうやらスタンという男はジンセキのスタッフで魔法が使える資金調達用員のようだ。
「分かった。もう既に準備が整えているのならお前のタイミングで動いてくれ」
「ほい来たーえ~!だったら早速取り掛かちゃうね~。ボクチンからは以上でございま~す」
スタンが変わらない口調でそう答えてそのまま通信が終わりそうになった時シンはある事を思い出して呼び止める様にアダムに答えを掛ける。
「そうだ、この世界に俺以外に日本人・・・地球人がいるかどうか調べてくれないか?」
シンはレンスターティア王国でタムラ・ソウイチの名前を思い出し、これから資金調達に向かうアダムにも調査する様に言った。
資金調達で真っ先に必要なのは情報だ。故に情報を手に入れるに至って日本人らしき人物が他にもいる情報があってもおかしくない。
もしこの世界にソウイチ以外の日本人がいれば何かしらの形で接触する必要がある。接触目的はどうやってこの世界に来たのかついてだ。
だからシンは日本人がいるかどうかについての調査を言った。
「OKオッケ~、任してくれーい!」
二つ返事で引き受けるスタン。
「頼んだぞ」
「承知ッチのチ~!」
「・・・・・」
真剣な声で言うシンに変わらずお茶らけた口調で答えるスタンに思わず無言になったシンは一呼吸整えてスタンに健闘の祈りの言葉を掛けた。
「やり方についてはお前に任せる。だが、自分自身を守る事を優先して動いてくれ。そして・・・」
再び呼吸を整えて更に低く毅然とした言葉を口にする。
「お前自身以上にここの事についての情報が洩れるわけにはいかない。ここの情報漏洩が漏れない事を最優先に動いてくれ」
その言葉を聞いたスタンは
「ご安心ください。そのつもりでございます・・・」
先程迄の軽々しくてウザったらしい口調ではなく芯が通って酷く毅然とした口調で答えて通信を半ば一方的に切った。
普段からもそうした口調で言えよ、と思いつつシンは通信を終了した。