172.入国者と帰郷者
この話は元々11月に投稿するつもりだったのですが、こちらも修正箇所がございましたので急遽修正作業に入っていました。そうした理由で遅くなりました。
申し訳ありませんでした。おかしな箇所がございましたご一報ください。
続きをどうぞ!
フワッと吹く風の匂いは海の香り。赤いレンガ壁に黄色い屋根の家々。急勾配が大きく舗装された石畳の通りには人通りが多く魚を多く扱う市場では大きく賑わっていた。イタリアのジェノヴァを思わせる風景だった。
ここはレンスターティア王国最東部。大陸内では最も東に位置する内の一つのその場所には海に面している。その為水産物が豊富で漁業が盛んだ。その上オオキミ武国等の海に面した国家とは貿易を開いている。それ故に重要な経済拠点として活動してレンスターティア王国の大動脈、或いは心臓部として動いていると言われても過言ではない。当然オオキミ武国に直接向かえる国の内の一つとしても知られている。
だからサクラ達はここモワエストというレンスターティア王国最大の港町に来ていた。
「船の用意が1日かかる。せっかくだから適当な所で食べないか?」
そう言いながら航行ギルドから出てきたサクラとアルバ。
航行ギルドとは主に船や馬、馬車等々の移動手段や貿易、漁業や一部の農業等の第一産業を管理や手配する組合組織の事だ。
一部の農業と言うのは遊牧民による畜産業やドラゴンやワイバーン等を飼育している畜産業等々の事だ。そうした特定の農家とは移動手段として能力のある家畜を物々交換や金銭で取引されている。
サクラはオオキミ武国に向かう為に船の手配の依頼をして丁度話が決まりギルドから出ていった所だ。
「甘いものはある?」
サクラの食事の提案に真っ先に甘味の有無を問うのはアンリだった。
「普通は海産物だろ・・・。まぁ探せば多分ある」
サクラが王族という事があってすぐに手配の手続きは問題無かったが、大きな貿易の関係で船の用意は1日かかる事になった。その為1日モワエストでゆっくりと過ごす事にしたのだ。
丁度今昼時となり軽く何か食事をしたくなったサクラ達は食事処を探すべくその場を後にした。
モワエストの魚介料理が専門とする店のテラス先。テラス先のテーブルにサクラとアンリが座り、サクラの後ろにはステラが、アンリの後ろにはアルバが控えていた。
香ばしいハーブの香りやニンニクやタマネギの様な食欲をそそる様な香りと共に貝類と各種の野菜を炒めてオリーブオイルの様な油が浮かんでいるポタージュ状の赤いソースで絡め、パセリの様な物が振りかけられたイタリア料理の様な料理。
そんな美味しそうな料理の目の前にして
「ここでの甘い物と言えばやはりこれか」
と呟きながらカラフルな宝石のような飴を頬張っていたのはアンリだった。
その飴は貿易によって輸入された外国の物で貿易港の市場で手に入れた物だった。
その飴を頬張り舐めるのではなくガリガリと噛み砕きながら食べているとアンリの対面で座っているサクラは呆れた声を漏らす。
「毎度の事を思うのだがアンリ、それを食べてからこれを喰うのか?」
アンリには少し変わった習慣があった。
何かしらの料理を食べる前に飴の様な甘い物を必ず最初に口にしてからその後に出された料理を口にすると言うものだ。
「当然だ。私には甘い物は必要不可欠だ。これだけは譲れない」
呆れ返す様な物言いで言うアンリ。まるで「前から知っているだろう?」と言わんばかりの言い方だった。
サクラも呆れた物言いで訊ねる。
「気持ち悪くならないか?」
「ならないから食べている」
サラリと答えるアンリ。完全に慣れている・・・と言うより習慣化してしまっているせいで感覚が麻痺している様だ。
そんな感覚に追いつけないサクラは少し目を逸らす。
「ワタシは見ていて少し気分が悪くなりそうだ・・・」
甘い物から先に食べてから通常の食事という事に気持ち悪くならないかと思われても仕方がない。パンで例えるなら先にクリームパン等の菓子パンを先に食べてからカレーパン等のお惣菜パンを後に食べる様な物だ。
どちらが先に等、人の自由ではあるが少なくともサクラは先に甘い物を食べてから惣菜等の料理を食べるという事には少し信じられない事だ。
ガリガリと飴を噛み砕いて食べるアンリにサクラは目を逸らしてフォークで食事を始める。
そんな食事をする2人にアルバとステラは周りを警戒をしていた。因みに2人はサクラとアンリが一度宿に戻った時に一人ずつ外で食事する事になっている。
諦めたサクラは食事を始めようとした時
「おお」
「「「?」」」
と少し離れた所で大きな二文字の声が聞こえた。当然テラスにいた客全員がその声に反応して声のする方へ向く。
「あ、お前・・・」
そこに居たのは侍だった。いや、侍にしては非常に奇妙な出で立ちだった。
カーキ一色のキャスケット帽を深く被り、馬の赤鹿毛より更に赤みを帯びた羽織に似たコートのはだけた所からはデニムの様なライトな紺色の着物を着ていた。いや、着物の様な服を着ていたというのが正しいだろう。ブレザーと着物、ビジネスズボンと袴、とそれぞれが足して2で割った様な服を着て、黒いブーツを履いていた。分かりやすく言えば「着物スーツ」と呼ばれる様な服を着ていた。
腰には丈夫な帆布で出来た小さなポーチが幾つも付いた藍色の腰帯をベルトの様に巻いており、侍らしく鍔の無い刀を左側に差していた。
そして深く被ったキャスケット帽の下の顔は30代前半の男で、目には黒い帯で目隠しの様に巻いていた。
「久しぶり、サクラさん」
つい先程仲の良い隣人に気軽に声を掛ける様なカラカラとした言葉でサクラの名前を口にし、「お~い」と軽く手を挙げる。
「サトリか」
対してサクラはよく見知った顔に「ああ、何だお前か」と言わんばかりの言葉遣いだった。アンリはサトリの顔を見ていたが、鼻で軽く溜息をついた。
「お久しぶりでございます、サトリ様」
そんなサクラに変わってアルバはそう挨拶してステラと共に恭しく一礼する。
「アルバさんにステラさん!久しぶり。あれ以来かな?」
そんな2人にサトリは自分の甥っ子に久しぶりに会った様な陽気な口調で言いながらサクラ達のテーブルで相席になる。
サトリの陽気な雰囲気に流される事なくサクラは疑問に思って当然な事を冷静な口調で口にする。
「お前、何故ここにいるんだ?」
「わっしは久々に祖国に顔を出そうと思って船の手配の為にここまで来たんだ。ところでお前さん達は何故ここに?」
お互い何故と思う事は同じだった。それ故なのかサクラはすんなりと答える。
「ワタシ達もお前の祖国に行こうとしているんだ」
「それは奇遇だね」
カラカラと笑いつつ陽気で飄飄とした口調で驚きの言葉を口にする。だが、とても驚いているようには聞こえない。半ば人を喰ったように聞こえる。
「ああ、それでお前は船は手に入りそうか?」
そんな口調にすらも流されず冷静に訊ねるサクラ。
「いや、これから腹ごしらえをしてから行こうかってね」
軽く首を横に振りながらそう答えるサトリ。
するとアンリはある提案をする。
「ならば我々が手配した船に乗ったらどうだ?」
「え、良いのかい?ホントに?」
今度こそ驚いた口調になるサトリ。対してサクラは「え?」と少し驚きアンリの方へ向く。
「私は良いが、サクラちゃんは良いかい?」
アンリの目は何か訴えていた。
サクラはその意を読み取ったのかすぐに頷いた。
「構わん。「乗りかかった舟」だ。付き合え」
「ハッハッハ!言葉通りだ!」
サクラが口にした上手い言葉にパシンと膝を叩き、「お、上手い!」と感心するサトリ。
「全くだ。ああ、それから船の用意は1日かかるからそれまで待ってくれ」
対してサクラは静かに笑いながら冷静な口調で言う。
「承知した。そう言えばお前さん達は何故オオキミに向かう?」
サクラとアンリはお互いに顔を見合わせた。
彼も連れて行こう。きっと役に立つ。
お互いがお互いに以心伝心の様に伝わったからか頷き合い先に口を開いたのはアンリだった。
「サトリ、聞くからには手伝ってもらうぞ?」
アンリの言葉に飄飄とした口調から一気に鼻から突き抜ける様な酷く冷たく真剣な声で答えるサトリ。
「面白い事?」
「面白い事だ」
アンリの代わりにサクラが変わらない口調でそう答える。サトリは少し首を傾げつつ頷き、2人の話に耳を傾けた。サクラはシンの事について口を開いた。
一通りシンの事について話したアンリとサクラはサトリの顔を窺った。
「なるほど、その男に会う為にオオキミ武国に向かうんだね?」
当の本人のサトリは腕を組んでサクラ達の話を頭の中で整理し、変わらない冷たい口調でそう答える。
「平たく言えばその通りだ」
サクラは頷きながらそう答える。するとサトリはほんの僅かに頭を下げて最後の質問をした。
「最後に・・・」
サトリにとっては何よりもこれが重要な質問だった。
「その男は強いのかい?」
サトリの口角は酷く上がり、まるで獲物を前にした獰猛な獣の様な口になっていた。
対してサクラは同じく獰猛な眼光を輝かせサトリ程ではないにしろ同じく口角が上がり一切の間を置かず
「強い」
と答えた。
するとサトリの口角は更に上がった。
「急ですまないが、わっしも一枚噛ませてくれないか?」
普段の様な陽気で飄飄とした口調でそう答える。対してサクラとアンリは静かに頷いた。
シンの捜索にサトリが加わる事になった瞬間だった。
シンにとってかなり不利である事態になっている事に気が付くのはまだ先の事だ。
今月は今回の話を合わせて4話投稿するつもりとしています!
多分・・・