171.心配
2話程書いていたのですが、修正すべき箇所がございましたので急いで修正していました。
遅くなってしまって申し訳ありません。
カチャン…
朝食を食べ終え、食器をシンクに置き、学生ブレザーを軽く羽織りそのまま玄関まで向かう。
靴を履き学生カバンを肩から掛けてドアノブに触れる。
「行ってきます」
眠さや怠さが一切なく晴れた空の様に爽やかないつも通りの挨拶をする。
「ああ」
父は「行ってらっしゃい」とは言わなかった。けれどもそんな2文字からは「行ってらっしゃい」、「気を付けてね」という思いが込められているのが感じ取れる。
「行ってらっしゃい」
母は父が言わなかった言葉を普段と変わらず、けれども見守る思いを込めて自分の息子に掛ける。
2人の言葉を聞いてドアノブを回して一歩外に踏み出そうと進んだその時だった。
「「シン」」
「え?」
自分の名前は確かに「シン」だ。けれどもさっきの「シン」はどこか違う。そんな違和感を覚えて振り向こうとした時
ターン…!
タタタタタタタタタ…
連なる銃声。
ドーン…ドーン…!
絶え間なく響く爆音。
シンにとってそれらは聞き覚えのある音だった。
その音は日常的で決して気を緩める事が出来ない酷く緊張感のある音だった。
「!」
音のする方向へ見るとドス黒い煙が崩れかけの建物や自動車だった物から上がっていた。道路はかつては舗装されていたのだろうが、今はあちらこちらに抉られた跡がたくさんあった。周りの風景で共通していたのはどこかに必ず銃痕が残っていた事だった。
空気は煙のせいで透明感が薄れ硝煙や焦げた匂いがしていた。
「え・・・」
周りを見渡していたシンは今の自分の格好に気が付いた。
黒のシャツの上にデザートベージュのタクティカルベストを着て黒いカーゴズボンに黒いブーツ。黒い両手にはカラシニコフを握っていた。タクティカルベストとズボンには何かしらの銃弾や手榴弾、拳銃等を装備しているせいかずっしりと重い。少なくとも10kgはあるはず。
そんな重い体であるにも関わらず、普段着を身に付けている様な感覚。
「・・・!」
シンがふと手前から2番目の崩れた建物の近くにある瓦礫の下からボロボロになった何かのアニメのキャラクターのぬいぐるみを握った小さな手が見えていた。
「・・・・・」
そしてその小さな手の下からジワッ…と赤い水溜りが徐々に広がっていった。
「何で・・・俺がここに・・・」
今何が起きているのかが分からなかった。周りをキョロキョロと見渡すがどこがか分からない。ただ一つ分かるのはどこかの国の紛争地域のど真ん中にいるのだけは間違いなかった。
「・・・・・」
シンは訳も分からない上に徐々に芽生え得てくる不安から逃げる様にすぐ後ろの玄関に戻ろうと振り返る。
「!?」
目に映っていたのは地面に伏したケガをした子供と子供の上半身を服の襟を掴んで持ち上げて笑う民兵達だった。
その民兵達の内の一人が持っていた小銃を地面に伏した子供に向けた。
「!」
ズパッ!
シンは半ば反射的に民兵達を腕を触手状にしてBBPの刃で切り裂いた。
(手ごたえない!?)
BBPはシンの体の一部と化している。切った瞬間肌で触れたような感触も切った手ごたえの感触もある。だから切った瞬間感触が無かった事に違和感があった。
「そうか・・・これ・・・」
何故学生の時の姿だったのか。
何故紛争地域の真ん中で兵士の様に武装していたのか。
何故切った感触が無かったのか。
切ってすぐに理解したシンの背後から
「漸く気が付いたのか?」
と声が掛けられた。振り向くとそこに居たのはシンだった。
「ああ。これはお前が見せた夢だって事をな」
最初から気付くべきだった。何度も経験した事がある。だから感覚からしてここが夢である事が明白だった。しかも過去にこんな夢を見せる様に動かす事が出来るのはシンだけだった。
しかし分からない事があった。何故自分にこんな夢を見せたのか。
「態と俺に見せたのか?」
「その通りだ」
躊躇う事無く頷くシン。目を細めて改めて訊ねるシン。
「何の為にだ?」
「お前、咄嗟に触手状にしたよな?」
「それが?」
何が言いたいと言わんばかりに強い口調で訊ねる。
「お前がいる世界でそんな態度をとるつもりか?」
「!」
心に強く突き刺さった様な感覚を覚え目を大きく開くシン。
「俺はね、心配なんだよ」
「心配・・・?」
両手を自分の手に軽く当ててそう言うシン。
眉間に皺を寄せて少し歪ませるシン。
「そう。君が、その腕の足の体全てにあるBBPの事を知った世界が君に対してどんな反応をし、どう動くのか」
「・・・・・」
ジッとシンを見つめるシン。対してシンは瞳を覗き込む様にして見ていた。
「今のままではかなり早い段階でバレてしまうだろう」
「そうならない様にして旅を続けてきている。これまでも、これからも」
「じゃあ一つ聞く」
シンは右手の人差し指を上にに向けて「1」を作る。
「BBPは銃器と比べればBBPの方が問題がある。そのくせ銃器全般はこの世界に大きく影響を齎すからあまり使えないし手放す心配もないからBBPで戦う。随分リスキーな戦い方をする」
「・・・・・」
何か言い返そうにも言葉が詰まるシン。
自分自身が受け入れても世界が受け入れてくれるかどうか。
この問いに答えるとすればどういう形であれ間違いなく受け入れない。例え受け入れたとしてもシンの力に固執して混乱を齎す事になる。
シンは右手を下ろして改めてジッとシンを見た。
「今までのが通用しない相手だったらどうするつもりだ?」
「・・・・・」
変わらず何か言い返そうにも言葉が詰まったままのシン。そしてシンはこう言い切った。
「断言してもいい。近いうちにその力の事を知られるだろう」
そう言われたシンの頭の中でサクラの姿が過った。現状ではこの世界で最も関係が深い人間と言えばサクラしかいない。
言わずもがなサクラにシンの本当の力の事を知られてしまえばサクラには何かしらの形で黙ってもらう外ない。
それは避けるべきだ。
だからなのかシンは更に訊ねる。
「お前はどうするべきだと思っているんだ?」
数秒程間を置いてから答えるシンの口調は酷く低かった。
「・・・この島から出ない事がベストだろうな」
「・・・・・」
確かに最も良い方法はシン自身がジンセキから出ない事だ。
だがシンは旅をしたい。知らない事を知りたい、見たい等々の観光目的もあれば、気になる事を確かめたい等々の様々な理由は多くある。はっきりとした理由を説明しにくいが、一つ確かなのはこのままジンセキに引き込もっていたくないという事。
だから島の外には出ないという選択肢は最終手段として考えている。
故にシンはシンに
「それでも旅に出る」
と強く言い切った。
「・・・・・」
呆れ混じりの溜息を深く吐いてシンを睨むように見るシン。
「君は子供みたいな事を言うんだな」
「我儘は誰にでもあろだろ?」
ギラリと睨むシン。
自分の目にその眼光が映った時、シンは小さく「ん~」と唸って数秒程考え込み口を開いた。
「じゃあ思い切ってBBPを発揮させるか?」
「何?」
シンの意外な答えに目を更に鋭くさせるシン。
「今後の事を考えれば上手く立ち回ってもバレてしまう。だったら思い切って大胆に動こう。今までのが通用しない相手でも本来の力を発揮すれば何も問題ないだろう。知られても受けれ入れてくれる者ならそう多い」
さぁ、と言わんばかりに手を差し伸べるシン。
「・・・・・」
差し出された手を見たシンは今までで最も鋭い目付きになる。
「どうかしたのか?」
シンの様子に気が付いたシンは変わらない口調で訊ねる。
「悪いがその提案は却下だ」
「・・・何故?」
意外な答えに目を細めるシン。
「信頼できる人間に知られたという事はこっちの事情に巻き込んでしまう事になる」
シンのBBPの力をこの世界の人間が知ればその影響力は想像以上に大きいはずだ。例えばBBP特有の変形して硬さも変えられるを見れば、技術的な模倣が出来なくとも指針は大きく掲げられる。「目指すは体の形や質が自由自在に変えられる」という風に。
そうなれば、ただでさえ他人を平気で無碍に扱う様な社会情勢であるのに、人体実験をさせる様な真似をする事になる。最悪親しみ深いこの世界の人間がこういった事に巻き込まれる恐れもある。
「守ればいいだろ?」
「俺達は神様じゃない。守り切る事なんかできない。なら、この力の事は隠すべきだ」
今の力量では誰か「守る」事は出来ても、「守り切る」という事は不可能だ。
シンが言いたい事を汲んだシンは変わらない口調で説得を続ける。
「俺達は2つで1つになった存在だ。今までの力をセーブしていた分をフルに使えば100人とかのレベルじゃない。この世界の人間すべてを守る事なんて事も出来る」
「だが、その「守る」は守るべき人間が望んだ形なのか?」
「・・・きっとそうだろう」
含みのある様な間を置いてからそう答えるシン。見ようによっては言葉が詰まり気味の様にも見える。
鋭い目で牽制する様に睨むシン。
「・・・・・・・」
シンの眼光に怯む事も無くジッと睨み返すシン。
時間にして僅か5秒程。
短いはずの5秒が酷く時間が長く感じた。
お互いそう感じ、先に口を開いたのはシンの方だった。
「・・・君が思う通りにしてくれ。但し君の命に係る程の重傷を受けた時、俺は思う存分に力を発揮する。それでどうだ?」
シンの答えに鋭い目から訝し気醸し出す細い目になるシンは
「分かった」
と低く強い口調で答える。
シンを見る目はまた酷く鋭いものになる。
「だが、これだけは覚えておくんだ。その力を見た人間は「恐ろしくなる」のは絶対的だ」
そう吐き捨てられたように言ったシンをスッと斬る様な決定的な眼光を睨むシンは変わらない低く力籠ったの口調で答える。
「そんな事はさせない。俺がそう動くから」
静かに目を閉じて軽く息を整えてもう一度目を開いてシンを見るシン。
「己と他が後悔が無い様に」
再度開いたその目は深く底の知れないような虚穴の様だった。響くその声は深さがあり自分が落ちていくような感覚を持たせる不思議でどこか恐ろしさを感じた。
そして言い放った言葉は意味を含み自分と他の者を心配しているようだった。しかし、物言いはまるで自分は池の淵に立って眺めている様だった。
「・・・・・・・」
対して無言で答えるとシンは霧散して風に流されていく様に消えていった。
その様子を完全に消えていくまで見たシンは差し出された手の事を思い出す。
(あの時、手を取っていたらどうなっていたんだ・・・)
シンが手を差し伸べた時の手を見て、何故か後には引けない、取り返しのつかない何かが起きてしまうのではないか、と酷くそう感じた。
だからシンは差し伸べた手を取らず、首を横に振った。
気が付いた時は白い天井があった。
「・・・変な夢」
そう呟きムクリと起き上がるシンは右手で自分の頭を軽く掻く。
「・・・・・」
あの夢には一体何を示しているのか、何の意味があるのかとボンヤリとする頭で考える。
「・・・・・・・・・・」
10秒程考えたが結局答えは出なかった。
ただ一つ言えるのは酷く印象に残っていてこれからは気を引き締めようと改めて決意する事だけだった。
おかしな箇所がございましたご一報ください。