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167.補給基地

 現代的な金属製のドアを開けた瞬間、ドア向こうにある部屋が瞬間的に照らされた。


「あれで良かったのか?」


 そう言いながら4人程座れる2つのソファと机があるシンプルな部屋に入って来たのはシンと


「うん、十分やで~。かんにんな若~。帰って早々手伝うてもろうて~」


 リーチェリカだった。

 その部屋はジンセキの地下にある控室として利用している空き部屋にいた。白い蛍光灯の様な強くて穏やかな灯りの下で置かれていたソファに沈めるシン。続いてリーチェリカも対面にあるソファに優雅に座った。


「いやいいよ。現状俺だけしかできない事だし」


 小さな溜息をつきつつ答えるシン。

 先程までシンとリーチェリカが行っていたのはこれから造っているスタッフにブレンドウォーズの魔法を、正確には支援と補助の魔法を付与する作業を全て終えてそのままこの部屋に来て休憩していた。


(まぁよく考えたらブレンドウォーズの魔法を付与させる方法って結局の所、俺がしなければならないからな)


 アカツキやディエーグ等々のスタッフにはシンは何かしらのブレンドウォーズの魔法を付与をしていた。付与されたその魔法は攻撃目的ではなく飽く迄も補助や支援目的だ。しかしジンセキのスタッフに付与させる事が出来るのはシンだけだ。その為シン一人に負担がかかる形になっている。


(これから新しく造るスタッフは魔法が使えるんだった・・・いや無理か・・・)


 新しく造るスタッフは魔法が使える事が出来る予定だ。魔法が使えるからそれぞれのスタッフ達に魔法の付与をさせようと考えた。しかし、ブレンドウォーズで使われていた魔法は使用できない可能性が高い。現状はっきりとした事は言えないが、ブレンドウォーズの魔法の仕組みやこの世界の魔法の仕組みが違うからだ。例えばブレンドウォーズの魔法はこの世界の魔法の原料である魔素の必要量が違う。例えるなら日本で使われているコンセントに必要な電圧量の違う家電製品のプラグを挿し込む様なものだ。

 また無理やりどちらも使える様にさせると何かしらの不具合で暴走等が起きる可能性がある。それこそ漫画にある様な魔力の量による大きな爆発等が起きるとか。

 そんな目に遭う位ならこれから使うスタッフは()()()()()()()()使()()()()()()()()、スタッフ用の補助魔法を()()()()()()()()()()()()()()()()()ように開発・製造を進めたのだ。

 だから結局の所レンドウォーズの魔法を使えるのはシンしかいないという事だ。


(やっぱり俺がやるしかないか・・・)


 そう結論を出したシンは深く溜息をつく。そんなシンにリーチェリカは例のスタッフ製造について続きを話す。


()()が出来るのんは少なくとも次に若が旅立つ時にはできてるさかい~」


 リーチェリカの言葉にシンは頷き返した。


「ああ、本当に助かったよ。()()()がいるだけで俺の事について分からない様にしてくれるからな」


「せやけどよう考えたね~。商売に魔法にそれから若の正体を隠す為に動くって言うのんはなかなかおもろいな~」


 カラカラと笑いながら感心そうに答えるリーチェリカ。シンは以前聞いていた月の基地について尋ねてみた。


「月の基地についてはどうなっているんだ?」


 シンからの返答やリアクションが少しつまらなかったからなのか口を少し尖らせて答える。


「明日には出来はる予定やで~」


 口調から察するに本当につまらなかったようだ。


「そうか。これで大きく進んだな」


 そんなリーチェリカに対して普段の様な態度で頷くシン。だが月に基地が出来たのはとんでもない事だった。月に基地が出来たという事は補給の為にアカツキが地上に降り立つ必要が無くなったという事だ。つまり今までアカツキの大きな弱点である「補給の為に地上に降り立つ」という事が無くなったのだ。地上に降り立てば攻撃が届くという事になる。場合によっては一方的に攻撃を受けるという事になる。

 だが月にアカツキ専用の補給基地を構えた為、地上に降り立つ事が無い。しかも無人である上に地上から遥か空よりも上にいるアカツキへの攻撃手段が無いから一方的に支援砲火が出来るという事になるのだ。


「それに開発で沢山の資源の種類手に入ったさかいね~」


 ニンマリとほっこりとしたような笑顔で言うリーチェリカ。こんな顔をしている時はリーチェリカが興味がそそられるものを見つけた時だ。例えばこの世界でしかない資源を見つけていた、とか。

 そう考えに至ったシンは「子供かよ」と呆れつつ訊ねる。


「資源はどんなのがあった?」


「アルミニウム、レゴリス、イルメナイト、チタン、鉄、ヘリウム3等々がおしたな~」


 指を折りながら資源を上げていくリーチェリカ。だがリーチェリカの答えにシンは聞けば聞く程興味が失せていくような顔になっていく。


「元いた世界の月と同じだな」


 リーチェリカが上げた資源の全部は元いた世界でもある物ばかりだった。何も無いよりかはマシだが、もしこの世界にしかない素材があれば今後ジンセキに大きな貢献に繋がるかもしれないという可能性がとんだぬか喜びだった。

 シンのガッカリしたような呟きに笑顔のまま首を横に振るリーチェリカ。


「それだけやないんや~」


「どういう事だ?」


 まさかあるのか、と思いながら訪ねるシン。


「見た事もあらへん金属見つかってるんや~」


 まさかだった。しかし、そのまさかをすぐさま否定した。何故なら元いた世界で自分でも知っている可能性のある金属を思い浮かんだからだ。


「ホントにあるのか?隕鉄ではなくてか?」


 知っている様な金属として考えられたのがごく少量だが存在する金属、「隕鉄」。

 隕鉄とは、鉄とニッケル合金からなる隕石で「鉄隕石」とも呼ばれている。風化に強いため、古い鉄隕石も比較的よい状態で見つかる事が多い。

 金属の製錬技術を持たなかった時代あるいは地域の人々は、隕鉄を貴重な金属として、道具に使っていた。天からもたらされた物質であることが知られると、宗教的な意味づけが加わり、珍重される事もあった。鉄隕石を使用して製作された刀剣は世界各地で見られ、日本では「流星刀」が知られている。現代では、もっぱら隕石としての博物学的な価値があるのみである。

 つまり、もし隕鉄であれば利用できない資源で精々「ロータス」で分解対象になってしまうだけだ。


「ううん~この惑星にある元いた地球や月では見られへん金属と一緒やで~」


 その言葉を耳にしたシンは目を大きく見開いた。


「どんなのだ?」


 この世界にしかない資源を確認したかもしれない。もしこの世界にしかない資源であれば使いようによっては大きく技術を進歩する事になるかもしれない。だからリーチェリカの答えにシンは目を大きくした。


「水色に近い銀色や金色、白金色の金属でその全てが見た事もあらへん金属やったで~。ただ魔素に反応するんやったらそれ実験するつもりやったんやけど~・・・」


「あ~そうか、現状はそれが出きない、か・・・」


 この世界は元いた世界とは丸切り違う所が多い。その内の一つが魔法の存在だ。魔法には魔素というものを利用して魔法を操る事ができる。リーチェリカが発見した元いた世界では見た事も無い金属。知っている金属やその金属が魔法に反応する可能性がある。だが、現状では未確認の金属で魔法に関する事を調べる事ができない。更に言えば見つかった金属がこの世界ではポピュラーであれば何も見えない所を手探りで探すような真似をせずに、鉱物図鑑の様な書籍を手に入れるか、鉱物に詳しいこの世界の住人にその金属を見せる方が余程早いだろう。


「やけど、元の世界の科学技術による調査実験はできるさかいすんで~」


 化学反応や酸化反応等々で例えば火薬やニトロに変わる爆薬並びに炸薬や新たな合金等々の様なジンセキに大きく貢献できる可能性がある。


「分かった。また何か分かったら知らせてくれ。俺も何か分かったら知らせるから」


「は~い。報告はこれらで以上や~」


 シンの言葉に自分の報告はもうないと判断してそろそろ作業に戻ろうと判断したリーチェリカは徐に立ち上がり、そのまま部屋を後にしようとした。その時シンはある事を思い出してリーチェリカを呼び止めた。


「リーチェリカ」


「何で~?」


 徐に振り向くリーチェリカ。シンは一拍空けて用件を伝える。


「前にワークキャップのカメラで撮ったソウイチさんの手記の内容について調べて欲しいんだ」


「あ~あのみっちり書き込まれてたの~?」


「ああ」


 小首を傾げてそう尋ねるリーチェリカにシンはすぐに頷いた。


「分かった~」


 ついでという形で調べるつもりなのか新しく見つかった資源の時と違って嬉々としている様な声色や口調に聞こえなかった。この様子だとこれの件についての報告はだいぶ先になるだろう。

 だが、シンにとってそれでも十分だ。


「頼んだ」


 いつもの様な口調でそう言い放った。リーチェリカは


「は~い」


 とにこやかに返事して部屋を後にした。

 リーチェリカが返事共に部屋を出て行った事を確認し、一人部屋に取り残される形になったシンは深呼吸して見上げる形で天井を見た。


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