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160.安定した旅を

活動報告でも書いてありますがお盆や家の関係で8/10~8/19までの間、作品の投稿をお休みにさせて頂きます。

次の投稿は8/20と言いたい所ですが、執筆の状況の関係で8/22になるかと思います。この長期間のお休みの間はチョイチョイ修正等の作業があるかもしれませんが基本的には投稿はありません。長期間の間お休みになってしまいまい、楽しみに待って下さっている方々には申し訳ありませんがお待ちください。


では続きをどうぞ

 

「やはりヴィクトールは何かされていたのですね」


 相手を射殺さんばかりに目元を鋭くさせてそう尋ねていたのはサクラだった。


「うむ。実はそれだけでなくヴィクトールがおかしくなる前から我が国の民達の失踪していたそうだ」


 そんなサクラに対して淡々と話すモルト。

 謁見の後に向かった別室にてモルトとフェイセンに扮したマーディスとサクラがソファに座りながら各々の報告を聞いていた。


「その報告書によりますと判明しているだけでも30人以上もいまして、身分関係なく子供も含まれております。また、クレイギンの供述では吸血族の弱点を探る為に人体実験をしていたとの事」


「・・・何の為に?」


「我が国を奪う為に、でございます」


 マーディスの言葉を聞いたサクラは目を細める。そんなサクラに神妙な顔つきになったモルトは毅然とした口調でサクラに命令を下す。


「サクラ嬢よ、貴殿に新たな命を授ける」


「はい」


 サクラは気を引き締める様に口をキュッと一文字に閉めてモルトの言葉を聞き入る。


「サクラ嬢によるこの国の政の陰の支えの任を解く事とする」


「・・・え?」


 思わず間の抜けた声を漏らすサクラ。

 それもそのはず。サクラは公爵の立場として動いている身。この命令が下るという事は今の任で大きな失敗をした事になる。だが、これと言って大きな失敗もしていないし、失敗の積み重ねもない。だから、政治に携わる任を解かれた事に心当たりがないから心の奥底から疑問の声が思わず出てしまったのだ。


「いくつか理由はあるが、シンとの関係を保つ為に集中せよ、という事だ。好きなように動く良い」


「ですが、今回の件は・・・」


 サクラが最後まで言おうとするとモルトは遮る様に手を挙げて言葉を止めて、疑問に答える。


「それは余達で何とかする。サクラ嬢よ、シンとの関係を保つ事が出来るのは貴殿にしか出来ん事だ。その為ならば好きな事をしても良い上に必要なモノがあれば用意する。その代わりだと思え」


「・・・・・」


 より具体的に答えるモルトにサクラは反論が出来なかった。実際、シンの強さを知っているのはサクラだけの上にこの国の人間では誰も力でシンを抑える事が出来ない。下手をすればサクラよりも強い可能性もあり得る。

 だが、サクラとの関係でマイナスな面が見受けられない。それどころか、友人の様なやり取りをしている。だから、サクラにはシンとの関係を保全する事に全力を注いで欲しいというのがモルトとマーディスの考えだ。

 そこまで悩み考えた末に出した結論は


「はい、承りました。陛下」


 モルトの王命に従った。

 サクラ自身はこの事件に深く気になっていた。

 サクラ自身がこのレンスターティア王国を奪わんとする連中が吸血族の弱点を調べる為に幾人の吸血族の命を奪い、王族である自分とレーデ、ヴィクトールに手を出している。この事から「聖炎の光」が敵である事は間違いない。

 だが、本当に敵は「聖炎の光」だけなのか、と疑問がサクラの胸に渦巻いていた。

 そんなサクラの意に察したモルトは声を掛ける。


「全く関わるなとは言わぬ。貴殿が所属している()()()()で情報収集位ならば良い。だが、忘れるでないぞ?貴殿の使命はシンとの関係を保つように努める事だ。よいな?」


「はい・・・!」


 その言葉に納得したサクラは小さく頭を下げる。

 その様子を見たモルトは穏やかに笑ってサクラに声を掛ける。


「時にサクラ嬢よ」


「はい」


 小さく下げていた頭を上げてモルトの視線と合わせ首を傾げるサクラ。

 そんなサクラにモルトは気さくな口調で訊ねる。


「シンの事は好いておるのか?」


 モルトの口から思いもよらない言葉にサクラは大きく目と口を開けて顔が紅潮する。


「へ、陛下・・・!?」


 何を聞いているのですか、と訊ねようとした時モルトは小さく肩を揺らす程度に笑い声をあげる。


「クックックッ…すまぬ、下がって良い」


「・・・はい」


 サクラは何か言おうと思ったがこれ以上何か否定しても反論しても、自分の身体の奥からジワジワと熱いものがより吹き上がるような感覚に苛まれる、と判断してこの場から立ち去る事にした。


「失礼します」


 サクラはそう言ってその部屋を後にした。紅潮したままの顔で。

 この場にはモルトとフェイセンに扮したマーディスだけになった。だから、以前の様にマーディスと共に居た様な口調になるモルト。


「そうか・・・サクラ嬢は好いておるか・・・」


 さっきの様子からして少なくともシンに好意的である事は確認できたモルトはどことなく満足そうに呟いた。


「ええ・・・」


 マーディスも顔が綻び、今にも小さな笑い声を漏らしそうになっていた。





 アカツキからの通信によりシンは寝転がりながら耳を傾けていた。


「ボス、今回の事件の事をどう思う?」


 アカツキの問いにシンは数秒程「ん~…」と小さな唸り声を上げて答える。


「この国は医療に力を注いでいるが、だからと言ってその他を疎かにしている気配がないバランスの取れた良い国だ」


 一見すると明後日の方向の答えに一瞬戸惑うがどこかしらで筋が通ると考え、話に乗るアカツキ。


「ああ、それは俺もそう思う。まだ分からない事が多いが、嬢ちゃんの屋敷にあった阿保みたいな数の魔法の書の事やカメラから見た農業風景からして魔法と農業・・・特に薬草とかの生産には力を入れているみていだった。工業面の方はあまりなさそうだったが、軍事という面からすれば魔法と農業と医療が確立して不動のものにしているからそんなに必要としなくともいいのかもしれねぇな」


 農業等の第一産業の面でも疎かにしているようでは無かった。寧ろ、他の国からしても非常に高い水準で運営されており、魔法と農業と医療に必ず繋がるシステムとして構築していた。それにより、軍事面でも魔法と医療に傾倒した形になっている。

 こうした事からレンスターティア王国はかなり高い水準の文明と言ってもいいだろう。


「けど、そう言った高い水準過ぎて敵に狙われてしまった」


「ほとんどが軍事転用出来るもんが多いからな。・・・そういや、嬢ちゃんが攫われそうになったのって嬢ちゃんが吸血族と人間のハーフだからか?」


「狙われた」という単語でサクラが攫われそうになった事を思い出すアカツキ。


「ああ。後レーデが狙われたのも引っ掛かる」


「ありゃあ、どういう事なんだ?」


「はっきりとは分からないけど、吸血族の体について調べる為に攫っていたのは間違いない。という事は敵は研究機関の様なものを持っているという事になる。国絡みという事も考えると間違いなくアイトス帝国の件が少なくとも一枚は咬んでいると思っている」


 書類を探す時にサクラとレーデを攫う事が書かれた事を確認していた。また、ヴィクトールの仮面に洗脳魔法が施されていたとすれば敵は吸血族の体について前々から調べていた可能性が高い。そうした事から何かの調査目的で吸血族の体を調べていたのは間違いないだろう。


「ああ、それは同意するぜ。貴族連に内乱を起こさせる様に扇動させたどころか、その扇動者を洗脳させて混乱に陥らせようとしていたもんな。その事を考えりゃ…」


「アイトスが関わっていても不思議ではない。だが、気になる点が多い」


「敵はまだはっきりと分からねぇって事か・・・」


 現状の判断材料と情報から見ればアイトス帝国が関わっている事は間違いない。だが、アイトス帝国の以前の事情から考えれば全てアイトス帝国が引き起こしたのかと言われるとどうにも頷き難い。


「そういやあのヴィクトールとかいう坊ちゃん、額に傷があってまだ眠っているんだっけか?」


 アイトス帝国(イコール)洗脳でふと思い出すアカツキ。


「リーチェリカが言うにはあの額の傷は深さの事を考えれば脳にまで達していて、仮面には魔法が付与されている。どんな魔法なのかは分からないが、洗脳魔法の可能性が高く、額の傷と関係があるらしい。そして、外してしまったから今でも眠っている様に意識が無いらしい」


「命に別状はないのか?」


「分からないな。あまり痕跡は残したくないから詳しい調査はしなかったし、例え出来たとしても魔法によるものであれば俺達には分からない事が多すぎる。ここは医療に大きく力を入れているこの国(レンスターティア王国)に任せるしかないだろ」


「こういう時が俺達って無力に近いとこはあるよな・・・」


 それを聞いたアカツキは歯痒そうに答える。


「おまけに国の事情にうかうかと関わってしまえば今回の様にサクラという監視役がもれなく付いて来る」


「下手すりゃ国に吸収してしまうもんな」


 変に他国に関わろうとすれば今回の様にシンの行動に制限を付けられるような目に遭う。最悪の場合であれば飼い殺しにされる恐れもある。


「ああ。だからリーチェリカにある事を頼んだんだ」


「ある事?何だそれは?」


「商売が出来てこの世界の魔法が使える様なスタッフを用意できないかって」


 シンは安全に旅をするに当たってどうしても必要なモノがある。それは情報だ。安全な国やルートの情報を入手する必要がある。その情報があるかないかだけでシンがこの世界に影響を齎せずに旅する事が出来るかどうかが決まってくる。だから情報を手にする必要がある。

 しかし現状ではレンスターティア王国によって褒美とサクラの目による枷が出来上がってしまい上手く立ち回る事が出来なくなっている。ほとんどの場合は行く先々で人と出会って入手だから今のシンではそれができない訳だ。

 そこで出てくるのが「商売が出来る者」だ。

 国の事情を手っ取り早く入手しやすく、国から国に行き来しても怪しまれない立場の人間と言えば「商売」を行っている者しかいないだろう。商売するに当たって誰が何を欲しているのかの情報を誰よりも早く手に入れる必要がある。例えば、商売が出来る、或いはしやすい土地等の情報や国や領地によっては税金の情報、有能な人材確保の為の情報等々。

 つまり「金」と「情報」と「信頼」を常に確保が出来て「怪しまれない」のがこの世界の商売人の常識だ。更に旅をするから護身目的という名目で「魔法」が使えるという事にしても変わった人程度にしか見られない。

 こんな人材(スタッフ)が居れば、現地にてシンをサポートして安全な旅を続けられるようになる。

 その上、この世界の魔法が使えればジンセキのスタッフはこの世界の魔法が使えないという常識の裏をかく事が出来る上に、この世界の魔法の事について分析する事も可能になる。


「なるほどな・・・この世界の魔法が使えるってのは初めてじゃないのか?」


 不安も楽観的でもない唯々思った事を口にするアカツキ。


「ああ、初めてだ。だが、これで上手くいけば枕を高くして眠る事が出来る」


 どことなく自信を持ったような口調でそう言うシン。


「それもそうだな。・・・俺は眠る必要は無いけどな」


「俺は眠る必要があるからここで」


 冗談めかしながらここで通信終了の事を伝えるシンにアカツキはその事に理解した。


「OKボス、通信終了。おやすみ」


「通信終了。おやすみ」


 お互い通信終了した事を確認した後、シンは深呼吸して天井をぼんやりと眺めていた。


(この国がアスカールラ王国の様にならずに済んだな・・・)


 そんな事を考え、微かに安堵をしながらシンは静かに目を閉じた。


今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」どうぞ宜しくお願い致します。

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