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155. これから引く者

 穏やかではあるがどことなく困った様な笑顔を作るフェイセン・・・いや、マーディス。


「やはりあの時、私は外にいた方が良かったようだね」


 あの時と言うのは馬車の手綱を握る人間はマーディスの姿のフェイセンではなく、フェイセンの姿のマーディスが持つべきだった。そうすれば傍から見れば従者の執事が操縦してる様に見えて、どう見てもおかしいようには見えない。

 だが、用心深いマーディスは自身と妻のエマと娘のレーデを守る為に馬車の中に居てしまったのだ。これが疑いを持つ一つの切欠だった。

 マーディスはこの辺りまでは訝しまれるだろうと考えていた。だが、この程度あればまだどうにかできるからそのまま怪しまれる要素を造る事無くフェイセンとして演じ通し切っていた。

 だから余裕のある様にこう言うが内心、かなり驚いていた。レンスターティア王国において幻影魔法関する事であれば右に出る者はいなかった。順ってレンスターティア王国では実力のある人物として大きく知られていた。

 なのにも関わらず、シンはフェイセンが実はマーディスである事を見抜いていたのだ。


「そうですね。後は・・・」


 ギョッとするマーディス。


「まだ、何かあったのかな?」


 まだ穏やかそうに言うが、内心はビクついていた。


「いつだったかは忘れましたが、2階で貴方とフェイセンさんが話されている時の事です」


 シンがそう言うとマーディスの顔が一気に曇った。


「・・・まさか、会話を聞いたのかい!?」


 どうやらシンの様な第三者が聞かれては困るような内容の事を話していたようだ。だが、話の内容を聞いたわけでは無いシンは首を横に振った。


「いえ、会話は聞いていません。変だと思ったのは咄嗟に取った手です」


「手・・・?・・・・・あっ・・・」


 シンの答えに顔に声がキョトンとしたがすぐに理解したマーディス。


「はい。あの時、話し終えたマーディスさん・・・に扮したフェイセンさんが去ろうとした時、咄嗟にフェイセンさん・・・の姿のマーディスさんがマーディス(フェイセン)さんの左手を掴んだ時、2人の正体が分かりました」


「そうか・・・。手を掴んだからか・・・」


「咄嗟とは言え、執事が使える主の左手を掴む事は無礼になるからな」


 シンは静かに頷き


「これが決定的でした」


 と答えた。

 いくら咄嗟の事とは言え、主の手を断りもなしに掴む事はとんでもない非礼に当たる。下手をすれば手を挙げた事になり兼ねない事なのだ。

 当時、マーディスは執事としての決まり事やマナー等を頭の中や体に叩き込んで対応していたのだが、場所が2階でマーディスとフェイセンだけの2人だけだったから誰も見ていない。その安心感からか咄嗟に手を出してしまったのだ。

 だが、下からシンが目撃してしまい2人の関係がどういうものなのかを分かってしまったのだ。

 しかしシンはこれが決定的と言ったが、実際は嘘だ。飽く迄も、もう一つの決定的な確証に過ぎなかった。

 本当におかしいと感じたのは最初に出会った時からだ。

 シンは洗脳等の魔法が効かない。だから当時、最初からシンの目に映っていたのは馬車を操縦していた人物は貴族服を着たフェイセンだった。だから最初からシンの目にはどういう訳か貴族の人間が馬車を操縦している様に見えた。この時点で一つ疑問を持った。

 いくら緊急事態だからと言って自分を仕えている主人に馬車の操縦を任せているのは流石に拙いはず。

 ここまではマーディスもこの時点であれば聡い者は訝しむ、と考えていた。だから、まだどうにかできるものと高を括りフェイセンで演じ通してきた。

 だが、マーディスも想定外の事が起きた。

 まず疑問を持ったシンは帰りの馬車でサクラにマーディスの事について尋ねた。そしてサクラはこう答えた。


 ・「マーディス公爵は穏やかな人柄で知られているが、実際は()()()()()()()、薬学と幻影に関わる魔法が得意なお方だ」と。


 だが、シンの問いに答えたサクラの口から出た単語の「かなり用心深い」で更に疑問が深まった。

 何故なら外部からの攻撃を真っ先に受けてしまうのは操縦している主人(マーディス)だからだ。そうであるにも関わらず、あの時サクラの屋敷に着くまで主人が操縦していた。

 だが、これだけでは用心深さよりも家族思いの面が強かっただけで済まされる。もっと言えばシンはサクラからマーディスの姿等聞かされていなかった。また、マーディスも、一般的には穏やかな人として知れ渡っている。マーディスの姿を見た事も無い外部の人間であるシンは、マーディスは「穏やかな人」と認識しているであろうとマーディスはそう考えていた。だから、そのままフェイセンとして演じ通し切っていた。用心深い性格の事は吸血族の人間であれば知っている者はそれなりにいる程度だ。

 だから、時間が経てば操縦していた主人がマーディスと思っても不思議ではなくなる。

 しかし、シンは確かめる為に一度フェイセンと話をする事にしたのだ。このそれぞれの判断によりマーディスは襤褸を出してしまった。

 それは「ケガが無い様に見えるが?」と鋭く訊ねるシンが尋ねてフェイセンになりきっていたマーディスの口から出たあの言葉。


 ・「マーディス様が幻影魔法で対処して下さったお陰で、この()()は生き長らえる事が出来ました」


 シンの目にはフェイセンの見た目はマーディスと同じく穏やかそうな顔をした3()0()()()()4()0()()()の男が映っていた。

 だが、フェイセンの姿のマーディスの口から「老体」の単語が出てきた。

 更に確かめる為にシンは年も訊ねた。

 そしてその時の答えが


 ・「私ですか?今年で6()0()()()()ばかりですが、それが何か?」


 これ以上ない決定的なものだった。吸血族は60歳でも若い・・・どころか幼いという認識だ。だが、「60歳」で「老体」と言う単語が組み合わせれば明らかにマーディスが成りきっていたのは「初老の執事」で「シンが良く知っている普通の人間」のフェイセンだ。

 これによりシンは執事服を着ている人物はフェイセンではなくマーディスだと確信を得たのだ。


「見事だよ、シン君」


 パチン


 マーディスは指を鳴らした。どうやら今の姿から元の姿に戻したようだった。

 マーディスの行動にシンは幻影魔法を解いたと考えた。


「・・・服は執事服なのですか?」


 シンは目がBBP化されている事を隠す為にあたかも、幻影魔法で執事服も幻影だったと思っていたかのように振舞った。


「うん、この方が幻影魔法の対象が顔だけになるから、使う魔素を抑えられるんだ。それに触られても服の感じが執事服だから誰も気づかれないしね」


 小さな溜息をつきながらそう答えるマーディス。


「飽く迄見えるものを騙すだけなんですね」


「そういう事だよ」


 穏やかだが、どことなく寂しそうに答えるマーディス。その様子を見たシンは静かに訊ねる。


「・・・フェイセンさんは、あなた方にとってどんな人物でしたか?」


「・・・優秀だったよ。私にとって兄弟とも、半身とも言える本当にいい執事だったよ」


 寂しそうに答えるマーディスはどことなく遠い目をしていた。

 そんなマーディスにシンは目を細めて更に続けた。


「あの時、自分は何の話をしていたのかは知りません。ですが、貴方の様子から察するに重要な事だと思いました」


「・・・・・」


「そんな話をしても問題ない位、信頼をしていたのですか?」


「・・・・・・・・・」


 シンがそんな話題を引き出した途端、顔を曇らせるマーディス。シンが何が言いたいのか分かってたいからだ。

 マーディスとフェイセンの関係はこの場に居る人間だけしか知らない。だからサクラとモルトの護衛2人を引き離していた。関係と立場を総合して鑑みればこの件で知っているのは王族3人と従者の執事1人、フェイセンだけだ。王族が多いという事はマーディスとフェイセンの関係の大元は恐らくこの国の王家に関わる案件。

 そしてシンがこの場に居るという事は関わっている。


「マーディスさん、俺はこの国の王家の何に関わったのですか?」


 フェイセンは王家に関わる案件に関わる程この王族3人と深い信頼関係を築き上げている。

 今回の件でシンはそれに巻き込まれて、フェイセンは自分を庇って命を落とした。しかも最後の遺言では「サクラとレーデを守って欲しい」と言っていた。この言葉の意味には大きくて深い者を感じる。もうここまでくればシンが関わっていないとは言えない。

 だから、今回の件の核心であろう事柄をどうしても知りたかったのだ。

 言葉を強めに次第に鋭い目になっていく。


「・・・それは」


 言い辛そうにしつつ、何か言おうとするマーディス。

 その言葉を遮るように手を挙げて止めに入るモルト。


「マーディスよ、余が言おう」


「モル・・・陛下・・・!?」


 穏やかな顔をしてゆっくりと頷くモルト。マーディスはそれ以上何か言う事は無かった。


「確かに今回の件ではシンが関わっているのは間違いない。それで少し訊ねるが、この一件で何が大きく関わっていると貴殿はどう思っておる?」


「王位継承ですか?」


 シンはフェイセンが最後に言った言葉を思い出していた。「サクラとレーデを守って欲しい」と。この言葉は一見するとマーディスのふりをする為に家族や親しい親族を守る為に行っている様に見える。だが、フェイセンの容態から考えればあの様に言う余裕はないと思った方が良い。もっと別の意味があると考えるべきだ。

 サクラとレーデに共通しているのは2人とも王族でこの国においては若いという事だ。そして、そこに王子であるヴィクトールの存在に至上派の実情。

 そこから考えられる事は王位継承権だ。

 モルトは深い呼吸をして整え、一拍空けてから頷いた。その様子を見たシンは疑問に思っていた事を口にした。


「自分の子供に王位継承を継がせるつもりは無いのですか?」


「我が愚息達は引き継ぐ気も引き継がせる気もない」


 意外な答えに思わず小さな声で「えっ?」と漏らす。


「それは何故ですか?」


「今までの愚息達の様子を見るに政よりも支える方に性に合っておった。ヴィクトール以外の愚息達もその事に自覚もしておった。そして、サクラ嬢もな」


 最後の言葉を聞いたシンは大きく目を開いた。


「!という事は・・・」


 シンの言葉に大きく頷くモルト。


「レーデ嬢はこの国のこれからを引いてもらう」


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