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147.始めの反撃

 普段の魔導艦の内部では船をある程度維持する為に掃除やメンテナンス、乗組員の為の食事の用意等々が主だが、それ以外は静かなものだ。

 だが、今は男達の悲鳴と掛け声が錯綜して、生々しい鈍い音が鳴り響いていた。


 ドカッ!


「グァッ!」


 バキッ!


「ゴボッ!」


 サクラは嗅いだ事のない何かの薬品の匂いで「パラライズバブル」の存在に気が付き、「パラライズバブル」を受けて手で押さえていた時、咄嗟に「薬効抑止剤」というこの世界にしかない、薬の効果を抑える薬剤を口に含んだのだ。

 そのお陰で「パラライズバブル」の麻痺の効果が抑えられて回復が早かった。

 だから、今の様に軽々と体を動かして重い一撃を見張りの兵士達を次々とノックダウンしていたのだ。


「次は誰だ?」


 自信満々に笑い、軽く拳を作って右手を前に左手を後方に構える。

 そんな様子のサクラに取り囲む兵士達は剣を抜いているが、一方的に殴られていた。思わぬ手強い相手であるから警戒して動けずにいた。


「この女強いぞ!」


「魔法が使えねぇじゃねぇのか!?」


「まだ戦える奴はいるか?絶対にこの船から降ろすな!」


 確かにサクラは「マナジャマー」の魔法を受けて未だに上手く魔法を使う事が出来なかった。

 だが、それでもサクラは十分すぎる位に強かった。

 兵士達は捕らわれの姫君だったサクラが、いきなり檻を破ったグルフに成り代わった為に焦って右往左往してサクラに一方的に暴力を受けていた。


(思っていたよりも数が多いな)


 自信満々に笑っているサクラだが、想像していた以上に敵が多すぎるせいで余裕が徐々に無くなっていた。サクラが取り押さえられるのも時間の問題だった。

 その時、敵の兵士の隊長と思しき男がどよめく兵士達に指示を出す。


「焦るな!着陸すれば応援が来る!そこで一気に畳み掛ければいい!それまで抑えておけ!」


 サクラは一瞬拙いと思ったが、一人不安そうな声で隊長らしき男に声を掛ける兵士。


「ですが、このままだと全員が・・・」


 確かに、サクラの熾烈な技の前にもう既に10人近くの兵士がノックダウンしていた。しかもサクラは自信満々な笑顔で挑発していた。そのせいで兵士達の戦意が大きく削がれていた。このまま無理やり抑え込んでもほぼ間違いなく無事では済まない上に下手をすれば隙を見て逃げられてしまう可能性もあった。

 だから不安そうな声を漏らす兵士に隊長らしき男は答えられなかった。

 そうやって何か考え込んでいる丁度その時カイトが部屋の中に入った。


「なら俺が抑えておこうか?」


 兵士の間を押しのけて前に出るカイト。そんなカイトに隊長らしき男は面白くなさそうな顔をして悪態を付いた。


「チッ、冒険者風情が・・・」


 舌打ちをしてその言葉を吐いた事にカイトは不敵に笑って返した。


「その冒険者風情に後れを取っているのはどこの誰だろうな?」


「っ!こ、このっ・・・!」


 文句の一つでも返そうと思うが事実が事実である為に言葉が思い浮かばない隊長らしき男。そんな隊長らしき男をよそにしてカイトはサクラに向かって再戦の言葉を口にする。


「お嬢様、もう一度お手合わせお願いできませんか?」


「・・・・・」


 自信満ちた笑顔が消えて真剣な顔になるサクラ。カイトも神妙な顔をして構え始めた。





 悠々自適に飛んでいるサクラが乗った魔導艦を追跡(マーク)しているアカツキはある事に気が付いた。


「ボス!もう2隻の魔導艦を確認した!」


「何!?」


 シンは驚きの声を上げてペン型タブレットを起動した。

 画面を見ると確かにこのままサクラが乗った魔導艦が進んでいくと万年雪が覆っている程の巨大な山脈帯付近で2隻の魔導艦が空中で待機していた。


「今、嬢ちゃんが乗っている魔導艦とは離れているがこのまま行けば接触する事になる」


 それを聞いたシンは眉間に皺を寄せた。


「だとすれば拙いな」


「ああ、仲間でなければ間違いなく戦闘に入るぜ」


 今度は目を細める。


「そうなれば撃墜されてしまうな」


 戦闘に入ってしまえばサクラも巻き込まれる事になる。撃墜される事になればサクラは助からない可能性がある。

 その可能性が頭を過った時思わず眉間に皺を寄せてしまう。


「ああ。だが、コースの事を考えればあの魔導艦の一群はサクラを攫った連中の仲間の可能性が高い」


 万年雪が覆っている程の巨大な山脈帯付近という事は当然その付近は人気がほとんどない。いたとしても登山客位だろうが、登頂記録を残して自慢できるような世界ではない。精々冒険者が何かの採取か怪物の討伐の為に動いているだけだろうが、こんな過酷な環境に赴く物好きは早々いないだろうし、そもそもそれも確認できない。だとすれば本当に人気が無いと考えていいだろう。

 という事はあの魔導艦の一群はサクラを攫った連中と見て間違いないだろう。


「ボス、どうするんだ?」


「・・・・・」


 シンは何も答えずそのまま目を閉じて黙り、何か考えていた。

 そんな様子が数秒程続いた時シンは徐に目を開けて口を開いた。


「リーチェリカに繋げてくれ」


「リーチェリカ?いいぜ」


 少し疑問気味に感じるものの何か考えがあると思ったアカツキはリーチェリカに繋げる。


「もしも~し」


 相変わらずの無邪気でどこか優雅な雰囲気な口調。だが、これはリーチェリカの普段からの言葉遣いなのだ。


「リーチェリカ今動けるか?」


「動けるで~。何で~?」


 何か頼み事があるのかと踏んでワクワクしながら訪ねるリーチェリカ。

 次のシンの言葉で確信に変わり嬉々とした。


「この世界で空飛ぶ船があるんだが、興味・・・」


「ある」


 言い切る前に即答。


「即答かよ・・・。まぁいい、リーチェリカも手伝ってくれないか?上手くいけば空飛ぶ船プラス乗組員と中にあるこの世界しかない道具が・・・」


「やる」


「・・・分かった、グーグスにワープホールを繋げるから来てくれ」


 間髪入れずの即答に少し呆れていたがリーチェリカが戦力に加える事は大きい。だから、あまり余計な事は言わなかった。


 もうツッコむ事も無くそのまま話を進めた。


「分かった~」


 嬉しそうに返事するリーチェリカの言葉を聞いたシンはグーグスの方へ向く。


「グーグス」


 グーグスは機内の操縦席方面に立っており、後ろにはどういう訳かグーグスの頭部の赤い箱が9箱あった。


「畏まりました」


 恭しく軽く一礼して返事をしたグーグスの前からワープホールが出現した。


 オオオオオォォォ…


 ワープホールが出現した事による独特の音が鳴る。


 カツ・コツ・カツ・コツ…


 そのワープホールの奥から靴音がした。その靴音の主は当然


「お待たせ~」


 これから自分の知らない何かをたくさん手に入るかもしれない事にワクワクするリーチェリカだ。

 来た事を確認したシンはリーチェリカにやってもらいたい事を言う。


「よし、まずは搬入口を開けて俺は追跡している魔導戦に乗り込む。リーチェリカは今追跡している魔導艦以外の魔導艦の一つを鹵獲してくれ」


「了解~」


 リーチェリカの返事を聞いたシンはフリューに通信を入れる。


「フリューはリーチェリカと俺が乗った事を確認したら乗った以外の魔導艦を全て破壊しろ」


「了解」


 返事を聞いたシンはグーグスの方へ向く。


「破壊を確認してサクラを確保に成功したら合図するからグーグスはワイヤーで・・・」


「畏まりました」


 グーグスがそう返事をした時、フリューから通信が入る。


「ボス、連中の魔導艦を目視で確認しました」


「分かった」


 それを聞いたシンは目を大きくした。


 いよいよだ。


 そう考えたシンは目つきを鋭くして殺気の籠った言葉で言い放つ。


「これよりサクラ救出作戦並びに魔導艦を撃滅する。生き残らせるな!」


「「「はい!」」」


 返事を聞いたシンは一拍を置いてからフリューに通信を入れた。


「フリュー!」


「はい、高度を上げます」


 フリューはそう返事をして速度と高度を徐々に上げた。


「アカツキ、魔導艦の上にフリューが重なったら・・・」


「OK、合図する」


 アカツキの返事を聞いたシンはリーチェリカとグーグスの方へ向く。


「リーチェリカ、グーグス、用意!」


「は~い!」


「滞りなく」


 リーチェリカはそう返事し元気よく手を挙げる。

 グーグスは普段通りの口調でそう答えると、後ろにあったグーグスの頭部の赤い箱の上部の蓋がキィィィ…と一斉に蝶番の音を立てながら開く。


 ズル…!


 箱の中から男性物の黒い靴と黒いスーツズボンが現れた。

 というより、グーグスの足からズルズルと体らしき物が出てきていた。


 ヒタ…


 足が床につき、重心を前に移動させてグググ…と体を起こしそのまま直立する。よく見れば両肩が胸部側に折れていた。


 グググ…


 折れていた両肩が一斉に徐々に広げて人の形になった。

 この間僅か3秒程。僅か3秒でグーグスは元あった体も含めて10体まで増やす事が出来たのだ。

 こんな光景を見れば通常の人気であれば驚くが、グーグス以外のスタッフ全員見慣れていたから特に驚きもしなかった。


「準備が整いました」


「うん」


 元あった体の方のグーグスがそう言った時、アカツキから通信が入った。


「ボス、フリューが丁度魔導艦の真上に重なった。魔導艦との距離はおよそ400m」


 それを聞いたシンは頷き、ペン型タブレットの方へ見る。画面には2隻の魔導艦と合流してサクラが乗っている魔導艦を挟む様にして飛んでいた。


「分かった、フリュー!」


「はい」


 フリューが返事をするとブザーが鳴り始めた。


 ジリリリリリリリリリ…!


 搬入口が開き始める。シンとリーチェリカはそのまま搬入口の方へ向かい横に並ぶように立った。


「準備いいか?」


 そう言ってリーチェリカの方へ向く。


「いつでもええよ~」


 シンは頷き真っ直ぐ向く。

 耳がつんざきそうになる位のけたたましくベルが鳴り、搬入口の近くにあるランプが赤から青く光った。


「青確認、降下!」


「どうかお気をつけて!」


 フリューがそう言った時、同時にシンとリーチェリカと共に何も無い空へと飛び出して行った。


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