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130.こう呼ばれている

実は最近まで体調悪くしてしまってつい先日まで寝込んでいました。可能な限り頻度維持していきますが、いきなり減ってしまう事もございますのでどうかご容赦ください。この作品の続きを楽しみにしてくださっている方々には申し訳ありませんでした。

続きをお楽しみください。


「周囲に10人以上の賊を確認しました」


 顔は険しく慌しい声であるものの、冷静で毅然とした対応をするステラ。


「そいつらは()()()()()()()()?」


 それに対してステラの方をジロリと見て静かに尋ねるサクラはその上をいくように冷静だった。まるで経験上こんな事があったかのように。

 剣を抜くという事は明らかに自分達に敵意を持っているという事。剣を抜いていないのならまだしも、剣を抜いているのであれば、自分の命を捨てても構わないという事だ。しかも、公爵家の屋敷を襲う事等以ての外。


「はい」


「そうか」


 最早、どう言い訳してもどうにもならない案件だ。殺されても文句は言えない。だから言葉の端に僅かではあるが殺気が込められていた。

 サクラはそう答えるとシンの方へ向いた。丁度その時アカツキから通信が入る。


「ボス、確かにそのメイドの言う通り、屋敷周辺に24人の敵影を確認した。全員原始的な武装していつでも戦闘できる様にしていやがる」


 原始的と言えば無論近接ならば剣や槍、弓矢やクロスボウと言った物だ。そんな物を構えているという事は敵を持っている事に変わりない。


「・・・・・」


 ステラの分身の魔法はサクラの悪戯か何かの余興であってほしかったが、儚い希望だった。今の状況から考えればどうやらステラはある程度自我を持った自分の分身体を作り出す事が出来る様だ。更にその分身体を手と手を合わせる事で自分の元に戻す事が出来る。しかも分身体が見た情報を知る事が出来る様だ。ただし、手を合わせた分身体は元に戻されるのか、そのまま消えるのかは分からないが霧散する様に消える。

 アカツキからの通信を聞いていたシンは不意にサクラと目が合う。


「・・・・・」


「?」


 ジッとシンを見つめていたサクラはニヤリと不敵に笑い右手の指に強く力を入れて少し動かす。シンはそんなサクラに首を傾げる。


「敵は24人か」


 そう呟くとシンはサクラの方へ向く。襲撃してきた人数がドンピシャに言い当てた事にシンは目を大きく開いた。


「!分かるのか?」


「ああ、十分に分かる」


 恐らくサクラの糸の鳴子で分かったのだろう。シンと初めて会った時でも索敵に鳴子を使っていたが、ここまで正確に人数を把握できるとは思っても見なかった。


「(下手なレーダーよりも正確だな・・・)それは糸で知ったのか?」


 シンがそう尋ねると不敵な笑みを浮かべるサクラ。


「そうだ。更に言えばどこで誰が何をしているかもわかる」


「・・・便利なものだな」


 シンはやはりかと思っていた。シンがL(レーザー)P(ピストル)を構えていた事を正確に知られていた事に少し疑問を持っていたが今ここで完全に解消されたからだ。

 シンが感心そうに言うとサクラはフフンと鼻を鳴らして得意気と自慢気が混ざり合ったような気持ちになる。それのせいなのかサクラはある事を思いついた。


「そうだ!シン、お前に見せてやろう」


「何をだ?」


「ワタシの本当の力をな」


「は?」


 いきなり何故そんな事を言い出したのかについての疑問の声を出すシン。それに対してサクラはシンに何の説明もなく背中を見せて後ろを振り向く。


「ついてこい。面白いものを見せてやる」


 そう言って先に歩き出す。そう言われたシンは口で説明するよりも見せた方が早い何かがあると思い、取敢えず黙って付いて行った。





 屋敷の2階のある部屋。外が眺める事が出来る大きな窓の前にシン達は来ていた。既に窓の前に到着して外の様子を窺っていたアルバは恭しく一礼して現状を報告する。


「外の賊共はこちらを見ていて緩やかではございますが確実に近付いております」


 そっと外の様子を見ると剣や弓矢、槍を持ったガラの悪い、野盗のような連中が屋敷をぐるりと囲んでいた。中には金属製の鎧を身に付けている者もいる。


「姿とか隠す気が無いのか」


 屋敷の周りにはそれなりに木々や茂み等があるのにも拘らず、襲撃者達は堂々と姿を現していた。よく見れば武器や着ている装備品が妙に良い物だった。


(何だ?ここの人数の情報だけで攻めてきているのか?)


 明らかに戦闘に慣れているわけでは無い様だ。恐らくどこかの町にいるチンピラのような悪漢に何者かに良い装備を提供されて動いている様だ。


「まぁ、お陰でワタシの魔法をお前に見せる事が出来るのだからな」


 シンの後ろから余裕綽々に言い放つサクラ。


「魔法って・・・糸のやつだろ?」


 それの言葉を聞いたサクラはフッと笑う。


「お前に対して使ったのは動けなくするとか、妨害とかの様に支援が多かったが、これから見せるのは()()の本当の使い方だ」


 不敵に笑ったサクラはそう言ってシンよりも前に出て、手を窓の方へ翳す。





 青い空の下ではジリジリと屋敷の包囲網を狭めていく襲撃者達。服装はそれなりに良い装備をしているが、品性は決して良いものではなかった。おまけに戦闘慣れしていないせいなのか襲撃の最中だというのに仲間とそう軽く会話していた。

 この事から考えれば襲撃者達は手練れの人間でも無ければ、冒険者でもない。ただのつまらない悪漢だろう。


「おい、屋敷にいる2人のお嬢様ってのをどうにか生かしてか手に入りゃいいんだな?」


 怠そうに尋ねる男は屋敷の方へ目を向ける。


「ああ、抜かるなよ?いくら相手が男2人にジジィ2人、メイド1人、女1人だからと言ってよ」


 二ヤ付く男は肩にトントンと剣を軽く叩く。


「2人のお嬢様は無傷で、それ以外は好きなようにしていいんだな?」


 そう尋ねる男の顔は下卑た笑みが浮かび上がっていた。


「ああ、ガキどもは興味ねぇから、男は殺して女どもは好きなようにしていい」


 同じく下卑た笑みを浮かべる別の男はそう答えた。


「たまんねぇな・・・」


 男がヒュ~と口笛を吹いてそう呟き下卑た笑みを浮かべた瞬間の事だった。


 ピンッ…





 目元を鋭くして口角を上げるサクラはシンの後ろから声を掛ける。


「ワタシがこうやって糸をよく使うから他の者から何て呼ばれているか分かるか?」


 突然話しかけてきた事にシンは動じずそのまま窓の外に釘付けだった。だが、だからと言って、受け答えしないわけでも無かった。藪から棒にと思いつつ、ちゃんと受け答えする。


「他の者ってギアとかからか?」


「そうだ」


 シンの答えに未だ笑みを崩さず頷くサクラ。それに対してシンは興味無さげに


「何て呼ばれているんだ?」


 と答える。口調は未だに興味無さげだ。サクラはノリの悪いシンに乗らせようと意地の悪い笑みになる。


「当ててみろ、そうすればご褒美があるぞ?」


 その言葉を聞いたシンは眉間に皺を寄せる。


「ご褒美?何だそれは?というかゲームすんのかよ・・・」


 この問いの時も決して襲撃者達から目を離さずにいた。


「それは当ててからのお楽しみだ」


「失敗すれば?」


 その言葉を聞いたサクラは意地悪な子供の様な口調で答える。


「ふ~ん。やけに食いつく様に見えるが、それは勝負に乗ったという事だな?」


 サクラの少し煽り交じりの言葉にシンは少し呆れ気味の口調になる。まぁ、当然の事と言えば当然だろう。今どこの誰とも知れない襲撃者達が来ているというのにも関わらず、ゲームをしようとするサクラに理解が出来なかった。


「答えてくれ」


「ワタシの望みを叶えてもらう」


 少し意地悪な事を言っても乗ってこなかった事に小さな溜息をつきつつ、ニヤニヤした笑顔のまま答えるサクラ。シンは呆れ気味に訊ねる。


「望み?」


「ああ、だがそれも負けた時まで秘密だ」


 その答えを聞いたシンはサクラの方へ向く。


「・・・サクラ、それをやっている場合なのか?」


「ああ」


 サクラの自信満々の表情と声にシンは小さな溜息を吐いて、そのまま視線をサクラの方へ向けたままになる。


「それはサクラらしいか?」


 サクラのもう一つの名前当ての勝負にシンが遂に乗っかった事に明るい笑顔になるサクラ。


「そうだな、ワタシらしいと言えばワタシらしいな」


「サクラらしいか・・・」


 シンはオウム返しの様に小さく呟きサクラをジッと見つめる。

 サクラは見つめてくるシンにどこか照れてしまうような気持ちになり、頬を僅かながらも赤く染める。

 そんなサクラにシンは何か思いついて口にする。


「「糸使い」とか「糸繰り」とかか?」


 その言葉に少し困ったような笑顔になるサクラ。


「悪くないが安直だな」


 確かに安直だ。いくら糸を使うからと言ってそのまますぎる名前はサクラらしくない。

 じゃあこれはどうだと言わんばかりに答えるシン。


「「針子」?」


 そんな答えにサクラはクックックと笑う。


「お前は糸の連想は裁縫しかないように言うな?」


 さっきの「糸使い」や「糸繰り」とさほど変わらない。「針子のサクラ」と呼ばれても悪くない響きかもしれないがサクラらしいかと問われれば首を傾げてしまうだろう。

 シンは少しムッとした心境で反論する様に答える。


「仕様が無いだろ、他に思いつくのは「網使い」とか「漁師」、「蜘蛛」とか「蚕」位しかないんだから・・・」


 シンがそこまで答えて窓の外をふと見た。すると襲撃者達の様子がおかしい事に気が付いた。大半が持っていた武器を落として、動きが止まっていた。正確には身体をピクピクと震わせて冷や汗を流していた。今にも死にそうな苦悶な表情で声にもならない声で小さく叫んでいた。


「なるほど、確かに似つかわしくないな。他に思いつく事は無いのか?」


 他に思いついた「網使い」も「漁師」も男を連想するし、「蜘蛛」や「蚕」も違和感がある。

 サクラはクククと笑いながらシンが悶々としている様子に対して楽しんでいた。

 酷く悔しいわけでは無いが、少し癪に感じる様なモヤモヤ感が持ってしまったシンはう~んと唸って少しの間考えた。だが、結局新しい答えを思い付く事は無かった。


「・・・ダメだ、分からない」


 シンは頭を横に振った。外の襲撃者達に同情したわけでもサクラのゲームに面倒だったからという訳でもない。だが、悔しさは無かった。

 ただ、サクラの自信満々なその態度が気になったから頭を横に振っただけに過ぎなかった。

 シンのその言葉を聞いたサクラはどこか勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて答え始める。


「今からワタシらしさを見せてやろう」


 そう言って窓の方へ近付きクルリとシンの方へ向く。


「シン、糸にはどういった使い方があるか分かるか?」


 答えを言う前にそんな事を言われる事に少し首を傾げるも取敢えず思い付いた事を口にするシン。


「そうだな・・・「巻く」、「縛る」、「縫う」、「張る」・・・位しか思いつかないな」


 指折りしながら答えるシン。


「なるほど、間違っていない。だが、他にもこんな使い方もあって、そのせいでワタシはこう言われるようになった」


 その言葉を聞いた瞬間、シンが思いついた使い方以外の使い方を思い出した。それは漫画でよくある糸使いの糸の使い方。何でこんな事を思いつかなかったんだと僅かな悔しさの様な物が小さく込み上がる。


「「鮮血のサクラ」」


 不敵で自信に満ち溢れた笑顔のサクラがそう答えた瞬間、右手を思いきり握った。同時に屋敷の周りにいた男達は破裂した様に切断されて、大きな赤い花がほんの一瞬で辺り一面咲き誇った。

 サクラの姿は、まるで赤い花園の前に燥ぐ少女のようだった。


「・・・!」


 その光景を見た瞬間シンはこう思った。


 ああ確かにサクラらしいな、と。


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